097話 お前すげーよ
100部目です! いやぁここまで長かった。そのくせ話は進まないとかやばい。今回も話進んでない。やばい……。
「ライト……ッ! しっかりしてライト……ッ!」
「お、おい!! 大丈夫か!?」
森から出てきたものがボロボロになったライト達のパーティだと気付き、倒れたのがライトである事を認識してすぐに、彼等の元へ走った。
フィーやエド、リーンも状況を把握したようで、すぐに俺のあとを追いかけてきた。
「ライトが……ッ! ライトが死んじゃう……ッ! お願い……ライトを助けてッ!」
いつもライトの隣にいる女の子が、一番初めに駆けつけた俺に縋り寄り涙を流しながら訴えてきた。いつも寡黙だった彼女をここまでするとはライトも隅におけないやつではあるが、今はそれどころではない。
「ディーネちゃん落ち着いて。ライトくんの傷はどれも浅いし、命に関わるような事はないよ。多分魔力を使い過ぎて気絶しているんじゃないかな」
リーンが倒れたライトの傷跡や脈拍を見て、ほっと安心しながらディーネという女の子に優しく教えてあげた。
「ほ、ほんと……ッ!?」
「うん。大丈夫、ライトくんはすぐに目を覚ますよ」
「よ……よかったっ……よかった……っ!」
彼女は地面に涙を落としながら、何度も何度も『よかった』と言ってライトの手を握り締めていた。ライトを失いたくないという気持ちの現れなのだろう。
そんなディーネにリーンとフィーが寄り添って、優しく声掛けを続けてくれていた。
そしてライトのパーティ、残り二人のエルフだが、ライト程では無いものの彼等も怪我をしており、相当に疲弊しているのが見て取れる。
そんな彼等にエドが声を掛けに近付いていった。
「君達も相当な怪我をしている。ここで休んだ方がいい」
「すいません……そう……させて頂きます……」
「う……くっ……」
ティファという女の子の方がもう一人のイスナよりも傷が目立つ。疲弊の度合いもライトの次に大きい。
俺達は四人をその場に寝かせ、傷の手当を始める。元々気を失っていたライトに続いて、ティファイスナ、そしてディーネと眠りに落ちていった。
怪我の手当が終わった時には、四人とも寝息は整っており、魔力切れを起こしたであろうライト以外は直に目を覚ますだろうと結論がでた。
彼等は俺達のクラスの中でも屈指の強さを誇っていた。それでもこんな状態にまで陥ってしまう事態があったというのは、恐らく彼等も魔人と遭遇し戦闘になったのだと思われる。
それは魔人と敵対している学園からしてみても些か無視のできない事態だろう。
それに魔人という存在がここに来たのは、俺が遭遇した魔人の言動から単なる偶然ではないと思う。まだ何をしようとしていたのかは分からないが、確実に何かの意図があってここに来ていたのだろう。
「でも、まさかライトが負けるとはなぁ」
「そうですね。勇者になるという夢を叶える事が出来るくらいの能力は持っていたように思いますし……正直な所、純粋な戦闘能力だったら私では彼には及ばない気がします」
「フィーにそこまで言わせるとは。あいつ絡みはちょっとあれだけど、やっぱり戦闘に関する才能はピカイチなんだな」
別に『そこまでの実力はないんじゃないか?』とは思っていたわけではない。元々、ライトに才能があるのは適正テストを受けた時から知っている。だが、俺にはどれだけの才能があるのかなんて判定出来なかったから、今改めて聞いて感心したのだ。
「この人達みんな」
「大丈夫なの……?」
「彼等は疲れて寝ているだけだ。お前達は心配しなくていい」
「そっか」
「良かった」
双子は悲しげな瞳を横たわる四人に向けていた。やはり心配しなくてもいいと言われても心配してしまうんだろう。
それから俺達は魔力切れで長く眠るであろうライトを除いた三人が目を覚ますまでの間、少しでも疲労回復になればと肉を焼いた。
眠っていた三人が目を覚ましたのは約二〇分後。ティファは何も言わず、イスナは俺達に感謝をし、ディーネは起きてからずっとライトの傍に寄り添っていた。
「ほれ、肉焼いたから食っとけ。腹が減ってたらネガティブ思考になってしまうからな」
俺はそんな三人にそれぞれ串焼きにした肉を届けた。無論、味の保証はする。猪肉をこんがりと焼き、ついさっき取ってきた胡椒のような山椒のようなスパイスを振りかけている。美味しくないわけない。
