【3】
四時間目。リサは何故持っていたのかわからないが、授業中にも関わらずライターで手紙をあぶり出していた。わたしの考えを実行してくれてのことだろうが、今やるべきではないと唖然とした。彼女はいつでも自由奔放なのだ、だから頭は良くてもよく叱られる。それは今回に限ったことではない。
「いいだろべつに」と教師に反論するリサ。その様子は全くと言っていいほど悪びれるつもりはない。何故だめなのだと逆に問うている程に。
「いいわけないだろ。常識を考えろ。授業中にライターで遊ぶとかお前くらいしかおらんわ」
全くごもっともな言葉にリサはキリッとした表情で、
「いや違うぜ先生。十人くらいはいるぜ」
『そういう問題じゃない』と先生は声にして言ったが、わたしを含めるクラスメイトのみんなが心でそう思ったことだろう。
今ついでに説明させてもらうと、我が校は金髪やロングヘアーは禁止である。大抵の学校は普通そうだと思う。にも関わらず何故リサがその金髪&ロングヘアーなのか……。彼女は小学生だったときは綺麗な黒髪のロングだった。ただ中学生になるにあたって髪を切らなければいけないところ、一ミリも切らずに金髪に染めて「みゆどう? 似合ってる?」とそれはそれは楽しそうにはしゃいでおられました。わたしや親の忠告を全く聞きやしないリサはもちろんそのまま学校に行くわけですが、当たり前の如く入学当日に複数の先生達に囲まれ怒られるわけです。そこで黒髪に戻し、規定の長さまで切るように言われた彼女は隣にいたわたしにハサミを要求しました。なんであのときちょうど持っていたのか今では憶えていませんが、カバンをあさり発見したわたしは多少ばかりの疑問を抱きつつ渡しました。次の瞬間、リサは手を後ろに回すとバッサバッサと自慢の金髪を地面に舞わせ、わたしの気が確かになる頃にはいびつなショートヘアーへと変貌していました。
その出来事に先生達はみな絶句。もちろんわたしも。しばらく沈黙が流れた末、「これで満足か?」と堂々としたおもたちでリサは返事を聞くことなく自分のクラスに向かいました。一人だけ「き、き、きんぱつは……」とかすれた声で呼び止めようとしましたが、結局それ以降金髪はダメとリサの耳に聞かされることはありませんでした。
そのまま髪は伸び、今に至るわけです。リサは個性を殺さない、自由奔放な、世界に十人程度の希少種というわけです。
とにもかくにもそんなリサは給食の食事を素早く食べ終えて、同じく早食いを強いられたわたしのもとへとやってきた。
「たく、あの糞教師は頭が固すぎるんだよ。思い出すだけで腹が立つし」
どうやらまだ怒っているようだ。さっきの件についての反省文を命じられていたためわからないでもないが、その程度は当たり前に思えるし、その程度で終わってよかったねと言わざるをえない。
「そう言うならお前の頭は豆腐並に柔らかすぎるだけだな」と、ちぎったコッペパンを口に運ぶよーちゃんは食べながらに言った。
わたしも同感だと伝えようとしたが、リサは威圧の声と共によーちゃんを睨みつけた。そのためわたしは出かけた声をすぐに押し殺す。
「あれだ、ほめ言葉だって。頭がいい=柔らかいだろ、たしか。っな美海」
助けてくれと言わんばかりのバトンを差し出されたので仕方がなしで協力してあげる。もう少しでわたしもそちら側にいたよしみでの好意だ。
「実際リサは頭が柔らかいよ。言い回せたよーちゃんを誉めてあげなきゃ」
どうやらあまり納得のいかない様子。
「でも豆腐並ってバカにしてないか?」
「ん? オレ今けなされてる?」
わたしは手をパンッと両手で合わして話の終わりを告げる。そしてすぐに「リサ? さっき配った紙はなんのためなの?」と話題を逸らした。
強引かと思われたけど、それはうまくいったようだ。
「あぁそれな。ちゃんと全部集まったか?」
わたしは頷く。
