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101話 もう明日か

 約一ヶ月ぶりの投稿になります。私、スマホで執筆しているのですが、機種変で引き継ぎに苦労し、更に引越しの準備と、新しく買ったゲームに夢中になってたため一ヶ月程開くことになりました。

 どんなに投稿が遅れてもエタることはないので気長に待って頂けたら幸いです。


「ここからがカナタの未来の大きな分岐点になるね。進む道は大きく分けて三つ……かな。魔人に完全敗北。人間が完全勝利。あとは引き分け……。でも結局その三つが起こった後は状況は違っても取る行動は大体一緒……あはっ! 彼の性格が大きく出てるね!」


 相も変わらず奏陽の様子を眺めてばかりのテスタ。彼が今まで取ってきた行動は全て把握し、彼の行動が起こす新しい未来が発生すると、その都度彼は喜びに震え、楽しさを感じていた。

 そんな進化を遂げているテスタを止めたい他の神達は、依然としてテスタの存在すら認知できていなかった。 


 そして、そのテスタの隣である人間を観察している哀。

 彼女もまた進化の途上にいる。

 哀は、自らが呼んだ人間に大層入れ込んでいた。人間で例えるならば、気に入って買ったペットを愛でるのと同じ感情であろう。


「どう? 彼女はうまくやれてる?」


 テスタは時々、哀が連れてきた人間のことを哀へ尋ねる。何故ならば、今後彼女がいるのといないのとでは奏陽の未来が大きく変わるからである。


「終始流れ身を任せているような状況なのだが、何故か彼女はいつも"運"が良い。我も驚く程に」


 哀は『ふっ』と微笑む。


「ふーん。前から思ってたけど哀も結構入れ込んでるよね。彼女の観察を始めてから笑うようになったし」


「……これも進化をしている証拠なのだろう?」


「あはっ、短い時間で哀も変わったね。うん、そうさ。それが僕達の進化の意味で、存在し、生きることの本質なんだよ。ボク達だってこんな何も無い所だけど確かに存在しているし生きてるんだもん。生きてるなら楽しまなきゃね!」


 テスタは今日ものんびりマイペースに生きている奏陽を眺めながら口角をほんのちょっとだけ上げて言う。


「お主は変わらないな」


「そんなことないさ。キミが変わってるように、ボクも少しづつ変わっていってるさ。それもこれも全部カナタのおかげなんだけどね! あぁ、カナタに直接会いたいなぁ!」


 哀は無邪気に笑うテスタを見て、前の哀ならば不快に思っていたはずだが、今は不思議と自分も笑っていた。それが進化であり、新しく芽生えた感情の一つである。それを自覚して喜びに心が満たされる哀は、人間のそれと同じだろう。


「さて、もうそろそろカナタの転機だよ! 何を思ってどう動くのか楽しみだよ! 今以上に期待してるからね!」


 テスタはそうして彼の観察を続け、哀は何も言わずただひたすらに彼女がどんな道に進むのかを心配しながら観察をする。

 今後テスタと彼女に何が起こるのかを見逃さないように……。






   ◇◆◇◆◇






 太陽が傾き始めてしばらく。平日なのに授業もないため、俺は寮の部屋で黄昏ていた。というのも、明日が最強決定戦なので今日はその調整をする人の事を考慮しての休日なのだ。

 俺は調整なんて大層な事をすることはない。出来ることは、せいぜい盾の扱い方が上手くなるように練習してきた事を信じることくらい。


「でも、あれから五ヶ月、最強決定戦がもう明日か。時間が過ぎるのって早いよなぁ」


 魔人に襲撃を受けてから早五ヶ月。その間、俺達のクラスが魔人の襲撃を受けたことが学園中に広まり、負傷者はいたものの、奇襲を受け、戦闘能力が高い魔人に出会って死者が出なかった事は奇跡だと言われるようになった。

