102話 予選……ってなんの話?
2ヶ月ぶりの投稿ですかね……大変お待たせしました。久しぶりに執筆したので、少し違和感を感じるところもあるかもしれませんがご了承ください。
それでは『ねこと一緒に転生しちゃった!?』をお楽しみ下さい。
最強決定戦当日。太陽は一番高い位置にあり、燦々と会場を照らしている。会場は今日この日のために新設されており、光に照らされた所は眩しいくらいに輝き、できたてである事を主張している。
そんな会場の観客席には所狭しと人がごった返し、大会の開始を今か今かと待っているのが分かる。というか、みんなの熱気が凄いのだから分からない方がおかしいくらい。それくらいには盛り上がっているのだ。
そして今の俺は、これから戦いの場になるであろうバトルフィールド上にいるわけなのだが……とてつもなく居心地が悪かった。
何故かって? それを説明するには今日の朝に遡らなければならないな……。
◇◆◇◆◇
明朝。俺とカヤ、フィーは会場を目指していた。会場は新設されてるため何処にあるのかは覚えていいる。その上、昨日はなかったはずの案内板が至る所に設置されていることで迷うことはない。
「それで、最強決定戦の開始って何時なんだ?」
「えっ? 知らないんですか?」
「うん。というか俺、そもそも大会の事について何も知らないような気がする……」
「……私がある程度お教えしましょうか?」
フィーは少し可哀想な人を見る目で俺に提案をしてくれた。何だか泣ける。
だが、何も知らずに大会に望める訳もなく、俺はフィーの提案を受けた。
「まず、最強決定戦は魔法と剣術の部門に別れているのは知ってますよね?」
「それくらいは知ってるけどそれ以外はなんとも」
周りのみんなが話しているのをちらっと聞いたくらいの知識しかないが、大体みんなどっちに出るかを悩んでいたのは知っている。『魔法部門は辛いらしいが剣術はそうでもないらしい』とか『剣術は突出した人が多すぎて逆に無理だ』とかそんな話をしていた。
ちなみに、どちらの部門にも個人・パーティの二パターンがある。自分の力だけで充分という者は個人を、仲間と共にという者はパーティを選択して戦うのだ。
ただし、個人を選んだものはパーティを、パーティを選んだものは個人を選ぶことはできない。これもちらっと聞いただけなのでよく知らないが、みんなが言っているということはそういうことなのだろう。
「この各部門の出場枠は一学年に個人では三枠、パーティでは一枠しかありません。狭き門なのです」
個人では一学年に三枠、パーティでは一学年に一枠。この学園は五学年まであるので、個人の場合計十五人、パーティの場合五チームで戦う事になる。それでもまあまあ多い方だが、祭りの催しと思えば妥当な数だろう。
「俺、魔法も剣術も強制らしいけど、もしかしてその出場枠の中に含まれていたりするのか?」
「強制ということは個人部門の学園長推薦枠ですね。学園長推薦枠って言うのは、各学年から一人ずつ選ばれてその人は本戦に出場できるというものです。噛み砕いて言えば、学園長に一番気に入られた人は出場させられる感じですね。噂では学園長が祭りを盛り上げたいからそうしているみたいです」
「マジか……学園長の私情なのか……」
とんでもないものに推薦されているとは……変に目立つのではないだろうか、これは。一学年に一人とか俺じゃなくても良かったと思う……俺なんかよりも、もっと強そうな奴がわんさかいるのに。ていうか俺より弱い奴の方が珍しいくらい。
もしかしてあれか? 俺の魔物を操る戦い方の珍しさを観客にみせて大会を盛り上げようとしているのか? なんだか、俺が貧乏くじを引かされてるだけのような気が……。
「ちなみに、私は魔法の個人部門の本戦出場三枠の中に入れましたので、カナタさんと戦う事があるかも知れませんね」
フィーはカヤに『負けませんよー!』と言って笑っている。カヤもカヤで『わたしだって負けないもーん!』と張り合っている。ぐっ……二人とも可愛すぎるだろ。
「あっ。それとですね、今年から全学年交えての大会に伴って一キロメートル四方の大きなバトルフィールドできたみたいです。本戦出場者はその中で戦うようですよ」
「一キロメートル四方って広いな。あ、でも魔法を撃ち合うってなったらそうでもないのか」
「そうですね。結構妥当な広さだと思いますよ」
とは言ったものの、魔法部門だけでなく剣術部門もそのバトルフィールドを使うとなると少し広い気もする。ただ、この世界の人達が一キロメートルをどれくらいで走れるのか知らないからどうとも言えないが。
えっと、確かハピネスラビットの奴らはめちゃくちゃ足が早かった気がする。一キロ一分切るんじゃないだろうか。これくらいを基準にするならまあ妥当と言えなくはない。もちろん俺は平凡です。
「平凡な俺にも秘策があるにはあるし一応戦えるだろ……多分」
秘策というのは昨日の夜にリトと話した『精霊術』だ。命の危険があるらしいし、あれから一度も試していないけども、使うような事になる前にカヤが何とかしてくれるような気がする。なにせカヤは最強だからな!
