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044話 レベル越えてないか?

 今回はほのぼのとした一コマです。今まで戦闘してたので、ほのぼのしたものが書きたかっただけなのかも……。

 皆様には楽しんで頂けたら幸いです。


 広い空間に一人――いや、一柱の神が佇んでいた。

 彼は目の前に映し出される光景に口角を上げ、可笑しそうに笑う。


「――キミは本当に何者なんだろうね! ただの人間なのにこのボクでも操る事が出来ないし、未来も沢山分岐して分からない事だらけ! こんなワクワク初めてだよ!」


 両手を広げ、心底楽しそうに己の本心を口にする。

 人間を観察することしか許されない身でありながら、積極的に関わろうとするその姿はまるで善も悪もない子供のようだ。

 それが彼でありテスタなのだ。


 ある人間の観察を続けるテスタは不意に次元の歪みを感じ、上げていた口角を下げその方向を不愉快そうに睨みつける。先程までの子供なような雰囲気とは真反対であり、神以外の者が彼に触れれば命が狩られるような錯覚に陥るだろう。


「"楽"よ。そなたは禁忌に手を染めたな?」


 元々そこにいたかのように現れた来訪者。その者は人間で言う女性の姿をしていた。人間であれば絶世の美女とも呼ばれるべき容姿をしている。しかし、表情からは一切生気が見られず、目の輝きなど一切見られない。

 無表情に無感動に抑揚も感じられない声が妖艶さを漂わせる口から放たれる。


「何しに来たのさ。ここはボクのボクだけの空間なんだけど、勝手に入らないで貰えるかな?」


 テスタは来訪者に不機嫌な態度を隠すこともなく言い放った。しかし、来訪者はそんな事を意に介さず、淡々と自分勝手に答える。


「今やそなたを我々の存在の中で知らぬ者などいないだろう。禁忌を犯すことが我々の観察対象を絶滅しかねないのだ」


「はぁ……まだそんな事を言ってるの? ボクはキミ達見たいに全然面白くもないことは出来ないんだよ? だったら当然楽しい方、面白い方に行動していくと思わない?」


「我々の中にはそなたを断罪すべしと考えている者もいる。我としても今回の事を重く見ている。他の者も等しく同じであろう。よってそなたを罪罰の場で断罪する事となった」


「ふぅ〜ん。あっそ。ボクは行かないよ。キミ達のやり方は好きじゃないんだ。面白くもない。ただ自分勝手に考えを押し付けるだけ。それじゃ人間の可能性に気付ける訳がない。観察してるだけじゃ何も変わらないことに気付けない。だから、ボクは自分から人間に接触して、その結果、人間の面白さに気付けた。だから自分のした事を悪事だとは思っていない。むしろ、キミ達の方が断罪されるべきなんだよ。これ程までに可能性を秘めた人間を観察しかしないなんて、愚か者のすることにほかならないね。それが分かったらまた来るといいよ。"哀"」


「我にはそなたの考えが分からぬ。常に可能性の高い方を選ぶのが最善であろう? ならば、人間に接触する事はすべきではないのは明白なはず」


 テスタに"哀"と呼ばれた女性は心底分からないと言う。むしろ、テスタが間違っているとそう言う。

 その事につまらなそうに溜息を吐くテスタ。キミ達は何もわかっていないと、キミ達は愚かだと、そう溜息が物語っていた。


「はぁ……本当につまらないよ。まあボクが特別だからって理由もあるから分からないのも当然かもね。でも、分からない事をそのままにして考える事を放棄したら何が楽しいの? 何が面白いの? そんなだからボク達は先に進めないんだよ」


「――我には分からぬ。そなたが特別である事は認めている。だが、何故態々可能性の低い方を取らねばならぬのだ」


「それは当然――



――その方が面白いから。



 他に何か理由が必要?」


「……そなたはそういう者だったな。真に分からぬ者よ……」


「まだキミは理解しようとしてるだけましさ。その理解しようとする事だけ忘れない様にすればキミは先に進む為の切っ掛けをその手に掴めるよ」


「……そうか。善処しよう」


 彼女のその答えに少しの可能性を感じたテスタは彼女に笑いかける。彼女ならばもしや――とそう思わずにはいられない。


「ボクはキミにも期待しちゃうかも! キミならきっとあの退屈な者達の先駆けになれるってね!」


 テスタはただ一人、彼女がいることも憚らずに可笑しそうに笑う。ただただ広い空間の中で、心底楽しそうに――。




   ◇◆◇◆◇




 フィーが遠征から帰ってきてから一週間が過ぎた。俺がこの世界に来た時から考えると、大体十二ヶ月と二~三週間と言ったところだ。

 歳を取ると時間の進みの速いもので、今日まであっという間だったように感じる。とはいえ、結構密度の濃い十二ヶ月だった。こんな経験をしているのは、地球上を探しても俺だけじゃないだろうか。

