番外編02話 身を委ねていたい……
2日連続投稿! 今回は番外編です!
「ふわあぁぁ……」
白銀の長い髪に、真っ白なワンピースに身を包んだ、美しい女。
スタイルもよく、その美しさによって、不健康にも見える白い肌がより美しさに磨きをかけていた。
また、その美しさからは考えられない、あまりにも自堕落な姿でさえ、遍く人々を魅力する妖艶さが垣間見える。
先刻の欠伸でさえ、人々を魅了するのに充分な程に。
そんな彼女を見れば、誰もが彼女に見惚れ、時が経つのを忘れるだろう。
そして、いつの間にかその場から消えた彼女に気付くだろう。
彼女は神出鬼没。
どこにでも現れ、どこにもいない。
彼女を一目見ることが出来れば、それは大いなる喜びである。
彼女と一時でも会話する事が出来れば、それは一生分の幸せである。
彼女に刹那の時間でも指先で触れる事が出来れば、それは宇宙が誕生する程の奇跡である。
それ程までに、彼女が姿を見せる期間は極僅かである。
「どれくらい寝てたかな……? まあいいや。今日はどこに行こうかなー」
彼女は、今まで眠っていた場所から這い出て大きく背伸びをする。
その行為で、大きくたわわに実った果実は激しく自己主張を行う。
「あ、そうだ。今日はあそこに行ければいいな。ここよりもいい寝具が見つかりますように」
彼女は、一回指を振る。
すると、彼女の周りの風景が歪み始める。
その歪みは徐々に徐々に大きなものとなり、捻れ、引き伸ばされ、そして裂ける。
その裂け目の先には、その場所にあるはずのない場所がある。
それは通常ではありえない光景。
彼女は、そんな裂け目を一切の躊躇いもなく潜り、満足気に胸を張る。
「ここかあ……悪くないかも」
周りを見渡した彼女はそう呟いた。
彼女がいる場所は荒廃した、荒野とも呼べない大地。
人同士の大きく激しい争いによって大地が穿たれ、草木は生きる事を許されず、常に、淀んだ空気が辺りを満たす。
その空気に当てられた獣が、歪な進化を遂げ、体内に過剰な魔力を宿す、魔獣が産まれ始めていた。
獣は魔獣になると凶暴化する事から、被害を出さぬ様に、魔獣と、魔獣に進化を始めている獣を処理しなければならない。
だが、彼女は魔獣に一瞥もくれず、その先を目指す。
目指す先にあるもの。それは彼女の欲を満たすに充分な物だった。
「なんて美しいの……造りが繊細でありながら、大胆な一面も垣間見える……これは正に私の探し求めていた寝具!」
彼女はすぐさま、その寝具を持ち去った。
寝具を持っていた間、寝心地の良さを想像し、期待に胸を膨らませていた。
充分に安全な場所へと移動した彼女は、早速その寝具を使用する。
「ふあぁ……」
彼女はあまりの気持ち良さに身を捩らせて悶える。
体を優しく包み込み、だと言うのに寝返りを打つのに一切の不便がない。寝苦しさもなく、包まれる事によって、程よい暖かさが全身を優しく触れる。
更に、肌触りがまるでよそ風に吹かれた時のような心地良さであり、いつまでも触ってたくなる程に気に入っていた。
今まで感じた事のないその多幸感に彼女は嬉し涙を流す。
「まさに私の理想そのもの……これを作った者に感謝しなくちゃ。でもそれはまた今度。今は、この幸せに身を委ねていたい……」
そして彼女は深い深い眠りに落ちてゆく…………
◇◆◇◆◇
ある名を馳せていた盗賊がいた。
その盗賊は、美しい物に目が無く、様々な美術品を奪い去ってゆく。
彫刻、絵画、工芸……数え切れないほどの美術品を奪ってきたその盗賊はある日、森の一番日当たりの良い場所で一つの盾を見つける。
その盾は白く輝き、傷付く事が前提である盾にはありえない繊細な造りであった。
神聖ささえ感じるその美しさに盗賊は絶句した。
美術品ですらない、その戦う為に存在する道具の対して一目惚れしたのだ。
何故、これ程までに美しい盾が、森の中に放置されているのかなど、盗賊にとっては真に些細なことであり、大切なのは、今ここで、この世で最も美しい盾に出会った事なのだ。
盗賊はその盾を大事に抱え、己のアジトへと持ち込んだ。
その日から盗賊は少しづつ体調を崩していく。
初めの頃は、大切に保管し、人の手が触れることのないように飾り、毎日毎日、飽きること無く見続けていた。
しかし、二年が経つ頃、己が加速度的に歳を取っている事に気付いた。二年前は、二十歳程の見た目であったはずなのに、今は三十歳半ばといったところ。
こうなった理由など思い当たる事はなかった。
そして歳を取ったことで動く事が億劫になり、既に日課となった、盾を見続ける時間が増してゆく。
盾を飾ってから十年が過ぎた頃、その盗賊は命を落とした。老衰である。
産まれて三十年余りであるにも関わらず、その見た目は八十歳と言われても何ら不思議ではなかった。
人知れずこの世から去っていった盗賊の根城に、ある噂を聞きつけた貴族の使いが訪れる。目的は純白の盾を持ち帰る事。
その貴族は、盗賊から美術品を何点か買っていた貴族だったのだ。それ故に、彼が盾を持っていた事も知っており、噂で死んでしまった事を聞いた事で、盾を奪いに来たのだ。
貴族は盗賊同様に屋敷に盾を飾る。
辿る道は盗賊と同じ。その貴族は、盾を身近に飾っていた事で、老化が進み、そして早くに老死してしまう。
