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第五話 修羅場、襲来(たぶん)

修羅場になるのだろうか。

 前回の復習、自分の名前を忘れていたことに気がついた私は夫に仮の名前をつけてもらいまして、その後、夫の母親が登場。修羅場に発展してしまうフラグが乱立しているという状況。そのフラグは回収したくない・・・・・・! なんとしても回避するのだ。


 そんな感じで、第五話です。

 

 何を言われるのだろう。恐ろしさで手汗とかいろんな汗がどっと吹き出す。

 その人は私の顔をじっと見ながら考えている。そんなにじろじろ見ないでいただきたい。顔に何かついているとか、していない、はず。


 この後修羅場展開になるとしたら……。


 義母登場。愛する息子に見知らぬ女が(in the bed)。

「誰よ、その女」

 私は答えようとするが、義母の怒鳴り声にかき消される。

「この、泥棒猫!」

 彼はすぐに反論しようとする。

「母さん!」

 しかし、その反論も怒鳴り声にかき消されるのである。

「私たちの財産を狙っているのよ! この女は!」

「そんな! 狙ってなんか……!」

 やっとのことで反論する。しかし……。

「嘘よ! ならどうしてあなたのような身分のひく~いいやらしい女がここにいるのよ! 私の息子がこんな汚らしい女を連れてくるわけないでしょう?」


 韓ドラとか、昼ドラとかでお馴染みの奥様方の大好きなこの展開。私は嫌いだ。奥様でも、マダムでもないもの。しかし、このような展開になることは覚悟している。なぜなら、こんな貴族みたいな場所にいるのだ。ありえますよ、修羅場。

 うわー怖い、怖いよー。助けて。


 嫌な汗が流れる中、夫の母親は意外な言葉を放ったのであった。

 

「あなたが選んだのでしょう? 間違いはないはずよ」

「へ?」

「それにしても、あまり見ない子を連れてきたのね? あなた名前は?」

「あの……えっと」

「母様、その子は自分の名前を忘れているのです。僕も信じられなかったのですが、思い出せないらしく、仮ですが僕が名前をつけました」

「へぇ、記憶喪失?」

「い、いえ。記憶はあるのですが……名前だけ思い出せなくて」

「あらあら、かわいそうに。それで、この子にはなんて名前を?」

「アリスです。かわいらしい名前でしょう? 童話に出てきた、不思議な娘の名前です」

「あなたはあの童話が昔から大好きですものね。気に入ったわ、アリス。私のアーロンをよろしくね。私の自慢の息子なの」

「……はい!」

 童話の娘の名前。不思議の国のアリスのことだろうか。確かに、この状況によく似ているような気がするが、気のせいだろう。アリスは物語の中で冒険はするけれども、結婚はしていない。そもそも気持ち悪い顔のついた卵の割れるところを見ていないし(あくまでも私が見た絵ではそう見えた)どこにでも現れる歯がきれいに整っている猫とかトランプがお城で仕えている風景も見ていない訳だから、似ている、似ていない以前にそんな世界ではないという結論でどうでしょう。

 とにかく、修羅場展開フラグを回収しないでよかったとしみじみ思う。回収していたら、私のお豆腐のような柔らかメンタルが一瞬にして破壊されてしまう。破壊というより、爆発する。リア充になった洗礼だ。リア充爆発しろ、が現実になるところだった。危ないところで逃れることができた私、すごい。

 そうして、夫の母親は去っていった。

「よかった……」

 何事もなくて、修羅場展開にもならなくて、本当に良かった。

「何を心配していたの? 僕は君が母様に認められることはすぐにわかったのに」

「えぇ!? そんな……」

「母様はね、美しいものや若いものが好きなんです。あなたは、美しい。だから母様も認めたのでしょう。ふふ、これで君は正式に僕のものになるんだ。披露宴はいつあげようか。君のことはみんなには見せたくないのだけれども、一回くらいは許してあげようかな。僕を羨めばいい」

「ひ、ひろうえん」

「ん? 嫌? 嫌ならやらないけれど」

「嫌ではないけれども……」

「なら、何がひっかかるの?」

「ドレスとか、お金がたくさんかかることですし、気が引けるというか」

「お金のことなら気にしないで、だって生きているうちで一回だけのことだよ。別に一回じゃなくてもいいんだけど。母様は何回かしているし……」

「え、何回かって……」

「うん。別の人たちとね」

「状況がよく理解できないのですが」

「簡単に説明すると、一妻多夫って感じだね」

「いっさいたふ……」

 一人の妻に対して、たくさんの夫。この世界、大丈夫なのだろうか。子供の親問題が深刻そうだ。

「え? そんな驚くものかな? この国では普通だよ」

 そもそも男は、女よりも若干多く生まれるそうだ。それは男が弱いからだとか聞いたことがある。男の方が多いなら、女が余るなんてことは少ないはずなのに、実際余っていた私は魅力がなかったのだろう。この国は、男を無駄にしない仕組みを組んでいるのか、素晴らしい。

「慣れないとダメですか?」

「そうだね。でも、ゆっくりでいいよ。君のペースで。ゆっくり。もっとも、君が他の男とも結婚したいなんて言ったら、許さないけどね」


 いやあ、素晴らしいなこの国。私の大好きなヤンデレ属性がいるなんてね。いいよ、そういうの大好きだよ。もっとください。お願いします! しかし、実際言われてみると返答に困る。乙女ゲームの主人公ちゃんはよく切り抜けていると思う。尊敬しかできない。即座の返答ができる、女になりたかった。優柔不断では、やっていけなくなる気がする。この際、欲望に素直になってみようか。いや、なりたくない。幻滅されてしまうのは嫌だ。


ならなかったよ……。

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