表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/116

037話 出来るようになったので


「今からガラム森林へ進行を始めるッ! お前達冒険者は、予め決めておいたいくつかのグループに別れ、それぞれ探索を初めてもらうッ! 異論のある奴はいるかッ! いないなッ! それじゃ、準備の終わったところから適宜進行を始めろッ!」


 歩き続けること丸三日。ガラム森林の目の前へと到着した。その日は日が暮れ始めていたので、その場で野営をし、新たな朝を迎えた。

 今日はラーウェイ支部長が言った様に、予定通りにガラム森林への進行をする。


 進行する際にあたって、いくつかのグループに分けたのは森林の中を進むのに、大人数では機動力が落ちるからだ。今は時間が惜しい時なので、進行に時間をかけるのは愚策。

 けれども、機動力を重視した事で、個々への危険度は増している。その為、ウルフテンペスタの所まで行けずに脱落するグループが出てくるかもしれない。

 ここにいる冒険者達は、そんなやわな人達では無いので大丈夫だとは思うけれど、それでも万が一というものがあり、それは私も同じ事だ。決して、気は抜けない。


「よし。俺達のグループは、俺達とフィーさん、それとジンだけだ。人数は他のところと比べると少ないが、実力的に言えば俺達が最も高いはずだ。人数差はあまり気にしなくてもいいだろう」


「それはそうと、ジンってパーティ組んでなかったか? あいつらとは一緒じゃねぇの?」


「あいつ達なら死んだ」


「……あ、えっと……すまん」


「謝らずともいい。あいつ達に力がなかっただけ。俺様に守る力がなかっただけだ」


「って事は今回の戦いはあいつらの仇討ちって事になるのか」


「俺様は後悔はすれど、戦いに私情ははさまん。隙が出来るからな」


「そーですかい。ま、お互い死なねぇくらいに頑張ろうや」


「当然だ」


 クマの獣人さんと私達が初めて出会った時、クマの獣人さん以外に二人程付き従っている様子の仲間がいたのを覚えている。あの二人はクマの獣人さんを『親分』と言って慕っていて、信頼しているんだなという印象を受けた。

 その二人が、前回の戦いで亡くなっていたとは思いもよらなかった。確かに、あの戦いの後からクマの獣人さんは一人で行動をしていた。けれど、それはあの二人を危険な目に合わせない為だと、自分で納得していた。

 まさかそれが違っていて、実際には既に二人と行動を共にすることが出来ない状態にあるなんて想像もしなかった。クマの獣人さん自身もそんな事を一切表に出さなかったので、私は全く気付けなかった。


