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054話 待たせちゃった?


 日が経って、今日はエレナとの約束の日。恐らく二人きりだろうし、念の為しっかりとした服を着ていく事にした。とは言え、元が俺なのでどんな格好良い服を着たとしてもダサくなる。これも一種の才能だと思う事にしないと俺のライフがゼロになりそう。

 ちなみに俺が着ている服は、割とカジュアル目だが誠実そうな感じ。ジャケットは羽織ってないが、それっぽいのを羽織ってるし、ジーンズは履いてないがそれっぽいのを履いてる。

 再度言おう。どんな良い服を着ても俺なのでダサい。泣けてくるぜ。


「俺ってマジ不遇だよな……」


「カナタさんにはこれくらいが丁度いいと思いますよ?」


「慰めになってないけどありがとう」


『カナタ今から行くの?』


 格好に関してはこれ以上良くならないような気がするので終わりにする。それに時間的にも、今から出発すればいい感じの時間になっている。


「そうだな、そろそろ行く。はぁ……この格好で大丈夫だろうか……」


「きっと大丈夫ですよ。エレナさんはそんなところを重視する人じゃないですから」


「そうだよな……エレナは良い奴だもんな。うっし! 行ってくるわ!」


「はい、いってらっしゃいです」


『いってらっしゃーい!』


 俺は気合を入れて、背中に二人の見送りの言葉を受けながら、待ち合わせの場所へと向かった。




   ◇◆◇◆◇




『行っちゃったねー……』


「そうですね。二人共、上手くいくでしょうか? まあ、カナタさんが何か下手打たない限り大丈夫だとは思いますが……」


 私とカヤはいつもよりも気を張っているカナタさんの背中を見送り、二人で留守番をする事になった。けれど、これから私にも仕事がある。留守番するのも少しの間だけだ。


『カナタが心配だなぁ。ひとりで大丈夫かなぁ』


 カヤはカナタさんが出て行ってからずっとこんな感じ。そわそわしてて、カナタさんのことがすごく気になっているみたい。

 昨日も、カナタさんが一人でデートに行くと言った時も、心配だから着いて行くって言い張っていた。この時は、私の仕事の手伝いをしてくれとカナタさんが言った事で渋々了解したみたいだったけど、やっぱり、心配なものは心配らしい。


「私は多分何かあるんじゃないかって思ってます。 でもカナタさんですし、なんとかなるとも思います」


『そうかな? そうだといいなぁ』


 心配そうに眉をひそめているカヤが私には輝いて見えて直視出来ない。私には滅多に見せない表情を見るだけで、心が高鳴ってしまう。

 でも、そんな時間ももう終わりだ。そろそろ私達の方も仕事の準備をしないといけない、


「カヤー。準備を整えてお仕事に行きましょう」


『わかったー。人の姿になればいいの?』


「はい。服は私が用意した物を着てくださいね」


『はーい』


 それから私達は十分程で準備を整えた。カヤには動きやすい服を選んで、私は冒険者仕様のいつもの格好。

 不備はないかの確認を玄関で行い、そして私達は仕事をする為に家を出た。




   ◇◆◇◆◇




 俺が待ち合わせ場所に着くと、エレナは既に到着していた。少し早めに着いたのに、エレナの方が早いとは思わなかった。驚きだ


「ごめん、待たせちゃった?」


「カナタさん! いえ、私も今来たところですよ」


「そっか、それなら良かった」


 お気づきだろうか。このやり取りは、リア充が待ち合わせした際に、男性が先に待ち合わせ場所に来ておき、その後、遅れて来た女性が『ごめん待ったぁ?』と言ってからの流れに即しているのだ。

 まあ、リア充のものとは性別が逆だが、俺だからという事でここは一つ許して欲しい。何せ本番はここからだからな。


 この時のためにフィーに色々聞いて、様々なシュミレーションを頭の中で再現させた。その中で最も良さげなものをピックアップして、これからの行動に移していくのだ。

 こんなのデートじゃないと思っている奴がいたら、俺が童貞である事を考慮してくれ。シュミレーションしなければ話すら出来ないかもしれない。だから仕方の無いことなんだ。

 そのシュミレーションによれば、出会ってからすぐに私服を褒めるといいとなっている。自然な流れで褒めていこう。


「そういえば、外でエレナと会うのって初めてだよな」


「そうですね」


「って事は、私服のエレナを見るのは初めてになるのか……うん。エレナによく似合ってるな」


「カナタさんにそう言って頂けて嬉しいです」


 ニコッと微笑みを俺に向けるエレナ。こんな直に微笑みかけられるとすごく照れる。


「な、なんか照れるな……」


「カナタさんが照れると私まで照れてしまいます……」


 エレナはそう言って顔を赤らめ、俺から視線を逸らした。恐らく俺の顔もほんのり赤くなっているのではないかと考えると余計に恥ずかしくなる。恥ずかしくて二人してあわあわしてる。