この配った紙とは四時間目に私がノートを破って作り上げた紙のことだ。
お昼休憩に入るとリサはすぐにクラスメイトへその紙を渡した。
そのままの足で教壇に立つと、
「今渡した紙にようすけについてのメッセージを書いて欲しい。内容はなんでもいい。みゆを例にしてをあげるなら美海へ、好きですってな感じでな」
「ちょっ……」
何故わたしが急に変な例題にされたのだと反応してしまった。リサはそんなわたしの反応を見て笑うと話を続け。
「簡単に言うとまずはみんな平等に戻そうといった救済処置だ。これなら抜け駆けなんてことはないだろ、チャンスを生かすかどうかは自分次第って訳になる。ただ一つだけ条件がある。名前は書かないでくれよ、ようすけが困るだけだ。恋路の進展はゆるさない、これはみんなを平等に戻すための救済処置にすぎないからな。男子陣についてはつき合わせて申し訳ないが、同じように適当に書いて楽しんでくれ」
この出来事で女子達の目つきが変わったのは言うまでもない。
食事中にクラスのみんなに書いてもらい、集め終えて今にいたるわけだ。
「みゆ、とりあえず不正を探すぞ」
「不正?」
「そうだ。書いてはいけないからって全員が本当にそれに従うとは限らないからな」
「確かにそうだね。リサが言うと説得力があるよ」
わたしの言葉にリサは不思議そうな表情をのぞかせた。
そんな顔をされても困るのだけど、自分が学校のルールに全然従っていないことに気づいていなのだろうか。けど今はそんなことで話を伸ばしている場合ではない。
私たちは公平をきすために手紙一つ一つを確認していった。結果、五名の不正者を発見するにいたる。まったく侮れない人たちだ。幸い名前の部分はどれもこれも最後に書かれていたため、そこをちぎり取ることによりすべてが公平に保たれた。
しかし女性陣はここぞとばかりに気持ちを伝えようとする人が多かった。一言ではなく、びっしり大量の文章を書いていたのだ。そこで賢い人は文面を読めばなんとなく誰だかわかるのでないのかというように書いていた。
監査員であるわたしはこれをリサにアウトではないかと直訴しましたが、「名前は書いてないだろ、内容は自由なんだからそれはセーフ。チャンスをしっかりとものにしたにすぎないさ」とは言ったものの、墓石を見るような悲しそうな顔で「はたしてあいつは気づけるのかどうか……」
わたしはこの長文たちが『好き』の一言と同然でしかないことを理解し、これ以上見ていられなくなったので、そっと閉じた。
「ただ寂しいな。ようすけクラブのせいかみんなそこまで親しくなれてないみたいだな」
「だね。でもそれがどうかしたの?」
「だってお前を除けば女子で親しい呼び方をしているのはすーくんの二名程度。仕方がないからわたしもよっちゃんとでも言ってやろうか」
「なんかイカみたいだね」
「それはイカに失礼だろ」
イカの種類であるヤリさんは横を刺してきた。
「お二人さん、オレに失礼とは思わないのか」
「ちっとも」
わたしたち二人は息が合ったようにそう答えた。そして、息があっていたのはそれだけではなかったようであった。
「次に女子と男子と思えるものを分けるぞ」
目的は差出人を探すにあたって関係のない男子を省くためだろう。わたしはどうやってわかるのかと言おうと思ったが、字を見れば案外難しいことはなかった。
男子は雑な字ばかりだが、女子の字は比較的綺麗であり、文字に丸みを帯びていたりと女の子らしい特徴があった。
「こっちは終わったよ。筆跡であたりをつけるんだよね」
リサもわたしのあとに続くように分け終わると「うん? 一応な。でもこちらの意図を読まれて変えられていたら無意味に終わるけどな」そんな危惧をしている。
確かに筆跡を見るつもりなのではないかと、警戒されても仕方がないほどわかりやすい行動である。ただ、こちらの意図がバレていなければ問題はない。
「このクラスは綺麗な字のやつが多いんだな」
