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034話 んじゃ行くか!

 中盤以降、過激な描写を含みます。苦手な方はご注意ください。


 ウルフテンペスタの進攻から二週間程経ち、今日で遠征に出てからほぼ二ヶ月が過ぎた。

 魔力切れで動けなかった私は、次の日には全快とはいかないものの、動けるまでに回復した。その日から、討伐したウルフの処理や、亡くなってしまった冒険者の遺体捜索に二週間かかった。

 そして今日で、遠征に出て二ヶ月経つのだけれど、一つ心配な事があった。


「そう言えばもうそろそろですね……二人共大丈夫でしょうか……」


 大丈夫だとは思っているけれど、もしもがある。心配してしまうのはその為だ。でも、あの二人ならなんだかんだ言ってやり遂げると信じてる。


「フィーさーん! こっち来てー! ちょっと話があるのー!」


「はーい! すぐに行きます!」


 私は、あの二人にこの試練を乗り切って欲しいと思いながら、ハピネスラビットのみんなの元へと向かった。




   ◇◆◇◆◇




「結論から言おう」


『うん……』


 フィーが遠征に向かってほぼ二ヶ月が過ぎた今日。俺とカヤはリビングで向かい合いながら真剣な眼差しを交わしていた。

 二人共、この直面している出来事にどうしていいのか分かっていないのだが、どうなるのかは分かっている。ただ、それを言葉にしてしまえば目を逸らす事が出来なくなるような気がして、今まで気付かないフリをしてきただけなのだ。

 しかしだ。もう無視をするのは無理な程に状況は深刻だ。


「このままだと死ぬ」


 今の発言は俺だ。そして今の発言に嘘偽りや誇張は一切ない。このまま何も行動を起こさず、ただ自堕落に暮らしていけば確実に死ぬ。

 その事を改めて認識して、俺は頭を抱え、カヤは生唾を飲み込んだ。


『どうして……どうしてこんな事に……』


「俺達が見て見ぬ振り、気付かぬ振りをしてきた事が原因……だろうな」


『やっぱりそうなの……?』


「あぁ確実にそうだろう。徐々に無くなっていく食料が無くなるまで何もしてこなかったんだからな」


 そう。俺達が直面している出来事と言うのは、食料切れである。非常に深刻な問題だ。俺達の命がかかっているのだから。


『買いに行くしかないよね』


「俺がか? 無理じゃね? 俺、この世界の貨幣通貨知らないし。というか、そもそも金持ってないし」


『わたし、フィーからお金預かってるよ?』


「なんだって? フィーは元々こうなる事を見越していたのか? だとしたらなんて鬼畜な奴だ! 俺があそこに買い物へなんて行ける訳がないのに」


 買い物に行く場所は、あの長く、常に人でごった返している商店街で間違いないだろう。あの場所に一人放り込まれたらどうなるかなど目に見えている。

 まずはどこに行けばいいのか分からずに右往左往するだろう。その途中で、ごった返す人混みに酔いダウンするのは確実だ。そんな中、目的地にようやく辿り着いたとしても、金の価値を知らないのだから、満足に買い物も出来ない。

 完璧な詰みゲー。やるまでもなく分かりきった事だ。だから、出来れば行きたくない。


 ……ただ、


『二人で行こ?』


 と、カヤに言われたら、即、条件反射のように『よし、行こう! すぐ行こう!』と言ってしまうのは、仕方の無いことだと思う。


『こ、これってデートになる……かな……?』


 頬を染め、恥ずかしそうにもじもじしながら俺へ上目遣いをしてくるカヤの破壊力と言ったら、トラックが俺に直撃した衝撃と同じかそれ以上だろう。実際にトラックに引かれて死んだ俺が言うんだから間違いない。


