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041話 ありがとうございます


 仲間の逃げる時間を稼ぐという役目を全うしてウルフテンペスタは死んだ。

 それは魔物ながら称賛に値する行為であり、命を懸けてでも護りたい者がいたというところは人間と何ら変わらないのだ、と、戦っていてそう感じた。


 ウルフテンペスタの自爆によって抉れた地面が物語る何かを守るための力。その地面を眺めているとウルフテンペスタの様々な想いを想像してしまう。

 自爆する直前に何を想っていたのだろうとか、そもそも死ぬ事を恐れなかったのかとか、そんな事を。


「フィーさーん! フィーさーんどこー!」


「いるんやったら返事してなー!」


 ふと、私の耳にハピネスラビットの声が入ってきた。どうやらこっちに戻って来たらしい。


「私はここにいますよー」


「あっ、居たー! 良かった〜! なんか凄いのが出てたから危ない事があったのかと思ったぁ〜」


「結局、ウルフテンペスタはどうなったんか聞いてもええ?」


「ウルフテンペスタなら自爆して死にました。素晴らしい死に様でしたよ」


「そうなんや。実際に対峙したフィーさんが言うんやから本当に素晴らしかったんやろうね」


 今まで戦ってきた魔物の中で一番手強かったと思う。何かを守るための戦いがこれほどに厳しいものになるとは思っていなかった。それが知れただけでも、今回の遠征は充実したものだと言えるだろう。


「ハァハァ……お前ら速すぎだ! 支部長の俺が追いつけないったぁどう言う事だ! 秘密を教えろや!」


「支部長は充分に速いですよ。ですが、それよりも俺達が速かっただけです。寧ろ、それが売りのチームなので、これくらい出来ないと駄目ですよね」


「俺はそんな事聞いてんじゃねぇよ! 秘密を教えろって言ってんだ! なんかあんだろ!?」


「えっ? ああ、それならチーム内の秘密です。この速さを身につけるためにはマル秘特訓をしなければなりませんし」


「じゃあ俺をお前のチームに入れろや!」


「はぁ……支部長の仕事はどうするんですか……」


「そんなんテキトーでいいんだよ、テキトーで! な、俺は戦力にもなるからよ、チームにどうだ!?」


「んー……不採用でお願いします。支部長には支部長の仕事をしてもらいます」


「うおぉぉーッ! 入れろやボケぇ!」


「嫌です。もし、これ以上何か駄々をこねるようなら支部長と言えどもお説教しますよ?」


「うぐっ……お前の説教だけは嫌だ……いいだろう。今は引いてやる! だが次こそは――」


「説教しますよ?」


「最後まで言わせろやボケぇ!」


 離れた所で、支部長とハピネスラビットの男性が話している内容が聞こえてきた。二人共、この戦いが無事に終わって安堵しているように見える。でなければ、こんな軽口を叩かないだろう。


「あはっ、支部長が入ってくれれば百人力なんですが、やっぱりダメみたいですねー」


「まあ支部長だしな。しょうがねぇだろ」


「この先、もっと強い魔物が出てきた時一体どうすればいいんでしょうかね。今回の戦いはウルフテンペスタが自爆してくれたから良かったものの、僕達では傷を負わせることは出来ても、致命傷を負わせることはほとんど出来ませんでしたよ?」