「あ、見てください! 屋台が出てますよ!」
会場に近づくとちらほら見え始めた屋台にフィーが反応を示した。それに釣られるようにカヤも屋台へと目を向け始めた。
『わぁ♪︎ 雲みたいなもこもこしたのがあるー!』
「あれは『わたがし』っていうあまいお菓子ですよ」
『あまいのー!? 食べたいなぁ』
「ちょっとだけですよ? あんまり食べると体に悪いかも知れませんからね」
『うん!』
フィーとカヤは綿菓子の屋台へ俺を置いて向かった。何も置いていかなくても……と思ったが、まあ二人とも楽しそうにしているのを邪魔するのは心苦しい。ここは暖かい目で見るのがいいだろう。
俺は二人が帰って来るのを待ちながら屋台を見回す。
屋台は飲食はもとより、日本の夏祭りなどでよく見かけるような『射的』、『金魚すくい』、『くじ引き』、『輪投げ』などその他諸々のオリエンタルなものが出ているようだった。
そういえば、この大会は祭りのようなものだと言っていたし、この世界は何かと地球と共通点があるからこういう屋台が出るのも当然なのかもしれない。
……大会終了時に花火が上がったりして。
ないと言いきれないところがまたなんとも。
少しして、両手いっぱいに食べ物を持って満足そうに二人が帰ってきた。『わたがし』はもちろんのこと、『たこ焼き』や『焼きとうもろこし』、『りんご飴』なんてものをこれでもかと買い込んでいるため、すごく目立っている。まあ二人が可愛いというのもひとつの要因だろう。
「すいません、思っていた以上に楽しくてこんなになっちゃいました……」
照れたように笑うフィーの隣で、わたあめを食べて『あま〜い!!』と言って喜ぶカヤ。実に楽しそうだ。
「俺は二人が楽しめたのならそれでいいさ。……で、大会の集合場所ってどこなんだ?」
「それならあそこですよ」
あそこだと言われた方を見てみると、入学式以来見かけなかった案内役のカーチさんが立っていた。どうやら今回も案内役のようだ。
俺達は受付を済ませるために、カーチさんの方へ向かった。
「どうもお久しぶりです」
「カナタ様。お久しぶりでございますね。しばらくお会い出来ませんでしたが、噂は常々聞いておりますよ」
噂ってなんの噂なのだろうか。ここはひとつ尋ねて……いや、やっぱりやめとこ。聞かない方が俺の心の平穏が保てる気がするし。
「あはは……そ、それで今日の大会の受付に来たんですけど……」
「はい。学園長より承けたわまっております。学園長推薦枠のカナタ様とカヤ様でございますね。控え室へとご案内致します。フィー様は予選を勝ち抜いての本戦出場枠を得ているので、カナタ様方とは別の部屋になりますが、ご了承ください」
「分かりました」
フィーはそう言われて頷いたのだが、聞き覚えのない『予選』という言葉が……確かに少し前にフィーが本戦出場枠を勝ち取ったとか言っていたが……
「予選……ってなんの話? 俺、何も聞いてないんだけど……」
俺はとりあえずフィーに聞いてみた。するとこんな回答が返ってきたのだ。
「だってカナタさんは学園長推薦枠を受けっている訳ですし、予選の通知なんて知らなくて当然だと思いますよ。予選はエントリーした人だけに通知される仕組みなので」
「なんでそんな面倒くさいことを……」
「前の魔人襲撃を警戒してのことらしいですよ。本来は大々的に開催したかったようですが、それを辞めるほどに学園長も本気ということみたいです」
「なるほどな……」
とりあえずフィーの言うことに納得したが、ああ見えて学園長も色々忙しそうだ。ましてや魔人襲撃に関しては、学園としても未だかつて無い程の大問題だろうしな。忙しいのも当然か。
俺はそんな事を考えつつ、フィーと別れて学園長推薦枠の控え室の前へと案内された。
