103話 なんなんだ……お前は……!
久しぶりの隔日投稿!! 気持ちいいです!
戦いの合図がなり、参加者全員が一斉に動き始める。とは言ったものの、大体の者は近くにいた者同士で戦い始める。正々堂々と戦うものもいれば、三つ巴になりその漁夫の利を狙わんとするものもいる。
その中で予想通り、ライトは一直線に俺の元へと向かってきた。アルハードもこちらへ向かって来ようとしていたが、行く手を阻まれ、そちらで手一杯のようだ。
この剣術での試合では魔法は一切禁止されている。純粋に己の力のみでの戦いになるわけだ。ちなみに、俺は魔物使いのため、俺とカヤの二人が魔法を使ってはいけないことになる。
カヤが魔法を使えなくなるのは別に大したことではないかもしれないが、俺としては魔法は使えないし、リトとの精霊術に関しては魔法と同義なため、今回は使えない。
精霊術を使う場面なんてない方がいいんだけどな。リスクが大きいし、本当に危機に陥った時くらいしか使わない方がいいと思う。まあそんなことが起きるとは思えないけども。
『カナター! ライトが来たよー!』
「おう。そうだな。やるしかないか」
やるしかない、とは言ったが、実際には俺が戦うわけではない。カヤとライトが戦うのだ。俺は何もしないのが心苦しいが、カヤなら何とかしてくれるだろう。
走ってきたライトが俺達の目の前に立ち、剣を構える。
「俺はこの時をずっと待っていた。みんなを守る力を手に入れるために、わざわざパーティではなく個人で出場したんだ。ここで負けるようじゃ勇者は名乗れない」
ライトは決死の覚悟を決めたかのように、目に魂を宿す。
どうやら、今回のライトは本気のようだ。カヤがいるから安心だが、ライトが何をしてくるか分からない。ここはまず、防御を固め、隙を見てカヤに一撃加えてもらおう。
「カヤ! ライトの動きを見切り、隙を見て攻撃だ!」
『うん! 分かった!』
カヤにライトの相手を頼む。
カヤは元が猫なだけあって俊敏であり、柔軟性も備えている。加えて動体視力にも炊けているが、武器を用いるのは不得意だ。
大してライトはと言うと、諸刃の剣で正眼の構えをとり、素人目にもひとつの隙もないように見える。
一呼吸を置き、ライトがカヤに斬り掛かる。
途方もない特訓をしたことが分かる洗練された動きによって、カヤの頭から叩き切るように剣を振り下ろすが、カヤは何事もないようにその攻撃を横に逸れることで躱した。
だが、ライトはそれを分かっていたような様子で、そのまま剣を片手で横に薙いだ。片手になったことで距離が僅かながら範囲が広がり、カヤへと刃が迫る。
俺の目にはその刃の速さは目に追えない。それほどの速さでライトは攻撃を繰り出している。けれども、カヤはその刃を目で追っているようで、後ろに飛ぶことで回避していた。
これだけでライトの強さがひしひしと伝わる。俺がライトの相手をしていたら最初の唐竹割りで戦闘不能になっていたくらいだ。
それだけのレベルでの戦いが今目の前で起こっているのである。
「やはり、この程度では届かないか……」
『うぅ〜……!』
カヤは今のやり取りで、ライトに威嚇を始めた。敵と見なしたようだ。それが、ライトの技量が高いことの証明でもある。
俺は素直に感心し、ライトの『勇者になる』という言葉の重みを知る。
「戦場でよそ見はいけないな!」
「――っ!?」
横からそう言われて、俺が振り向くとそこにはアルハードがいた。先程まで戦っていた者を切り伏せてここまで来たのだろう。恐ろしいほどの速さだ。
アルハードは既に狙いを定め、剣で斬りかかりはじめていた。
やられると思った瞬間、アルハードの動きがスローモーションのようにゆっくりとなった。それはアルハードだけでなく自分の動きもである。
恐らくそう感じているだけで、本当はゆっくり動いてなどいないのだろう。
ただ、そのゆっくりと流れる時間の中で、俺とアルハードの間に入り、アルハードの剣を受け止めるカヤの姿が見えた。
カヤはアルハードの剣の腹を手の甲て叩き、弾いたのだ。それによってアルハードは体制を崩し、カヤの前で隙を見せる。カヤもその隙を見逃す訳はなく、意識を持っていく程度のパンチを繰り出した。
