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100話 みんな頑張ってんだな


 学園長室からお暇してフィー達の元へ戻ると、ライトのパーティは既にいなくなっていた。話によると、彼等は魔人との戦闘で明らかになった課題を達成するために自主練習を始めるらしい。

 一応どんなことをするのか知っているか聞いてみると、魔法を呪文を唱えずとも発動させる――いわゆる無詠唱ができるようになることから始めると言っていたようだ。


 俺は先入観も何も無く始めることが出来たから無詠唱で魔法を発動できるが、優秀なフィーでさえ教えてから覚えるまで一ヶ月かかった。何か行き詰まっているようだったら俺からアドバイスでもしてみよう。俺をライバル視しているらしいライトがなんて言うかは分からないがな。


 また、エドとリーネ、クロロとクララも強くなるために体力作りや魔法の鍛錬と様々な特訓をするらしく、その旨を俺に伝えてからすぐにいなくなった。

 みんなそれぞれ自分の課題が分かっているようなので、その課題をクリアできるように頑張るようだ。


「みんなちゃんと先を見据えてんだなあ。俺とか何も考えてなかった」


「カナタさんは何かしようと考えないんですか? 例えばですけど、エドさんとかリーネさんと一緒に体力作りをしたり、ライト君みたいな剣術を会得したり、やろうと思えば色々出来ますよ?」


「今すぐきはちょっと厳しいかな。俺もまあまあ歳いってるから、体力はついてもそこそこだし、何かを覚えるにも最近になって物覚えも悪くなり始めたから苦労するし……やるとしても日課の筋トレの回数を多めにしたり、少しずつ知識を増やすくらいだな」


 もう三十も半ばといったところで体の衰えを感じる。最近は特に若い者に囲まれているからそう感じることが多くなりつつある。体が硬かったり、新陳代謝が悪かったり、前の授業内容を思い出せなかったり。

 本当に歳を取ると少しずつどこかが劣化していく。俺も歳を取ったなと感慨深くなると共に、まだ若くいたいと思う今日この頃。しかしどうやっても時間の流れには逆らえないというのはどこか悲しい。


『ねーねー、お腹空いたぁ!』


「じゃあ、戻ってホットケーキ作りましょうか。カヤのために甘めにしますよ」


『やったぁー!』


「カナタさんもどうですか?」


「俺も小腹空いてるから貰おうかな。あ、それとリトの分も作れたりしない?」


「もちろん大丈夫ですよ。私もリトさんとお話してみたいですし」


「じゃあお願いするわ」


『早く行こー』


 俺達はカヤに連れられながら寮の自室へと戻り、フィーはホットケーキの準備を始め、俺は出来上がるのを待ちながらリトとカヤの対談を眺めていた。


『妾はリトだ。カヤよ、よろしくな』


『よろしくー! それでね、わたし、リトに聞きたい事かあるの』


『聞きたい事とな?』


『うん。リトはね、人なのに人じゃない感じがするの。だからなんでなのかなって思ったの』


『ふむ。そもそも妾は人ではなく精霊という分類よ』


『せーれー?』


『分からぬか? そうよの……簡潔に言えば世界を見守る役目を背負った存在と言ったところかの』


『見守るの? なんでー?』


『なんでと言われてもの……なんでなのかは妾にも分からん。だが、生まれた時から見守らなければならないのは何故だか分かっていたな』


『そうなの?』


『そうなのだ』


『不思議だねー』


『うむ。不思議よの』


 二人を見ていると仲の良い姉妹に見えてくる。リトが姉でカヤが妹なのは間違いないだろう。


 そんな姉のようなリトは、どうやら人と触れ合うのが好きらしく、学園長の時もそうだったが、カヤと話している時も生き生きしている雰囲気がある。と言うより、実際に生き生きしている。

 多分もうそろそろリトもカヤの可愛さにメロメロになるはずだ。その証拠に、二人の物理的な距離がどんどん縮まっている。最終的にはリトの膝の上にカヤがいるという構図になるな。間違いない。


