112話 精霊を探す
新章開幕です。
落ち着きを取り戻したフィーとカヤ、そしてつい先程目覚めた佐倉と俺を含めた四人でテーブルを囲む。リトは座る椅子がない為、テーブルの近くで立っている様な形だ。
ちなみに、カヤは、フィーの膝の上にネコの姿で寝息を立てている。
さて、これから何をするかと言うと、今後の方針についての話し合いだ。
正直に言って、敵地に乗り込むのだから、死んでしまう可能性が大いにある。ここで行く人はその合意を得て、行かない人には強制しないようにしなければならない。
俺はフィーと離れたくないし、カヤもそのつもりだろう。その上、俺が行くのであれば、外れない腕輪に宿っているリトは、必然とついて行く事になる。なので、実質、佐倉が行くか行かないかの確認という形になる。
そして、その後にどうやって魔人領に行くかを話し合う訳だ。
んで、その話し合いの前に、佐倉と俺達の自己紹介をしなければ。俺は分かるけど、フィー達は知らないだろうし。
「じゃあ、まずはこいつの紹介からな。こいつの名前は佐倉彩夏。前の世界で俺の後輩だったやつだ」
「はじめまして、あの、佐倉彩夏です。前の世界とかちょっと状況が飲み込めていないんですけど、私、先輩のところにやっかいになる事になったみたいなので、よろしくお願いします」
それから、各々自己紹介を済ませて、名前と顔が一致したところで、話し合いを始めよう。
まずは寝ていた佐倉に現状を伝えないと。転生したとか、その他の事とか、全部知った上で判断してもらおう。
「・・・と、いった事になってる。佐倉はどうする?」
佐倉は今、魔人語しか話せないので、全員魔人語で話し合っている。ま、つまり、日本語だ。
というか、日本って響き懐かしいな。
と、そんな事思ってる場合じゃなかった。佐倉の返事を聞かないと。
「私も行くに決まってるじゃないですか! 先輩と一緒じゃないと意味がないです!」
「いや、意味とかそういうのを聞いてる訳じゃなくてだな……実際死ぬかもしれないけど、大丈夫かって聞いてるんだが……」
「私は先輩に会えたっていう、それだけでいいんです。あとは、もう目の前から先輩がいなくなって欲しくないから、ずっと一緒にいたいっていうのはおかしいですか?」
「いや、まあ、佐倉がそれでいいなら俺は何も言わんけど」
「そもそも、私は先輩が好きなんです! あの時、それを伝えれなくてすごく後悔したんですよ? そしたらなんの奇跡か、また先輩と会えて、だったらもう後悔しないようにしようって思ってるんです」
「お、おう……お前俺の事好きだったのか。初耳だわ……。いやまあ、佐倉の気持ちは分かったけど、それは置いといて、取り敢えず、今後の話からな」
「な、なんですかそれー!」
いやいや、こんな所で告白されても俺が辛いだけだって。
リトとか見てみろよ。俺の事信じられない様な目で見てくるんだぞ。大方、『こいつを好きになるなんて、信じられない』とかそんな感じだろ。
『し、信じられぬ……』
ほらな。というか、そういう事は口にしないようにしようね、リトさん。俺のハートがマッハでブレイクしちゃうからね。
「んじゃ話を戻して、一応、佐倉も加えた、ここにいる全員で魔人領に向かう。これはもう決定したってことでいいが、俺、魔人領の場所知らないんだよな。フィーは分かる?」
「はい、私は三年ほど前に魔人領から逃げ出してきた身なので、およその目星はつきます」
「じゃあ道案内はフィーに任せる。その都度その都度で行先教えてくれ」
「分かりました。魔人領、特に魔王のいる街まで行くのに、最短でも十二ヶ月はかかるので、みなさん覚悟はしておいてください」
「了解。フィーありがとうな」
「いえ、こちらこそ」
長い道のりにはなるが、頑張るしかないな。その間の食料事情とか諸々考えないといけないし、お金だっているから、そこら辺も、どうにかしないと。
『少し良いだろうか?』
「どうしたリト?」
『単純に魔人領に行くだけでは、いざ魔王と対峙した時、手も足も出ないのでないか? 戦力の増強という意味でもなにか策を打たねばならぬと思うのだが』
「確かにな……って言っても、それは個々の努力次第じゃないのか?」
『うむ。強くなるという点ではカナタの言う通り。だが、仲間を増やす方法なら、また別であろう?』
「なるほど……仲間か」
仲間を加える方法は考えていなかったな。なんなら、もうこの面子で行く気満々だったし。
でも即戦力になるのなら、仲間を加えた方が魔人領に行ってから楽になるかもしれないな。
「リトさんには何かあてがあるんですか?」
フィーが尋ねると、リトは『うむ』と返して続けた。
『それがな、魔王との戦いで妾の精霊の力が暴走したのだが、その時、世界の調律を保つ為に、残りの精霊が反応した様なのだ』
「つまりどういうことだ?」
『カナタには一度話したが、精霊術は魔法と違い、体内の魔力を消費しないため、無限に使える。だがそれは、精霊と主が完全に同調した時に限るのだ。あの時は、同調出来ず暴走してしまい、普通ならば暴走してしまった場合、すぐにどちらかが必ず命を落とすのだが、今回は暴走したまま長時間戦ってしまった。それによって、世界に漂う魔力に影響を与え、世界に異変が起こるところだったのだ』
「「「…………?」」」
難しい話でよく分からんが、一応、俺とリトの暴走が世界に何らかの影響を与えかけたということらしい。もしかしたら、あれ以上戦っていたら、なんかやばい事になってたかも。
