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020話 弱そう

 前回言ったように、今回はフィーの話になってます。ご了承ください。


 コルンを目指して二日目の朝。

 馬車は今日も快調に街道を進んでいる。


「フィーさん、夜はよく眠れた? 今日も長い旅になるからね」


「大丈夫ですよ。地面は少し固かったけどちゃんと寝れましたから」


「そっかそっか! じゃあ今日も張り切っていこー!」


「お、おー」


 彼女は朝から元気が良いようで、昨日の夜はぐっすり眠れたんだという事がありありと伝わってくる。

 そんな彼女の元気に、朝だからという事もあって気圧されていると、男性の一人が彼女に近付いて頭を軽く小突いた。


「こら。お前ちょっとは気を使えるようになれよ。フィーさんが困ってるだろ」


「えっホント!? ごめんね!」


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「えへへっ、大丈夫だって〜」


「バッカお前、フィーさんが気を使ってくれてるんだよ! ……本当にうちのメンバーがすいません」


 この男性の誠実さは是非カナタさんに見習わせたい。ちょっとした気遣いが出来るのはいい事だと思う。

 カヤは気遣いも出来るし、出来てなかったとしても可愛いから全部許しちゃう。カヤに会いたいなあ。


 それからコルンに到着するまでの道のりは実に平和だった。偶に盗賊が出てくる事があるらしいが、今回はなかったみたいだ。もし出てきても、私の魔法の実験台になるだけだっただろうけど。

 取り敢えず、無事にコルンへと到着した私とハピネスラビットのパーティはコルンの冒険者協会へと出向いた。遠征した場合、目的地に着いたらその報告並びに今後の活動についての話し合いをしなければならないと規定で決まっている。


 コルンの冒険者協会はこじんまりとしていて、中に居た冒険者の数も少なく寂れていた。町の様子も人がまばらに歩いているといった感じだったので、当然と言えば当然なのかもしれない。

 そもそも、町自体にあまり活気がないように思える。確かに、村と言うよりは住民の数は多く町と言った方がしっくりくる。けれど、それだけだ。市場は見たところなさそうで、小さな商店街があるだけだった。恐らく、その商店街で殆どのものが揃うんだろう。

 コルンに冒険者がいないというもの、この町の様子では当たり前だ。自由な冒険者がわざわざ寂れた町で働こうとは思わないだろうから。

 だからこそ、私達の様な遠征してくる冒険者がコルンには必要なんだと思った。気合いを入れて頑張ろうと思う。


「お待ちしておりました。冒険者のフィー様とハピネスラビットの皆様ですね。長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、支部長の方から連れて来てくれとの事ですので、ご案内させて頂きます」


 受付に行くと、名乗ってもいないのに私の名前を呼ばれた。これには私だけではなくハピネスラビットの人達も驚いていた。


「ではこちらです」


 受付嬢に案内されながら、支部長が居るという部屋までの廊下を進んでいく。


「あのー、なんで私達のパーティ名知ってたの?」


 ハピネスラビットの女性が部屋に着く前に受付嬢にそんな事を聞いていた。私もそれには好奇心が惹かれる。


「遠征をする場合、冒険者を送る側の協会は受ける側の協会へ書状を送る事になっています、そこには協会同士の契約内容などが書かれており、その中にはその都度送る冒険者の名前やパーティ名を書く規則があるのです。恐らくですが、皆様が遠征に来るまでに何日かの時間があったと思います。その時間はこのやり取りをする為にあるものなのです」


「む、むずかしぃ……」


「要するに、前もって知る機会があったという事ですね」


「おー。なるほど。それなら分かる」


 遠征が決まってからのあの時間は大人の理由で生じたものだったみたいだ。考えれば分かる事ではあったけれど、協会同士での契約がある事を知っていないとすぐには考えつかない。


「……支部長。フィー様とハピネスラビットの皆様をお連れいたしました」


「うむ。入ってくれなのじゃ」


 受付嬢が一番奥の部屋の前に立ち止まり声掛けると、中からナーブと呼ばれた支部長と思わしき声がドア越しに聞こえた。

 受付嬢はその声を聞き、ドアを丁寧に開けて私達を中へと誘導してくれた。その後、その受付嬢はこちらを見て一礼してから来た道を戻って行った。受付の仕事に戻ったのだろう。