 中でも、魔人と真正面から戦い、仲間を守ったライトの噂は瞬く間に広がり、俺達の学年のみならず他の学年の生徒達のアイドル的存在になった。


 本人は嫌がっている様子もなく、ランニングやストレッチをしている際によく手を振っているのを見る。そんなライトの評判はこんな感じだ。


・子供っぽさはあるが、イケメンで優しい。


・自らを驕る事なく常に高みを目指していてかっこいい。


・仲間を守るために身体を張るのは男として憧れる。


・冒険者として大切なものを体現している。


・純粋に高学年とも渡り合える程に強くて優秀。


 ……などなど。他にもまだあるが、ライトの株は鰻登り。それに付随して、ディーネが美人である事、ティファとイスナがライトにも負けず劣らずの戦闘能力がある事が学園中に広まっている。

 最近は、この四人を本物の勇者だと言う者も現れ始めた。これについては、本人達がどう思っているのかは実際に会って聞いていない為分からないが、少なくともライトは喜んでいるだろう。


 ちなみに、俺達のパーティも魔人と交戦し生き残っているし、なんなら俺は一回殺されているが、噂になる事はほとんどなかった。あるとしたら、カヤという魔物が物凄く恐ろしい姿をしているのに、どこか麗しいという何か矛盾した噂くらい。

 まあ、カヤは最近は人前に出る時はほぼ人型になってるし魔物の姿を見ることが出来ないためにグリム学園七不思議の一つに認定され始めているが。


 そういえば、その七不思議の内の一つに、ステラ学園は一五〇〇歳近くであるというものがあった。これが本当だったらあの人マジで何者なんだろうな。

 だけど所詮七不思議だ。どうせどっかの誰かが流したデマだろう。


「ただいまです~」


「おかえり~」


『おかえりなさ~い!』


 俺の思考がズレ始めた頃に、フィーが秘密の特訓から帰ってきた。その特訓の内容は俺もカヤですら知らない。だが、何か凄いことをしようとしているのはフィーの顔を見れば分かる。ただ、やりすぎには注意して欲しい所だ。


「今日は大会に向けて調整した感じ?」


「そうですね。今までの成果と新技の復習をしてきました。明日は私の新技、楽しみにしていてください。きっと驚くと思いますよ」


「おう、楽しみにしてる。でも、フィーがそこまで言うなんてどんな新技なのかひやひやするんだが……まあフィーなら大丈夫か」


 フィーはふふふと笑ってキッチンへ。その後を追うようにカヤもキッチンへ向かった。


「あ、そういえばカヤも何か面白い事をしているみたいですね? 何をしているか聞いてもいいですか?」


『うん! わたしねー透明になるの!』


「透明に!? 凄いですね!」


『えへへ。でしょー? クロロとクララがやってるのを見てマネしたの』


「そんな簡単にマネ出来るものではないのに出来てしまうカヤはさすがですね!」


『えへへー』


 俺の知らない所でカヤも何かしていたらしい。今初めて知った。カヤも大会の準備をしていたのだろうか。最強のカヤが特訓したら手が付けられない強さになるぞ。いや、もう既に手が付けらなかったわ。


『カナタよ。今更なのだが、フィーもカヤも何かしらやっているというにお前は何もしなくて良かったのか?』


 ふと、腕輪の中からリトがそう尋ねてきた。


「俺だってやっただろ? 毎日走ったし、いつもより少し多めに筋トレしたし、盾の扱い方も上手くなった」


 俺だって半ば強制的に大会に参加させられているので、何かしらの特訓をしなければと思って、自分に出来る事をやった。走り込みをして体力を付けたり、盾を更に扱う為に筋トレをして、最終的に盾の扱い方が上手くなったり。

 これ以上ないというくらいにはやっているのに、リトは一体何を言っているのだろうか。


『妾が言っているのはそういう事ではない。妾が言っているのは"魔法の幅を広げる"という事だ。お主も魔法の一つや二つ使えるだろうに』


「ふっ……そういえばリトには言っていなかったな。実は俺……生活魔法しか使えないのだ! ふはははっ!」


 俺はリトに向けて高笑いをする。魔法が使えない事にはもう慣れたもので、むしろ俺の長所なのではないかと錯乱する程に諦めている。


『……もしや今まで一度もまともな魔法を使っていなかったのは――』


「使えなかったからだな」


『……練習で走り込みや筋トレしかしてなかったのも――』


「魔法が使えないからだな」


『…………』


「…………」


『…………強く生きるのだぞ』


「そういう励ましが一番心にくるからやめて!」


 腕輪の中に入って姿が見えないはずのリトが手を合わせて憐れんでいるのが分かる。

 確かに魔法は使えないけどこうして普通の生活が出来ているのに、魔法が使えないってだけで不幸と決めつけるのは良くないと思う。まあ俺が不幸でないと言うだけで、世の中には魔法が使えずに悩んでいる人もいるかもしれない。


