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099話 なんでそこまで

 遅くなりました。申し訳ございません……。


 合宿終了から翌日、俺はいつものメンバーにライト達四人をプラスした十人で学園長室を訪れていた。もちろん合宿で起こった事について報告するためである。

 正確に言うと、あのあとすぐにマリリン先生が学園長に報告し俺達が招集されたため、詳細を報告するために訪れたという形だ。


 学園長に直接会うのは今回で二回目になるが、未だに緊張するのは、学園長が上の立場の人間だからだろう。それと、何故か前来た時の普通な部屋と相変わって豪華な部屋に変わっているのも原因かもしれない。

 本当、みんながいるにしても俺に緊張させる要素が多い。


「わざわざ出向いてもらってすまない諸君。何分最近忙しくてな……書類整理しながらで悪いが合宿で起こった話を聞かせて貰えないだろうか」


 せっせと書類に目を通して判子を押していく学園長に昨日起こった事を出来るだけ細かくわかりやすいように伝えた。

 すると、学園長は開口一番とんでもないことを言い始めた。


「また戦争が始まるかもしれんな……」


「――ッ! 戦争ですか!?」


 戦争……ここでの戦争は二千年前のものと同規模という意味なのだろう。この場にいるものはみんなそれが分かっていた。もちろん、フィーもその一人であり真っ先に反応を示した人物だ。

 しかし、その反応も驚きからかと思えば少し違った様子で、どちらかと言うと焦りのような感じで、多分フィーには何かしら焦る理由があるのだと思う。ただ、その何かは分からないが。


 それに、このことに気づけているのは俺の他に、フィーに心配そうな視線を送っているカヤくらいで、それくらい微妙な違いしかない。フィーは隠したがってるんだろうな。


「今まで水面下でしか動いてこなかった魔人がとうとう動きだした。しかも我々を出し抜いて生徒を危険に陥れるということまでしてな。これは宣戦布告にほかならない。――だろう? カナタ」


 学園長は何故か俺を見つめてニヤッと笑う。いきなり白羽の矢がたった俺は背筋を自然と伸ばしていた。多分顔は愛想笑いをしてる。


「……俺は何も分かりませんよ……一般人なんですし……」


「はははっ、すまんすまん。少しカナタが上の空だったから仕方なくな」


「あー……それはすいません」


「いや謝らなくてもいい。カナタにも何か気になる事があったのだろう? ――そしてそれはここにいる者達全員にも……な」


 魔人との戦闘後、この場にいる全ての人が何かしら感じてると学園長は言う。俺としてはそうでもないが、強いて言うなら出会い頭に殺してくることに関してだろうか。

 本当にあれは俺じゃなかったら死んでるぞ。いやまあ俺も死んでから生き返ってるし俺でも死ぬか……。


 そんな風に考え事をしているとライトが、学園長にこんなことを言い始めた。


「強くなるにはどうすればいいんですか……!」


「君は……ライト君だったか?」


「はい。勇者を名乗れるくらいの力が……魔人を倒せるくらいの力が欲しいんです!」


「ふむ……」


 ライトは切羽詰まった様子で学園長へ迫る。普通そんな風に迫られたら引くなりなんなりするはずだが、学園長は普段通りで顔色一つ変えず顎に手を当てる。


「君は何故そこまで力を求める?」


「俺は守れなかったんです。だから次に同じようなことが起きた時、今のままだと同じ事の繰り返しになってしまうんです。俺はそんなの嫌なんです。俺はみんなを守って支えれる勇者になりたい。だからそれができるくらいの力が欲しいんです!」


 どうやらライトは、魔人との一戦で手も足も出ずボロボロにやられたことを引きずっているらしい。みんなを守れる様な勇者になりたいのに、実際はみんなどころか自分すら守れなかったというその悔しさみたいなものがライトの胸に突っかかっているのだろう。