「ちーとごちゃごちゃしとるが、そこの椅子に腰をかけてくれなのじゃ」


 語尾に"のじゃ"を付けるこの人は見る限り結構な歳をとっている事が見て取れる。白い髭に薄い髪の毛。曲がった腰が低い身長を更に低く見せている。

 こんなに『おじいちゃん』を地で行くおじいさんは中々いないと思う。それと人間の平均寿命は百歳だけど、このおじいさんはそれに近しい歳だと思う。

 そんなおじいさんに言われた様に全員が椅子に座ると、おじいさんは話を始めた。今回の遠征についての話だ。


「おんしらも今回の遠征に参加してくれたのじゃな? 結構結構。ワシはコルン冒険者協会の支部長になってしまったナーブなのじゃ。何でワシが支部長をしとるのかはワシも知らないのじゃ。びっくりなのじゃ」


「「「はぁ……」」」


「そもそもの話なのじゃ! ワシみたいな死に損ないのジジイが仕事出来るわけないのじゃ! 仕事出来なかったら怒られるのじゃし、理不尽なのじゃ! 若いもんはもっとワシみたいな老体を優しくあつか――ゴファゴファ! ぐふぅ……し、死ぬかと思ったのじゃ……」


 乗っけから飛ばしてくるこのおじいさんはナーブという名前らしい。こんなだが支部長のようだ。自分では納得していないみたいだけども。

 ナーブさんは結構お喋りなおじいさんみたいだ。自分から声を上げて愚痴を言っていると死にそうになるくらいにはお喋り。ナーブさん自身も老体を優しく扱って、思ったのは何も私だけではないと思う。

 こんなおじいさんみたいな支部長だが、温厚でとても優しそうなおじいさんである事は間違いない。支部長と聞いていたので緊張してたが、その緊張もさっきので解れた。


「……さて、緊張は解れたようじゃの。ワシの寿命を犠牲にした甲斐があったのじゃ。ファッファッフ――ゴファゴファ!」


 ナーブさんに何かが起こってしまうという、さっきまでの緊張とは違う緊張が走ってしまいそうだ。


「ぐふぅ……気を取り直すのじゃ。おんしら、緊張は解れたのじゃろ?」


「うん! でも、おじいちゃん大丈夫?」


「お、おい! このおじいさんは仮にも支部長なんだぞ!? もっと礼節というものをだな!」


「おんしも大概失礼なのじゃが……。まあワシは支部長をしたくてやってるわけじゃないのじゃし、そんな事気にしなくていいのじゃ」


「そ、そうですか。申し訳ないです」


「へへー、怒られてるー」


「お前もだ!」


「えっ!?」


 部屋の中に笑いが巻き起こる。これをナーブさんが狙ってやっていたとしたら、末恐ろしいものを感じる。でもその可能性はないに等しい。ナーブさん自身も大笑いして死にかけてるから。本当に大丈夫なのか心配だ……。


「そろそろ本題に入るのじゃ。じゃないとまた怒られるのじゃ。それは嫌なのじゃ」


 何かを思い出してぷるぷる震えるナーブさんは歳相応におじいさんだった。

 私はそんなおじいさんに話の催促をしてあげた。このままじゃ怒られたくないのに怒られるだろうから。


「それで本題とは?」


「おっとそうなのじゃ! おんしらはワシらコルン冒険者協会が依頼しておる内容は知っておるのじゃろ?」


「戦力として雇いたいというものですよね?」


「そうなのじゃ。具体的には町周辺の魔物を駆除して欲しいのじゃ。フィーさんにはコルンの北、ハピネスラビットには同じく南の方を任せたいのじゃ。大丈夫なのじゃ?」


「私の方は大丈夫です」


「私達の方も大丈夫だよー!」


「良かったのじゃ……もし断られてたらどうなってたかなんて想像もしたくないのじゃ。取り敢えず、話はこれで終わりなのじゃ。宿はとってあるから、そこにいけば泊まれる様になってるのじゃ。宿はこの町に一つしかないのじゃし、すぐに分かるのじゃ」


