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053話 それくらい別にいいぞ


「じゃあ、次もよろしくね! 私は支部長室に戻って仕事しないといけないけど、いつでも君の事を考えながらテキパキ働いてるから心配しなくてもいいよ! それと今度、久しぶりに休暇が貰えるんだけ――」


「超高級料亭なら行かないぞ」


「――っ!? さ、先を読まれた!?」


「お前、何度目だと思ってるんだ! 俺でなくてももう分かるわ! それとさっさと仕事に戻れ! 俺の事は考えるなよ! 気持ち悪い!」


「――グスン……分かった……またね……」


 査定が終わり、疲れる会話を終えてようやくフレッドから解放された。何故にフレッドはこれほどまでに俺と料亭に行きたがるのかさっぱり分からない。

 もし、俺が料亭に行くならフィーとカヤの二人と一緒に行くに決まっている。日頃の感謝とこれからもよろしくという意味を込めて、親睦を深めたいし。


『終わった?』


「おう、仕事もこれで終わり! 今日はもう家に帰るか?」


『うん!』


 今は大体昼過ぎ。昼を食べてないし、家に帰ってから何か食べよう。


「あっ、そういえば。今日はフィーが休みで家にいるんだったっけ。もしかしたら、お昼はフィーが作ってるかもな」


『フィーのご飯食べたーい!』


 家を出る前に今日は階級(ランク)を上げるだけだとフィーに一応報告をしていたし、冒険者として先輩のフィーなら、階級(ランク)を上げるのが簡単で、俺達が早く帰ってくる事を予測しているかもしれない。


「じゃあ、みんなに礼を言ってから家に帰ろうか。一応世話にはなったしな」


『そだねー』


 俺とカヤは休憩スペースで寛いでいるハピネスラビットの三人の元に足を運んだ。

 どうやら三人は、ゴブリンの後処理をしている残りの三人を待っているようで、他愛のない会話を続けていた。


「あっ、カナタさん。もう査定が終わったんですか? 早いですね」


「アイツ、仕事だけは早いからな。俺はそこだけは評価してるし……はぁ……」


 何も俺はフレッドが嫌いという訳では無い。ただ面倒くさくて関わりたくないだけなのだ。仕事は出来るし、職場の人達からは慕われてるしで、有能なのはよく分かっている。

 俺だって、一人で仕事してきた者として、フレッドの仕事効率は相当高いと見ているし、それくらいの仕事効率が欲しいとも思う。が、あの性格はちょっと俺には受け付けない。何故あそこまで俺に固執するんだ……。


「お疲れですね。初めて街の外に出たんですし、無理も無いかもしれませんね」


「俺、お前達に脳幹の事を教えただけだけどな。主にカヤがゴブリン退治したし」


 その後、二、三言言葉を交わして、会話が一段落したので、俺は三人に別れを告げる。恐らくまた会えるだろうし、気軽な挨拶でいいだろう。


「んじゃ、俺とカヤは帰るわ。残りの三人にもよろしく言っといてくれ」


「はい、分かりました」


「カヤちゃーん! バイバイッ!」


『バイバーイ!』


「また、会おな?」


『うん!』


 カヤは女性二人に頭を撫でられながらあうあうしてる。全く……うちのカヤはマジで可愛いな。カヤ以上に可愛いものを見た事がないレベル。


「カナタさーん! ちょっと待ってください!」


「ん?」


 カヤの可愛さに悶えながらカヤの手を引き、いざ家に戻らんとしている時、エレナに呼び止められた。


「カナタさん。これ、忘れ物です」


「あっ、会員カードか。すまん、サンキュ」


「い、いえ。当然の事をしただけですよ……」


 俺がお礼を言うと顔を赤らめるエレナ。ここまであからさまな態度を取られると、からかいたくなる衝動に駆られる。でも、一度からかうとなんだか収集がつかなくなるような気がするのでやめておく。

 カヤはと言えば、もじもじしながら俯いているエレナを見て『りんごりんごー』と笑いながら言っている。無邪気って恐ろしい!


 そうだ、もじもじしているで思い出した。ハピネスラビットのみんなを待っている時も、エレナは似たよう感じでもじもじしてたような気がする。

 確かその時、エレナが俺を呼んだんだけど、運悪くハピネスラビットのみんなが来たせいで有耶無耶になったんだったな。何が言いたかったのだろうか。


 ……ちょっと気になるとすごく気になるな。直接聞いてみるか。


「そういえばエレナさ、ハピネスラビットのみんなが来る前、俺に何か言いかけてなかったか?」


「えっ!? あ……あーぅー……そ、その……今度私の買い物に付き合って欲しいなぁ……なんて……」


 これは噂に聞く『デートのお誘い』というものではないのだろうか。それに、買い物に一緒に行くくらいなら断る理由も特にない。

 ただ、エレナには悪いが俺には心に決めている人が既にいるんだよな。買い物に行った流れで告白されたらどうするか……。


 ……まあ、それはその時考えればいいか。未来の俺、ファイト!