「……君の熱意は十分に伝わった。いいだろう。私が直々に指導をしてやる。だが私も忙しい身であるから課題をこなしてもらおう」


「本当に指導してくださるんですか!?」


「本当だとも。ついでと言ってはなんだが、君のパーティメンバーだった残り三人にも指導をしてあげよう。その方が良さそうな雰囲気だからね」


 ライトとその他の三人には学園長から見れば中々に訴えてくるものがあるらしい。俺にはそんなことは分からないが、ライトを含めた四人の目に光が差したことだけは分かった。


「――しかし、指導をする前に条件を付けよう」


 だが、学園長はやる気を出した四人にこう告げる。


「今から五ヶ月後、最強決定戦――言ってしまえば祭りが開催される。そこで四人には良い成績を取ってもらう。もし取れなかった場合、見込み無しとしてその者に関しては指導無しとする。良いな?」


「はい……!」


 声を揃えて力強く返事をした四人。心なしか嬉しそうにも聞こえたのは多分間違いじゃないだろう。


「と言ったものの、昨日の内に魔人襲撃の話を職員全員にしたら、最強決定戦を開催するか否かの意見が職員内で半々に別れてしまってな……」


 学園長は書類を見つめながら頭を抱えながら言った。恐らく、学園長が整理していた書類は最強決定戦に関する何かなのだろう。でなければ忌々しそうに見つめるわけがないしな。


「ちなみに学園長はどっち側なんですか?」


 俺はそんな疑問を尋ねてみた。


「そんなの開催する方に決まっているだろう? 魔人に屈することなど絶対にあってはならないからな」


「屈するって……学園内なら魔人の襲撃を受けずに済むし大丈夫じゃないんですか?」


「概ねその通りなのだが、学園にいるものしか知らないあの森に魔人はやってきたから学園を襲撃しに来てもおかしくないという者がいてな……確かにその通りなのだが、それを恐れているようではこの学園の意味がない」


 学園長は続けて『だからこそ開催しなければ』と言った。学園長にも学園長なりの考えがあるのだろう。


「……まあそんなところだ。話はこれで終わり。君達には期待しているから頑張るように」


「はい、ありがとうございます」


 俺達は頭を下げて学園長室を後にしようとした……のだが、何故か俺だけ呼び止められた。学園長はなんか目が据わってるし、みんなは俺を置いて出ていくし、やむおえず留まるしかなかった俺の心中を察してほしい。


「呼び止めてすまないね」


「……で、俺になんの用なんですか?」


「そう邪険にしなくてもいいだろう?」


「無理ですよ……そんな何か無茶振りしそうな目をされたら」


「別にそんなつもりはないんだがな。ただ、君が契約をしたという精霊と会いたいだけだ」


「本当にそれだけですか?」


「まあ少し話をしたいとも思っているが、それはその精霊次第だろう」


「……分かりました。リト、今の話聞いてただろ?

どうだ?」


 俺は腕輪を少し上げて、リト本体である宝石を見つめる。宝石の中に揺らめく炎はいつ見ても美しい。人間の姿をしたリトも美形だし当然のことかもしれないな。


『妾が断る理由はなかろう?』


「リトって案外姉御肌だよな。即決するし、なんだかんだ言ってみんなに優しいし」


『褒めたところで何も出ぬぞ』


 リトはそう言って宝石から実体化して、俺達の前に姿を見せた。少しいつもより顔が赤い気がするのは照れだな。間違いない。絶対俺が褒めたから内心嬉しかったんだな。


「カナタ君。この方が精霊……なのか? 見たところ人間の女性のそれと変わらないようだが……」


『うむ。確かに契約をしてからはこんな姿をしておるな。しかし、妾が精霊である事に間違いはない。その証拠に、ほれ』


 リトは片腕を炎に変えて腕の形を作っていた。本来ならば、魔法だったしても発動者以外は炎に熱を感じるはずだが、それが全くなく何か異質なものだということが分かる。


「確かに……疑う余地はないな」


『そうは言うが、そなたも中々におかしな存在よ。正直、妾も驚きが隠せんぞ』


「精霊のあなたにそんな事を言われるのは名誉なことだな」


『世辞はよせ。褒められ慣れてないのでな、むず痒くなる』


 なんか社交辞令風の流れが俺の前で起こっているのだが、俺は当然のように蚊帳の外。というか、学園長がおかしな存在ってどういう意味なのだろうか。リトにしか分からない何かがあるのだろうか?