「俺様を気にしている暇があったら、さっさとウルフを探しに行くぞ。時間との勝負だ」


 クマの獣人さんは落ち込んでいる様子を一切見せずにそう言い切り、森の中へと足を踏み入れた。


「おいジン! お前また自分勝手に動いたな!? 今すぐ説教してやる! 戻って来い!」


「あーはいはい。そんなんええからはよ行こや? 他のグループは行ってしもうたよ?」


「そうだよー。時間も無いんだし早く行った方がいいと思うなー」


「うぐっ……その通りだな……」


 いつもは説教する側なのが説教される側に回ったみたいで、なんだか新鮮な感じがする。珍しい事もあったものだ。


「くくく、怒られてやーんの! だっせぇー!」


「日頃、僕達に説教しまくっているバチが当たったんですよ! へっ、ザマないですね!」


「あぁん? お前達、何か言ったかぁ? んん?」


「「いえ。滅相も御座いません」」


 けれども結局は、こういう形に落ち着くようで、新鮮な感じというのは何処へやら消えて行った。


「ねぇー。早く行こー? みんないなくなったよー?」


「そうやで。うちらをどれだけ待たせるん?」


「男性が女性を待たせるのはカッコ悪いんですよ?」


「「「すいませんでした! 先を急ぎます!」」」


 そうして私達はクマの獣人さんを追って森の中へと歩みを進める。


 森の中は木々に陽の光が遮られ、薄暗くなっていた。この薄暗さの中ではウルフは保護色になっており、見つけるのは至難の技だろう。


「こりゃあ、先が見えねぇな。ちっとやばそうだ。剣も満足に振れねぇし」


「グチってないで、全力を傾けて索敵しろ。気付かずに囲まれたら終わりだぞ」


「ふぅ〜。そうだな。気合い入れるか……つっても索敵の仕方なんて注意深く観察する以外に知らんのだが」


「私も今まで平野で、それもソロでしか戦ってこなかったので、索敵の仕方分からないです」


「はぁ……お前は何年冒険者をやってきたんだ。それくらい知っておけ。フィーさんは仕方ありませんが」


「俺だけかよ!? 贔屓じゃね!?」


 理不尽に声を上げる男性。けれども、その声は聞き届けられない。無情だ。


「今から説明するから良く聞けよ。まずは、さっき言っていたように、注意深く観察をすること。これは当然な事だが、観察する所に気を付けなければならない。主に、木の幹、獣道、その他足跡や傷跡だ」


「木の幹? なんでだ?」


「はぁ……お前はそんな事も分からんのか。フィーさんは今ので分かったというのに……」


「え、マジで?」


「はい。私は大体。木の幹を観察するのは、傷が付いていないかを確認するためで、その傷が新しければ近くにまものがいるということになる。と言う事で合ってるでしょうか?」


「満点の回答です。お前も分かったか?」


フィーさん(・・・・・)のありがたーい説明でよく分かったぜ」


「棘のある言い方だな? まあいいだろう。じゃあ獣道を観察するのは何故か分かるか?」


「あれだろ? そこ周辺にいるかもしれない、もしくは足跡があったらいつそこを発ったのか分かるって感じ」


「まあ半分に正解だな。獣道というのは魔物によって大きさ、幅が違う。よって、そこに生息する魔物の情報があれば、その獣道を通っているのがどの魔物なのかまで分かる」


「確かにそうだな。為になるぜ。まあ実践出来るかは別だけどよ」


「それは慣れだ。いつか息をするように出来る日が来る」


 私も索敵は初めての経験になる。今まではこういう森の中で行動をしたことは、ソロで安全性を考えると危ないと思ったためにやった事が無く、この緊張で心に圧迫感を感じる。

 そもそも、注意深く観察をすると言っても素人目では、何が獣道なのが、足跡が何処にあるのか、傷が何処に付いているのかなんてものは見落としが多くなるものに違いない。


「……それと索敵にはもう一つ裏技がある。敵の魔力を感じる事だ。一説には熟練の冒険者になれば一部のものが魔力を感じる事が出来るようになるらしい。まあ今の俺達では無理だろうがな」


「へぇ。ま、ダメでもともとならやってみるのがいいんじゃね? やり方教えてくれよ」


「あくまでも仮説だが、集中力を高めて、魔力を感じることに全神経を向けるだけで感知できるとされてる」


「集中力かぁ……俺にはねぇもんだな。どうやらやる前から俺には無理だと言うことが確定したな」


 集中力を高める方法は何かないかと考えてすぐに、ルーティンがあった事を思い出した。

 私は、夜寝る前や休憩中に集中力を高める為にルーティンを模索し続け、その結果、一番初めにした目を閉じて全身を脱力させる方法が最も集中出来るという結論に至った。その際、カヤの事を思い出し、心を落ち着かせる事が最も重要なファクターとなる。


 私は集中力を高める。敵の魔力を感じる事に全神経を傾ける。視覚も、聴覚も、嗅覚も全てを遮断して、その魔力を感じる感覚だけに絞る。


「……フィーさん、またやっとる。やけど、今回のはいつもと雰囲気ちゃう」


「そうだねー。集中力が極限までいってる感じがするー。大丈夫なのかなー?」


「どうなんやろ……うちも分からへんわ」


 外ではそんな会話がされていたらしいが、聴覚を遮断していた私には全く聞こえていなかった。

 ただ、私は純粋に魔力を感じることだけに集中していた。


 自分の魔力は、体内、それも腹部で渦を巻いている様な感覚に近い。そして、そこの中心から全身に魔力が流れ込んでいる。私の渦はイメージでしかないのだけれど、赤茶色のような色をしている。