 異世界転生物のラノベがあるが、そんな俺TUEEEとか俺YOEEEの主人公とかと一緒にしたらいけない。だって俺はここまで、魔物と戦った事ないし、あまつさえ武器すらも持ったことがない。一番武器らしい武器と言ったら包丁だろう。なんという平和な異世界だろうか。

 こんな平和な世界だからこそ、カヤの可愛さが光りフィーとも出会う事が出来たと考えれば、それもまあいいかなとも思う。


「カナタさーん。少しお手伝いをお願いしても良いですかー?」


「おーう。すぐそっちに行くー」


 俺がリビングで日に当たりながらぼーっと考え事をしていたらフィーに呼ばれた。

 フィーはついさっきまで買い物に行っていた。多分、買った物が多くて俺に運ぶのを手伝って欲しいんだろう。そう予想しながら俺は玄関に向かう。


「すいません。カヤの服を買いすぎてしまって……」


「これ……買いすぎのレベル越えてないか?」


「だ、だって……カヤに似合いそうな服が沢山あったので……少数に絞るなんて私に出来るわけが……」


「いくら収入が増えたからってこれだけ買ったら、金が底付きそう気がするんだが……」


「だ、大丈夫です! この前の遠征の報酬凄かったので! 今回使ったのはその半分くらいですし……」


「……その報酬ってどれくらいだったんだ?」


「…………普通使ってれば一年は働かなくても大丈夫なくらいには……」


「使いすぎ! せっかく落ち着いた雰囲気になったと思ったのに、カヤに甘いのは全然変わってないじゃん!」


「だってしょうがないじゃないですか! 今までカヤと遊んでなかった反動が大きいんですもん!」


「確かに分からなくはないけど! けど、さすがにこれは……」


「わ、私だって買った後ちょっとやりすぎたかな、って思いましたよ! ですけど買ってしまったものはしょうがないじゃないですか! 何か文句ありますか!?」


「開き直られても困るんだが……まあカヤが喜べはそれでいいんじゃないかと」


「ですよね!? そうですよね!? カナタさんならそう言ってくれると信じてました!」


 結局の所、遠征に行って何が変わったのかと言うと、フィーの社会的な地位と収入くらいだ。

 遠征終了後すぐ、フィーは階級(ランク)が一つ上がり、この街でトップクラスの実力者の仲間入りを果たしたらしく、その分難易度の高い依頼を受ける事が出来るようになって、収入が増えた。それに加えて、遠征での活躍が目覚しかったことから遠征の報酬にボーナスがついて、凄い事になってたらしい。まあその半分は今日消えたのだが。


「それで、この大量の服はどこに持っていけばいい?」


「私の部屋――と言いたいところですが、カナタさんは入れたくないので、外から私に適切な量の服を渡してくれればそれで良いですよ。中に入れるのは私がやりますから」


「りょーかい。んじゃそうするか」


 俺は大量の服をフィーの部屋の前に移動させ、フィーが余裕をもって持ち運べるくらいの量ずつを渡していく。無論、フィーの部屋の中は見ないように。見たらまた飯抜きとかになって死にそうになるだけだしメリットがない。もうあんな思いしたくない。


「それでなんですけど、カヤは何処へ? 姿が見当たらないんですけど……」


「それなら猫の姿のまま外に出て行った。なんかお散歩するらしい。まあ猫だしお散歩くらいさせないとストレスが溜まるだけだもんな」


「そうなんですか……カヤにこの服着せようと思ったんですけどね……」


「流石にこの量は無理だろ……」


「今日一日で全部着せるわけないじゃないですか。私だってちゃんと常識は弁えてるつもりです」


「これだけの服を買っておいて常識か……」


「うるさいです。今日の夕食抜きにしますよ」


「はい! フィーさんは凄い常識人ですよね!」


 もうひもじい思いは嫌だという体の信号から、条件反射的にこんな事を言ってしまった。なんだか負けた気分だ。


「分かれば良いんですよ。分かれば」


「何を偉そうに――」


「夕食」


「そうですね! フィーさんはやっぱり常識人だなぁ!」


 同じ過ちを数秒後に繰り返す愚か者はこの俺だ。なんというか、漢字を間違えて消しゴムで消したのにまた同じ漢字を書いて間違えるのと似てる。あれなんなんだろうな。偶にあるけど、自分で自分を馬鹿なんじゃないかと疑いたくなる。


