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042話 何を勝手に!


「ほーら、捕まえてみなー!」


『うにぁ……目隠しはひどい……』


「酷いと言われてもな……よく考えてみろ。俺は頭の良さ以外は平均かそれ以下の人間で、そんな俺よりもスペックが完璧に上位のカヤが鬼ごっこしたらどうなると思う?」


『しゅんさつ?』


「そーだ。瞬殺だ。そんなことになったら全く遊びにならないだろ。だからカヤは目隠しをするんだ」


『なるほどぉ。じゃあ耳を頼りにカナタを捕まえる!』


「ふっふっふ。簡単に捕まえれると思うなよ! こっちには秘密兵器もあるからな! ふはははは!」


 さてさて。今の俺はカヤの希望で『鬼ごっこ』をする事になった。無論、カヤは人間の姿になっている。ただ、純粋な鬼ごっこでは俺が勝てる訳もなく、ハンデとしてカヤに目隠しをしてもらっている。

 目隠ししたカヤは『うぅ……前が見えないぃ……』と言って手を前に出してあわあわしながらくるくる回っていた。その姿に思わずほっこりした俺だが、依然として周りは地獄絵図。

 フレッドとかいう奴は口から少量の血を零しながら未だに倒れたままだし、他の奴らも壁に寄りかかって気絶してたり、テーブルの上でだらんと手を垂らして気絶してたり、壁にめり込んで気絶してたり。……最後の奴は本当に気絶なのか? いや、ここは俺のスルースキルに期待しよう。


『じゃあ、いくよー』


「おぅ! どっからでもかかってこーい!」


『分かったー!』


 その瞬間。一体何が起こったのか、俺には理解が出来なかった。気付いた時にはカヤが俺の腕の中にいて、妙な浮遊感が全身を包んでいただけなのだが、その事すら分からないくらいに早い出来事だった。

 なんというか、カヤのデタラメさを肌で実感した瞬間だった。テスタの野郎なんて能力をカヤにやったんだ。俺にも寄越せ。


――い・や・だ・♪


 なんだろう。今、テスタにイラッとする口調で拒否された気がするんだが。まあいいだろう。そんな事よりも、今この状況をどうにかするべきだからな。


 現在、俺の体は空中に投げ出されている状況であり、既に最高点を通り過ぎて落下を始めている。ちなみにここまでコンマ数秒。俺の頭の中には軽く走馬燈が過ぎった。それくらい俺の認知速度は早い。死を感じると時間の流れが遅くなるというどうでもいい知識を得てしまったぜ。

 それは兎も角として、この状況をどう打破しよう。俺には無理のような気がしてならない。


 そして俺は気付いた。『無理ならいっその事、死んでしまえば良くね』と。心の準備が出来れば死ぬのなんて怖くないし? どうしようもないならしょうがないかなって気にもなるよな?


 そろそろ地面と接触だ。この体制ならば頭強打からの首の骨ボキッで間違いないだろう。俺の命よ、アディオス!


「……ゴハァッ!」


 頭が柔らかい床に衝突した。あぁ、これで俺の儚い命も塵と……


「ってぇー……はっ!? 俺の命が尽きてないだと!?」


 落ちた先を見てみると、そこには誰かの体があった。どうやら俺はこいつのお陰で死ななかったららしい。


『カナタ、何言ってるの?』


 目隠しを取りながらしっかりと密着したまま抱き着いているカヤが、俺を見上げて不思議そうに尋ねる。どうしてこうもカヤは可愛いんだろうか。俺の癒し。俺のマイエンジェル。俺の、と、マイの意味が被ってるとかそんなのは知らん。


「いやな。あのまま床に激突してたら死んでたな、と」


『そう思ったから、この人のところに落ちるようにした』


「マジか。こいつ大丈夫か?」


『死んではないと思うよ?』


 下敷きになったお方、ご愁傷様です。ここは一つ運が悪かったと思って受け入れてください。死ぬ前にあなたの顔でも確認を……


「ってこいつフレッドかよ。チッ、死ねばいいのに」


「き……聞こえてるよ……」


「お前、すげぇ生命力だな。感心するわ。もしかしたらゴキブリ並かもな」


「そんな魔物と……一緒にされたく……ないね……ゴファ!」


 話しながら吐血するフレッドを見ていて、まさにゴキブリ並の生命力の持ち主だなと思ったのは仕方が無いことだ。しかし、一番衝撃的なのはこの世界にもゴキブリがいることだな。しかも魔物とか……この世界を破滅に追い込む気なのかよ……。


「それよりも……悪魔はどこに……」


「あーそれなら、俺が食った」


「何っ!? 食った!? それは本当かっ! ゲフォ!」


「マジだぜ。こう、パクッと一口で」


 こんな子供騙しの冗談に騙されるなんてフレッドは騙し甲斐があるな。あ、性格悪いとか思うなよ。拉致られた事への仕返しをしてるだけだし、仕返しが終わったらもう関わらない予定だからな。