しかし、アルハードはカヤからのパンチを何とか体を捻り、直撃だけは避け、軽く受け流し、ダメージを最小限に抑えていた。
いつしかのフレッドも体を捻り直撃を避けたと言っていた。この学園に在籍している強者はそれくらい出来なければ強者とは言えないのかもしれない。
「チッ。なんてデタラメな魔物を使役してるんだ」
アルハードはそう言って距離を取る。
この攻防だけで会場は盛り上がる。それもこれも学園長の思惑通りなのだろう。確かに、俺が観客だったなら、今の攻防でこれから先の闘いに期待ができるのだから。
「てか、二対一とか酷くね!? せめて一対一でお願いしたいんだけど!」
「ふん。何を甘えたことを言っている? 戦場ではこれくらい当たり前だろう」
アルハードは至極当然のようにそう答えた。
「た、確かにそうだが……ほらエンターテインメント性がな!? な!? 分かるだろ?」
「そんなものは知らん」
「お、おい! ライトも何とか言ってやれ!」
と、そこで俺は異変に気付く。
ライトが胸を抑え、何かに耐えるかのように表情を歪めていたのだ。
「おい!! ライト! どうした! 大丈夫か!?」
「――グッ……!」
『ねぇ、なんかライトの中の魔力の動きが変だよ……?』
「変……?」
その事に気付いた俺と同じくして、アルハードもライトの魔力の異常を感じ取ったようで、ライトの警戒をし始める。
『魔法……かなぁ? ライトの魔力に干渉して誰かが魔法を発動させようとしてるみたいな気がする』
カヤが俺の手を握ってそう言ってきた。
カヤの言葉を信じるならば、第三者がライトに何かをしようとしている。それが、何者の仕業なのかは分からないが、ライトを苦しめている要因になっているのは明らかだった。
「――ぐあああああーーッッ!!」
ライトが突然叫び声を上げた。その咆哮にも似た叫び声に呼応するかのように、ライトの目の前で空間が裂ける。
「なんだ……なにが起きて……?」
ライトは既に意識を失っており、その場に倒れていた。
そんなライトにすら気付かずに、俺の疑問は無意識に口に出ていた。そして、その疑問に応えるかのように、その空間からヤツらが現れる。
『やっと繋がったわね。ザックヴァン二様を待たせるなんて愚の骨頂だと言うのに。この人間がいけないんだわ』
裂けた空間から現れた頭に角の生えた女性。その女性は、ゴミを見るかのような目でライトを一瞥すると、ライトの腹を蹴り飛ばした。ライトは地面を跳ね、数メートル転がっていった。
まるでボールを蹴るかのような感覚で蹴った女性は苛立ちを隠すことなく、ライトに憎悪を向ける。
『メロヴィンス。そいつにはまだ利用価値がある。止めておけ』
『――ッ!! 申し訳ございませんッ!!』
そして次に現れた者。そいつは次元が違った。
圧倒的なまでの存在感。
息苦しくなるような威圧感。
いっそ死んだ方がマシだと思わせる言葉の冷たさ。
なんなんだ……。
『なんなんだ……お前は……!』
俺は無意識に魔人語で、そいつに疑問を投げかけていた。
『ほう? 弱者である人間が我が国の言葉を扱うか』
その冷酷で冷徹で冷たい言葉をその身にうけ、闇深き瞳を見るだけで恐怖心が湧き上がる。体の震えは止まらず、体が勝手に跪きそうになる。
『なんと愚かな事よ。我が身をその目で見て逃げ出さぬとは。まあ良い。その胆力に免じて、お前の問に応えよう』
そいつは俺の目の前に立ち、俺を見下ろす。
圧倒的なまでの存在感。
息苦しくなるような威圧感。
いっそ死んだ方がマシだと思わせる言葉の冷たさ。
『我が名はザックヴァンニ。魔人の王にして、この世界の覇者となるものである!』
――この時、俺は死よりも恐ろしい、魂に刻まれる恐怖というものを知ったのだ。
◇◆◇◆◇
ステラはスクリーンに映る頭に角の生えた人間を見ていた。
彼等は世間一般には魔人という。魔人族とそれ以外の種族で長い間争い続けており、人間族としては永遠の課題となっていた。
そんな魔人族との争いは種族間戦争後の二千年の歴史上、一度たりとも大きなものに発展したことはなかった。
しかし、今、その歴史が変わろうとしている。そうステラは感じていた。
(――ヤツは格が違う! 私が抑えなければ被害が広がるやもしれん!)