「ほい、これで最後」


「ありがとうございます。助かりました」


 カヤの服の搬入が終わった事で、一息つくことにした俺達。

 二人してソファに座って紅茶を飲みながらぼーっとする。この時間だと、ここは程よく暖かい陽射しが入ってきてぽかぽかするのだ。これがまた気持ちいいんだ。日焼けには注意しなければならないが、めちゃくちゃ幸せな気分になれる。

 多分フィーも同じ事を思ってるだろうな。顔を見れば分かる。


「ふぅ〜……こういうのもいいですね……」


「同感だ……こういう小さい幸せが積み重なる事で大きな幸せに繋がっていくんだろうな……」


「よく恥ずかしげもなくそんな事言えますね……」


「いいだろ別に……今はそういう気分だ……」


「分からなくもないです……」


 その時、俺はある事に気付いた。


「そういえば、フィーと二人きりになるの初めてかもなぁ……」


 今まで俺の傍にはカヤが居たし、たまにカヤが居ない時はフィーも居なかった。今日のこの時間は相当レアな時間かもしれない。


「言われてみればたしかに初めてのような気がします」


「感慨深いよな。俺達はカヤが居なかったら出会ってないんだし」


「そうですね。カヤとカナタさんと出会ってから私の毎日も楽しくなりました。カヤには感謝してもしきれません」


「あれ? 俺は?」


「カナタさんは日頃の行いでプラスマイナスゼロですね」


「マジかぁ……」


「これを機に行いを正すと良いですよ。特に、私の部屋に入らないというのを気をつけてれば評価は上がるんじゃないですか?」


「まだ根に持っていらっしゃる……ほら、あれは寝ぼけてたせいでわざとじゃないって分かってくれたじゃん?」


「それはそうですけど……うぅ……やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんですよ!」


「じゃあ、もしフィーに彼氏が出来たとして――」


「無いですね」


「もしもの話だ! もしもの! 俺だってフィーにかれ――んんっ! なんでもない。取り敢えず、もしもの話だから最後まで話を聞くこと!」


「まあ、はい。分かりました」


 危うく告白紛いの事をするところだった。流れって怖い。もし、そのまま告白紛いの事をしてたら、その場の空気が変わり、『ちょっと考えさせて下さい』という言葉と共にフィーとだんだん疎遠になり、最終的には『ごめんなさい』と俺がフラれて途方に暮れながら野垂れ死ぬ所まで想像出来た。

 俺の想像力マジリアル過ぎ。実際にこうなるのではないのかと思う程だ。


 俺は一つ息を吐き気持ちを落ち着かせ、先程の話を続ける。


「もし、フィーに彼氏が出来たとして、家に呼ぶ事になったとする。最初はリビングで二人イチャイチャしていたが、その過程でそういう雰囲気になってしまって流れで行為に及ぼうとなった時、行為をする場所の選択肢はフィーの部屋しかない。こうなった時、フィーは自分の部屋に彼氏を連れ込めるか?」


「……リビングじゃダメ……なんですよね……?」


「まあ現実問題、今は俺が居るし、彼氏を連れ込んだ時に俺が居るという過程で話して貰えれば。別に俺が居てリビングで行為に及んでも恥ずかしくないならリビングでも結構だぞ?」


「そもそも誰かに裸を見られるのは恥ずかしいので、そういう行為をするかどうか……」


「仮定の話だし、連れ込めるか連れ込めないかで答えてくれればいいぞ」


「連れ込めませんね……色々片付ければやぶさかではない感じです」


「片付けをしてもやぶさかではない程度なのか。別に彼氏なら部屋を見られても大した問題じゃないような気がするんだけど」


「い、嫌なんです! 私はちょっとキツめの印象付けされてるので、それがあの部屋を見られることで可愛いもの好きの案外可愛い人なんて思われたら私死ねます! 分かりますかこの気持ち!?」