「確かにな。んじゃ、速さだけじゃなくて力でも付けるか? つっても一朝一夕で付くようなもんじゃねぇし」


「ふん。俺様がお前達のパーティに入ってやる。とは言っても、あの説教男には既に話は通してあるから嫌だと言っても無理だがな」


「「なん……だと……むさい男が増えるというのか……ッ!」」


「むさくて悪かったな。だが、戦力的に言えば、ここでは支部長を除いて俺様が一番高いだろう。光栄に思え」


「「何様だ!」」


「俺様だ」


「「ぐおぉぉ!? 馬鹿だ! こいつ馬鹿だぞ!」」


 なんと、ジンさんがハピネスラビットの一員になるみたいだ。ハピネスラビットは今まで以上に賑やかなパーティになる事間違いなしだ。


「それで、みなさんはどうしてここへ戻ってきたんですか?」


「それはね! なんか凄いのが出来てたからだよー! 青いやつがぶわーって!」


「あんな、青い火で出来た大きな逆三角形があったから何事かと思ってこっちに来たんよ。あれ、フィーさんがやったんやろ?」


「青い火なら私の魔法で間違いないですね。自爆の衝撃を上に流す為に少し規模を大きくしました。まあ、そのせいで魔力はほぼ空っぽですけどね」


「フィーさんって本当に規格外なんやなぁ。普通なら上に流すなんて発想にならんと思うんやけど」


「みなさんを守りたかったので。これくらいのことをしないと自爆の衝撃にみなさんが巻き込まれてた可能性がありましたから」


「自爆ってそんな危険なもんなんや」


「命を懸けてますから。そんじょそこらの魔法では真っ向から対抗しても確実に負けるだけですよ。私も、上に受け流すので精一杯でしたし」


 もし受け流すのではなく、受け止める事を考えていたら今頃私はこの世界から消えていたと思う。そして、自爆の衝撃波でここにいるみんなも。

 咄嗟の判断だったけれど、その判断のおかげて生き残る事が出来た。一歩間違えれば命がなかったと思うと、全身の力が抜けそうになる。それだけ緊張していたんだろう。


 その後も私が二人と話していると、離れて話していたラーウェイ支部長が私の元にやってきた。


「フィーさん。今日はあんたのお陰で勝てたようなもんだ。いや、今日も、か。間違いなく、階級(ランク)が一つ上がる程の活躍をしていた。恐らく、遠征後には階級(ランク)が上がるだろう。おめでとうと言わせてもらう」


「ありがとうございます」


「だが、本番はこれからだ。遠征は帰るまでが遠征だかんな。気ぃ抜くなよ?」


「もちろんです――と言いたいところですが、魔力切れで立ってるのが精一杯なのでどうしたものか……」


「そんなら、あそこにいる三馬鹿に担いて貰え。アイツら力だけは有り余ってるようだからな」


 支部長が指したのはジンさんとハピネスラビットの男性二人だ。


「はっ!? 俺らかよ! ジンは言いにしてもなんで俺らなんだよ! 俺ら力ねぇぞ!」


「そうだそうだ! 僕じゃなくてこの筋肉馬鹿にやらせればいいんですよ!」


「筋肉馬鹿とは、随分と褒められたものだな」


「褒めてない!」


「そうなのか? 俺様には褒められたようにしか感じなかったんだが?」


「やっぱ、ジンは馬鹿だな。俺らじゃ、ジンの馬鹿さ加減にまったく歯が立たねぇ!」


 結局また三人でわーわー言っている。何だかんだ言って楽しんでいるようにしか見えない。


「な? あいつら力が有り余ってるだろ? フィーさんは担架かなんか用意するから回復するまでそれに担がれてな」


「はい。そうすることにします」


 私は今日一日だけ、担架に運ばれて帰る事が決定した。魔力切れで歩こうとしても、本当にゆっくりでしか歩けないし、力も思うように入らないので仕方がないと言えば仕方がない。


「おっ、他の奴らもこっちに戻ってきたみてぇだな。そろそろローティルに戻るとするか。協会が心配だ」


 逃げた冒険者達がどんどん集まってくる。みんな、何が起こったのかを知りたいみたいだった。よっぽどあの魔法に興味を惹かれたのだろうか。


「あっ、そうだ。ねぇねぇ、フィーさんってさ、好きな人いたの? この前から聞きたくて仕方がなかったんだよね〜」


「好きな人っていうのは……その……異性でってことでしょうか?」


「うんうんっ! この前、誰かをすごい心配してたし、もしかしたらって思って!」


「ちょっと待て! その話、俺らも混ぜてくれ!」


「僕達も聞きたいです!」


「はいはい。男共は説教でも受けとき。おーい。こっちで男共がいらん事しようとしとるよー」


「なにっ!? お前らぁ!」


「「仲間売るとか酷くね!? 何もしてないのにっ!? そんな事よりとりあえず逃げないと!!」」


 男二人はそう言って全力疾走して行った。やられてる事が酷いと思うのに、別段彼らには何も感じないのはどうしてだろう。


「それで、どうなん? 好きな人いるん?」


「好きな人はいませんよ。あ、でも、同性ですけどカヤとか。後は……カナタ……さん?」


 なんだろう。ウルフテンペスタと一対一になった時もそうだったけど、カナタさんの顔が偶に思い浮かぶ。でも、決して不快とかではなくて、寧ろ嬉しいというか。……嬉しい?


「カナタさんってだれ〜?」


「あ、えっと、カナタさんは半年くらい前から同棲している男性で――」


「「どどど同棲ッ!?」」


「はい。それで――」


「ちょっと待ってくれへん!? 同棲ってどういうことなん!? しかも男と! 結婚でもするん!?」


「いやいや、そんな予定ないですよ。第一、付き合っているわけでもないですし。なんて言うか、居候? って感じですよ」


「じゃ、じゃあ親戚かなんかなんやね?」


「全く関係ないですよ? 私がまたまた拾った? みたいな」


「わぁお! 結構やるね〜! フィーさんはその人のことどう思ってるの?」


「カナタさんは私の知らない事を色々教えてくれますし、約束はちゃんと守りますし、時々エッチですけど悪い人じゃないって思ってます。どっちかって言うと、結構信用してる感じですかね? カヤもカナタさんにはベッタリですし」


