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046話 家の掃除の依頼


「取り敢えず、俺は冒険者登録してくるわ。フィーはどうする?」


「私はカヤと遊びながらカナタさんの動向に注意しておきます。何しでかすか分かったものじゃないですからね」


「俺、信用ないなぁ……じゃ、行ってくる」


「はい」


『いってらっしゃーい!』


 未だに騒めきは落ち着いていないが、それに釣られてここに来た本来の目的を忘れてはならない。俺は冒険者になる為にこの協会にやって来たのだ。

 登録をする為にはどうすればいいのか分からないが、受け付けに行けば大体分かるだろう。フレッドも知っているかもしれないが、フレッドに教わるのは嫌だ。断固としてフレッドには聞かない。


 そういう事で、俺は受け付けを目指す事にした。。

 受け付けの窓口は全部で三つあり、その内の一つに見知った顔があった為、そっちの窓口に向かった。


「エレナだっけ? 久しぶり。元気にしてたか?」


 如何だろうか。今までボッチだったとは思えない程のコミュニケーション能力。付け焼き刃でしかないが、自分でも割と様になっていると思う。

 この世界に来てから、コミュ力が高くなったような気がする。こういう所は異世界さまさまだ。


「ぉぉ……お久しぶりです」


「冒険者登録に来たんだけど……元気ない? 大丈夫?」


「はい、大丈夫です……登録ですよね。少々お待ちください」


 エレナはそう言って奥の方に行った。


「うーん?」


 口では大丈夫と言っているが明らかに様子がおかしい。落ち込んでいるというか、悲しんでいるというか、そんな感じだ。

 俺は腕を組んで、理由を考えるが全然思い付かない。多くの人と関わってこなかった弊害か。


 しばらく、理由が分からずにうーんうーん唸っていると、エレナが戻ってきた。


「お待たせ致しました。こちらが冒険者登録申請書になります。こちらにお名前と年齢、住所、配偶者、現在の職業をご記入してください。なお、この申請書を提出後に不備が御座いませんでしたら、その時点から冒険者となります」


「なるほど。取り敢えず、この紙に個人情報を書き込めばいいってことか」


「噛み砕いて言えばそういうことになります。文字が書けない場合はこちらで書きますが、カナタさんは大丈夫そうですね」


「一年間、練習したからな」


 俺は申請書を受け取り、ペンを使って記入をしていく。項目はさっき言われたもの以外にも幾つかあるが、概ね問題なさそうだ。


「あ、あの……書いてる途中で申し訳ないのですが、聞きたい事が……」


「……ん? 聞きたい事?」


 俺は一旦書くのを辞めて、エレナの方を見る。何となく顔が赤いような気がする。何か恥ずかしい事でも聞くのだろうか?


「カナタさんって、本当にフィーさんと……その……け、結婚をなされているんですか……?」


「あー、それか。フィーと結婚はしてないよ。同棲は本当だけど。というか、エレナは同棲に関しては驚いて無いみたいだけど知ってたの?」


「は、はい。一年程前にフィーさんからある男性と同棲を初めたと聞いていたので……その時聞いていた冒険者の方も居ましたけど、殆どの方は知らないみたいだったので、その方達が驚いただけかと……」


「そうなのか。まあ時期的にも俺がフィーと同棲初めた時期とピッタリだし、それは俺で間違いないな。それでも、フィーとは結婚してないから心配しなくてもいいよ」


「ぁぅ……し、心配なんて……」


「ははは、からかっただけだよ。いい反応をありがとう!」


「も、もう! 意地悪なんですから!」


「ごめんごめん」


 お気付きだろうか。俺がエレナに対してからかった内容は、『フィーとは結婚してないし、エレナにはまだチャンスはあるよ』というものだ。

 これがどういう事か。ざっくり言うと、俺はエレナが自分に気がある事を知ってますよというアピールである。

 エレナはテンパって気付いていないみたいだが、まあそっとしておこう。


「……ふぅ……一安心……」


「一安心? 安心って何に?」


「い、いえ! 何でもないんです! 私的な事なので気にしないでください!」


「そう? ならそうする」


 本当は分かっているのだが、こういう所で知らないふりをしていくあたり、マジで意地悪いな俺。ただ、本当にエレナが俺に恋心を持っているのかは本人に聞いてみなければ分からない。

 分からないのだが、こんな事聞けるはずもなく、もし聞いたとしても『エレナって俺の事好きなの?』となり、何様のつもりだよと自分でツッコミを入れたくなる。これで『は?』みたいになった時が恐ろしい。もう末代までの恥になるレベルだ。