これを食べれば腹も満たされ、美味しいものを食べれば自然と幸せを感じる。今、どん底にいる三人だったら丁度釣り合いが取れていつもの感じになるんじゃないだろうか。まあそこは俺の希望だから期待してはいないが。
「こんなものまで……何から何までありがとうございます。ティファ、頂こう」
「……ええ。そうね」
「おう! 頂け頂け!」
イスナとティファは少しづつ肉を食べ始めた。言わずもがな、猪肉の美味さに目を見張り黙々と食べていた。
しかし、ディーネの方は違っており、ライトの手を握ったまま離さず、肉には見向きもしなかった。
「私はいい……ライトが起きるまで何も食べない……」
「それでもいいが……もし腹が減ったら遠慮せず食べてくれな?」
「……分かった。そうする」
ディーネはそういうと、ライトの方を見たまま口を開かなくなった。それだけライトのことが心配だということは分かるが、流石にこれは依存という言葉が当てはまるような気がする。
いやまあ、彼等の過去にどんな事があったのかなんて知る由もないからとやかく言うつもりは無いが。でもまあ、ライトがディーネに好かれているのは間違いない。それだけは分かる。
「あの。ごちそうさまでした」
「もし足りないって思ってたら魚も用意できるけど……いる?」
「いえ、僕達はもう大丈夫です」
遠慮したイスナと同様にティファも要らないようだったので、残った魚は何人分かを残してカヤと双子に食べさせてあげた。三人共お腹が空いていたようなので丁度よかった。
それから俺達の方もいい頃合だったので少し食事を取り、腹ごしらえをした。
二~三〇分程で腹ごしらえが終わり、その頃になるとライトが目覚めた。魔力切れで怠そうにしているが、一応話はできるようだった。ディーネは目覚めたライトに抱き着き、ライトもディーネに声を掛けていた。
その後、ライトにも猪肉を食べてもらい、事情を説明してもらうことにした。
「ライト。何があったのか説明してくれるか?」
「あぁ……」
ライトは暗い表情で語った。
「事の発端は爆発音がした時だ。すぐそばにいた俺達は、爆発の原因を探る為に近くまで近付いて茂みに隠れたんだ。だけど……俺達は魔人に見つかってしまったッ! なんとか逃げようとしても魔人の能力で必ず先回りされ、全力で戦っても一方的にやられるだけだったッ! できたのは仲間が受ける傷を肩代わりすることくらいで……何も……何もできなかった……っ」
目の端に涙を見せながらライトはそういった。彼の悔しさは握った拳とその涙が物語っていた。
けれど、俺は悔しく思う必要はないと感じていた。ライトはその時にできる精一杯の事をやった。それを誇らずなんになるというのだろうか。
「……お前すげーよ。そんな絶望的な状況になっても、仲間を守る為に身を呈して行動したんだろ? そんなの誰にでもできる事じゃないと、俺は思う」
「……勇者は常に勝利し、人々に安心と安寧を与える存在でなければならないんだ。こんな所で負けていたら俺は勇者にはなれない」
「ライト……」
俺の励ましも虚しく、ライトの気は深く深く沈んでいく。それだけライトにとって、圧倒的敗北は胸に突き刺さったのだろう。こうなってしまったらライト一人ではもう自信を取り戻すのは無理かもしれない。ライト一人なら。
「ライトはずっと昔から私の……私だけの勇者だよ……あの日私を助けてくれた日から……。だから、わがままかもしれないけど、ライトには勇者でいてほしい……。だって、その方が絶対かっこいいもん……!」
ライトにはディーネというパートナーがついている。ディーネはライトの事を慕い、またライトはディーネに信頼をおいている。そんな関係の二人がここでつまづくわけがない。
「ディーネ…………俺は既に勇者だったんだな……勇者は常に勝利して、みんなに安心を与える存在……なのにこんな所で無様な姿を晒していたら、安心を与えるなんて夢のまた夢だよな」
「……! うん……っ!」
元々ライトは自信に満ち溢れていた。それこそ俺に突っかかって来るくらいには自信家だった。何故俺に突っかかってくるのかは分からないが、相手よりも上へと言う気概は人一倍あったと思っている。
そんな人に支えてくれる人がいるのはほぼ最強と言って差し支えないだろう。そういった意味ではライトはディーネという支えてくれる人がいて、自信があるから最強になれるんじゃないかと思う。
「感動的な所で悪いが、ライト達に少し聞きたいことがある。いいだろうか?」