「それってす――」


「ちょいまち! それ以上はあかんで」


「どうかしました?」


「いや、なんでもないんよ。気にせんで続けて」


「は、はあ。まあとりあえず、カナタさんは偶に優しいところとか、いつも全力で楽しんでるところとか、真面目に勉強に取り組むところとか、結構良いところがあるんです。でも、弱いのにいっつも危険な事に巻き込まれるし、馬鹿な事するし、偶にエッチだし、そういうところもあるんですよ」


 カナタさんといると妙に安心すると言うかなんと言うか。多分カヤといつも一緒にいるからだと思うけれど、帰って『ただいま』って言った時にいつも『おかえり』って返してくれることが、私の中で安心感に変わってるんじゃないかと思う。


「……ねぇこれってフィーさん気付いてないのかな?……」


「……やろうね……」


「……教えてあげた方が……」


「……こういうのは自分で気付かな意味がない。気付くまで待ってあげな……」


 なんか、二人ともコソコソ私に聞こえないように話している。


「どうかしましたか?」


「「いっいや! なんでもないよ!」」


「とりあえず、カナタさんはいい人ですけど、異性として考えた事はないです」


「……道のりは長いなぁ……」


「長いって何がですか?」


「あ、いやこっちの話なんよ! 気にせんといて!」


「は、はあ……」


 なんの話をしていたのか気になるけれど、気にしないでと言われれば、聞こうにも聞づらい。


「諸君ッ!! こちらに注目だ!」


 どうしようかと考えていると、唐突にラーウェイ支部長が冒険者全員に向かって声を張り上げた。


「支部長として、諸君はよく戦ってくれたと思っている。ローティル冒険者協会を代表して礼を言う。ありがとう!」


「おおぉぉ!!」


「ウルフテンペスタが討たれ、今回の遠征よ目的は果たした! これより、帰還を始める! 諸君はローティルの街を目指し、目的達成の報告をするが良い!」


「うぉぉおお!!」


「では、隊列を組め! 出発だ!」


 冒険者達はラーウェイ支部長の一声でここに来たときと同様に隊列を組み、帰還の準備を始めた。


「うちらも帰る準備始めよか」


「そうですね」


「私達はてきとーに並んでも大丈夫だよね!」


「大丈夫なわけあるか。お前はいつも言っているだろう。自分勝手は周りを危険に陥れると」


「はーいごめんなさーい」


「まあいい許してやろう」


「やったぁ!」


「……あいつ彼女には甘いよな。贔屓じゃね?……」


「……浮かれてるんですよ、あの人は……」


「おい、こいつらお前の悪口言ってるぞ。放置していていいのか?」


「「ジン! 貴様仲間を売ったな!?」」


「俺様はお前達の仲間になった覚えはない」


「「くそぉ! こんな近くに敵がいたとは!」」


「お前達、生きて帰れると思うなよ?」


「「ひいぃぃ!」」


「いいからはよ並ばんと、フィーさんが困ってるやろ」


「私は魔力切れで思うように動けないので、よろしくお願いします」


 本当は自分の足で帰りたいのだけれど、どうも魔力切れはどうしようもない。ここは無難に人を頼ろう。


「フィーさんに頼まれちゃあ断れねぇ! 俺らに任せときな! な、相棒!」


「いつ、僕が相棒になったんですか? ……まあやってあげてもいいですけど」


「流石俺の右腕!」


「相棒はどこに行ったんですか……」


「こまけぇこたぁいいんだよ! さ、フィーさんを運ぶぞ。丁重に扱えよ!?」


「分かってますって。はぁ……」


 私は用意された担架に寝転がり、運ばれるままになった。疲れてこのまま眠ってしまいそうだ。


「よし。準備万端だな! それでは帰還を開始する!」


 冒険者達はその掛け声と共に、ローティルの街に向けて歩みを進める。

 長かった遠征の目的は今日達成され、ローティルの街に戻れば、殆どの冒険者は元いた街に戻るだろう。私もローティルの街に帰りつけば、カヤやカナタさんの元に戻る事になるだろう。

 久しぶりに会う二人はどうなっているだろう。少し楽しみだ。


「ジン! ちゃんと働けよ!」


「俺様に命令するな」


「命令じゃねぇよ! 注意だ! 注意!」


「……俺様に注意される所などない」


「お前、今一瞬悩んだろ」


「なんの事か分からんな」


「恍けるやつはみんなそう言うんだ!」


 こうして、ハピネスラビットのみんなは新しい戦力を蓄えて。私は何かを守るための戦いの大切さを知って今回の遠征の目的を達成したのだった。


 恐らく次は奏陽の話になるのではと思ってます。微妙なラインなので変わるかも知れませんが。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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