 もしかしたら、他の人も同じ様に魔力が渦を巻いているのかもしれない。それを感じる事が出来れば或いは――


 そう思った瞬間だった。


 突如、私の周りに六つの渦が現れた。それは私の体内で渦巻く魔力と同じ形状をしており、瞬間的、本能的にこれが他人の魔力である事を感じる事ができた。

 何故、突如感じる事が出来るようになったのかは分からない。けれど、もしかしたら、この魔力を感じることすらイメージでどうにかなってしまうのだとすれば、戦力差が大きく開いてしまうかもしれない。

 魔力を感じる方法に付いては黙っておくべきかもしれない。方法が語られていないのはそういう意図もあっての事という可能性もある。無闇矢鱈に言いふらす事は出来ない。


「フィーさん、どうしたん? 何かあったん?」


「いえ、みなさんの魔力を感じる事が出来るようになったので……」


「本当かいな! 流石フィーさんやなぁ。うちらやと全く歯が立たんわ」


「いえ……そんな事なんて全然……! 私一人じゃこんな事出来るようになれませんでしたから!」


「フィーとやら。その感知能力で、ウルフテンペスタの居場所を探れないか?」


「あ、えっとすみません。今まだ感知の範囲が十メートル前後しかないので、ここから居場所を探るのは厳しいです」


「そうか。無理なものは仕方がない。今まで通り注意深く手がかりを探すか」


「すいません。もう少しお役に当てたら良かったんですが……」


「ふん。そんなものに頼らざるを得なくなってしまったなら、終わりはその時だ。こないに越したことはない」


 何となく。本当に何となくだが、クマの獣人さんに慰められた様な気がする。それがいい兆候であるのかはさておき、クマの獣人さんのその変わりように、私は少し驚いた。

 今まで他人には興味がなく、ただ単に力だけを見ていたクマの獣人さんが、人の事も見れるようになって来ているのだ。

 それもこれも、ハピネスラビットのみんなのおかけだと私は思っている。


「おーい! みんはよ来てくれんけ! ここに足跡があるんよ! 形からして確実にウルフ達の足跡や!」


「分かった! 行くぞみんな。この先何があるか分からない。気を引き締めろよ」


 そして私達は、薄暗い森の中を小さな手がかりだけで進んで行くのだった。




   ◇◆◇◆◇




「カヤ……風邪治りましたー! ハイ拍手ー!」


――パチパチパチ


『もう身体は大丈夫なの?』


「平気だ、これくらい。それにカヤがなんだかんだ言って看病してくれたからな。早く治るに決まってる」


『えへへー。そ、そうかなぁー』


 俺が風邪を引いて四日目。今日でほぼ完全に風邪は治ったと言っていいだろう。

 本来なら、三日目で治っていたのだが、ここは異世界。何があるのか分からないし、ここは大事をとって、一日休んだ。

 カヤは、俺が風邪を引いていて初めはあんまり近付いてこなかったが、余程心配だったのか後半は自ら俺に尽くしてくれた。いい嫁になるだろう。


「それでなんだが、食材余ってるか? 結構使ってたみたいだが……」


『えっと……残ってなかった……かな?』


「そうかぁ……また買いに行くしかないかぁ」


 俺が風邪を引いた事による、カヤの過保護は免れない。そのおかげと言ってはなんだが、上手いねこまんまをたんと楽しんだ。

 まあいつもと違っているし、工夫がされてて食材の減りが早いだろうなと思ったらその通りだった。


「じゃ、今日もデートだな。おめかししてきな」


『うん! 分かった』


 デートデート楽しいな、って言うカヤの声を聞きながら、俺はまた、あの冒険者達に見つかったらどうしようという事を考えて、どう動くかをも模索していた。しかし、どうも必ず冒険者に見つかるようで、心が折れた。俺、弱すぎ。


『終わったよ! さ、早く行こー!』


「おいおい、あんまり先行くな。俺は病み上がりだぞ!」


『そんなの分かってるよー!』


「さいで……ふぅ〜。行くか」


 そして俺はカヤと二人で、久しぶり戦地へと赴くのであった。


 フィーも奏陽も戦いの幕開けです。みなさん応援してあげてください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