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098話 一旦落ち着いてください

 一週間と少しぶりの投稿です。


 休憩後、作戦を立ててからの翌日の昼前。クラスの仲間達全員が合宿開始時の場所に集合していた。


 と言うのも、カヤが優秀過ぎたのだ。作戦では、カヤがクラスメイトがいる方角と位置を教えてくれる事で、俺達がその場所に赴き、安否の確認を行うと言うものだった。

 しかしながらこの世界で最強のカヤは、一方通行ではあるがテレパシーが使えたようで、全員を一箇所へ誘導してしまった。


 やれやれ……優秀過ぎて困るくらいだ。これは後で精一杯褒めてやらなければ。


 ちなみに、安否の確認が出来ていた俺達を除きクラスメイトの内、三~四人程が怪我をしていたが、それは魔人からの攻撃ではなく魔物の不意打ちらしかった。

 なんか転がされて遊ばれたと言っていた。さらに、その魔物の姿は熊っぽかったらしい。


 ……まあ俺が迷子になった時に遭遇したあの熊だわな。あの熊は一体何がしたいのか全く分からん。転がすだけで殺さないのは何か理由があるのだろうか……んー分からん!


 と、まあ一応その熊が温厚――本当に温厚かどうかは分からないが――だったおかげで、クラスメイト達は一人も欠けることは無かった。一安心だ。


「カナタさん。一箇所に集めたはいいですけど、この後どうするんですか?」


「そうなんだよな……合宿が終わるのは明日だし……ここで何も出来ないのもみんなにとってはストレスだろうしな……あっ、飯とかはどうだ?」


「さすがにクラスメイト全員に配れるような食料は無いですね……」


「だよなぁ……どうすっかなー」


 水も食料もないサバイバルを四日間過ごしてきた猛者達ではあるが、やはり慣れない環境ではストレスが溜まる。今、クラスメイト全員が集まった事で少しの安堵はあるかもしれないが、身体的なストレスは軽減されることはない。

 とは言え、みんな選ばれし冒険者なだけあってフィジカルは俺なんかと比べるとはるかに強いらしく、身体的なストレスを一番抱えているのは俺と言っても過言ではない。


 まあその俺はさておき、このまま何もせずにずっとこの場にいるだけでは後々困った事になる。食料の問題もそうだし、少なからずあるストレスもそうだ。

 明日にマリリン先生達の迎えが来るはずではあるが、魔人が襲撃してくるという予想外の出来事があった後では厳しいものがある。


 ここで一番大事なのは食料だろう。食べて休めば腹もふくれて、幾分かストレスの軽減できるだろうからな。


「……となると食料の確保か。どうしたものか……」



――おーい! みんなー! これ見てみろよー!



 俺とフィーがうんうん悩んでいると、どこからともなくそんな声が上がった。その声がした方を向くと、何も無かったはずの場所に、なんと瀕死の猪三頭がいたのだ。

 放っておけば確実に死ぬだろうし、万が一治療したとしてもそう長くは持たなそうな傷の深さをしている。


 誰がなんのためにこんな事をしたのかは分かりかねるが、ここは素直にみんなの食料として貰っておこう。


『む? これは森の守護者の仕業か。カナタと違って気が利く』


「うるせぇ! 俺だって気を利かせる事くらいできるわ! むしろリトの方が気が利かねぇからな!」


『わ、妾は本来敬われる立場の存在なのだぞ? 何故気を利かせねばならんのだ』


 俺を躊躇い無く罵倒する声はリトのものであるが、姿は現しておらず腕輪にハマった宝石から声が漏れている。見る人が見たら相当なホラーだ。

 そんなリトとの会話だが、俺にはなんとなくリトがどんな表情をしながら話しているのかが分かる。もしかすると、これも契約をした結果なのかもしれない。


 それで、現在のリトの表情としては、後悔や困惑ような感じのものになっている。自分が言ったことに対して言いすぎたと思っているのかもな。


「…………はぁ……心にもない事言って『引っ込みつかない……どうしよ……』みたいになるくらいなら最初から言わなければいいのに」


『う、うるさい!』


 図星をつかれてそれしか言えないリト。案外ぽんこつなのかもしれない。とは言え、長い時間同じ場所に封印されていたような状態から今の状況に放り込まれたら人付き合いの仕方が分からないのもしょうがのない事だ。優しく長い目で見ていてやろう。


