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金色の希少種さん  作者: 遊楽
らぶレター
4/5

【4】

「どういうこと!?」


わたしは驚きを隠しきれずに声を出した。


「どうもこうもそのままの意味だよ」

「リサ、誰だったんだ?」

「お前にはまだ教えられねーよ」


よーちゃんはぞんざいに扱われて拗ねたのか、明らかにふてくされた。


「いったい何でわかったの?」


この紙を配ることにそれほどの意味があったのかとわたしは少し考えた。

書いてもらった紙からわかることはたかがしれている。まずは分の内容、次に文字の筆跡くらいだろうか。数名に関しては名前を書くふとどきものはいたものの、それも関係あるのだろうか。


「知りたいか、みゆ。それはようすけが見れば誰から書かれていたかわかる関係性ってことだ」


頭の固いわたしは疑問符が浮き出ていたことだと思う。


「まず今回の件でおかしいところはなんだ?」

「それは手紙が手書きではないことと、よーちゃんに対する名前が変わっていること」

「そうだ。それが意味することを考えてみろ。なぜ差出人はそうしたのか、そうせざるをえなかったのか」


わたしは再び考えた。手書きではない理由としては筆跡を知られないためだが、実際のところ宛先によーちゃんの名前を書いている。それだけでバレる可能性はないわけではない。ただ、リサ曰く筆跡はまったく関係ないとのこと。


「一応聞いてもいい? どうして筆跡は関係ないの?」

「その理由はただのカモフラージュだからだよ。そのカモフラージュを使う理由が手書きではないことにつながる」

「なにを騙すの? すでにこの文字自体が意図して変えているというわけ?」

「違う。その文字はいつもの書き慣れた字に違いないはずだ。みゆは大きな勘違いをしているんだって」


リサは適当な紙を手にすると「受け取ってください」などと変な小芝居をしてわたしに渡す。


わたしは意味がわからず、それを無言で受け取る。

これが意味することはなんだ?

「……」数秒の沈黙が流れた時、ようやくわたしの中にせつなのような閃きが走る。


「ようやくわかったようだな、みゆ。たく頭が堅すぎるんだよ」

「手紙を渡す行為には絶対異性同士ではないといけないことはないんだ。ましてやこんなパチモンみたいなラブレター、いや、実際にはまったく心がこもってないただの紙」


いや、わたしには理解できないパターンの可能性も捨てきれないと脳裏をめぐり、フォローも入れておく。


「なのか……本当に心がこもってたり?」

リサは満足げに微笑む。


「ご名答。そこまでわかればみゆでもあとは理詰めでいけるはずだよ」

「まずこのパチレター……、もういいや。どう考えてパチレターだし。それが手書きではない理由は汚い字をみられたくなかったから。それだけで女の子からの手紙ではないとバレるかもしれないと。それでもレターパックには宛名を書かないと誰に当てたものかわかりづらい。実際は書かなくても中を見ればわかることだけど、そこはきっと信憑性を出すために誰か女性に可愛らしく書いてもらったのね。だから筆跡はなんの意味もなさない、だって女の子から差し出されたものだとカモフラージュするためだから。そうよねリサ」


わたしの視線に答えるように何度も頷く。


「そこでズレが生まれた。レターパックにはようすけと書いているのに便箋にはよーすけと書かれた名前の違い。どちらも意味として大した違いはないけど、そこには大きな違いがある。それがよーちゃんとその人との関係性の違い。レターパックの人は正しい名前を書いたが、パチレターの人はいつも言い慣れている言葉をそのまま入力した」

「その通りだみゆ。こいつも言わばアホだ。この名前の違いに気づいてはいただろうが、こんな些細なこと別にいいかと適当な判断をくだしたんだろう。それが結果として読めば自分という人物を浮き上がらせた」


リサはパチレターを開き見つめる。


「女の子からとして読めば誰だかわからない。でも男からとなれば呼ばれ方ですぐに気づける場合がある。わたしが美海のことをみゆと言うように、そう呼ぶ人が限られていればなおさらな」

「だからあれは友達探しだったんだね」


クラスメートに渡した数ある手紙のうち『よーすけ』と書かれた紙は一枚しかなかったとリサは言い、内容や筆跡からに男性で間違いないようだ。

こうなった以上、容疑者は突如として現れた一人となった。なぜこんなことをしたのかわからない、いや多分わかる。よーちゃんに対する嫌がらせに違いないはずだ。

女子同士がこの出来事を機に揉めだし、それにあたふたする姿を見たかったのだろう。だが本人はすぐさま匙を投げてことの成り行きを見守っていたが。


「えっ、男なの?」


よーちゃんはそのまま固まり、わたしたちは無言で頷いた。

しばらくして辺りを警戒するように見渡したかと思えば、再びフリーズしてわたしの目を見る。いたたまれないわたしは微笑むことくらいしかできない。

本人からすれば予想外の結末だろう。まさかラブレターの差出人が女の子ではないなんて。事情を知らないよーちゃんからすると、今は恐怖と気持ち悪さでいっぱいなんだと思う。

今までわたしたちの話を耳を済まして聞いていたのか、朝日奈さんは見計らっていたように「どういうこと?」とこちらに説明を求めてきた。


「朝日奈さん、今回の件女子はまったく関係ないから、ここらへんで終わりにしましょ。正直どうすればいいかわからなくて困ってる」


わたしは思っていることをありのまま伝えた。


「女子ではないならいいのだけど……いいの?」

「考えちゃダメ。いいの。大丈夫。スルーする気持ちが大切なのよ。だって女子ではないから」


ここで終了にしてくれ、これ以上面倒ごとにされてたまるか。


「わかったわ」そう言うとクラスメイトにラブレターの件はもう終わったのだと話した。

中には誰だったのか知りたそうにしていた人がいたが、しばらくすれば男性からだったと噂で伝わるだろう。


「それで誰なの?」


わたしの耳元でこっそりと教えて欲しいと言われたが、プライバシーにかかわると黙秘することにした。


「いたずらだ。あとでこいつに迷惑かけんなと言っておくさ。なんたって一番迷惑かけられたのはわたしたちだからな」


リサの言葉に朝日奈さんはなんとも言えなさそうな表情で戻っていった。

いたずらと言う言葉に反応したのか、よーちゃんはすぐに尋ねてきた。


「いたずら? だよな。そうだと思ったよ。もう少しで不登校になろうと決めるところだった。ちなみにいたずらしたやつは誰なんだ」


安心したかと思えば、軽く怒り出している。

リサは伝えられないといい、「友達だって嫉妬したりするさ。特にお前ならなおさらな。許してやれ」

てか、わたしたちの会話を聞いててもわからないなんて、やっぱりバカだなと、わたしとリサは笑いあった。

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