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056話 花言葉

 遅れてすいません。色々してたら時間がありませんでした。


「全く! 何なんですかあの人は! カナタさんを強引に連れていこうとしたり、私の話を聞かなかったり! 非常識も甚だしいです!」


「まあ、エレナも俺の話聞いてくれなかったけどね」


「何か言いました?」


「いいえ。何も言ってないです。なので睨むのやめてください」


 エレナはザザと言い合いをした後からずっとこんな感じで怒っている。擬音語を付けるなら『プンプンッ!』と言ったような怒り方だ。ただ、俺を睨む時だけはマジで殺す気だ。ザザと俺との扱いの差に少なからず世界の理不尽さを感じる。

 ちなみに、エレナとザザの言い合いは三十分程続いた。ザザのタイムリミットによりその場はおあずけとなったが、また時間がある時に日を改めるみたいな話をしていた。何を改める必要があるのか分からないが、女性には色々あるのだろう。


「はぁ……あんな事の後なのにカナタさんはいつも通りなんですね……」


「そうはいうがな、俺は人生で初めて告白されて割とドキドキしてたんだぞ? でも、その後の様子を見てたら毒気を抜かれたというか、気負う必要もないのかなって思ってしまうよな」


「…………ヒドイデス」


「その溜めとカタコトやめようね。後、目線そらすのも。ついでに、自分に心当たりがあり過ぎて困るみたいな顔もやめるといいと思うよ」


 色々と吹っ切れたのかエレナは初めよりも大分リラックス出来てる感じがする。俺としてはそっちのほうが話しやすいし、会話も成り立つから前よりはいいと感じてる。

 が、一つだけ言わせてもらうと、吹っ切れ過ぎて俺に対して遠慮が一切ないのは何故なのか。さっきみたいに睨んでくるようになったし、俺の言葉に大してすっとぼけたりするようになった。面白いからいいんだが、何分俺のハートは傷付きやすいので密かに傷付いてたりする。俺に優しいエレナは何処へ……。


「あ、そうでした。カナタさん、話は変わるんですがこの後何処か行きたい所はありますか? ないのでしたら行きたい所があるんですけど」


「特に行きたい所はないな。エレナに任せる」


「それでは、お花屋さんに行きましょう」


「花屋か。いいじゃん」


 俺はフィー達に日頃の感謝も込めて購入した服と一緒に一輪の花でも添えようかな。喜んでくれると良いんだが、フィーが花を好きなのかよく分からない。まあ、そこは当たって砕けろの精神で行こう。


「フィー達に似合いそうな花があるといいな。エレナも誰かに贈る用なのか?」


「いえ、お花屋さんでザザさんが働いてるらしく、ちょっと茶化そうかと思いまして」


「えっ。マジ?」


「はい」


「……んーっ! 闇が深いっ!」


 つい先程次に持ち越したはずなのに、今からエレナは自ら戦いに挑むらしい。女性の執念深さは末恐ろしい。果たして俺はこんな一面を見れた事に喜べばいいのだろうか。それとも嘆けばいいのだろうか……。俺にはよく分からん。

 それと、あんな男口調で強気の元囚人であるザザが働いていて、その職場が花屋だという所に少し驚いている。職場は人それぞれに選ぶ権利があるのは分かるけれども、意外すぎてなんと言っていいのか分からない。まあ、元囚人から働いていて自立出来ているという成長を見ると頑張ってるんだなと感じてる。


「カナタさん、早く行きますよ! ザザさんが待ってます!」


「待ってないと思うのは俺だけ?」


「いいから早く行きますよ! 茶化す時間が無くなります!」


「本音こぼれるの早いなー」


 エレナに急かされながら俺は花屋へと足を進める。


 俺は花屋に行った事が無かったので何処にあるのか分からなかったが、エレナ曰く、それほど遠くないとの事。ここからなら十分程で着くらしい。

 ザザと別れてから五分程経過しているので、それを加味すると、ちょうど俺達がお店に着いた頃くらいに諸々の準備を済ませたザザが働き始めるのではないかと思う。


 俺の勝手なイメージなのだが、花屋は総じてエプロンを着用しているように感じる。というか実際そうなのではないのだろうか。なんでエプロンなのか全く分からないのだが、花屋で働くとなったらエプロンが便利なのだろう。


 そんな事を考えながらエレナと話して花屋を目指すことを十分。目の前に色鮮やかな花で彩られたお店が見えた。


「ここです。さ、中に入りましょう!」


 心做しかエレナの目が輝いているように感じる。傍から見れば、花を見て目を輝かせてるように見えるだろう。しかしそれは間違いで、人を茶化す事が出来ることに喜びを感じている変態なのだ。