『そういえば、カヤの可愛さに気を取られておったが、カヤには得体のしれない何かがあるのだが……一体何者なのだ?』


『わたしはわたしなの』


『よく分からなんだ……』


「それについては俺が説明する。リトは俺と契約を交わしてるし、事情を知っておいた方がいいだろうからな」


 リトにはまだ俺とカヤが異世界から来たことを伝えていない。理由としては、色々あり言う時間がなかったのもあるが、言っても言わなくても別に変わりないと思ったからである。

 とはいえ、これから一緒に暮らしていく上で知ってもらっておいた方が何かと話が通じるので、知ってもらう良い機会だということで教える事にした。


「実はな――」



「みなさーん! ホットケーキが出来ましたよー!」



 俺が話そうとした時と同じ時間にホットケーキが出来たようでフィーが配膳をしてくれた。

 話はホットケーキを食べながらでもできるので、食事を先にすることにした。


「おーう。じゃ、話す前にホットケーキ食うか」


『うむ』


『ホットケーキ♪ ホットケーキ♪ いい匂い♪』


『カヤは嬉しそうよの』


『うん! フィーが作るもの全部美味しいから期待しちゃうの!』


「カヤにそんなこと言われると、とても嬉しくて心臓が止まりそうです」


 そんな会話をしつつ、みんなテーブルにつき、手を合わせいただきますと一言言ってからホットケーキを口に運ぶ。


『甘くておいし〜!』


『……!! これは美味よの!』


「そんなに喜んで貰えると作った甲斐がありますね。カナタさんはどうですか?」


「ふわふわでしかも俺好みの味……美味すぎて何も言えない……」


「ふふふ、大袈裟ですよ」


 フィーの作ったホットケーキはしっとりしつつもふんわり感を残していて、何も付けずとも甘さが口の中に広がるというなんとも言えない美味しいものだ。果たしてこれをホットケーキと言っていいのだろうか。


 それから俺達はホットケーキを楽しみつつ、いい具合のところで、リトに俺とカヤが異世界から来たことを伝えた。リトはホットケーキを頬張りつつ、初めの方は信じられないという顔をしていたが、さすが精霊なだけあって俺が嘘を言っていない事は分かっていたようだ。

 しかし、なまじ異世界から来たという事が真実であったがために、終始驚きは隠せない様子だった。


「――とまあ、俺とカヤがちょっと変なのはそれのせいかもな」


『……住む世界が異なれば体の作りが異なるのも道理か……妾は妙な奴に契約されたものよ』


「俺は妙な奴じゃないと思うんだが……ただちょっと非現実的な状況に巻き込まれただけで……」


『そういうものに巻き込まれる者を妙な奴というのであろう? ただ、お前は妙と言うよりただのバカかもしれぬがな』


「それに加えて、カナタさんは天然のすけこましですよ」


『なにっ!? それは本当か!?』


「ちょっ、フィー! 何言ってんの!?」


『カナタはすけこましー!』


「カ、カヤまで……」


 フィーが爆弾を投下するせいで俺だけ何故か悪者みたいな雰囲気。単純に考えて、俺がすけこましとかありえないんだろう。もし、そうだったらとっくの昔に彼女の一人や二人出来てるはず。でも、そうじゃないということは、俺はすけこましでもなんでもないということだ。

 しかし、いつだったかフィーが『カナタさんモテますし』的な事を言ってきた事があった。もしかしたら、フィーはそう感じているのかも。

 しっかし、ぜんぜっんモテないけどな!


