表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/116

025話 うめぇー!


「た、ただいまです……」


「フィーお疲れ」


「うぅ……これじゃしばらく商店街に行けません……」


「よくもまあみんな揃って家族だの夫婦だの言うもんだ。危うく本気でそう思うところだった」


 果物屋を後にしてからの出来事。俺達は四、五件お店を回ったのだが、その何処もがフィーの行きつけのお店であった。その為か、フィーとそのお店の店員さんは仲が良く、色々話したりしているのを何度も見かけた。

 もしも、それくらいに親しげな仲である店員さんが、フィーが今まで見た事がない男性と子供を連れている所を見たらどう思うだろうか。答えは簡単。『あれ? 夫だけじゃなく子供まで出来てたのかー』だ。

 ただでさえ美人のフィーは目立つというのに、麗しいカヤと手を繋いでいる所を見たら誰だって家族と思うだろう。そしてそこに何の躊躇いもなく入っていける男性がいたら、フィーの夫だと思うのも無理はないだろう。

 そういう訳で、買い物の途中にもいたる所でフィーに祝福の言葉が飛んでいたのだ。それが飛び火して、俺に来ることもあったが、持ち前の話を合わせるスキルで盛り上げておいた。フィーに殴られたところが痛かったです。


 まあそんなこんなで想定以上の疲労を、主に精神に食らったフィーだが、お菓子作りは諦めないらしい。顔から火が吹き出そうになりながらもしっかり買い物はしていた。

 その時ばかりは俺はフィーのお菓子作りに対する執念のようなものを感じた気がした。それだけ、お菓子作りが好きな証拠だと思えば可愛いものだけどな。


「何でみんなあんなに夫婦とか家族とか言ってくるんですか……あまりに言われ過ぎて何度か泣きそうになりましたよ……」


「そんな事言ったって、客観的に見たら俺ら家族に見えなくもないぞ? 三十なったばかりの男性と、二十五あたりに見える女性、その二人の中に十二、三くらいの女の子が居たら、仲睦まじい家族って勘違いしても無理ないと思うだろ?」


「……一理あります」


「まあ、それが俺達で珍しかったから目立だったってだけて、世の中探せば他にも沢山いると思うけどな」


「むぅ……」


 納得いかないのか頭を抱えて唸っている。フィーにしてみれば、『家族というのはもっと色々な形があるのに』という感じなのだろう。

 だが、正にその通りで、見た目では家族とは判断出来なくても、その人達の中では家族という関係がある。例を挙げると、養子を貰った夫婦や年の差婚をしたカップル、後は再婚を経て兄弟が増えたとかだ。例に挙げたこれらは、全て血は繋がっていないが、家族として取られる。

 とどのつまり、何が言いたいのかと言うと、家族には色々な形があり、俺達の形も周りから見ればその家族という形に見えるという事だ。


「にゃ」


「猫の姿に戻ったのか。……服はどうした?」


「にゃん」


「猫になったら無くなった? じゃあ服は何処へ消えたんだ?」


「にゃ?」


「人間になれば出てくるんじゃない? って試してないのかよ」


『めんどくさいもん』


「そこだけ言葉にするとか、カヤにとっては余程重要な事なんだな……」


 カヤは寝る時以外はあまり人の姿になろうとしない。それが不思議で一度理由を聞いてみた事がある。

 カヤ曰く、人間は動かすところが多くて疲れるとの事。猫に比べれば確かに関節は多いので、疲れるという説明で納得した。ただ、カヤが本当に疲れるのかはまた別の話になるのだが、そこは追求しないようにした方がいい。絶対引っかかれる。あれ痛いんだよね。


「まあいいです。どうせみんなの勘違いなんですから気にしないようにします。だって私は未だに独り身なんですから。ははは……」


「黒いっ! オーラが黒いっ! まだまだ諦める歳じゃないから大丈夫だ! フィーならいつかいい男捕まえれるから!」


「そう……ですよね。私はまだ二十代半ばなんですからまだ未来はありますよね」


「そうそう! 今から花嫁修行しておけば結婚してからも困らないぞ。手始めにお菓子作りをしたらどうだ? どうせ今日作る予定だったんだ。それを花嫁修行と見てもなんら問題ないだろ?」


「花嫁修行ですか……いいですね! 早速やりましょう!」


 フィーは黒いオーラを引っ込め、今度は花が咲くようなオーラを出してキッチンへと駆け込んだ。ただ、キッチンに行ったところでできるのは精々器具の準備くらい。材料等は、荷物持ちをしていた俺が持っているからな。