「ま、まあ、デートって思えば、全部デートになるさ! だから、今日は俺とカヤのデートだな!」


『ホント!? やったぁ!』


 両手を上に上げて喜びを表現している。なんて可愛いんだ。可愛いカヤを見ていると、ついつい危機的状況にある事を忘れてしまう。


「行くと決まったら、準備しないとな。カヤも準備済ませてこい」


『うん!』


 カヤは、てとてとと走ってフィーの部屋の中に入っていった。大方着替えに行ったのだろう。

 最近肌寒い日があるようになった。単純に計算をすれば、この世界の暦で考えると十ヶ月が過ぎた事になって、季節的には秋真っ只中という事になる。

 カヤの服は白のワンピース以外にもあるらしく、秋仕様の服になるのではないかと思っている。


 ちなみに俺はもう着替えた。男の着替えなんてそんなもんだ。別に特筆すべき所なんてない。


『お待たせー!』


 行きと同じ様に、てとてととこっちに向かって走って来る姿は非常に可愛らしい。

 それはそうとして、カヤの服は俺の予想通り秋仕様へとチェンジしていた。


 七分袖くらいのやっぱりワンピースだが、今回は白ではなく、全体的に落ち着いた色合いとなっている。さらにそのワンピースの上にカーディガンを羽織っている為、少し大人っぽさが出ているような気がしなくもない。

 まあ何が言いたいのかと言うと、めちゃくちゃ可愛いです。


「素材が凄くいいから良く似合ってるな。さすがフィーのチョイス」


『えへへー』


 照れながらもはにかむカヤに一発KOをもらった。カヤにその表情は反則だと思う。


「んじゃ行くか!」


『うん!』


 そして俺とカヤは玄関をくぐって、外へと繰り出した。




   ◇◆◇◆◇




「うーん。なんか無性に心配になってきましたね……カナタさんにはいつも何かが起きますし、今回ももしかしたらそうなのかも……」


 一時は大丈夫だと思えていたのに、ある時を境に無性に心配になってきた。

 よくよく考えれば、カナタさんとカヤの二人がデートで外に出た時、脱獄犯に捕まっていた。しかも、二人で外に出たのはそれが初めての事で、相当に確率の低い事を体験している。

 今回も、条件はほぼ同じであり、二人で外に出ることをデートと言っていたとしたら、何かが起こるのではないかと思っている。


「はぁ……」


「フィーさん? ため息なんて吐いてどしたん? 心配事でもあるん?」


「そんな感じです……まあ、大丈夫だとは思うんですけど、どうしても二人を信じきれなくて」


「そうなんやなあ。けど、フィーさんと親しい人達やったら大丈夫やと思うよ」


「そうだといいんですけどね。頑張って信じてみます」


「その方が心持ちもようなるしね」


 私は一抹の不安を抱きながら、心の中で、カナタさんとカヤの二人に何も起きない事を祈る事にした。

 祈った所で何かが変わるとは思わないけれど、さっき言われたように心持ちが違う。あの二人のすることは私の予想を超えてくるから、常に心労が耐えないのだ。


「フィーさんどうだったー?」


「それがな、よう分からんけど心配な人達がおるんやって」


「へぇー。その人達ってフィーさんの大切な人なのかな?」


「そうなんやないの? 大切な人やなかったら心配せんやろうし」


「おとこ……かな?」


「それは……分からんわ。でも、フィーさんに男がいるんやったら、そん男は幸せもんやね」


「そーだねー。フィーさんって、噂よりも全然いい人だもんね」


「おっ、なんだ? なんか面白そうな話の匂いがするぞ?」


「僕達も混ぜさせて下さい。じゃないと説教が始まってしまいます」


「別にええけど、男達にはキツいと思うんやけど……ええの?」


「おぅ! ドンと来い!」


「説教を受けるより全然いいですよ」


「じゃあ・・・」


 私がカナタさんとカヤの二人への祈りを捧げ終わった後、何故かは分からないけど、ハピネスラビットの男性二人が泣き崩れていた。

 女性陣はそれを見て笑っていたり、呆れたりしていて、それぞれ反応が違っていた。一体何があったのか気になる。

 気になるけど、やっぱりカナタさんとカヤの二人以上に気になるものはない。

 そして私はまた二人に祈りを捧げる事にしたのだった。




   ◇◆◇◆◇




『にゃ!?』


 商店街をカヤと二人並んで歩いていたら、横から素っ頓狂な声が聞こえて来た。鳴き声で『にゃ』と言ってる訳ではなくて、いきなりの事で『にゃ』っと言ってしまったような感じだ。