「はぁ……全く楽しいからいいけどな」


『お前も中々おかしなやつよ。妾に臆しないのだからな』


「別に臆する理由もないし、堅いのは話辛いしな」


『そういうところがおかしいと言われるところなのだがな。まあよい。その方が妾も楽よ』


 フッ、と目を細めて笑うリト。実に楽しそうだ。


『リトー、一緒にあそぼー!』


『うむ? 妾で良いのか?』


『リトがいいの!』


『よかろう。何をしたいのだ?』


『むふふ〜♪ 空を飛ぶのー!』


『では外に出るのか?』


『うん!』


 リトはカヤと手を繋いで外へと出ていった。ドアが閉まる時、二人が物凄いスピードで消えていくのがチラッと見えた。あの二人凄いことしてる自覚はあるのだろうか。……ないんだろうなぁ。


「行ってしまいましたね」


「そうだな。でもいいんじゃないか? 姉妹みたいに見えるし」


「そうですね。あの二人は可愛いくて美人の姉妹ですよ」


 フィーは出ていった二人の方を見ながら微笑む。


 なんというか、その時の微笑みにとても胸が高まったような気がする。何故気がするという曖昧なものなのかと言うと、簡単な話、いつも胸が高鳴っているからだ。

 変な話、フィーの隣にいる俺は恋する乙女と同じで好きな人の近くにいるだけで幸せなのだ。


「カナタさんは紅茶飲みます? 入れますよ」


「ん、頼む」


 俺がそう言うと、フィーは椅子から立ち上がりキッチンへと向かった。


 フィーが入れる紅茶の甘い匂いが部屋に広がり始め、リラックス空間が出来上がる。


「はい、出来ましたよ」


「おう、ありがとな」


「いえいえ」


 お礼を言って、一口紅茶を口に含んだ。

 いつもの甘い紅茶の風味。この瞬間が一番気に入っている。ゆったりとした時間の流れの中、フィーと二人で飲む紅茶はまた違ったものだ。


「ふぅ〜……落ち着くわ……」


「ほっ……そうですね……」


 二人して深く息をしながら目を閉じてこの瞬間を楽しむ。


「あ、そうだ。そういえばフィーは何か自主練習しないのか?」


「そうですね……一応考えてはいますよ」


「何をするか聞いてみても?」


「ふふっ。それは、ひ・み・つ、ですよ」


 わざとらしく人差し指を口に当てて片目を閉じるフィー。美人なのにこんな仕草されたら、俺の心臓が止まるぞ。


「でも一つだけ。私も最強決定戦は本気で勝ちに行きますから!」


「フィーもか……そのために自主練習するなんて、フィーもそうだが、みんな頑張ってるんだな……」


 フィーは負けず嫌いなところがある。だからとは言わないが、最強決定戦では自分の出せる力の全てを使って望みたいのだと思う。そして多分それはフィーだけじゃなくて、ライト達やエド達もそうなのだろう。


 本当にみんなよく頑張っていると思う。


「俺もなんか特別な事をやった方がいいのかね……」


「出来ることから少しずつやる事が大切だと思いますよ」


「そうだな。少しずつやってく事にする」


「はい、期待してますね」


 フィーはふふ、と笑うと、思い出したように紅茶おかわりをいるか聞いてきた。

 俺はそれに頷いて答え、おかわりを受け取った。


「俺、明日から頑張るわ」


「じゃあ私も今日までは体を休める事にします。実は、少し筋肉痛なんですよね」


「魔人との戦闘でそれだけのものだったのか。改めて魔人ってやばいな」


 俺が魔人との戦いの壮絶さを想像していると、ドアが開く音が聞こえた。どうやら二人が帰ってきたようだ。


『ただいまー!』


『ただいま戻ったよの』


「二人共、おかえりなさい」


「おう、おかえり。どうだった?」


『楽しかったー!』


『力を全て出すのは気持ちいいものであったな』


 カヤはずっとニコニコしながら、リトはいい汗かいたとばかりに額を拭いながらそう言った。


「……なんかやばそうな雰囲気が漂っているのだが大丈夫なのだろうか」


 俺はそんな心配をしつつ、その日一日を過ごしたのだった。


 もう何度目になる変わりませんが、遅くなって申し訳ないです。次は出来ればなるはやで投稿出来ればと思っています。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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