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いやな予感というのは当たってしまうもので、その日から一部の生徒たちからは無視をされたり、すれ違いざまに悪口を言われるようになった。
この世界でもあるのか、いじめ。
この一部の、ほんの一部の生徒からのくだらない嫌がらせは長く続いた。とはいえ、こちとら生まれたときから大人なのでたいしたダメージはなかった。
大抵の生徒とは挨拶程度の浅い付き合いはあったし、そもそもヒソヒソと固まってこちらを見ながら何事かを言ったりすれ違いざまに言う程度であったので、たいして気にならなかった。大多数から完全に無視されたわけではない。さすがにそれは耐えられる気がしない。
春からは弟、カイの入学が決まっていた。2〜3年に1度しか検査に回ってこられないため、遅い入学になってしまったことを役人から嘆かれたほど優秀だったそうだ。私の弟だもの、当然だよ。
適性が私とは違う神官だったため、残念ながら同じ学校ではなかったけれど、弟が頑張ろうとしているところなのだと思うとやる気が出て、自由時間にも図書館へ通い本を読んだ。
この頃私の魔法使いとしての詳しい特性がわかってきた。ほとんどの魔法使いがひとつの属性に特化している中、なんと私は全ての属性を使うことが出来たのだ。
……転生者はチート持ち、と元の世界にいたときに妹に勧められて読んだ小説に書いてあったなぁ……。
チートって何?と聞く私にそんなことも知らないの?と得意げな顔で教えてくれたのだ。お姉ちゃんに教えられることがあって嬉しい、なんて言っていたけれど、そんなにすごい人間じゃなかったんだよ、私。
3年生の春、担当の先生につくことになった。
2年生までは教室に20人くらいの生徒がいてそこで先生が授業をしてくれていたが、3年生からは優秀な生徒は担当の先生の部屋でより専門的なことを教わることになる。……自分で優秀な生徒なんて言ってしまって恥ずかしいが、そういう説明だったのだ。教室へ行くことがほとんどなくなったため、面倒くさい生徒と顔を合わせることもほぼなくなった。
私の先生は、3つの属性が使える先生だった。この学校に3属性が使える先生は1人しかいないらしい。
「はじめまして。ティミューキ・ツァーリです。よろしくお願いします」
授業で学んだ通りに制服のスカートをつまんで礼をする。
「はい、はじめまして。ユーリと言います。よろしくね」
そう言ってふんわりと微笑む先生は、腰ほどまである明るい緑の髪をゆるく後ろで一つにまとめていた。20代後半くらいだろうか、ゆるふわ系の男の先生だ。
「それでこっちが……ほら、出て来てあいさつして」
続けて、ついたての向こう側から1人の少年を引っ張って来る。
「君と一緒で全属性が使える、ひとつ年上の先輩だよ」
紹介されたその少年は、キラキラと輝く銀の髪に、切れ長の金色の目、誰が見ても整った顔をしていた。きれいな子だ。素直にそう思ったのだが。
「はじめまして。ティミューキ・ツァーリです。よろしくお願いします」
ユーリ先生にしたものと同じあいさつをした私に彼は言った。
「……俺より強いやつとしか話す気はない。話しかけるな」
最悪な出会いだった。
以来卒業まで、私はこの少年、ベルフィネール・レーアイトーーあとで先生から教えて貰ったーーよりも強くなろうと必死で勉強するのだった。