『なんなのだその目は……』


「いや……応援してるから頑張れよと」


『はぁ……?』


「てかさ、さっき気になったんだけど森の守護者ってなに? この森って何かに守られてんの?」


 元々聞きたかったことはこの事だ。森の守護者とかいう初めての聞く単語がリトから出てきたのだ。問わずにはいられない。


『森の守護者というのは当初、妾がいた祠を代々守護する使命があったらしいのだ。だが長い年月を経てその使命は妾の祠から森全体に拡大していったと……まあそのようなものだ。守護者は心優しい奴だから、こうして妾達のために食料を隠れて取ってきたのだろう』


「……なるほど。一応は分かった。けど、森の守護者って誰?」


『姿は『熊の魔物』と言ったものが一番近い』


「ほー熊のね…………んっ? 熊の? ……はっ! もしかしてあの熊が守護者だったのか!? あ、だから殺しはしなかったのか。やっと納得いったわ」


『何妾の分からん事を言っておるのだ……』


「なんだ? 寂しいのか?」


『ななな何故妾が寂しがらなければならんのだっ! そういうのは他の者にさせとけばいいのだっ!』


「はいはい。俺はいつでも話し相手になってやるから。なっ?」


『『なっ?』ではない! 妾は寂しくなんてないっ! 断じて寂しくはないぞっ!』


 ムキになっている所がまた……とか言ったら面白い反応が返ってくるかもしれないが、今はそういうことにしておいてやろう。


「おいカナタ。臨時の食料が手に入ったようだぞ。あれはどうする?」


 エドが俺の元へやって来て猪を指さして言った。


「みんなの好きにしてもらった方が一番楽だろ。独り占めするやつなんてこの場にいないだろうし。あー、でもサバイバルは今日までだしみんなで焼肉なんていいかもな」


「そんな気を抜いてもいいものか? 魔人の時みたいに何かが起きないとも限らないんだぞ?」


「そこは警戒するだけでいいんじゃなか? 可能性だけなら、あの月落ちてくるとか、世界が割れるとかいくらでも言えるんだし。今くらいはみんなでキャンプに来たって思えばいいだろ」


「そうか……じゃあみんなには適当に食べてもらうことにするか」


「おう、そうしろそうしろ」


 俺がそう言うとエドは頷いてみんなに好きなようにしてくれと伝えると、それぞれが協力して軽く調理教室かのような現場へと変わっていった。串焼きを作る者、取ってきた野草と和えて炒めた野草炒めを作る者、土魔法で窯を作り猪肉を燻製にする者、と、多種多様なバリエーションの調理をしていた。

 なんなのみんな……こんなに料理出来るものなの? てか、燻製ってここで作るものじゃなくない?


 まあそれはいいとしても、みんなが楽しそうに調理を行っているのを見ると取り敢えずのものだとしてもとても平和である事を感じる。今この瞬間だけを見た人は、昨日魔人が俺達を殺しに来たとは思うまい。


「みなさん楽しそうですね。沈んでた空気が晴れていく感じがします」


 カヤを頭の上に乗せたフィーがクラスメイト達を見てそんなことを言った。その時の俺は当然カヤとフィーのほんわかとした雰囲気に癒されていたわけであるが、フィーの言ったこと同じ事は俺も感じていることである。

 てか、二人とも可愛すぎひん? 写真に保存したいくらいだわ。


「カナタさんも何か食べませんか? この猪肉思いの外臭みがなくて柔らかいので焼いて食べるだけでもとても美味しいですよ?」


「マジか。それはぜひとも食べたい」


『わたしも食べたいっ!』


「ではお肉を少しもらってきますね!」


 フィーはカヤを頭の上に乗せたまま、走ってお肉を貰いに行った。フィーが走る度に揺れるカヤの後ろ姿がとても可愛いかったです。


 その後、フィーがお肉を焼き始めて手が離せなくなっている間、昨日の魔人襲撃の事で俺は少しだけ考え事をしていた。


 昨日魔人達はこの森をピンポイントで襲撃してきた。この場所に来ることは俺達には知らされておらず、学園の教職員しか知らない事だった。となれば、何か特殊な能力……例えば予知の様なものを除けば学園にスパイがいることになる。