「あーギャップ差ね。俺は最初から可愛いもの好きの可愛い人で認識してるから殆どギャップはないけど、外ではそんな印象持たれてるのか。初めて知った」


「カナタさんはしょうがないじゃないですか。だってカヤを連れてたんですもん……そんなの卑怯です……」


 しおらしい感じのフィーも凄く可愛い。目に少し涙を湛えているのがまたいい感じだな。……変態? これをこう評価するのが変態だと言うなら、俺は甘んじて変態というレッテルを受け入れようではないか。


「まあこれも全部仮定の話だし、実際にこの状況になった時はその時の気持ち次第だろうけどな」


 気持ちは大事だ。人の精神や性格、態度はその人の気持ちによって変わると言っても過言ではない。自分を変えようとする時に、途中で挫折しない程に強い気持ちがあれば成し遂げる事が出来るが、無かったら到底無理だろう。

 それは恋心とて同じのはず。恋心なんて実ったことないから分からないけど、多分同じ。


「私からも質問いいですか?」


「ん? いいよ?」


「カナタさんって三十代中盤くらいになるわけじゃないですか? 結婚とか考えないんですか?」


――グサッ!


 一本の槍が俺の心を撃ち抜いたような衝撃。泣いて良いですか。


「フィーが虐めてくる……」


「別に虐めてる訳じゃないですよ? でも、カナタさんとか変にモテそうじゃないですか。結婚しようと思ったら出来るんじゃないかと思うんですけど」


「俺がモテる? なんの冗談を……顔も悪い、性格も微妙、身長も高いわけじゃない、この世界じゃ学がない、金もない、あまつさえフィーに養ってもらっているのに。モテる要素なくね?」


「うーん。変な所でしっかりしてると言うか、偶に凄くカッコいい感じになる事があるじゃないですか? いつかの脱獄犯に捕まった時とか」


「あの時はああしないと駄目なような気がしたからな。まあその結果カヤを泣かせる事になった訳だが」


「あれは辛かったです。私のせいだと思うと余計に」


「今ならあんな事にはならんだろうし、過去は過去として笑い話にしとけばいいんじゃね?」


「そういう慰めの時にカナタさんがカッコよく見えるんですよ。自覚あります?」


「ないな。むしろダサい事言ってるなと思ってる。良く考えればフィーだってダサく感じるだろ?」


「んー、そう……ですね」


「だろ? 脳が誤認してるだけだと思うぞ。慰められると好きになりやすいって聞くし。なんでかは知らんけど」


「じゃあカナタさんはそういうところに漬け込んで優しくしてるわけですね」


「なんか言い方ひどい……これでも女の子には優しくしないとって思ってるのに……男なら容赦はしないが。特にイケメン。アイツらは死ねばいいのに」


「僻みが凄いですね……ちょっと引きます」


 フィーに引かれるとかちょっと死にそう。だが、俺に言わせて見れば、イケメンだってだけで得するしチヤホヤされるしグループの中心になれる。そんなの人生イージーモードだ。

 俺とか、生まれてこの方チヤホヤされたとこないし、何かの中心として動いた事もない。ただボッチだったから常に一人だと言うことを考慮すると、その時だけは自分が中心だった。マイナス方向だけど。こんなの人生ハードモード過ぎてクリア不可だ。現に俺は途中退場してる訳だし。


「まあなんだ。他人の良いところ見つけると羨ましくなるのが俺で、でも自分にはないからどうしようもないなと考えて諦めるのも俺って訳だ。だから僻みも入れば、達観もしたりする」


「なんかカナタさんらしいですね」


「フッ。俺は俺だからな。俺らしくて当然――」



――ただいまぁ〜。



「あっ! カヤが帰ってきました! 出迎えに行ってきます!」


 フィーはカヤの声が聞こえたのと同時くらいに玄関へと走り去って行った。

 二人きりの時間はもう終わったが、何やら玄関の方から新しく買った服を着ないかというフィーの声が聞こえてくる。

 もしかしたらカヤの可愛いファッションショーが見られるかもしれない。

 そう考えると二人きりだけの時間を惜しむのではなく、これから過ごす三人の時間に期待する方が大きくなる。


 俺もカヤが好き過ぎるなと自覚して自嘲気味に笑った後、玄関の方に出向いてカヤに『おかえり』と言うのであった。


 テスタは偶に出てきます。彼の事忘れないでいてあげて下さい。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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