 俺の頭の中は、こんな感じで色んな思考がグルグルと回っていたが、表面上は冷静を装って、申請書をしっかりと書き上げた。


「っと、これでいいかな?」


「ご確認致しますので、今暫くお待ちください」


 その場で色々と確認をしていくエレナ。私情を挟まずに職務をしっかりこなしているところを見ると、プロなんだなと感心する。


「……はい。大丈夫です。ですが、この備考欄の魔物使いと言うのは?」


「ああ、俺、魔物を使役して戦うんだ。主にだけどな。猛獣とかその他の特殊な奴とか使役するかもしれないし。今は一匹しか使役出来てないから、魔物使いって事で」


「魔物を使役って本気なんですか?」


「本気本気。魔物使いの俺は多分世界で一番強い」


 俺の戦略通りにカヤが動いて、不足の事態が起きた時にはカヤの自己判断とすれば多分俺達に勝てる奴なんていない。いるとすればフィーくらい。多分それでも引き分けだろう。


「ちなみにお聞きしますが、その魔物って……」


「想像してるので合ってると思うよ? ほら、俺達と一緒にきた女の子。あの子が俺の相棒」


「そうですよね……それは強いはずですよ……」


「あの子――カヤって言うんだけど、カヤがみんなの言う悪魔だって事は内密にね」


「言ったところで誰も信じませんよ」


「念の為だよ念の為。ま、そこのとこよろしくね」


 取り敢えず、念を押しておく。別に教えてもいいが、変に怖がられても困る。カヤは可愛いのに怖がられるなんて見てるこっちがカヤが可哀想すぎて泣きたくなる。


「やぁやぁ! 無事冒険者登録出来たようだね! 結構結構!」


「はぁ……まーたうるさいのが来たよ……」


「お疲れ様です。フレッド支部長」


「エレナもお疲れ様。上手くカナタ君を抱き込めたようだね!」


「だ、抱き込むなんてそんな……」


「おいこら。人聞きの悪い事言ってるんじゃない。冒険者には俺がなりたくてなったんだ。誰が言ったからでもないぞ」


「言葉の綾だよ綾」


「けっ。良く言うぜ。本気で思ってた癖に」


「心外だなぁ。私はそんな悪い事しないのに」


「人を拉致っておいてどの口が言うんだ!」


 フレッドと一緒に居てはペースを乱される。早く何処かに行ってほしいのだが、こいつ、何を思ったか、俺の肩を掴んで離さない。俺が全力で離そうとしても地力の差でビクともしない。意地でも俺を逃がさない気らしい。なんて迷惑なやつなんだ。