「やはり……私の目に狂いは無かった……ゴフッ!」


「狂いしかないと思うんだが? それよりもお前さ、そんなに血吐いてるけど大丈夫か?」


「心配無用……ゴハッ!」


「はぁ……どう見ても大丈夫じゃないだろ。誰か回復魔法使える奴いないのか?」


「あ、あの……私、少しなら使えますけど……」


 どっかの物陰から一人の女性が現れた。なんかプルプル震えていて、小動物を連想させる。


「えっと、君は?」


「わ、私は! ェ、エレナと! もも申しますっ!」


「あー、別に取って食うわけじゃないし、リラックスしてくれて構わないよ?」


「で、でも、あなたに抱き着いているその女の子……さっきのあ――」


「――ストップ! そのネタばらしはまた後ででお願いしたい」


 どうやらこの女性には一部始終を見られていたらしい。全く気付かなかったな。


「は、はい! 分かりました!」


「取り敢えず、回復魔法が使えるならこいつを回復してやってくれ。死にかけなんだ」


「フ、フレッド支部長!? あああ早く回復しないと! えーとえーと!」


「エレナとやら、落ち着け。君はやれば出来る子だ。そうだろう?」


 どっかマンガで読んだような読んでないような。そんなシチュエーションだったので思わず頭を撫でながら、カッコつけて変な事を言ってしまった。

 めっちゃカッコ悪い。恥ずかしくて死にそう。穴があったら入りたい。そして埋めてほしい。


「ぁぅ……だ、大丈夫……です……おおお落ち着きましたから……」


「よし、その調子でこいつの回復も頼んだぞ。任せられるのは君しかしないんだ」


「は、はい!」


 俺は鈍感系主人公ではないからな。エレナという女性が顔を赤くしているのが怒っているからではなく照れているからだということが分かる。

 ただ俺にはフィーという心に決めた女性がいるのでな。残念ながらごめんなさいだ。……何様だって言うね。


「お、終わりました!」


「サンキュー。これでようやくちゃんとした話が出来る」


「さんきゅう?」


「ありがとうって意味。あ、そうだ。エレナには他の奴らにも回復魔法をかけて欲しいんだけど大丈夫?」


「は、はい!」


「よしよし、元気のいい子は嫌いじゃないぞ。ハッハッハ!」


 エレナは張り切って、倒れている奴らの元へ回復魔法をかけに行った。俺は働き者結構好きだぞ。

 というか、俺のキャラがブレッブレなんだが。こういう所で対人スキルが低いのか露呈するよな。何とかやってはいるけど、いつか破綻しそうな勢い。

 まあ、それは追々どうにかしていくとして。今は回復したフレッドに話をしなければならない。


「おーい。起きてんだろー」


「あぁ、起きているとも」


「ちょいとお前に話がある」


「こちらとしても話があったのでな。好都合だ」


「どうせ、冒険者になれとでも言うんだろ。俺もそれ系の話だ。ちなみに、今は冒険者にはならんぞ。こちとら生活設計があるんでな。それ通りにいかせてもらう」


「今はって事は、いつかは冒険者になってくれるんだね?」


「……お前がいるならやめたいところだ」


「そ、そんな……じゃあ私は今すぐに冒険者を辞める!」


「ほう。それならば冒険者になることを考えなくもないな」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ支部長! 今辞められたら協会が潰れてしまいます!」


 俺達の話を聞いていたのか、エレナがフレッドに対して声を張り上げた。本気で心配しているようだったので、フレッドが辞めると言ったことを信じて疑っていないのはすぐに分かった。

 ただ、ずっと思っている事があるんだが、支部長って何だ?


「エレナ……しょうがないんだ……ここまでの逸材を放置している方が支部長として失格だろうからさ……」


「でもっ!」


「あのさ。さっきから支部長支部長言ってるけど、支部長って何だ? というか、誰が支部長だって?」


「君はそんな事も知らないのか……よっぽど協会嫌いなんだね……」


「いいからさっさと教えろ」


「全く……横暴だね、君は。エレナ教えて差し上げなさい」


「か、かしこまりました!」


 『お前じゃないんかい!』というツッコミを入れたかったが、それを言うと話が先に進まないような気がしたので、黙って置くことにした。


「えっと……あの……説明の前にお名前をお伺いしても……」


「淑女を前にして名乗るのを忘れるとは。何たる失態。俺の名はカナタだ。改めてよろしく、エレナ」


「よ、よろしくお願いしますっ!」


 俺が握手の為に出した手を両手で掴んで、恥ずかしそうに顔を赤らめるエレナは、年相応に恋をしてるんだな、と感じた。相手が俺なのは誠に残念な事ではあるんだけどな。こんな奴をエレナが可哀想だ。自分で言ってちゃ世話ないな。