 ただ、スパイが学園内に潜んでいるとしたらわざわざこの場所を襲撃する必要はないはず。ただ、誰か一人を標的としていたら別だが俺が出会った魔人の言動からそれはないことは分かる。


 となればどういう事なのか。……正直よく分からない。俺達が交戦した魔人は、俺を殺したし、フィー達も狙われたことから確実に殺しに来ていたことは分かるが、ライト達と交戦した魔人は圧倒的な強さを持ちつつもライト達を痛めつけるだけで命は取らなかった。

 魔人側が一枚岩でない可能性もあるが、恐らくそこには何かの意図があったはずなのだ。でなければこんな所に来る意味もない。


 しかしながら、結局それが分からなくてこれ以上は考える事は出来ないのだが。まあ、そこはマリリン先生とか学園長とか、誰かに考えて貰うことにしよう。


「カナタさーん! 出来ましたよー!」


「おーう」


 それからは、フィーの焼いた猪肉を頬張りながらクラスメイトと食事を楽しんだ。

 エドとリーン、双子、ライトとそのパーティメンバーはクラスメイトのために色々動いており、じゃんけん大会などの簡単なレクリエーションを開催していた。もうこれほとんどキャンプだと思ったのは何も俺だけではないはず。


 そんな感じでクラスメイト全員で夜を迎え、交代で見張りをしつつ翌日の朝を迎えた。そして昼前になると、ようやく学園からマリリン先生から迎えが来た。


「はい~、みなさんお集まりですね~。迎えに来ましたよ~」


「「「はぁ……」」」


「あらあら~? みなさんお疲れのようですね~? やっぱり一週間のサバイバルは辛かったようですね~」


「「「はぁ……」」」


 何も知らないマリリン先生のテンションに何も言わないみんな。どことなく諦めが入っている気がするのは俺の気のせいだろうか。


「それではみなさんはこのゲートをくぐってください~。これで帰れますよ~」


 みんなは次々にゲートをくぐっていくが、俺達のパーティとライト達のパーティだけはゲートを潜らずにその場に留まっていた。マリリン先生に魔人の話をするためだ。


「最後はあなた達だけですよ~」


「先生。俺達のサバイバル中に起きた事で大切なお話があります」


 一歩だけ前に進んだエドが、真剣な顔でマリリン先生に話を切り出した。


「……? 何ですか~?」


「実は――」


 それからは俺達の身に起きた事を事細かに説明をした。爆発の事、魔人の事、それを事細かに。その流れでリトの事を説明する事になって、その時くらいからマリリン先生の目の焦点が合ってなかった様な気がしなくもない。話が終わった時の先生はもう頭がおかしくなり始めていた。


「あぁ……こんなの私の手には負えないですよ~……! 何で私がこんな目にぃ~……! 魔人? 精霊? 襲撃? 契約? ああああああああぁぁぁ……頭がおかしくなるぅぅぅ……」


「先生、一旦落ち着いてください。はい深呼吸して……はい吐いてー」


 俺は錯乱を始めた先生の背中をぽんぽんと叩きながら子供をあやす様に落ち着かせる。


「すぅ~……はぁ~……すぅ~……はぁ~……お、落ち着きましたぁ~……ありがとうございます……うぅ頭いたいのは変わらないですね~……」


 先生は落ち着きを取り戻して一応錯乱はしなくなった。それを確認した俺は先生に本題を切り出す。


「それで先生。この事を学園長に伝えてくれませんか? 多分ステラ学園長なら、魔人に直接会った俺達を呼び出して直接話を聞こうとするはずですし、俺達も学園長に話をしておかなければならないことがありますから」


「分かりました~……伝えて起きます~……ではそろそろみなさんもゲートに……うぅ何で私ばっかりがこんな目に……」


 俺達は涙目のマリリン先生を横目にゲートをくぐって学園へと戻った。


 こうして、俺達の色々大変だったサバイバルの合宿生活は幕を閉じた。


 これにて合宿編終了となります。次回からまた話が変わってくるのでご期待ください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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