 エレナはこんな人じゃないと思っていたのに……。 まあ、エレナも人間なんだしこういう一面もあるか。気にするのやめよう。


 現実から目をそらした俺は、エレナと共に花屋へ足を踏み入れた。

 店の中は甘い香りで満たされていて、色とりどりの花を見ていると、心が浄化されていく。どうせならエレナの黒い部分も浄化して欲しい。


「いらっしゃいま――げっ」


「あらー、さっきぶりじゃないですかー。ね、ザザさん?」


「あんた絶対わざとだろ」


「わざとってどういう意味ですか?」


「分かってて聞いてんじゃねぇーよ! なんだよその顔! 嬉しそうにするな!」


「顔に出てしまっていましたか。これはうっかりですね」


 うふふと笑うエレナの目は、全く持って笑っていなかった。むしろ殺気を感じる。

 腹いせにこれ程までの事をしてしまうなんて、女性はこれほどまでに怖い生き物だったのか。俺の足なんて、あまりの恐怖に生まれたての小鹿みたいにぷるぷるしてる。


「けっ! あんたから出向いてくれたんなら探す手間が省けたわ。表に出ろ!」


「仕事を途中で投げ出すんですか? それは駄目だと思うんですけど」


「それもそうだな。ちょっと店長に話通してくる。それまであんたは待ってろ!」


「はい! 喜んで!」


 ……実は二人は遊んでいるだけなのではないかと思う俺なのだが、違うのだろうか。今の会話を俺風に解釈してみたのだが、バイト中の友人Bを迎えに来た友人Aの感じで、


『あ、来たの? ちょっと待ってて今行く!』


『仕事途中で投げ出すのは駄目だよ』


『あ、そっか。店長に話してくる! ちょっと待ってて!』


『うん!』


 みたいに聞こえた。多分これから遊びに行く会話だなこれ。この二人、本当に中が悪いのか悪くないのか分からなくなってきた。


 …………もう考えるのやめよう。二人には二人の特別な関係性があるってことにしといて、放っておいたほうが俺の心が安定するような気がする。

 そういうことで俺は二人から離れ、今のうちにフィーとカヤのための花を買う事にした。エレナとザザはもう知らない。なるようになれだ。


「さて、別行動するのはいいが花の事はよく知らんな……どれがいいものか……」


 二人への日頃の感謝を込めて買う花なのだし、それに相応しい花を選びたい。地球では母の日にカーネーションを贈ると聞いた事があるが、ここは地球では無い。その上俺には花の知識なんてこれっぽっちもないのだ。強いて言うなら、花には『花言葉』があるってことくらいしか知らない訳で。ちなみにカーネーションの花言葉だけは知ってる。小学生の時に覚えた。


「花言葉か……花言葉に感謝とかそれ系の意味を持った花ってあるのか?」


「ありますよ」


「うぇい!? び、びびったぁ」


 色々と考えている時に突如として背後から声をかけられた。誰かに話しかけられると思って無かったから変な声を上げて驚いてしまった。

 振り返って見てみると、地味目な女性が立っていてびっくりした表情をしていた。どうやら俺のびっくりした時の声にびっくりした様子。


「すいません。びっくりさせるつもりはなかったんです。ただ、何かお探しのようでしたのでお声をかけさせて貰った次第で……」


「なるほど。お店の方でしたか」


「私はこのお店の店長をしています。宜しければ私が条件に合うお花をご用意しますよ」


 俺としては願ったり叶ったりだ。それに店長という事は花のことを最も知っている人の可能性が高いし、それだと安心出来る。


「じゃあお願いします」


「任せてください。必ずいい花と出会えるはずですから」


 店長さんはとても張り切っていて頼りになりそうだ。これなら言われたとおりいい花と出会えるかもしれない。


「じゃあまずは条件を確認したいのですが、花言葉に感謝の意味を持っている花がいいんですよね?」


「はい。出来れば、クールだけど可愛いものが好きな美人に似合う花がいいですね。あと、やんちゃだけどそれがまた可愛い人に似合う花もお願いします」


「分かりました! では……美人さんの方は…………これなんてどうでしょうか?」


 条件を言ってからすぐに見せられたのはピンク色の花で、細い花弁が沢山ついてる。確かにフィーに似合いそうな花だ。

 だがしかし。この花の名前が分からない。どこかで見たような覚えのある花ではあるのだが……


「これはガーベラと言って、ピンク色のガーベラには感謝や思いやりといった花言葉があります。ピンク色のバラと悩んだのですが、可愛いもの好きということだったのでこちらのほうが似合うと思ったのて、こちらにしました」