 今の俺達を傍から見れば初々しいカップルに見えているだろう。地球に居た時は俺が毛嫌いしていたものだが、当事者となると悪くは無い。他人の羨ましそうな視線を受けるだけで優越感を感じられる。他人の不幸は蜜の味なのだ。


「そ、そろそろ行きましょう!」


「じ、時間が勿体ないしな!」


 多少ギクシャクしながら目的の服屋を目指す事に。エレナに話を聞いてみると、これからの季節暑くなっていくのだが暑い時用の服を新調したいとの事。


 ちなみにだが、この街に季節はほとんど無い。どういう仕組みなのかは分からないが、大体四ヶ月単位で季節のようなものが巡っている。

 あとひと月程経てば地球で言う夏の季節に近くなる。その時の時期は大体五月~八月くらい。俺がこの世界に来て一年と一ヶ月ほど経っている事を加味すると、俺がこの世界に来たのは三月という事になる。この時の季節は今の季節と同じで春に近い。これらから分かるように、季節の巡り方は地球とほぼ一緒だ。

 しかし、各季節の気温差はほとんど無く、日本に住んでいた俺からすれば、結構過ごしやすい。だが、元からこの世界にいる人達はそれでも暑いものは暑いらしく、各季節ごとに衣替えをしている。ただそれにも例外はいて、同居中のフィーはそういうのはあまり気にしないタイプらしく、あまり衣替えはしない。


 フィーの事は置いておくとしても、衣替えの時期は結構服屋は混んでたりするらしい。

 エレナの頼みは、その混み合ってる服屋で荷物を持つのは難しいので手伝って欲しいと言うものと、自分にセンスもないので似合っているのを教えて欲しいというものだ。


 そこまでの話を聞きながら歩いていたが、服屋までは少し距離があるらしいので、他にも色々聞いてみることにする。


「こういう時に聞くのもあれなんだけどさ、エレナってフィーが冒険者になった時から知ってたりする?」


「フィーさんですか? 知ってますよ。初めて冒険者の登録をしに来た時は今のような雰囲気ではなくて、どこか壁があってどことなく怖い人だったのを覚えてます」


「なるほど。だから、他の冒険者からはちょっとキツめの印象を持たれてる訳か。納得だわ」


 フィー怒ると怖いしな。お、思い出しただけで鳥肌が……夕食抜きは本当に勘弁してください……はっ! あまりのリアルさに幻覚が見えてしまったか!


「ですが、一年もすればその雰囲気も和らいだものになってですね、決定的に変わったのはあのスライムを討伐した時からですかね」


「そうなのか。あ、そうそう。そのスライムってなんなんだ? 名前しか聞いたとこないし、スライムの討伐が出来て凄いって言われてるけどイマイチピンとこなくて」


「簡単に言えば、物理攻撃は効かず魔法攻撃も軽減されてしまうブヨっとした液状の魔物です。核を潰せばすぐに倒せるんですが、体躯が大きくなれば大きくなるほど核が潰しにくくなるんです」


「核はそのままの大きさで、液状の部分だけが大きくなるって解釈で大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