「分かりました。それでは私達はこれで」


「明日からよろしくなのじゃ」


「はい、よろしくお願いします」


 私が頭を下げるとハピネスラビットの人達も同じ様に頭を下げた。

 これでここでの用は終わったので部屋をあとにしようと、ドアを開けるとナーブさんが何かを思い出したかのように声をあげた。


「……言い忘れていたのじゃ! おんしら以外にも遠征に来てくれとるパーティがあるのじゃ。後で挨拶しておくと良いのじゃ」


「分かりました。では失礼します」


 そうして支部長室をあとにした私達。

 それぞれに大きな溜息が出て、肩の力が抜ける。流石にあんなに濃いキャラクターにあったのは初めてで、イマイチどう接していいか分からなかった。

 支部長なのでかしこまろうとはするけれども、あんな感じのおじいさん部分を出されてはかしこまりたくてもかしこまれない様な気分になる。


「あのおじいちゃん面白かったね! また会えるかな?」


「お前は遠慮が無さすぎだ! もっと遠慮というのを学習しろ!」


「えー」


 この後の話し合いで、一先ずは冒険者協会をあとにして宿に行こうという話になった。だから取り敢えず冒険者協会を出ることになった。出口ノ方へ向かい、そろそろ外へ出れるという時だった。

 先程、怒られていた女性が話に夢中になっていて、前から歩いてきている大柄の男に気付かずにぶつかってしまったのだ。ぶつかられた男は明らかに不機嫌そうにしており、ぶつかってきた女性を睨んでいた。


「あぅ……鼻を思いっ切りぶつけた……痛い……」


「おい女、ぶつかっておいて何が痛てぇだ。ぶつかったら礼儀ってもんがあんだろうが。あぁ? 表出ろやコラ、礼儀ってもん教えてやる」


「ひっ……え、遠慮します……」


「何やってんだバカ……! こんな時は遠慮するんじゃなくて謝るんだよ……!」


 すかさずいつもの男性がその女性を叱りに入った。今回は状況が状況なので小声だったが、それがマズかったらしい。


「あぁ? 何コソコソしてんだカスが。あぁーこれは完全にブチ切れたわ。お前らただで済むと思うなよ?」


 さっきの遠慮しろ云々の話を知っている私からすれば、笑いが出そうな場面なのだが、ここで笑ったら相手の神経を逆撫でする事になる。我慢しなければ。


「そ、それこそ遠慮しても……」


「だから謝れって言ってんだよこのバカ!」


「んだとゴラァ! バカだァ? お前はぜってぇ殺す!」


「クスッ……あっ」


 思わず笑ってしまった。我慢しなければと思った矢先のこれは流石に堪えきれなかった。


「あぁ? そこの女、今笑ったろ? そこの男と合わせてお前もぜってぇ殺す。……いや、お前いい体してんな? そこの男を殺した後に俺のオモチャにしてやるよ」


「それって、私はいい体じゃないって言ってるよね? そうだよね? やっぱり胸? 胸なの?」


「お前はもう黙ってろ! だが俺はお前の胸が好きだとだけは言っておく!」


「アハハッ! もー、笑わせないでくださいよー! せっかく我慢して……ふふっ」


 もう後戻りは出来ない。これだけ声を上げて笑ってしまったら目の前の男は怒り狂うだろうし。

 実際、男のこめかみには青筋が立っていて相当な程に怒りに震えている事が分かる。ここまでこけにされたら当然かも知れないが、私達は一切意図してやってるわけじゃないので、どうしようもない。


「クソがッ! 何笑ってやがんだァ! もういい、オモチャはなしだ! 徹底的に痛めつけてやんぞゴラァ!」


「そ、そんなに弱そうなのによく強気で入れますね……多分ぶつかった彼女よりも弱いだろうに……」


「フィーさんなら尚更だよねー。だって、一人でスライムを蒸発させるんだもん」


「………………ハァ? 嘘こいてじゃんねぇよペチャ」


「ぺ……ッ!」「大丈夫! 俺は好きだから抑えろ!」


「あのスライムを蒸発させる? そんなヤツ世界中どこ探してもいねぇんだよ」


「……本当ですけど? なんならあなたで試してあげましょうか? 骨も残らず燃やし尽くして上げますけど」


 ちょっとカチンと来てしまった。スライムを蒸発させたのは私の誇りであり、努力の証だ。それを見てもいないのに嘘だと断言されるのは気分が良いものではない。


「……ぅ……な、なんだよ。出来るもんならやってみろよ!」


「……ええ、やってやりますよ」


 私はその男の顔の前に手をかざし、無詠唱(・・・)青い(・・)炎を発生させた。

 これがカナタさんから学び、自分で努力して会得した技術だ。その過程も見てもいないのに馬鹿にする者は許さない。


「ちょ、フィーさん落ち着いて! それすごく熱いから! 私達まで焼けちゃうから!」


「私は熱くないです」


「そりゃあ自分で発動してるからね! 本人が熱くないのは当然だよね! でも私達は違うから!」


「………………分かりました。今回はこれでやめておきます。命拾いしましたね」


 男は私の炎を見た時点で言葉を失っていた。しかし、表情は恐怖で埋め尽くされていて真っ青な顔をしていた。更に、震えていた全身が、魔法が消えると同時に力が抜けてその場にへたり込んだのだ。