「なるほど。じゃあこの花を一輪買います」


「かしこまりました。あと、もう一人分は……可愛い子みたいなので……あった。これなんてどうでしょう」


 そうやって見せられたのは、一つ一つがとても小さい花でそれが集合して一つの花として形成してるような花だった。これはなんて言う花なのだろうか。


「これはホワイトレースフラワーと言って、可憐な心、細やかな愛情、感謝の花言葉があります。可愛い子に送るならこれがいいのではないかと思いまして」


「おぉ。可憐な心なんてカヤにピッタリです。これを下さい」


「かしこまりました!」


 俺はフィーとカヤに贈る花を決めて、会計を済ませた。一輪だけだったのでお金はそれほど痛くはない。果たして二人は喜んでくれるだろうか。


 俺は期待に胸を膨らませて店を出た。エレナはザザと一緒に表に出てるので店の中には居ない。恐らく店の前で言い合いの続きでもしているのだろう。

 そう思った矢先、目に映りこんだのは花屋の目の前だとは思えない程に地獄絵図と化した二人だった。

 二人は土まみれで髪もボサボサ、服は所々破けているがそんなのお構い無しな程に殴り合っていた。幸い血は出ていない様だが、戦慄するレベルで地獄絵図になっている。


 ちなみに、地獄絵図だと思っているのは俺だけなようで、野次馬は『いけ! そこだ!』『あぁ! おしい!』みたいな野次を飛ばしている。この世界では乱闘なんて珍しいものではないのかもしれない。


「はぁはぁ……お前っ……くたばれっ」


「いや……はぁはぁ……あなたこそっ……」


 二人はそんなことを言って、また乱闘を始める。一体何があったらこんなになるのか不思議でならない。エレナは殴り合いとは無縁な感じで、ザザは理性があるはずなので無闇矢鱈に手は出さないはず。

 じゃあ何故殴り合いに発展したのか。理由としてはそれを超える何かがあったって事だが、俺には皆目見当もつかない。


「ザザさんが珍しく楽しそうです。あの方はどなたなんですか?」


「うぇい!? またか!?」


「すいません。驚かせるつもりは無いんです」


「じゃあ、背後から声をかけるのやめてもらえません!?」


「善処します」


 またまた俺を驚かせる店長さん。そんな店長さんにため息を吐きながら、店長さんが言った言葉を頭の中で考えていた。

 ザザが楽しそうだ、と店長さんは言った。俺は何処が? と思うが、店長さんにはそう見えるらしい。


「最近、このお店でザザさんを受け入れたのですが、出会った時からなんだか楽しくなさそうだったので、お友達が出来ればなって思ってたところなんですよ。あのザザと遊んでいる子はあなたのお連れ様ですよね。ザザさんと友達になるように取り計らってもらえませんか?」


「そうしたいのは山々なんですが、俺が言うと逆効果のような気がするんですよね」


 例えば、俺が友達になってやってくれと言ったとして『何故ザザさんと!』と言われて更に意固地になったり、『断固拒否します!』と言ってそれをザザに聞かれていて更に殴り合いになったり、そんな未来しか見えない。


「そうですか……やっぱり、本人達にどうにかしてもらうしかないのですね」


「まあ、自分の事は自分でするというのが大人ですし、あの二人ならどうにかなると思うので見守っていましょう」


「そうですね、そうします」


 店長さんは母のような目でザザを見守っている。ザザの過去を知っている身としては、この店長さんがザザにとって第二の母のような存在なのではないかと感じた。

 いつかザザが、店長さんを母親のように慕う事があればいいな、なんて事を考えてしまった。


 カーネーションの花言葉『母への愛』


 いつかザザが店長さんに贈れる日がくればいいなと思う。


「さて、話も一旦落ち着いた所で、店長さんに聞きたい事があります」


「なんですか?」


「いや、本当に些細な事なんですが、この二人のどこをどう見たら楽しそうに見えるんですか?」


「え? どこをどう見ても楽しそうじゃないですか?」


「わぁお。これが世界観の違いってやつかー。世界が違えばそりゃあ違うよなー」


「ザザさんに幸福が訪れんことを!」


 店長さんは両手を胸の前で握って天に祈りを捧げ、その後すぐに『右ストレートォ!』と叫んだ。

 全く締まらない世界だなと思いつつ、そんな所が嫌いになれない自分がいることも分かっていて、なんだかんだこの世界が好きなんだなと思う。


 そして俺はいつの間にか野次馬の一人として野次を飛ばしていたのであった。


 花言葉っていいですよね。花を贈る時に花言葉を意識すればより一層、気持ちが伝わるというものです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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