「ふっ。それでは、そろそろ本題に入らせて貰うがいいかな?」


『無論よの』


「では、幾つかの質問をこれからする。答えにくいもしくは答えられないものはそう言ってくれて構わない」


『うむ。分かった』


「初めの質問だ。他の精霊の居場所は?」


「他の精霊の事は若干感じるが居場所を特定できる程ではないな」


「では次は――」


 それから学園長とリトの質問コーナーは続き、時間が経つこと三十分。一応ひと段落着いたみたいだった。

 しかしその三十分の間、俺はカヤも居ないので独りぼっちだった。する事と言えばソファで睡眠を取ることくらい……と思ったのだがそれではつまらないので、俺も色々考えて見ることにした。


 俺が考えたのは学園長は何故こんな質問をしてくるのかというもの。学園長がこんな事を聞いて何かに悪用するとは思えないが、可能性の話なら話は別になるからな。


 で、気になるのは初めに他の精霊の話を聞いて来た事だ。四大精霊はリト曰く強いらしいし、学園長は魔人との戦争を考慮して確保しておきたいのかもしれない。もしくはただ単に興味があったからなのかもしれないが、学園長が意味の無い時間を過ごすとも思えない。

 それと、何故精霊と話をしたいと言い出したのかも気になる。学園長がおかしな存在だと言うことも関係しているのかもしれないが、よく分からん。


 結局のところ何も分からん。学園長が何を考えて何をしたいのか。そもそも、魔人が平和を脅かすから戦うというのもよく分からない。平和を守りたいなら、話し合いでもなんでもいいのではないだろうか。まぁ、それが出来たら苦労はしないだろうが。


 分からないことだらけで、頭が痛くなった俺は、考え事を初めて十分で寝落ちした。

 結局寝てんじゃねぇかと思ったやつ。俺も思ったから安心してくれていい。


「――一通り聞きたいことは聞けた。色々参考にさせてもらう。ありがとう」


『これくらいはお易い御用よ。では、妾は戻るからの』


「また会おう」


『うむ。また会おう』


 リトはまた会う約束をして、腕輪の元の位置にすっぽり収まった。


「ふぅ……精霊の前というのは少し緊張するな。だがそれでも有意義な時間だったことには違いない」


「学園長でも緊張ってするんですね」


「何を言っている。私も一人の人間だ。緊張もすれば安心だってする」


 ふっ、と黄昏たように笑う学園長。さすが、様になっている。そういえば俺の周り美人多過ぎない? 俺が並かそれ以下だからより一層ブサイクに見えないか心配……。


「さて、魔人の一件で君に言っておきたいことがある」


「言っておきたいこと?」


「そうだ。君は魔物使いを名乗り、精霊と契約までした。こんな事ができるのは当然死神(しのかみ)しかいない。君は死神(しのかみ)なのだろ?」


「いやいや、なんでそこまで俺を死神(しのかみ)と言い張るんですか……俺はただの一般人ですよ」


「君はそう言うだろうが、私はほぼ確信している。だって君は私の父と母が言っていた人物と一致しているのだから」


「へっ? 俺が? 他人の空似じゃないんですか? だって俺、学園長の親になんて会ったことないですし」


「ふっ。それならそれでいい」


 何故学園長は俺を死神(しのかみ)と言い張るのか分からん。そんな伝説上の人物に俺がなれるはずがないと言うのに。


「話が終わったなら俺、みんなの元に帰ります」


「うむ。最強決定戦、期待しているよ。ではな」


「忘れてないんですね……」


「忘れるわけないだろう?」


 俺は項垂れながら学園長室を後にした。なんともまあ変な事に巻き込まれたものだ。魔人が襲ってきたり、俺が死神(しのかみ)だと言われたり、最強決定戦で学園長に期待されたり……。俺、ただの一般人なのに。

 これから先を思うと憂鬱で仕方ない。まあ、現直下でしなければならないのは最強決定戦に向けて色々考える事だろうな。


 そうして俺はみんなと合流したのだった。


 次からはちょっとした話をして、その後最強決定戦に移る予定です。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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