昔話2
父さんと話をした次の日、父さんは城の謁見の間に主要幹部を集めた。そこで、俺たち二人が一年ずつ国務を行う事を伝えた。幹部たちの反応は否定的な物が多かったが、父さんはそれらを一喝した。
「お前たちの気持ちも分かる、だがこれは必要な事なのだ。もし何かあればお前たちが支えてやれば良かろう。その為にお前たちはいるのだからな。」
父さんの言葉を受け幹部たちは、感銘を受けた様で各々が父さんの期待に応えようとしていた。
俺はそんな父さんの王としての資質を誇らしく思っていたし、やるのなら父さんの様な周りから信頼される王になろうと決意を新たにした。そんな事を考えていると
「まず、始めに国務を勤めるのは第一王子であるモルタナトスだ。モルタナトス前へ出て皆に挨拶をせよ。これから一年間世話になるのだからな。」
父さんに紹介され兄さんが前へ出て軽く皆に挨拶を済ませ、その流れで俺を紹介し二日後から兄さんが国務を務めることが決まった。
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それから二日後兄さんの指揮の下国が動き始めた。兄さんの政治は最初の頃はうまく回っていたと思う。けれど、近隣諸国の中で最大級の大きさを誇るスペール王国に行ってからは、何かと理由を付けて税を上げる様になった。まだ始めの内は、そこまで高くしていなかったが次第に、最初の5倍以上にまで上がっていった。当然、国民からの不満も溜まっていった。
そんな中、兄さんは自分の身を飾り立てたり、スペール王国に向けて贈り物を送ることが増えていった。兄さんの変わりように周りの人たちは、父の期待に応えようと、兄さんを元に戻そうと奮闘していたが次第に、兄さんからの誘惑に負けるものが出てきた。中にはそうならなかった者もいたが、そういった者たちは皆解任され兄さんの指示に確実に従う人員と入れ替って行った。父さんは特に口出しすることも無く、ただ見守っていた。
俺は俺で兄さんの変わりように戸惑っていた。兄さんの政治が変わらず安定したものであったなら、俺は自身の研究で分かったと事を参考に考えた計画を実行する予定だった。けれど兄さんの政治が狂い出した今、まず先に国内の安定を図り兄さんが変わってしまった原因を突き詰めて、何か問題があった場合は解決しなければならなくなってしまった。なので、一先ずは解任させられた元幹部たちの元を回って事情を聞くことにした。
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あれから六ヶ月経った今でも兄の政治は元に戻ることなく進んでいた。俺は、元幹部たちを探し出し声を掛けて回った。
結果、兄はスペール王国の第一王女に求婚し振られたのが原因だと分かった。
初めてその話を聞いた時は耳を疑ったが、兄さんは自身の顔に絶対の自信を持っており、尚且つプライドの高い人だったと思い直す事にした。実際、顔は整っているので、近隣諸国でもそれなりに有名だと幹部たちは語っていた。そんな兄さんを振った王女に少し興味が湧いたが、兄さんと一緒にスペール王国に行った幹部から知らされた事に頭を抱えたくなった。
兄さんは王女に振られた後に、王女に対して不敬な態度を取ったとされ、国際問題になりかねたらしいのだ。そんな問題を放置したまま、兄さんは今まで政務もせずに王女を振り向かせようと日々努力しているらしい。そのせいで、国民からの不満はそろそろ抑えきれ無くなって来ているという話だ、これではいつ滅びても不思議では無いそんな状況が三ヶ月続き何とか一年が経ち俺が国務を仕切る時が来た。
正直、まだ国が残っているのは奇跡に近い状況だ。ここから立て直すのはかなり骨がいるが、できないことは無いだろうと思う。あれから三ヶ月の間今後のことを考え計画を立て直す事がてきた。後は実行するだけ、かなり面倒だがやらなければこの国が滅びてしまうそれだけは回避しなければならないと思っていた。
その為に俺はまず、税を必要最低限にまで下げ国の方から税を払えなかった国民を奴隷から出来るだけ解放し、仕事を与えるなどの対策を取った。他にもあの手この手で何とか安定してきた、同時に農業改革も行った。今までの者から自身の研究結果からわかった最善策を幹部に伝え、作物を作らせた。
ここでもまた問題が発生した。始めの内はまだ不満がある物の言われた事には応じてくれていたが、徐々に命令に従わない者が現れ始めた。大方兄さんに言われて居るのだろうが、この忙しい時期に余計なお荷物を抱えるのは得策ではないと考えた俺は、逆らった者たちを全て外し新たに、元幹部たちの中で俺に忠誠を誓ってくれる者達を厳選して人につかせた。その中に一人農家代表を一名加えて俺の家臣が正式に決まった。