 その人にはぜひとも心の溝を埋められる何かを見つけて欲しいな。


『しかし……妾は今までお主が魔法を使わなかったのは何か理由があると思っていたが……まさか魔法が使えないとは思わなんだ』


「俺だって一切使えないわけじゃないぞ? 一応生活魔法は使えるし。……まあすぐに魔力切れ起こすんだけどな」


『それでは駄目ではないか……』


 すると、リトは何か考え事を始めたようで、うんうん唸り始めた。俺はとりあえず今はリトをそっとしておいて、キッチンで何かを作り始めたフィーの方に意識を向けた。


『こぉー?』


「それで合ってますよ。次はこれをこうして……」


『えっとぉ……これをこぉして……』


 何をしているのか俺は分かる。もう何度も見てきたこの工程はフィーの作るアップルパイで間違いない。カヤが一緒になって作っているのは驚きだったけれども、フィーの作るアップルパイは大好物だから絶対に間違うはずがない。


 でもカヤのアップルパイか……フィーのアップルパイとどんな違いがでてくるのか楽しみだ。


『仕方ない……か。カナタ、今から話す話を良く聞いておけ』


 俺が想像の中で、カヤのアップルパイに舌づつみしていると、唸っていたリトが何かを決心したらしく俺に何かを伝えるらしい。


『良いか? 妾のような精霊クラスになると契約者に魔法と同じような術――『精霊術』を使わせる事が出来る。精霊術は魔法と似て非なるものなのだ。魔法は体内の魔力を消費する事で事象を引き起こすが、精霊術は精霊と契約者が精神的に同調することで周りの事象に変化をもたらすものなのだ』


「じゃあ、その精霊術って言うのを使えば俺でも魔法に似たものが使えるってことか」


『その通り。その上、魔法は魔力を消費するためいつか限界が来るが、精霊術は精神的な同調が継続出来れば無限に使用出来る』


「何それ強すぎない?」


『確かに無限に使えるというのは強みだが、一つ注意点がある。精神的な同調をすると心的負担が大きくなり、相性が悪ければ、精霊か契約者のどちらかが死にどちらかが感情を失う』


「……どういう事だ?」


『心的負担が大きくなりすぎて心が壊れ廃人になるか、心を壊さないように暴走するかのどちらかだ。廃人になった時点で契約は解除され、廃人になった方は死に残った方は感情が無くなる。暴走では、暴走していない方へ過剰な負担がかかり死が訪れ、暴走した方には感情が無くなる。どちらにせよ死のリスク、感情を失うリスクは伴うのだ』


「マジかよ」


 リトの話をまとめると、魔法に似た精霊術というものが無限に使えるが、それには廃人か暴走するリスクがあり、その両方共に死ぬか感情を失うかのどちらかが待っているという事だ。

 精霊術は無限に使えるというだけで強みになる。それこそ、相手の魔力が切れるまで応戦すればほぼ勝ったようなもの。だが、それには心的負担が大きくなり、死ぬか感情を失う事になる。


『これは、相性が悪ければの話だ。同調の相性が良ければ廃人になることも暴走することもなく、むしろ精霊術の威力が増す。これは一か八かの賭けなのだ。やらないと言うなら無理してやる必要はない』


「死ぬのは嫌だしリトを殺すのもなぁ……今は分からないでいい?」


『よかろう。しばらく考えると良い』


「そうする」


 と、俺達の話が終わるタイミングで、アップルパイがほぼ完成に近づいたようだ。部屋中にリンゴとシナモンの香りが広がっている。


「『出来た(ました)よー!』」


 それから俺達はそのアップルパイを食べ、明日に備えて各々準備をするのであった。


 前書きでも言いましたが、引越ししました。環境が変わって勝手が分からない部分があり大変です。読者の方も引越しの際は頑張ってください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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