エドが顎に手を当てながらライト達に声をかけた。エドは何かしら疑問に思っている事があるようだ。
「俺達に話せる事ならなんでも話そう」
「ありがたい。では早速だが、ライト達が遭遇したという魔人の特徴を教えてくれないか」
「分かった。そうだな……二〇歳前後の女で、能力らしきものは恐らく空間操作系。戦闘センスは俺の方が上だったかもしれないが、攻撃を加えようとすると目の前から消えて、死角から反撃を食らっていたからほぼ間違いない」
「そうか……ではライト達が遭遇した魔人は俺達が遭遇した魔人とは別人というわけか……となると、恐らくもう一人魔人が来ていた可能性がある。最悪の場合、クラスメイトの内の誰かは死んでしまっているかもしれない」
今まで考えていなかった可能性にみんながはっとなる。確かに、煙は同時に三箇所上がっていた。それが意味するところは三人が三箇所に散らばり、それぞれ何かしらの爆発物を爆破させたという事だ。
そして、ライト達のように煙の発生地点に向かった者が襲撃される。そういう作戦があったのかもしれない。
「なら、俺はみんなの安全を確認しに行く。もし誰かが死んでいたらちゃんと弔ってやりたい」
「だがライト。お前のパーティメンバーは全員ボロボロ。特にお前はまだ魔力切れの眠りから目覚めたばかり。その上、魔人が残っている可能性があるんだ。今はお前を行かせる訳にはいかない」
「だがそれだと……ッ!」
「お前は勇者としてみんなを守りたいのだろう。しかしな……考えなしに動くのではただ無駄死にするだけだ。無論、俺がお前にとって酷な事を言っているのは分かっている。だが、俺もお前達と関わった手前死なせたくはないんだ。分かってくれ」
「――っ……」
エドはライト達や双子くらいの年齢の子供の為ならなんでもやる男だ。子供達が困っているのであれば救いの手を伸ばし、間違った選択をすればそれを正す。言わば、親のような存在だ。
ライトもエドの言葉が本心から出ているものである事は感じているはずだ。だから反論もせずに静かに下を向いているのだろう。
だが、エドは子供に甘いやつだ。こんなライトを見たら救いの手を差し伸ばすに違いない。
「……はぁ。そう落ち込むな。俺は何も行くなとは言っていない。今は行くなと言っているんだ」
ほらな。これだからエドは甘いと言われるんだ。まあ俺としてはそんなエドの方が友達として好きになれるけどな。
「俺達のクラスメイトは選ばれし冒険者だ。ちょっとやそっとじゃ死ぬことはないだろう。だから今は体力回復に務め、効率良く探すことの出来る計画を立てる。そして明日の朝からクラスメイトを探しに行く。どうだ?」
「……分かった。それに従おう」
ライトはエドの提案に対して首を縦に振った。
という事で、これからしなければならないのはみんなを探すための効果的な手段って事になるが、それはまあなんとかなるような気がしている。
なんてったって、こっちにはなんでもできる最強のカヤがいるからな。
俺はこっそりとカヤにクラスメイトが生きているか確認できるかを聞いてみることにした。
「……カヤ。この森にいる俺達以外のクラスメイトがどれくらい生きているか分かるか?」
『んーと……三〇人かなー?』
「おっ、全員生きてる。ところで、カヤは一体どうやって確認したんだ?」
『なんかね、この森全部を見た時に、すごいもわもわ〜ってしてるところがあって、それが人間なの。動物はピリピリしてるからなんとなく分かるよ』
「んー? そのもわもわって言うのは多分魔力か何かだろうなぁ。流石カヤ。森全体を見れるとか誰にもできないぞ。すごいなー!」
俺はカヤの頭をうりうりと撫でる。満面の笑顔をしているカヤはやはりなんとも言えない可愛さがある。あー、マジ天使だわ。
「それじゃあ話がまとまったところで、少し休憩してから話し合う事にしよう。各自、体を休めるなり、清めるなりしておいてくれ」
エドがそう言ったことで各自休憩をとることになった。エドが仕切ってみんなを引っ張る。正直ありがたい。エドがいなかったらこんなに早く話がまとまってなかったかもしれないしな。
いつも投稿遅くてすいません。これから二週間ほど少しバタバタしていて投稿遅れることもありますがご了承ください。
それともう一つ。本編の合宿ももうそろそろ終わります。もうしばらくお付き合いください。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。