「エレナ? もしや君はカナタに――」


「わーわー! なんでもないです! なんでも!」


 フレッドに図星を突かれそうになって慌てて大きな声を出したエレナ。既にバレているのに必死で隠そうとする姿は可愛いな。


『むぅ……なんかやな感じ』


「俺の一番はカヤに決まってるだろ。カヤは不動の一位だからな!」


『そう? それならいいんだけど……』


 嫉妬するカヤもかわゆいな。なんせ、俺のお腹に顔を埋めて、表情を見られないようにしてるんだもんな。これで可愛いくないわけがない。


「あのー、そろそろ支部長について説明をしても……」


「あぁ、すまん! よろしく頼む」


「は、はい! えっと、まず初めにお伺いしますが何の支部長なのか分かっていますか?」


「えーっと、何だったかな。冒険者が集まるところって言うのは分かるんだけど、ギルド……じゃなくて……」


「協会です」


「あー! それだそれ!」


「この冒険者協会の支部長というのは、その街の冒険者を総括する人の事を指し、同時に街で一番強い冒険者という事になります。普段は事務仕事ばかりですが、緊急時や特別な場合に冒険者として戦場に赴きます。この街の支部長はフレッドさんなので、先程言った仕事は全てお一人でこなされています」


「へぇー。じゃあフレッドはこの街で一番強くて苦労してるのか」


「ようやく私の事を理解して貰えたようだね。ちなみに、私はここの協会所属の冒険者のことならほぼ全員覚えているよ。能力から階級(ランク)まで全てね」


「え、なにお前変態なの?」


「私の胸にグサッとくる言い方はやめてくれ……」


 とりあえず、このカヤに一発でダウンされたフレッドがこの街の冒険者協会の支部長である事は分かった。なんだかんだ言って凄い奴らしいが、俺に言わせればただの変人だ。

 たしかに強くて人望もあるのかもしれない。それだけの雰囲気がある事は分かる。ただ、一般人を気絶させて拉致る奴をどう敬えと言うんだ。普通、そんなのされたら敬うどころじゃないだろう。


「で、その支部長さんが俺に冒険者になれと言うんだな?」


「そう言う事! 君は、ゆくゆく冒険者になってくれるらしいし心配ないかな。あ、そうだ! いっその事今から登録して手間を省こうか! エレナ、登録の準備を」


「かしこまりました」


「お前、何を勝手に!」


「まあまあいいじゃないか。これは私の良心なんだから素直に受け取ってくれたまえよ」


「そんなこと言って、実は冒険者にしたいだけという思考が見え見えなんだが?」


「そんなことないさ。登録の手間を省くだけだからね。それ以外に思ってることなんて何一つないよ」


「嘘つけ。お前みたいな奴は俺の経験則から言うと平気で嘘つくからな。マジでタチ悪いわ」


 フレッドは会話を受け流すような感じがする。核心をつかれないように濁すと言った方が的確だろうか。とりあえず、こいつは本当に質が悪い。


 確か高校の時だったと思うが、こいつに似た奴がいた。そいつは一人でいる事が多かったが、俺とは違って真性ぼっちではなく、偶に友達と談笑していた。

 俺はこいつなら友達になれるのではと思い、話しかけるとこれまた面倒臭い奴で、丁度フレッドみたいな奴だった。そんな奴俺が好く訳もなく、たった一度の会話をしたっきり、話す事はなかった。

 ちなみに、その一度の会話は、給食と弁当の善し悪しについて語るというものであり、どうでもいい話だった事は鮮明に覚えている。


「取り敢えず、俺は冒険者にはならん。その時が来たらまた来るけどな。それまで待ってろ」


「ちぇ。君を冒険者にする良いアイデアだと思ったのに」


 ほらな。嘘ついてただろ。マジで恨めしい奴。


「支部長、準備出来ました――って、カナタさん登録しないんですか?」


「あぁ、今はまだな。また今度登録しに来ると思うから、その時はよろしくな。エレナ」


「はい! ずっとあなたをお待ちしております!」


「おう、じゃあな! カヤ行くぞー」


『うん! デートの続きする!』


「そうだなー。買い物も途中だったから、買いに行かないとだな……んじゃ、買い物の続きするか」


『うん!』


 俺とカヤは建物の外を目指して歩きだした。また買い物をしないといけないと考えると憂鬱だが、カヤとデートすると考えれば気が楽だ。


「カナタ君! 君の事待ってるからいつでもおいで!」


「うっせ! お前はいっぺん死んどけ!」


 俺はフレッドにそう言い残し、カヤと手を繋いで建物の外に出た。


「じゃ、行くか。変な所で時間食ったし、ちょっと急がないとな」


『うん!』


 こうして、俺の拉致られ事件は幕を閉じたのだった。


 これでカナタの件も決着が着きました。エレナとも面識が出来て、今後どうなるか見物です。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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