「そんな事よりどうだい? 君の冒険者になったお祝いに、超高級料亭にでも――」


「だから行かねぇって言ってるだろ! つーかなんでお詫びと同じ所なんだよ!」


「料亭、そこしか知らないからね」


「もっとレパートリー増やせバカ! そんなんだからフレッドなんだよ!」


「むっ。さすがの私でもバカって言われたら怒るぞ」


「怒るところそこかよ! 普通別のところだろ!」


 なんなのだろうか、今日のこいつは。俺では全く手に負えない。というか、今のこいつを止められる奴なんて誰もいないのではないだろうか。


 俺は連続のツッコミに息を切らしながら、なおも掴まれている肩を解放しようと頑張っているが、やはり無理だ。もうどうにでもなれ。


「カナタさん。何やってるんですか? カヤが寂しがってますよ」


 諦めた俺の背後から救いの女神がやって来た。


「フィー! こいつの魔の手から俺を助けてくれ!」


「私の手が魔の手なんて、君も酷いこと言うなあ」


 その時、背後から凄まじい熱気を感じた。これはフィーの炎魔法で間違いないだろう。これほどの熱量を制御出来る人はフィーしか知らない。


「……支部長さん? カヤが寂しがってるんです。その手、離して貰えますか? 離さなかったら――分かりますよね?」


「――はい。すいません。離します。ですからその炎を収めになってください」


「分かってくれたようで、ありがとうございます」


 背後からスーッと熱気が引いていく。もしや、フィーの炎は怒りの感情が昂れば昂るほどに、熱量が増すのかもしれない。

 ……フィーを怒らせないようにしよう。


「ふぅ。フィー、ありがとな。助かったわ」


「いえ、カヤの為ですから」


「んじゃ、寂しがってるっていうカヤに構ってやるか」


 俺はカヤと目を合わせて、両手を大きく広げた。所謂ハグの準備体制だ。

 カヤもその意味が分かったようで、嬉しそうにこっちに走ってきた。


『カナター!』


 そう言って俺の胸に飛び込んで来るカヤ。今回は前回とは違い、俺が吹っ飛ぶ程の力は無く、程よい強さで飛び込んで来てくれた。

 なんだか無性に嬉しくなって、カヤの頭をウリウリと撫でまくる。


「ホントにカヤは可愛いなぁ!」


『もっと撫でて撫でて〜!』


「二人とも、ここ家じゃないんですけど……」


「はっ!」


『――うにゃ?』


 俺はカヤを撫でていた体制のまま固まってしまった。そして首を油の差されていない機械のようにギリギリと回して、周りを見回した。

 すると、こっちを見て意外なものを見たような顔をしている男達と、何故かほっこりとしている女性達がいた。恥ずかしくて顔から火が出そう。


「つ、続きは家でやろうな……」


『――? わかったー』


「よく分かってないけど取り敢えず納得しましたって感じのカヤも可愛いですね、新発見です。……ってそうじゃなくて、カナタさんは依頼受けるんですか?」


「依頼かぁ。依頼ってあれだろ? 言葉的に協会側が提示するやつ」


「そうですね。カナタさんは冒険者になったばかりなので、捜索依頼とか受注依頼とかしか受けられないと思いますけど」


「おつかいとか、何かを探したり何かを手伝ったりって感じか。まあ妥当だわな。あと、これは予想なんだが規定数の依頼をこなせば次の階級(ランク)に上がれたりする?」


「はい、その通りです。ですから早めにやって置いた方がいいかもしれません」


「なるほどね。じゃあ、なんか受けてみるか」


 そういう事で、冒険者になって早々に初めての依頼を受ける事になった。最初だし、何も難しい依頼はないだろう。


「と、言う事だ。エレナ聞いてだろ?」


「はい。ですので、こちらでカナタさんに合う依頼を見繕いしました。カナタさんに合う依頼はこちらの二つになります」


「どれどれ……ふむ。どっちも受注依頼か。内容は片方が家の掃除で、もう片方が家具の修理……時間的にどっちか片方になるか……」


「どちらの依頼も高齢者の方からの依頼でして、自分ではどうしようもないとの事でした。お手伝いして頂けると有難いです」


「……じゃあ、家の掃除の依頼を受ける事にするか。家具は俺には直せそうもないしな」


 という事で、初めての依頼は家の掃除をしに行くと言うものに決定だ。まあ初めての依頼なら妥当なところだろう。


「うっし、じゃここに書いてある家に行けばいいんだな?」


「はい、よろしくお願い致します」


「了解、頑張ってくるよ」


 依頼主の元へと向かう為、エレナに別れを告げて外へと向かう。

 カヤは俺の手を握って楽しそうにしている。フィーは俺とカヤの後ろを着いてきている。


「フィーさん! すすす少しいいでしょうか? すぐに終わりますから!」


「いいですよ。カナタさん達は先に行ってて下さい。多分追いつくと思うので」


「オッケー」


 エレナがフィーに何の話しがあるのか分からないが、すぐ終わるなら大したことではないのだろう。フィーの言ったように先に行っても問題は無さそうだ。

 そう思った為、俺はカヤを連れて協会を出て目的に向けて歩き始めた。すると、背後から俺達を呼ぶフィーの声が。早いと言っても限度があるだろうと思ったが、そこは人それぞれかと、思い至った為、取り敢えず早かったなと思うだけで留めておいた。


「早かったみたいだけど、何の話だったんだ? 言えないようなやつなら無理に言わなくても良いんだけど」


「なんか、『フィーさんには負けませんから』って言われました。どういう意味だったんでしょうか?」


「……なるほどなぁ」


 つまり、エレナはフィーに宣戦布告をしたというわけだ。しかも、ド直球で。フィーにそういう気がない為、良く意味が分かっていないみたいだが、エレナの気を知っている俺からすれば、女って怖いなと思う。

 それと、このことによってフィーの中では俺に気が無いことが分かった。何とも悲しき事だ。本命は振り向いてくれないらしい。


「カナタさんは分かるんですか?」


「まぁ……な。こればっかりは教えれないから、フィーが自分で考えるか、エレナに直接聞くといい」


「そうですか……分かりました。考えてみます」


 そう言ってフィーは、人差し指を顎に当てて考え始めた。フィーの仕草に俺は少しドキッとしながら、平静を装う。もう慣れたものだ。

 そして平静を装いながらも依目的地に着くまでの間、三十六回の胸ドキッをフィーに食らったのだった。

 ……ちなみにカヤからの胸ドキッは、五十を超えたあたりから数えていないです。


 遂に! 遂に奏陽が冒険者になりました! ここまで長かった……。そしてまだ物語は全然序盤だと言うことに私自身驚きを隠せないです。異世界生活編だけで言えば終盤に差し掛かってますが。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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