「どうかしたか?」


『お、お尻を掴まれた……』


「なん……だと……!? それは本当か!?」


『……うん』


「俺の可愛い可愛いカヤのプリティなお尻を掴んだなど許せん。掴んだ奴は殺してやる」


 どうやらカヤが痴漢されたようだ。カヤは驚きに目をまんまるにしたままで、何が起こったのか理解が出来ていないようだ。

 俺がカヤに変わって犯人を捕まえたいところなのだが、こんな人混みの中で犯人を捕まえるなど、砂漠の中から針を見つけるようなものだ。ほぼ不可能だって言ってもいい。

 そうは言っても、俺の腹の虫が治まらないのも事実。そこで俺はカヤにある事を教えた。


「カヤ。もし、次にお尻を掴まれたらそいつの腕を切り落として構わん。というか切り落とせ。責任は俺が負う」


『分かった』


「これからは普通にしているんだ。偶に隙を見せるのも効果的だな。じゃないと相手の腕を切り落とせないしな」


 簡単に言えば罠をはる。犯人を誘って、食いついた所を狙って罠にかける。

 腕を切り落とすのはやりすぎかもしれないが、どの道、痴漢をする奴は誰にでもする。二次被害を抑えようと思ったら、腕を切り落としてしまえば早い。

 腕が無くなるのは辛いだろうが、そいつが今までしてきた事への対価が腕だってだけだ。自業自得というやつだ。


『カナタは腕を切り落としたいだけ?』


「ハッハッハ! そんな事あるわけないじゃないかー。大事なカヤにやった事への報いを受けて貰おうと思っただけだぞー。その後、ちゃんと捕まえる予定だぞー」


『そうな――ッ!?』


――ギャァアアッッ!!


 カヤは俺の方を見て『そうなんだ』と言おうとしてたんだと思う。

 だが、それを言っている途中、目が赤く光ったかと思うと、視認出来ない程の速さで後ろを振り向いて、腕を振り上げていた。

 俺から見たら、目が赤く光ったかと思ったら、もう腕を振り上げて静止していたようにしか見えなかった。それくらいカヤの動きは早かった。


 そして遅れて聞こえてくる叫び声と、俺の手に収められた誰かの腕。初めての出来事に俺はフリーズ。そんな俺にカヤはピース。周りの人達はスクリーム。この状況は一体なんなのか。


『カナタ? どうしたの?』


「…………」


『カナタ?』


「……あ、あぁ、ちょっと咄嗟の事で何があったのか理解が追いつかなくてな……で、この腕って誰の?」


『この人』


 カヤは地面に蹲っている男を指さした。純粋な瞳で男を見つめるカヤにヒヤッとしながらも、まあ当然の報いだと思った瞬間に、俺も何も感じなくなった。これが俗に言う復讐と言うやつか。違うか。違うな。


「ああぁぁああ!! 腕がッ! 俺の腕がァァ!」


 蹲っている男を中心に血の池が形成されている。それは少し黒みを帯びていて、血液特有の鉄の匂いが周囲に充満し始める。

 冷静になると、やりすぎたなと思う。流石にここまでの事を想定していた訳じゃなかった。安易に腕を切り落とす、なんて言うものじゃない。


「ぐあぁぁあッ! 痛い痛い痛い痛いッ!!」


 男は腕を失った痛みに悶え、何か鋭利な物で切られて綺麗な断面をした切口を手で押さえている。指と指の隙間から溢れ出る、黒く濁っている血液は重症である事を窺わせる。


「これはちょっとやりすぎたな。せめて指にしておくべきだった」


「誰かッ!! この痛みを止めてくれッ!! こんな事になるなら痴漢なんてしないッ!! だから誰かお願いだッ!!」


 男は腕の痛みをどうにかしたくて、そう叫んでいる。だが、誰も助けに行こうともしない。それもそうだ。自分で『痴漢をしてこうなりました』と叫んでいるようなものだ。他人からしたら天罰が下ったんだと思うくらいだろう。