「カナタさーん! 材料持ってきてくださーい!」


「おーう」


 フィーもそれに気付いたようで、俺に持ってきてくれと弾むような声で頼んできた。

 買って来た材料をキッチンへと運ぶと、既に器具は出揃っており、準備万端と言った様子だった。


「それで? 今日は何を作るんだ?」


「フルーツロールケーキですよ♪」


「ほぅ! ロールケーキとな!?」


『ロールケーキってなに?』


「カヤは知らないのか。ロールケーキって言うのはは、クリームを塗った生地をロールしたケーキの事だぞ。それに、今回はフルーツロールケーキって事だから、クリームの中にフルーツを入れたものだ。ロールケーキって美味いんだよなぁ」


『たべたい!』


「カヤ用のロールケーキも作るので心配しなくても大丈夫ですよー♪」


『やったぁ!』


 猫の状態になってるカヤはフィーの足元に駆け足で向かい、フィーの足にすりすりしながら喜びを表現していた。心做しか、カヤの目が嬉しさのあまりアーチを描いているように見える。これもカヤの能力かっ!


「んっ……カヤ、くすぐったいです」


『嬉しくてつい』


「それは作り終わった後で思う存分してください」


「結局フィーがやって欲しいだけじゃん」


「んんっ! 兎に角、今からカヤのために美味しいロールケーキを全身全霊をかけて作るので待ってて下さいね」


『うん!』


「あれ? カヤだけ? 俺は? ねぇ、俺は?」


「さっ、頑張りますよぉ!」


「おーい。えっ、無視? やべぇ心が抉れるわ……」


「はいはい。別にカナタさんを無視してるわけじゃないですよ。ただ、視界に入らなかっただけで」


「それを無視って言うんですけどね! なんか辛辣じゃね!?」


「えっ? いつも通りじゃないですか?」


「俺っていつも貶されてたのか……初めて知ったわ……」


 フィーの中で俺はナチュラルに貶してしまう位の存在みたいだ。泣いてもいいだろうか……。


「じゃあロールケーキが出来るまでカヤと遊んでいて下さいね」


「フィーに頼まれちゃあ断れないな。カヤ! 遊ぶか!」


『……や。ねる』


「おぅ……うん……そうか……おやすみ……」


『おやすみ』


「カナタさん振られちゃいましたね」


「……うん、そうだな。俺、死んでくる」


「する事がないなら、お勉強をしてたらどうですか?」


「あ、死んでくるってところはスルーですか。そうですか。じゃ、勉強してきます!」


 今日は徹底的に俺をいじめるスタンスなようだ。もしかすると、商店街に行った時に溜まったストレスを俺で発散しているだけかもしれない。

 有り体に言えば、俺はサンドバッグってところだ。それも言葉の暴力を受けるサンドバッグ。耐久値は俺の精神の強さに比例する。

 ただ、偶にクリティカルヒットを食らって一発で撃沈する事があるので、耐久値は殆どが意味を成さないと言うクソ仕様。それによって俺は既に何度か撃沈している。マジで俺の精神弱すぎ。


 冗談はさておき、フィーに言われたように勉強をしようと思う。

 初めに、今の勉強進捗度の確認をしよう。

 まずは文字の読みだが、これはほぼ完璧と言ってもいいだろう。こんな短期間で覚えれたのは言語体系が英語に似通っていたからだろう。

 次に、聞き取りだが、これはまだ途中である。しかし、今回の商店街での買い物では別に支障をきたすことは無かった為、まあまあ大丈夫だと思う。また、話すのは日頃フィーと練習していることもあり、自然に話す事が出来た。

 ここまで来るとほぼ完璧に感じるが、まだまだで、俺が商店街に出て標準語で話したのはほんの数回。聞き取りに関しては、話の流れからの推測も入っている。


 これらを加味して今から始める勉強を決めるとすると、やはり会話をするしかない。

 しかし、現在フィーはお菓子作りでカヤはお昼寝タイム。俺の会話の相手が出来る人がいない。


「うーむ。どうしたもんか……」


 考える事数分。俺の視界に本が入った。


「これ、音読すれば良くね? スラスラ読める位になれば、まあまあ話せるようになるし、もし知らない単語が出てきても、それを覚えれば勉強になる。俺、頭良いな!」


 自画自賛しながらそこに置いてあった本を手に取って音読を始める。

 一度読んだことのある本だったのですらすらと読み上げる事ができるが、偶に覚えていない単語があってつっかえる事がある。そういうのを読めるようになった時、勉強してるなと感じる。

 