 こんなところを誰かに見られるのは相当恥ずかしいのだろう。男は手足をばたつかせ、言葉にならない言葉を発しながら私達から遠ざかって行った。滑稽すぎて笑いが込み上げて来そうだ。

 本当なら骨も残らず燃やし尽くしたかったけれど、今日のところはこれくらいにしといてやろう。


「うっわぁ、ダサすぎ」


「いいぞもっと言え! 今回ばかりは遠慮はいらん!」


「クズ! 変態! 社会のゴミ! お前なんか死んじゃえ!」


「よーし! そこまでだ! ふぅ……スッキリしたな」


「う、うん……それでね、そのね、えっと……あのね、ちょ、ちょっと聞きたい事があるんだけどね、いい……かな?」


「ん? 何だよ、言ってみ?」


「私の事ね…………好き……なの?」


「うぇい!? い、いきなりなにを!?」


 これはまたもや笑いが止まらないやつだ。今回はニヤニヤだけど。キャー!


「き、きら……い…………だった……?」


「いや! どちらかと言えば物凄く好きだぞ! だ、だからそんな目はするな……」


 少し俯いて、目尻に涙を貯め悲しそうにして見上げるその目は女の私ですら胸が締め付けられるような感じがした。こんな目をされたら嫌いだなんて言えない。


「好き……なの? じゃ私と……私と付き合ってくれる?」


「…………いや。ダメだ――」


「そん……な……」


 失意に堕ちる彼女の顔は見ているこちらが悲しくなるほどに、深い悲しみを携えた。目が徐々に湿り始め、一筋の涙が零れた時、彼が彼女の頭を優しく小突いた。

 彼女は一瞬何をされたのか分かっておらずに、小突かれた場所を両手で抑えて彼を見つめた。


「人の話は最後まで聞け。お前と付き合う時は俺から告白するって決めてたんだよ。だからお前からの告白じゃダメだ」


「そ、それじゃ――」


「……お前の事が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」


「……はいっ!」


 何とベタな。けれど何と感動的なシーンだろう。さっきまで、変な男に絡まれていたとは思えない。

 あーぁ、私にもこんな素敵な出会いがあればなあ……。


「チッ、ようやくかよ。あいつらくっつくの遅すぎ」


「本当ですよ。僕達がどれだけくっつけと思ってたことか。でも、これからはそんな気もなくて平和に過ごせそうですね」


「うちはあん二人が惚気始めてからに恐怖を感じてるんやけど……」


「「うわぁ……確かに……」」


 ハピネスラビットの中では、既に両想いだと言うことは周知の事実であり、本人達だけが知らなかったという、夢みたいな話だったみたい。

 ただ、正直に言うととても羨ましい。夢みたいな話でも現実に起きてるのだから、私の夢も現実に起きて欲しいと願いたくなるくらいには羨ましい。


「そろそろ宿に向かいませんか? 宿ならイチャつくことも思う存分できますよ?」


 私がからかう様に言うと、付き合い始めた二人はあたふたして赤面した。これぞ初々しいカップル。羨ましい限りである。


 その後も二人をからかいながら宿へと向かった。宿に着いたら用意されている部屋とは別に二人の部屋を取った。ハピネスラビットの人達曰く、目の前でイチャイチャされては身が持たないとのこと。

 私は一人だったので、ハピネスラビットの人達とは違って一人部屋だった。

 自分の部屋に行き荷物を預けてから夕食をとるとその場で解散となった。私は今日の午後に色々あったせいで疲れていて、部屋に戻って寝たかったのでそうする事にした。一日ぶりのベッドは心地が良くてすぐに眠る事が出来た。

 次の日の朝。みんなぐっすり眠れていたのに、付き合い始めた二人だけは寝不足らしかった。一体何故なのでしょうね?


 色々詰め込みすぎて何が何やら……取り敢えずリア充は爆ぜろ(私怨)。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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