 まあ、大体想像通りのスライムだ。ただこの世界では少し強めの魔物っぽい。某ゲームでは最弱の魔物なんだけどな。


「そんなスライムをフィーさんは炎魔法一つで蒸発させて、核を無傷で取り出したんですよ。実際に見たわけじゃないので正確には分かりませんが、言伝にそう聞きました」


「あー、フィーも嬉しそうに言ってたな。『スライムを蒸発させることが出来ました!』って。それってどれくらいすごいんだ?」


「世界で初めての出来事くらいには凄いですよ」


「マジか。それはぱねぇな」


 フィーって何気に早い段階から頭角を現してたようだ。まあ、出会った当初から頑張ってるなとは思ってたがここまでだったとは。


「それにフィーさんはそれ以降から急激に力を付けて、今ではこの街でもトップクラスの実力者に名を連ねてますし、本当に凄いですよね」


「近くで見てたが、フィーは努力してたからな。それが報われたいい例だな」


「私もフィーさんを最初から知ってる身として、少し誇らしいです。――あ、着きました。着いたんですが……」


「あそこか」


 目的地に着いたようで、エレナの視線の先には服屋がある。それと合わせて、服屋の中でわちゃわちゃと人が行き交ってるのが見える。


「…………なんていうか……めっちゃ混んでない?」


「混んでますね……」


「だよな」


「ですね」


「「…………」」


 俺達は服屋の混み具合に引きつった顔をしたまま、気を取り直すまでその場に立ち尽くしていた。




   ◇◆◇◆◇




「今頃、二人でお買い物でしょうか? 何も起きてないといいんですが……」


『なんかフィーがお母さんみたい』


「エレナに何かがあったら怖いですからね。心配の一つや二つ、三つ四つ……五つ……」


『さっきのわたしみたいになってるよ?』


「本当ですね。……はぁ……全く、カナタさんは私やカヤに心配かける天才ですよ」


 私とカヤは協会で依頼を受け、現在は街の外で魔物の駆除に努めている。この辺の魔物は弱いとは言え、攻撃を一撃でも喰らえば大打撃になってしまうから油断はしない。

 でも、なんだかんだ言ってカナタさんとエレナさんのことが心配で、仕事に身が入らない。どうにか出来ないものか……。


『ねぇねぇ』


「どうしました?」


『フィーはカナタ達が上手くいってわたしがいなくなるの嫌?』


 カヤが私の服をチョンチョンと引いてそんな質問をしてきた。質問の答えを聞くのが怖いのか暗い表情をしている。カヤにはこんなくらい顔は似合わない。


「それは嫌だなーって思いますよ。今まで一緒に暮らしてきたんですし、離れるのは悲しいですもん」


『ほんと……?』


「私が嘘を言うわけないじゃないですか。全部本当ですよ。カヤと一緒にいたいし、離れると悲しいです」


 一年とちょっとしかカヤと一緒に居ないけれど、この一年はカヤの為に頑張ってきた。だから、カヤが居なくなって悲しいと言うのは、嘘偽りない私の本心だ。

 でも、カヤは未だに暗い顔をして俯いている。さっきの私の回答では何か足りなかったのかもしれない。


「私の回答じゃどこか満足いかないですか?」


『ううん。嬉しい。嬉しいけど、あと一つ聞きたいことがあるの』


「もう一つですか?」


『うん……フィーはわたしが居なくなるのは悲しいって言ってくれた。じゃあ、わたしじゃなくてカナタが居なくなっても悲しい?』


「え……」


 カヤはちょっぴり泣きそうな顔で不安そうに私を見上げる。これは、私がカナタさんから本気で怒られてた時の顔に似てる。


『わたしね、優しいフィーが好き。それとね、フィーと同じくらいカナタも好き。だから、フィーと一緒にいたいし、同じくらいカナタと一緒いたい。でも、カナタが上手くいったらわたしはカナタに着いて行くから……そしたらフィーが一人になっちゃって、寂しい思いするかもって思って……』


「カヤ……」


『本当はね、フィーとカナタにはずっと一緒にいて欲しいの。楽しそうな二人を見てるのが好きだから……』


「……それじゃあ、さっきの質問の理由は――」


『うん。フィーがカナタと一緒にいたいかどうか聞きたかったの』


「そう……ですか……」


 カヤがこんなに気持ちを伝えてくれた事は今までに一度もなかった。それだけにカヤにとって今回の件がどれだけ大きな事なのか思い知らされる。

 カヤは私とカナタさんの楽しそうにしてる姿が好きで、私達にずっと一緒にいて欲しいと言う。だから、私がカナタさんをどう思ってるのかが気になるとも。


 正直に言えば、分からない。カナタさんの事なんて深く考えた事なんてなかった。

 一年にカヤと一緒に私の前に現れた謎の男性。魔人語を操り、転生してきたと夢物語のような事を本気で言うおかしな人。そしてそれが全部本当の事だった変な人。気づけば色んな事を教えて貰っていて、私の悪い所を叱ってくれて。よくよく考えれば本当に不思議な事ばかりだ。


 カナタさんが居たから今の私があって、カヤとも一緒に暮らせている。

 初めは変な人だと思った。けれど、話してみると面白い人で自然と笑顔になれた。勉強だって私の知らない事を一から丁寧に教えてくれて、感謝の気持ちで一杯だ。いつも私を気にかけてくれて。楽しませてくれて。


 そして、それはこれからも――


 だから、私の気持ちは……


「いや……カナタさんが居なくなるのは嫌です。私もカヤと同じ様にカナタさんと一緒に居たいです」


『ほんと!?』


「本当ですよ。でもこれは私個人の気持ちですし、全てはカナタさん次第です。なので、この事はカナタさんには言ったら駄目ですよ?」


『……うん、わかった!』


 とりあえず、カヤの表情が明るくなったみたいで良かった。

 けれど、カナタさんに対する気持ちを明確にしてから、私の心の中にはモヤモヤした何かが燻っていて、色々と集中出来ない。


「…………こういう時は全力て魔法を放って忘れた方がいいって相場は決まってます! カヤ、どんどん行きましょう!」


『うん!』


 そして私は、心の中にある自分でも分からない何かを忘れる為に、いつも以上に仕事に精を出すのだった。


 色々と進展する予定の奏陽のデートですが、今回は前編です。後編は奏陽に色々起きる予定ですが分かりません。多分、色々起こります。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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