 勉強してるで思い出したが、商店街で買い物をしている時に、お釣りの計算があった。だが、その計算も店主さんがするだけで、フィーは全くしていなかった。この世の中、いつお金を詐欺られるのか分からない。正確に自分のお釣りの計算が出来るようになってた方がいいだろう。

 ちなみに今回行ったどこのお店も、ピッタリお釣りをくれた。お店の売り上げにはお店の信頼が重要なんだなと関心したところだ。

 しかし、注意をするに越したことはないので、お釣りの計算をするようにフィーに言っておこうと思う。


 それから、色々勉強や休憩を繰り返すうちに、早三時間程時間がたった。

 部屋の中には、フィーが作っているロールケーキの生地が焼けた美味しそう匂いが漂っていて、お腹がずっとなっている。カヤも、その匂いに釣られて目を覚まして、今は俺の膝の上にいる。

 ちなみに俺はソファに座ってなおも音読をしている。三時間も音読を続けると喉がからからになってしかたがない。


「出来ましたー! 今回の出来はまあまあですけど、クリームは抜群ですよ!」


『早くたべたい!』


「ちょっと待って下さいねー。今切り分けますから」


 ここからでもフィーの姿は確認出来るが、流石に手際がいい。切り分けるのにもさほど時間はかけなかった。


「カナタさーん、配膳をお願いしまーす。私はフォークを用意します」


「オッケー。カヤ、ちょっとどいてくれなー」


『うん! ロールケーキの為なら!』


「一言余計だ。カヤに冷たくされると俺、泣いちゃうからやめてくれ、な?」


『はーい』


「ほら、カナタさん! 早く!」


「すまんすまん! すぐ行く!」


 俺は皿に盛り付けられたロールケーキの配膳を済ませる。カヤはいつの間にか、いつもの定位置について、今か今かとそわそわしながら待っていた。


『もうたべていい?』


「はい、いいですよー!」


「じゃ、」


「「『いただきます』」」


 俺はフォークを手に持ち、ロールケーキを一口大に切り分ける。

 今回フィーが作ったロールケーキは、クリームを生地が包んでいるようなタイプのもので、よく見るグルグル巻ではない。しかし、そのクリームにはフルーツがふんだんに使われていて、フルーツの断面がより一層食欲を掻き立てる。

 一口大に切り分けたロールケーキを上手くフォークですくい、口へと運ぶ。


「うぉ! うめぇー!」


『ん〜おいしぃ♪』


「喜んでもらえて嬉しいです」


 フィーもロールケーキを食べながら笑顔だった。

 本当にフィーは料理が上手いと思う。これくらいの出来栄えなら本当に売りに出せるレベルだ。ただ、俺達が食べる分が無くなるって考えると売りには出さないで欲しいと思う。

 それくらい、フィーの料理は美味いのだ。


「あぁ、本当にウマい。生地のしっとりとした感じが濃厚なクリームとマッチしていて、偶に来るフルーツの果汁がロールケーキを食べる上でのスパイスとして機能してる」


「全部商店街で買った材料ですけどね。作ってくれた人とお店の人に感謝ですね」


「そうだな」


 これほどのものが作れる材料が、あの商店街に集まっていると考えたら、相当な事だと思う。一体、あの国道並の長さを誇る商店街は何なのだろう。


『おいしぃ♪ もっとほしぃ♪』


「おかわり持ってきますから待ってて下さいね」


『やったぁ!』


「紅茶とか出してもいいか?」


「はい、いいですよ。ついでに私の分も頼めますか?」


「おぅ、りょーかい」


「はい、お待たせしました」


『ありがとー!』


「あんまり急いで食べるなよ。喉につまらせたら大変だ」


『はーい!』


「本当に分かってるんだか……」


「まあいいじゃないですか。紅茶出来ました?」


「出来たぞ。ほい、フィーの分」


「ありがとうごさいます」


 紅茶を新たに加え、フィーの作ったフルーツロールケーキを更に堪能する。

 カヤもおかわりをする程に気に入ったようで、フィー自身も今回の出来に満足しているようだ。勿論俺も。

 紅茶との相性も悪くなく、幸せな時間はロールケーキを食べ終わったあとも続いた。余韻に浸るという意味をそのまま体現することになった。


「はふぅ……今度はショートケーキを作ってみるのもいいかもですね……」


「あぁ、それも美味そうだ……」


『にゃ〜ん……』


 余韻に浸る俺達は、それから数十分間、こんな感じでゆったりとした時間を思う存分過ごしたのだった。


 ロールケーキ美味しいですよね。書いてて食べたくなりました。奏陽達が羨ましいです。私にもくれろください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