 それともう一つ。誰も治せる者がいないということもあるだろう。ここは商店街で歩いているのは一般市民。腕を切り落とされたものを治せる者は誰もいないだろう。


「お願いだッ!! お願い……お願いですからッ!」


「はぁ……流石に不憫だわ。カヤ。こいつの傷口塞げるか?」


『うん。出来るよ』


「じゃあ塞いでやってくれ」


『分かった』


 カヤは蹲っている男に近付いて、傷口を焼いた。

 俺もまさかとは思ったが、しっかり焼いていた。カヤは、本当はどこまでも残忍なのではないかと思ったが、後で聞いてみると、回復魔法は使えないから傷口を塞ぐ為に焼いたらしい。ただ、出来るだけ痛くないように色々工夫しながらやったから大丈夫なはずと言っていた。

 しかし、そんな事を今の俺が知るわけもなく、ただただ唖然としていただけだった。


『終わった』


「お、おう。サンキュー。それでそこの男はどうなった?」


『なんか塞いでる途中で眠ったよ?』


「そ、そうか……」


 気絶したんじゃないかと思ったのは俺だけじゃないはず。ちなみに周囲にいた人達の中にはリバースをしている人がちらほら居て、それ以外の人も目を逸らしている人がほとんどだった。

 しょうがない事だとは思う。思うが、目の前でグロいものを見てしまった俺の方がそうしたい気分だ。しかし、カヤにやれって言ったのは俺だし、責任は俺が負うって言った手前、途中でほっぽり出す訳にはいかない。


 俺は気絶している男の元へ歩み寄って、手に持っていた腕を男の横に置いた。


「その、聞こえていないだろうが、やりすぎた。すまなかった。だが、お前も痴漢なんてしているからこんな目にあったんだ。これを機に痴漢はやめろよ。それとお前の腕は返しておくぞ」


 俺は男元から離れて、カヤの元に戻った。カヤは終始不思議そうに俺を見ていた。まあ俺がやれと言っていて、結局は俺が情けをかけているのだから、その矛盾が不思議なのだろうと思う。


『もういいの?』


「まあそうだな。最後に顔に軽く水を掛けて起こしてやってくれ。俺は先に行くから、それが終わったらすぐに俺の所に来いよ?」


『分かったー』


 俺はカヤを置いて先に行く。背後から『それー』という掛け声が聞こえるが、そんな事は無視だ。

 俺は急ぎ、近くの路地裏へ入る道に入り、込み上げてきていたものをリバースした。流石にあんな強烈なものは耐えられない。

 一頻り出した後、魔法を使って口をゆすぎ、カヤと合流した。


「はぁ……エラい事をしてしまった」


『ねぇねぇ』


「ん? どうした?」


『カナタはなんでさっきの人を助けたの?』


「なんでってそりゃあ見てられなかったからなぁ……」


『見てられなかったら助けるの? 周りの人は助けなかったよ?』


「んー、まあ関わりたくないって言うのもあったと思うけど、まず助ける程の力を持ってなかったんじゃないがと思うぞ。カヤは困ってる人を見つけたら助けないのか?」


『困ってる人を助けても敵になるだけだもん。自分の場所は何がなんでも守るもん』


 ここで俺はカヤが猫であるという事実を思い出していた。カヤが言う敵というのは、恐らく縄張り争いをする相手という事だろう。

 カヤはその相手を助けるのはデメリットしかないから助けないと言っているのだ。


 今回のカヤの行動は、俺との空間を守ろうとした結果の事なのではないかと考え着いた。おそらくはそれであっているはずだ。


『早く買い物行こー!』


「こら! カヤが走ると足が早いんだから、俺が追いつけないだろー!」


『はーい』


 俺は今回の事でカヤに人間の行動原理と言うもの を少なくてもいいから教えていこうと心に誓ったのだった。


 過激な描写を描くつもりはなかったのですが流れで描いてしまいました。ながれで描くものではありませんね。気分が悪くなりました。

 読者の皆様の中にも気分を害された方がいると思いますので、ここで謝罪をさせて頂きます。申し訳ございませんでした。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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