 という事で、デートのお誘いはオッケーという事で決まりだな。


「それくらい別にいいぞ。ちなみに何を買うんだ?」


「あ、えっと……最近暑くなってきたので、それ用の服を」


「いいじゃん。ついでに俺も買おっと。それで、いつ買いに行くの?」


「多分ですけど、私の次の休日がカナタさんの休日と被ってるんです。その時に行こうかなと」


「てことは、二日後?」


「は、はい……」


 ここまでの会話で、俺はエレナが言いやすいように自然な感じで予定聞き出した。俺の紳士っぷりは留まるところを知らない。このままいけば、紳士の中の紳士になれるだろう。


 ……何考えてんだろう。俺。


「あ、あの、この協会を出て左手に進んだところにある初めの十字路を待ち合わせ場所にしてもいいですか?」


「俺はいいぞ。集合時間は八時くらいでいいのか?」


「はい、大丈夫です」


「りょーかい。じゃ、二日後の八時にそこの十字路で待ち合わせな」


「よ、よろしくお願いします!」


「おう。それじゃあ、俺達はこれで帰るから。またな」


「はい! また!」


 ほっとしたような嬉しいような、そんな表情をしているエレナに別れを告げ、ようやく、自宅への帰路に着いた。

 恋する乙女は可愛くなると言うが、今日改めて実感したような気がする。エレナの最後の表情は、最高に良いものだった。それだけは確信を持って言える。


『カナタ、エレナとデート?』


「まあ、そういう事なんだろうな。本人は買い物って言ってるから、本当にデートかと言われると分からないが」


『カナタはいつもわたしとデートしてるよ?』


「俺にとっては今この瞬間もカヤとデートしてる気分だぞ」


『わたしもー! いっしょいっしょー!』


 カヤと買い物に行くときは、いつも『デートに行くか?』と聞いている。だから、カヤにとってみれば買い物に行く事も立派なデートになるのだ。

 なら、俺はいつもデートばかりしていることになるな。なにそれ超モテモテっぽい。と言ってもデートしてるのはカヤだけだが。


「カヤぁ〜愛してるぞぉ〜」


『わたしもぉ〜!』


 俺とカヤは人目を気にせずに抱き合った。馬鹿みたいに見えるが、正真正銘の馬鹿なのだからしょうがない。


「ふ、二人して何やってるんですか……」


「……こ、この声はっ!?」


 カヤをギュッとしていると、突如として目の前から声がかけられた。この声はいつも聞いているフィーの声に間違いない。

 俺はカヤと抱き合いながら声がかかった方を向いた。


「見ていて恥ずかしいので取り敢えず抱き合うのやめませんか?」


「えぇー、どうしよっか――」


「や め ま せ ん か ?」


「――はい。やめます。やめますからどうかその火をおさめてもらえませんか」


「全く……初めからそうしていればいいんですよ」


 はぁ、と溜息をついて呆れ顔になるフィー。いや、ホントすいません。ちょっとした出来心だったんです。


『フィーがこわいよぉ』


「カヤもダメですよ、カナタさんのすることは大抵悪ふざけなんですから」


『はーい』


 最近のフィーは今までと違って、カヤに対してもダメなものはダメと言えるようになった。とは言え、結構心にダメージを負っているようで、偶に俺がストレス解消の道具になる事がある。

 足のツボを思いっきり押されたり、肩もみを全力でされたり、暑い中毛布にぐるぐる巻きにされたり。やってる事は些細な事であるが、それでストレス解消になるらしい。

 一回だけ、そんなのでストレス解消になるのか聞いてみたところ、俺の反応が面白いし割と力を出せるから充分なくらいとの事。要するに俺は体のいいサンドバックって事だ。それでも悪くないな、と思う俺はもう末期なのだろうか。


「ところでフィーは何故ここに? 買い物に行くにしても、こっちじゃないだろ?」


「お迎えに来たんですよ。階級(ランク)上げだけだーって言っていたのに、私が買い物終わっても帰って来なかったので、何かトラブルでもあったのではないかとヒヤヒヤしてしまったんです」