完全にとは行かないまでも国民からの信頼をある程度取り戻した頃、スペール王国に向けて使者を送り謝罪する事になった。
それから二週間後にスペール王国へ出発した。
スペール王国に着いた俺は、さっそく国王との謁見を行うことになった。
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謁見の間に着くと、少し遅れてスペール王国国王ベルスラグナ・スペラールが入って来た。その姿からは、父さんの放つ覇気に似たものが感じられた。ベルスラグナ国王は周りを見渡し、一瞬俺に視線を止めたが直ぐにまた、視線を動かし最後に俺の所で止めたまま
「面を上げよ」
と一言口にした。それはそれほど大きいものでは無かったが広間全体にまで届いていた。父さんも同じような事が出来ていた事を考えるに、王の座に着くと皆できるのかもしれないが少なくとも、俺にはできる気がしなかった。やはり俺には向いていないと辟易しながらも表に出さないように軽く挨拶をした。
「お会いできて光栄でございます、ベルスラグナ国王陛下、私は、モートス国第二王子レイア・レ・アフラと申します。」
国王は軽く頷きながら俺を観察し出した一通り見終えると俺の目を見て話し始めた。
「そなたがゼクスの息子か・・・その髪といいあまり似ておらぬな。本当に彼奴の息子なのか疑ってしまうほどだ。」
確に俺は父さんにも母さんにも似ていなと周りからよく言われるしその自覚もあるが二人はれっきとした俺の親なのだ。ここは、はっきり言わなくては二人の息子として恥ずかしい。俺は言いたいことは言いつつも不敬にならないよう気おつけながらも、発言した。
「よく周りからも言われますが、私は確に彼らの血を引くものです。この髪と目は、父曰く先祖帰りだそうです。」
そこまで疑っていなかったのか俺の言い分聞いて「そうか」と一言呟いた後、
「疑ってすまなかったな。まさか、同時期に二人目が現れるなどと思わなかったのだよ。」
王のその一言は俺からしても予想外の事であった。同時に興味深い事でもあった。何せ俺と同じような者は俺の国には存在せず、同じ先祖返りに対して興味が湧くのは仕方の無いことだった。
「無礼を承知でお尋ねします、陛下が私ごときに謝るのは些か、よろしくないのでは無いですか。」
取り敢えず、先祖返りの件は後で詳しく聞くと決めた俺は陛下との謁見を無事に終えられるようにする事にした。
「気にするでない、これは自身に課した誓約の様なものだ。皆もこの事は分かっておる。」
「これは失礼しました。まさか、そのような決め事をしていたとは知らず余計なことを言いってしまい申し訳ありません。」
ベルスラグナ陛下の以外な誓約に内心驚きつつもそういう事かと納得していた一方で、このままでは話が一向に進まない気がしてきていた。そんな時、陛下が切り出してきた。
「そんな事よりも其方はもう一人の先祖返りについて気にならぬのか。」
俺が先程後回しにしようと決めた事だか相手側から振ってきたことなので乗ることにした。
「勿論気になになっていましたが、これは私個人が知りたいと思うことなので後程聞こうかと思っていた次第です。」
「そうかそうか、やはり気になるか・・・其方が望むのなら合わせてやっても良いぞ。」
陛下の方から願ってもない申し出に何か裏があるのではないかと疑いそうになったが、考えてみれば、俺の国は特に何かある訳でもない小国なので、ただの考えすぎだと思い直すことにした。
「それは真ですか!合わせて頂けるのであれば是非合わせていただきたい。」
俺は素直に会いたいと陛下に伝えた。
「そう言うと思っていたよ。ならば合わせてやろう入って参れ。」
随分と準備がいいなと思いながらも、俺と同じ先祖返りに会えるということで少しばかり気分が上がっていた俺は、入って来た人物に目を奪われてしまった。
その人物は俺と同じ黒髪を腰の辺りまで伸ばしている美しい女性であった。身長はそれほど高くなく160位であったがそのスタイルは出る所はしっかり出ているのに、引っ込むところはしっかり引っ込んでいるという理想を体現したかのようなものだった。それは容姿に関しても言える事で、愛くるしい瞳に桜色をした唇、化粧っ気の無い肌など絶世の美女という言葉がしっくりくるような女性だった。
俺は自分と同じ先祖返りだといつ彼女に見とれてしまっていた。そんな俺に構うことはなく陛下は彼女の紹介を始めた。
それは予想外の事実だった。
「紹介しよう、この者はキリシア・スペラール余の娘だ。」
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この出会いが俺の人生を破滅への道へと決定づけた。