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 遠くから見ている分にはただただきれいなこの少年は、各方面から……特に女性から、とても人気があった。


 高い魔力を持った珍しい全属性使い。キラキラ輝く銀の髪に金色の目。長い睫毛に小さい鼻の整った顔立ち。身長は私と同じくらいだったが、すらりと伸びた手足。成長途中だというのにこの美しさ。


 一体どんなイケメンになるのだろうか、と。どこかの貴族の出だとかで、将来は宮廷魔法師団へ所属し、出世も確実だ、などと。


 自分で言うのも何だが、私も最初の部分だけはベルフィネール・レーアイトと同じなんだけどな……。


 高い魔力を持った珍しい全属性使い。少しクセのある茶色がかったほぼ黒の髪に真っ黒の目。少しばかり大きい目がチャームポイント、……だと思ってはいるが自分だけかも。ややぽってりした唇の所為でバランスが崩れているのかも。日本にいた頃の私に比べたら断然可愛いとは思うのだけれど、この世界、美形が多すぎる。同じ年頃の女子よりは高い身長で可愛げもなく、他に特筆すべき点もない。自分で言っていて虚しくなる。




 ベルフィネール・レーアイトとは関わりたくもないのが正直なところだったが、先生が同じということでそういうわけにもいかなかった。


 ベルフィネール・レーアイト、とフルネームで呼んでいるのにもわけがある。彼の卒業まで、それなりに長い付き合いになりそうだから何か愛称を、と思った私は、初めて会った翌日の、朝の挨拶のついでに「なんて呼んだら良いですか?」と聞いた。話しかけるなと言われていたから返事はないものと思っていたが、すると答えがこうだった。


「ベルフィネール・レーアイト」


 私は大人、大人だから、本人の希望に沿って呼んでいるということだ。それだけだ。

 ああ、腹が立つ。


 終始こんなやりとりなものだから、1週間もしない内になるべく話しかけないでおこうと決めた。そう決めたけれども、授業は先生ひとりにベルフィネール・レーアイトと私の3人だけなのだ。話をしない方が難しい。

 うっかり話しかけてはもう話しかけるものかと思う、その繰り返しだった。




 魔法がみるみる上達したのは、認めたくはないがベルフィネール・レーアイトのお陰でもあった。とにかく腹が立つので対抗心から授業以外でも暇さえあれば勉強した。


 中庭の落ち葉を集めては燃やし、花壇の花には水をやり、片隅の畑の土をひっくり返す。庭師のおじさんにお願いして、そんな作業を全て魔法でした。やりすぎて魔力が切れたのか、めまいを起こして倒れたときにはおじさんに心配かけてしまった。気持ちが悪くて暫く起き上がれなくなってしまったので、それ以降は使う魔法の量を調節するようになった。上手くいかなくて何度も庭師のおじさんの前でひっくり返った。


 図書館にも相変わらず通い、司書の先生と仲良くなった。台を移動させて高いところの本を取り、おりたところでひとまず中身を確認してから席に持って行って読む。本棚の前で中身を確認するだけのつもりが、うっかり読み込んでしまい、しかも見回りに来た司書の先生からは台の視覚になっていたために施錠されてそのまま一晩過ごす羽目になったこともあった。


 授業では魔法の扱い方だけでなく、ポーションの調合の仕方や魔法陣の描き方も習った。素材を集めるために必要な体力を小さい頃から養うために遊びまわっていたのだとか。お絵描きも魔法陣の基礎だったのだと言うけれど、丸三角四角をなぞって描く以外は自由に描いていたからどうも信じられない。


 ユーリ先生は教師のかたわら研究もしていて……、いや逆だ。本業が研究者なのだがそのかたわら複数の属性を扱える生徒を教えていて……そんなユーリ先生が言った。


「魔力切れの状態って知ってるかな。すごく気分が悪くて暫く起き上がれなくなっちゃうんだけど……その状態までしっかり魔力を使うと、翌日魔力量が微増するみたいなんだ」


 その後至るところでひっくり返っている私が目撃されたのは言うまでもない。





 目立つベルフィネール・レーアイトのそばにいることが必然的に多かったため、無視をされたり悪口を言われたりと一部の生徒からの当たりは強くなった。

 その中で、貴族のお嬢様方から頻繁に言葉遣いがどうこうというものも聞こえた。あまりにうるさいので、面倒くさくなって面白半分でそれっぽく直したりもしてみた。ですわ、とか、そういう感じの。


 10歳になる頃には、ベルフィネール・レーアイトとも打ち解けた。

 会話をすれば腹の立つ反応しかしないのは相変わらずだったが、全く変わらなかった表情から笑みが浮かぶこともあった。それは、ーー私が転んだり、魔法で前髪を焦がしたり、調合の順番を間違えて小さな爆発をさせたときに驚いてしりもちをついたりーー。


 撤回する、ベルフィネール・レーアイトとは打ち解けてはいない。


 打ち解けてはいないが、良きライバル、と呼んでも良い関係にはなっていたのだろうと少なくとも私は思っている。ただ憎らしく、蹴落としてやりたい存在だったものが不思議だけれど、共に学んでいく間に情が湧いたとでもいう感じだろう。

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