その間にカーチさんから聞いた話では、まずは剣術の個人の部から始まり、剣術のパーティの部、魔法の個人の部、魔法のパーティの部、の順で大会は開催されるとの事。
つまり俺は初っ端から出場するわけだ。辛いなぁ……。
「それでは、私はこれで失礼致します。応援しておりますので頑張ってください」
「ありがとうございました」
カーチさんは受付の方へ戻って行った。これから来る人達の対応に戻ったのだろう。
俺はカーチさんを見送って、控え室の中へ入ると、幾人かがそこで寛いでいた。その中に見た事のある顔があった。確か、学園長室からの帰りに迷子になってしまった時、助けてくれた人だ。
「む? お前はいつぞやの迷子か」
「あはは……どうも、カナタって言います。その折はありがとうございました」
「ほぅ、お前があのカナタか……俺の名はアルハードだ。剣術の個人の部に出場予定だ。お前も出るのだろう? 戦うことがあったら全力でこい。俺も全力で相手をしてやろう」
全力で相手かぁ……戦うの俺じゃないしなあ。まあそれはともあれ、アルハードさんと戦うのはやめたいところ。
だって、さっきからアルハードさんの目が物凄い戦闘狂みたいなのだ。こんなのに目を付けられた俺は、蛇に睨まれた蛙と同義。こんなのと戦いたいなんて誰が思うのか教えて欲しい。
それからというもの、俺は落ち着くことなく、控え室の中で大会が始まるのを待った。カヤとちょっと話したり、置いてあったお菓子を食べたり。とにかく目立たないようにしていた。
アルハードとしては、俺と手合わせするのが楽しみなのか、目が合うとその度に獰猛な笑みを浮かべるのだから、心臓に悪い。
一時間くらいたった時、遂に大会出場者が呼ばれ始める。
控え室にカーチさんが現れ、俺を含めた、剣術の個人の部に参加する五人がバトルフィールドへと連れて行かれる。
「現在、予選を勝ち上がって本戦出場枠を得た者達の紹介が行われております」
カーチさんがそういうのと同時期に、観客の大きな声援が聞こえてきて、熱気と盛り上がりようが伝わってきた。
「ここから先は、私が合図をしたらそのままこれに乗って下さい。自動的にフィールドの中央まで送ります」
バトルフィールドへと続く出口の前でカーチさんに、そう説明を受ける。
乗り物だが、簡単な作りのリフトになっていた。レールの上を進むゴンドラに近いが、手すりがついているだけで、箱に入ると言うよりは板に乗るような感じ。観客に見えやすくするためなのだろう。
「それでは、アルハード様。お進み下さい」
アルハードさんを初めとして次々にリフトへ乗り込んで、会場の中央まで進んでいく。
そして、最後は俺だ。
「カナタ様、カヤ様。お進み下さい」
俺達はリフトに乗り、リフトが中央を目指して進み始める。
遅いとも速いとも言えない速度で出口を抜けると、一気に観客の熱気に飲み込まれた。
『あれ見て! わたしたちがいるよー!』
カヤが指差すを方を見ると、大きなスクリーンがあった。一キロもある会場の中で俺が見えるのかと思ったが、どうやらそうではなく、あの大きなスクリーンにガチガチになった俺が映し出されているようだ。緊張してるのがバレバレで恥ずかしい……。
ちなみにスクリーンは四つあるようで、全ての方向から見えるように四角の形に配置されている。
と、唐突にナレーションが俺の紹介を始めた。
『こいつが最後の学園長推薦枠の一人だぁ!! 冒険者としては異例の学園の卒業生を瞬殺っ!! 更には魔物使いという異色の冒険者ぁ!! 彼の前に敵無し!! 最近では四大精霊を従えているとの噂が絶えない!! 何が本当で何が嘘なのかも分からない全てが謎に包まれた、奴の名は!! 魔物使いのカナタだーーぁ!!』
――ワアァァーーァァッ!!