「それって、あれか。俺のせいか」


「そうです。カナタさんのせいです」


「ですよねー」


「でもまあ、何もなかったみたいですし、来ただけ無駄だったかもしれませんね」


 あはは、と笑うフィーは本当にほっとしたような様子だった。そこまで俺の事が信用出来なかったか。確かに自分でも驚くくらい色々あったけども。何もそこまで心配する事じゃないと思うんだよなぁ。


『わたしはフィーが来てくれて嬉しいよ!』


「カヤ……愛してます!」


『わたしもぉ〜!』


 ついさっき見たような光景が、今俺の目の前で繰り広げられている。

 やはり、この二人が抱き合うと絵になるな……ではなく! 抱き合うのはいけないんじゃ……。


「あ、あれ? おかしいなぁ。俺の時は駄目だって言われたのになぁ。おかしいなぁ」


「う、うるさいです! ちょっと感極まっただけです!」


「うんうん。分かるぞその気持ち、俺も感極まってカヤと抱き合ったからな」


「えっ、それは犯罪じゃ……」


「犯罪じゃないし! 何勝手に犯罪者に仕立て上げてるの!?」


「冗談ですよ、冗談。さ、早く戻ってお昼にしましょう」


「なんというスルー。これはもしかしてストレス解消されているのでは……」


『ごっはん♪ ごっはん♪ 美味しいごっはん♪』


 カヤは俺の右手と、フィーの左手を取って、ちょうど、俺とフィーの真ん中で手を繋いで歩く形を取った。カヤに取ってみれば何気ない行動なのだろうが、俺に取ってみれば嬉しいことこの上ない。

 恐らく周りから見れば幸せそうな夫婦、もしくは彼氏彼女に見えているだろう。実際には違うが、将来的にそうなればいいなと言う願望が俺にはある。俺にはな。

 フィーがどうなのかは知らない。俺と同じ気持ちだといいな、と思うがそんな素振り全く見せない。フィーは、今、何を思っているんだろうか。知りたくも知りたくもないそんな気分だ。


「カヤ、今日はどうでした?」


『今日はね、ゴブリンを三体倒したの。楽しかった!』


「初めてなのに凄いですねー! さすが私のカヤです!」


『えへへーっ。あとね、ハピネスラビット? って人達にもあったよ』


「へぇ、ハピネスラビットのみなさんと。カナタさん、そうなんですか?」


「なんか階級(ランク)上げが終わってすぐにゴブリン退治に行けってフレッドに言われて、その付き添いにハピネスラビットのみんなが来てくれたんだ。あいつら良い奴だったな」


「そうなんですよねー。私にも分け隔てなく接してくれる数少ない人達ですし」


『それとね、カナタがエレナにデートのお誘いされてたよ』


 ……いつ言おうかタイミングを測ってたのに、俺の意図しないところで暴露されてしまった……カヤの無邪気ってホント怖い!


「そうなんですか? カナタさんもやりますね」


「買い物に誘われただけだし、デートなのかどうかは分からんぞ?」


「えー、でもエレナさんって色んな人から声掛けられたり、誘われたりしてるんですけど一回もいい返事した事ないんですよ?」


「へぇーそうなのか。それは知らなかった」


「あーでもカナタさんがエレナさんと上手くいったらカヤもいなくなってしまうんですよね……それは嫌だなぁ……」


「まあ、なるようになるだろ」


 そもそも、フィーの言ったような事になるとは思えないし。何かあった時は分からないが、それ以外なら多分大丈夫。


「明日、エレナさんにカヤは私にくださいって言ってみようかと思います」


「え、俺には? 俺には聞かないの?」


「そんな事より、今日のお昼はオムライスにしますよ。とろとろでふわふわの卵にするので期待しておいてくださいね」


「割と大事な事をそんな事で片付けられてしまった……まだストレス解消は継続されていたのか……」


『オムライス! オムライスすきー!』


 俺達は三者三葉に、それぞれが違う感情を表に出して自宅へと戻った。周りの反応を見ると『何だこの家族。お父さんだけ不憫じゃね?』みたいな顔された。お父さんってところは嬉しいが、それ以外がなんとも物悲しい。やはりこの世界は俺に厳しいようだ。


 その日の昼食でフィーが作ってくれたオムライスはいつもの様に美味しかったが、偶にしょっぱい味がしました、まる。


 今日から、諸事情により、一週間程おやすみさせていただきます。再開は、八日を予定していますが、ズレる可能性もありますのでご了承ください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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