分けた束は概ね三十対十といったところ。はたしてここの男子は習字でも習っているだろうか。いいことではあるが今回は少しばかり迷惑だった。なにせ字を見比べる数が増えたではないか。
リサはレターパックをわたしに渡すと近しい文字がないか探してほしいとお願いしてきた。もちろんかまわないことだがその間リサはなにをするのかと思えば、残りの十枚を見て笑っていた。手伝ってとまでは言わないけれども、納得はいかない。
「終わったよ」
選別にそれほど時間はかからなかった。そしてわたしの目から見るに近しい文字は三人しかいなかった。だけどピンポイントでこれだという字はなかったためこちらの思惑がバレた可能性がある。
「ちょっと厳しいかも」
わたしは三枚を渡しながらそう告げる。
リサはすべてに目を通すと私に言った。
「大丈夫。はなからあてにしてないから」
わたしは驚き、すぐに唖然とする。
「だって考えてみろ、そっくりの字があったって誰が書いたかわからないんだから」
ならなんのためにこれをおこなったのか。そして、なら分ける必要がないのではないでしょうか、リサーーー。
「なら、いたいなんのためにしたのこれ!?」
不満たらたらだったはずのわたしに、リサは何も言わずにニヤリと白い歯をあらわにする。
「友達探し」、リサはそう言った。
意味がわからなかった。うん、わからない。よーちゃんの友達を探していったいなにを知りたいのかこんにゃくなみの固さであるわたしには理解できない。
そんなわたしをよそ目に「不要になった手紙をちゃんと届けないとな」と言って、監視の目をくぐり抜けた不要扱いの紙たちはついによーちゃんのもとへとたどり着いた。
「おまちかねのラブレターだ。学校一のイケメンは違うねー」
「うるさい」
すでに食べ終えていたよーちゃんは嫌味に対抗するかのように力強く取り寄せて、一つ一つ四つ折りにされた紙を開き内容を読んでいった。
実は今回の件を嫌そうにしていたのだが、ちゃんと見るあたり、実は楽しみにしていたのではなかろうかと感じさせられた。
よーちゃんが次々と拝見している過程でなんどか反応する部分がある。
覗けばだいたいが男子からのふざけた内容で、きっと読めばそれが誰からあてられたものかわかっているのだろう。湯原ーとか、神崎てめーとか、てつ覚えとけよーとかもう色々。きっとその内容でリサは笑っていたのであろう。
そしてすべてを見終えたあと、よーちゃんはわたしたちに何を言うのかと思えばいきなり文句を言ってきた。
「わざわざ口裏合わせてまで食いたいか」
なんのことか身に覚えがないと思えたので真意を尋ねた。
「二人してスイーツ追加ねって、飯だけで十分だろ」
どうやら名無しの手紙でもバレバレのようだった。それは筆跡だとかそんなことは関係なく、見ただけでわたしたちからとわかるものだったのだろう。さっきの彼らと同じように。
「なにを言う、あれは前報酬にすぎない。成功報酬はまた別だ。最後まで聞いて確認しなかったお前が悪い」
「と、所長が申しております」
「話が違う」
「人とは騙していく生き物なんですよ、よーちゃん。天使のようなわたしたちでも内には悪魔が潜んでいたりもするの。いくらダイエット中でも甘いものが食べたいと――」
「ホント悲しい生物だな。でもわたしたちはそんな悲しい生物だ、ならば醜くともその通りに生きていこうではないか」
そんなわたしたちのくだらない小劇場も効果がなかったのか、一言で一蹴りされる。
「もう飯すらなしな」
それは困ると所長を見たわたしに対して、安心しろと言わんばかりの満面の笑みが向けられた。スイーツをものとする次なる手がなにかあるのだろう。
「まーまー落ち着けって」そのままリサは続けた。
「もう差出人はわかった。あとはそれをどうするか……だな」
それは考えてもいなかった、突然のわかった発言だった。