なんつー恥ずかしい紹介をしてくれるんだっ!
魔物使いの部分はまあ否定はしない。俺自身そう言ってるし。だがしかし。なぜ卒業生を倒したこととか、精霊を従えていることがバレているのか。それこそ謎だろう。
更にこの紹介を皮切りに、俺への注目度が上がったのだが、それ以上に困った自体が起こるのだ。
俺の紹介が終わり、剣術の個人の部の参加者が全員集まると、学園長がマイクをとり、貴賓席から参加者に向け激励の言葉をかけることになった。
『予選を勝ち抜いた諸君。良くぞこの高みへと上り詰めた。その強さは誇るべきものであろう。しかしこの高みには上がある。その高みを目指し奮闘する事を期待している』
この言葉により、参加者の士気が高まるのが分かる。その参加者を見渡していると、ライトがいる事に気付いた。ライトは学園長の言葉を真摯に受け止め、その高みを目指さんとしているようだ。
そして、続く学園長の言葉によって俺が被害を被ることになるのだ。
『さて、ここにいる諸君等も知っていると思うが、五ヶ月程前に一年が魔人に襲撃される事件が起きた。その襲撃の際に先頭に立ちクラスメイトを纏め、誰一人として死なぬように対応した者が、そこにいる魔物使いだ。我が見立てでは、この中で彼が一番強い。もし、彼を制する者がいた場合、我から直々に褒美を授けよう!! 各々、この戦いに励むが良い! 以上である!!』
――ワアァァーーァァッ!!
学園長の『直々に褒美を授けよう!!』という言葉で観客達は盛り上がり、俺へ視線を向け、参加者は俺を虎視眈々と狙っている。アルハードとライトなんて、絶対に俺だけを狙って来るような圧を感じる。
俺はチラっと学園長の方を見ると、スクリーンにニヤっと笑った学園長が映し出された。確信犯だった。
まあそういうことで、俺は居心地が悪いのである。ただ、カヤはとても楽しそう。本当に可愛いやつだ。
居心地が悪いとはいえ、やるからにはやっぱり一位を目指すけど、こうヘイトを向けられると非常にやりにくい。どうせ学園長はそれも分かった上で、こんなことをしているのだろうけど。
そこまでして俺の死神疑惑を確証に変えたいのだろうか。俺は本当に死神じゃないのに……。
そうして俺への注目が高まるまま、参加者が一キロ四方のバトルフィールドの中、均等に配置についた。
俺は四隅のうちのひとつに配置された。俺の近くにはライトが配置され、一番遠い対角線上にアルハードさんが配置された。どうせなら二人とも遠いところが良かったが、文句は言うまい。
『それでは!! 只今より、剣術個人の部の決勝を始める!!』
そうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
これが更に大きな戦いを呼ぶとも知らずに……。
実は社会人になり働き始めました。執筆する余裕なんてなくて、忙しい毎日です。仕事と執筆を両立させている方を尊敬します。
これからも遅くなりながらでも執筆していくので、気長にお待ちいただければ幸いです。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。