『世界に漂う魔力は妾とカナタの暴走に呼応し、世界のあらゆる炎が暴走するところだった。大きなところで言うならば火山の活発化、もっと身近で言えば、生活で使う火の巨大化。これでは世界のバランスが壊れる。そうした時に、他の精霊達が世界を守るため、均衡を保つべく力を使ったという訳なのだ。妾はその時の精霊達の反応をつかんでおる』
「なるほど。リトの言いたいことが何となく分かった。つまり、精霊を仲間に入れるのはどうかということだな? 場所はリトが分かるから大した問題ではないと」
『カナタの言う通りだ。精霊は世界を守護する者。仲間に出来れば戦力的には申し分あるまい』
確かにその通りではあるけども、説明が難しいぞリトさんよ。もっと簡潔に言ってくれないと、佐倉の頭から湯気が出てしまってるじゃないの。
「つまり、魔人領に向かいつつ、精霊を探す。そして仲間に入れて戦力増強を図り、魔王に挑む。これが大筋の流れになる訳だな。分かったか佐倉」
「は、はひぃ……」
「だ、大丈夫ですかサクラさん?」
「大丈夫れすー……」
明らかに呂律が回ってないので大丈夫じゃないと思うが、本人が大丈夫と言ってるので、そういう事にしておこう。
それにしても、精霊か。身をもって体感したから分かるが、あの力は強大すぎる。ましてや、リトとはどうやら相性が悪いようで、暴走する始末。あの戦いで何度死んだことやら。
でも、その分、復活までの時間が死ぬ度に短くなって、今では一秒とかからないはず。最終的には、ゼロ付近で収束すると俺は思ってる。
話を戻すが、精霊とはそれだけ強大なのだ。そんな精霊をこれから探すって言うんだから、これまたどうなることやら。
「そういえば精霊って、火、水、風、土の四柱しかいないんだっけ?」
『妾は火を司っておるから、残りは水、風、土の三柱だ』
「その三柱の精霊も、リトみたいに人型なのか?」
『そこは妾も知らぬ。祠から出たのはカナタに会ってからであるからな』
「ふーん。じゃあ変な動物の可能性もあるのか。ま、そこへんは実際に会って確かめるか」
精霊ってよく分からんよなぁ。祠の中にいても、世界を見守れるんだし、どこにいても同じ様な気がするんだけど。なんで、自分から祠の外に出ないのか不思議だ。
「よし。じゃあ、これで方針も決まった事だ。準備をしないとな。それに、みんなにも挨拶に行かないと」
「そうですね。でもサクラさんを一人にするのは、何かあった時に不安です」
「かと言って、一緒に連れていく事も厳しいしな。生徒の誰かに顔を見られてるとも限らんし……」
「す、すみません……」
少し縮こまった様子の佐倉。迷惑を掛けてる事が申し訳なさそうだ。
「サクラさんが謝る事はないんですよ……きっといい方法があるはずですから」
「ま、俺としては、学園長に退学しますって言って、冒険者しながら準備を進めた方が楽っちゃ楽だけどな。授業に二人とも出ると、どうしても佐倉が一人になるし」
「でもそうすると、みんなに挨拶出来ませんよ?」
「みんなに手紙書いて、それを学園長に渡して貰えばいいんじゃない?」
「んー……直接挨拶出来ないのが少し寂しいですが、それしかないですね……」
「何も今生の別れって訳じゃないし、冒険者やってればまた会えるって」
「そう……ですね。そうしましょうか。いつか会えるって信じてれば、絶対会えますよね!」
「おう、その意気だ!」
フィーは、早速手紙書きに自室に戻っていった。人数もいるし、書く事も多いだろうから、学園長に退学の事を伝えるのは明日以降になりそうだ。
さて、俺もエド達に何か一言書いておくか。
手紙を書く為、俺が席を立とうとした時、佐倉が俺を引き止めた。
「先輩すみません……私のせいでお知り合いの方達との別れが……」
「気にするなって。いつか会えるって信じてりゃ本当に会える日が来る。その時に話せばいいさ」
「先輩って、ホントに優しいですよね。ちっとも変わってない」
「そうか?」
「そうです」
「そうかぁ」
「そうですよ」
「……まあ、なんだ。俺は楽観的なだけで、特別優しくしようと思ってる訳じゃないんだけどな。ただ、それを佐倉が優しいと受け取るのは自由だぞ」
うわぁ……俺、恥ずかしいこと言ってんなぁ。って今までも、結構似たような恥ずかしい事は言ってるし、今更なんだけどね!
「それじゃあそうしますね」
「お、おう。が、頑張れ?」
「ふふっ。なんで先輩が疑問形なんですか?」
「知るか! 俺は手紙書きに行く! カヤ、佐倉と遊んでやってくれ」
『はーい!』
「なんですかそれ! 私を子供みたいに!」
『えーっと? サクラ? 遊ぼ!』
「うっ……あ、遊ぼう……!」
ふっ。佐倉がカヤの可愛さには勝てるわけがない。それは既に決められていた事なのだ! ふははは!
……ま、何がともあれ、佐倉に笑顔が戻ったし、今はこれでいいだろう。地球の頃みたいな感情がコロコロ変わるようになるのはまだ先かもしれないが、佐倉ならいつか取り戻すだろう。
俺はそんな事を考えながら、一人、自室でお世話になった人達へ、感謝の気持ちを綴った手紙を書くのであった。
恐らく次回から、長い旅に出る事になります。となると、登場人物が一気に増える訳で……。なんてこったい。名前を考えるの辛すぎです……。
何がともあれ、これより新章開幕です。これからも付き合って頂ければ幸いです。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。