その子供も、そのまた子供も、盾の近くに長くいた事で、成長が早くなり、歳を取って、老衰し、老死する。
長い時を経て、不気味に思った子孫達は、その盾が原因である事を突き止め、地下奥深くに封印をする。
だが、その頃の盾は幾人の人々の命を奪って来た事で、純白の輝きは鈍り、かつての美しさは見る影もなくなっていた。
そして、いつの間にか呪いが発現していたのだ。
封印に行った子孫の一人の元に、封印したはずの盾が戻って来る。また封印したとしても、次の日には盾が帰ってくる。
その執念にも似た呪いに、為す術もなく、子孫は命を落とす。そして、次に盾に触れた者が呪いの対象となり、また命を落とすまで付きまとわれる。
それを繰り返す内に、貴族の屋敷に運ばれてから七百年の月日が流れていた。いくつもの貴族の手を渡り、王家にまでその呪いは及んだ。
呪いを解除するため、最後に触れた貴族はあらゆる手を尽くした。
そして、ある街に教会と言われる神聖な神を奉る場所があり、そこでなら呪いを払い除ける事が出来るかもしれないという、一筋の光が差した。
早速、教会に出向いた貴族は、盾の呪いの解除を頼む。
けれど、その教会の力を持ってしても、盾から呪いにかかっている者を解放する事が精一杯であった。
呪いの盾の存在が恐ろしいと感じた、その時の司祭は、教会の奥底で今度こそ封印に成功する。
それから千年。長い時を経て、盾の封印は解かれる。
教会は既に朽ち果て、そこには冒険者協会が建っていた。
偶然にも封印されていた盾を見つけた冒険者は、その封印を解き、己の盾として、戦いに使用していた。
この頃、盾は長く封印されていたからか、歳を取らせるような呪いは薄れていた。しかし、変わりに殺しに特化した呪いに進化を果たしていた。
装備した者には、敵の攻撃が無数に降りかかり、不運にも死に直結するような出来事が立て続けに起こる。
盾を捨てても、次の日には己の元に戻ってくる為、どうする事も出来ずに、冒険者は死に絶える。
その噂を聞きつけた、命知らずの冒険者達は、次々と盾を装備し、そして死んで、別の冒険者へと渡って行った。
いつしか、その盾に関するある噂が一人歩きを始める。
呪いを解くためには、盾を持った者だけしか会えないとされる巫女に会いしかない。そして呪いからその盾が解放された時、強大な力を欲しいままに出来るというものだった。
教会が無くなった世界で、巫女という者がいる訳も無く、盾の真の姿を見た事がある者も、この時代には既にいない。
が、語り継がれてきた、呪いの盾に関する話が各地から集められ、そして冒険者達のほら吹きによって、皆にそう伝わるようになったのだ。
それを聞いた冒険者達は、力欲しさに盾に触れた事で、惨い死に襲われる。
そしてそれが三百年弱も過ぎれば、誰もがその盾に触れるような事はしなくなる。
これまで解除出来なかった呪いが今更解けるかと、そんな盾を装備するくらいなら、もっと実用的な盾を買うと、冒険者達は呪いの盾に興味を失った。
冒険者協会はその盾の脅威を知っていた事で、誰も触れないように箱の中にしまう。
そして、誰も手に取らないような場所に置いておく事にした。それが、冒険者協会が運営する武器屋。
武器屋に来るのは冒険者だけ。そして、武器屋に来てまで盾を買う者はいるはずがない。
事実、武器屋に置かれていた十年間は、誰一人として見向きもせず、ましてや触れる事すらなかった。
けれど、それも一人の男によって破られた。
その男は全くもって、盾の事について知らなかった。盾に引き寄せられるように、なんの躊躇いもなく、その盾を装備したのだ。
そしてあまつさえ呪いを解いた。長い長い間、誰一人として解くことの出来なかった呪いを、たった一つ呪文を唱えただけで。
盾は約二千年ぶりに、その真の姿をこの世に映し出した。
純白に輝く美しい盾。
その盾は、呪いが解かれて、今まで抑制されてきた真なる力を解放する。
直接の力を全て跳ね返し、魔力による事象すらも打ち返す。所有者に福音をもたらし、幸運を呼ぶのだ。
呪いを解いた男は、その能力に助けられ、様々な苦難を越えてゆく。
そして、まだ見ぬ先の時。
この盾が秘めるものを男は知ることになるのだ。
◇◆◇◆◇
「散々な目にあった……抜け出せなくなるし、助けを求めてもどうしようもなくてもうダメかと思ったけど……」
彼女は一人、今までの事を思い返す。
辛く、孤独が続いていた日々。
しかし、それからようやく解放された。
「あぁ……最高の寝心地がまた私を襲う……これは抜け出せない……ちょっとだけ、あともうちょっとだけ……眠ら……せ……て…………」
彼女はまた眠りにつく。
次に目覚める日は果たして、いつになるのだろうか――
誰かさんの盾は伊達じゃない! …………ガンダムファンの皆様。申し訳ございません。ですが、ここまで盾の話だけすれば、誰だって気付きますよね。この盾がただ者ではない事を!
……と、言う訳で、これにて学園騒動編は終わりです。次から精霊捜索編へと入ります。編の題からほぼ察する事が出来ると思いますが、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、次回もお会い出来る事を願って!