スクリーンに映る、カナタを見下ろす魔人。
ステラはその魔人に向けて飛び立った。
そしてあわよくば、我が目的を達成せん、と……
◇◆◇◆◇
控え室にて映し出される映像に、彼の様子が映っていた。そして、彼を見下ろす私の弟も――
私は自分の罪のしっぺ返しが訪れたのだと思った。
彼と出会ってから今日までの二年、とても満ち足りた生活を送ることが出来た。それだけで満足で、悔いなんてなかった。
でも、だからこそ、彼だけは助けなければならない。
私に生きることの楽しさを教えてくれて、種族の壁を簡単に越えることができると証明してくれた彼だけは。
「ザック……あなたに総てを押し付けた私が何を言っても無理なのでしょう。ですが、彼だけは、あなたがなんと言おうと救わなければならないのです」
私は独り言のように自分に言い聞かせ、覚悟を決めた。
今日、この日。
私のこれからの世界が崩れ去るのだとしても。
今までの世界は崩れることは無いのだから。
その世界を大切に崩れないようにするために、私の命をかけよう。
そして私は、ただ一人、彼の元へとひた走るのだ。
◇◆◇◆◇
観客席にいたディーネは声にならぬ悲鳴を上げていた。
理由は明白。ライトを強化合宿の時に傷付けた、あの忌々しき魔人によって蹴り飛ばされたからだった。
愛するものを利用しただけでなく、さも当然のように蹴り飛ばした魔人。ディーネには到底許せるものではない。
ディーネは強い憎悪をその身に宿す。アイツだけは許さない、と憎しみの目をスクリーンに写る魔人の女に向ける。
そのディーネの隣にいたティファも魔人を目撃して、その憎悪に身を焦がす。
幼き頃に大好きだった両親を魔人に無残にも目の前で殺された、その光景が頭の中を埋め尽くす。
どう復讐してやろうか。それだけがティファというエルフ族の少女の原動力だった。
二人はそれぞれ愛する者を、魔人に弄ばれた恨みで前が見えなくなっていた。そして彼女らは魔人の元へと飛び出す。
そんな二人をイスナは陰ながら追っていくのだ。自分の命を張ってでも、絶対に彼女達を殺させはしないと心に決めて――
◇◆◇◆◇
エドウェント、リーン、クロロ、クララの四人はスクリーンに映し出される映像を見て呆然としていた。
ライトの異変後、空間が裂け、その中なら次々に魔人が現れる恐怖に、非現実的なものだと感じていたのだ。
しかし、スクリーンの中では、そんな魔人に対してただ一人恐怖を感じながらも自分を奮い立たせ、立ち向かうカナタの様子が映し出されていた。
「ねぇ……エド……」
「あぁ。分かっている。カナタは俺達の友だ。今助けに行かずしていつ行くというんだ」
エドウェントとリーンの二人はカナタを助けに向かおうとするが、それをクロロとクララに止められる。
「ぼ、僕達だって!」
「カナタは友達だもん!」
「お前達はここで――」
双子の目を見たエドウェントは『お前達はここで待っていろ』とは言えなかった。だから、仕方なくこう言うのだ。
「全く。わがままに育てた覚えはないんだがな。ほら早く行くぞ」
エドウェントを先頭に四人は、友を救うべく、死地へと飛び込むのだ。
この先少しダークになりますが、すぐ元に戻る……と思います。保証はしません!
それでは、次回もお会い出来る事を願って!