第四話 もしかして・天国 と思ったら
主人公の名前がついに……!そして、夫のお母さま登場。
夫が私の名前を付けてくれるということで、ドキドキしています。どうも名前を忘れた主人公です。ファンタジーお決まりの記憶喪失……今回は名前だけ忘れているけれども。さて、夫のネーミングセンスはどうなっているのかな。わっくわく。
「そうだね。名前ね……どうせならかわいい名前がいいよね」
かわいい名前ですか。ありがとうございます。私は「かわいい」が似合うような人間ではないのでもったいないです。いや、むしろ恥ずかしい。
「アリス」
「え?」
「アリス。君にぴったりじゃない?」
「は?」
間抜けな声が出ちゃったよ。そんないかにも「かわいい」代表の名前をいただいてもよろしいのですか。おとぎ話のようなかわいいらしい名前なんてもったいない。もっと別のかわいいが似合う女の子につけてあげてくださいよ。
「気に入らなかった……かな?」
「い、いえ。私みたいなかわいいが似合わない女に、そんなかわいい名前をいただいてもよろしいのかと思いまして」
「君は十分かわいいのに、どうしてそうも自分を下げる。私みたいなとか、言わないでほしい。君はとてもかわいい。僕が今まで出会った女性の中で一番綺麗で美しくて、かわいらしい。この言葉に嘘はない。全部本当だよ。だから、君はかわいいの。かわいいかわいい、僕の奥さんなの。これでもダメ?」
なんてこったい。こんなかわいらしく首をこてんっと横に倒して「ダメ?」なんて言える方がいらっしゃるなんて! 二次元でしか見たことがない。本当にありがとうございます。ダメじゃありません。もうそれでいいです。それがいいです。あー、最高です。
「あ……えと、ダメじゃ、ないです……はい」
こんな時にコミュ障発動させてどうするの私。イケメンに、負けるな。
「よかった……気に入らなかったらどうしようかと思った」
「え?」
「本当は君の本当の名前で呼んであげたいんだ。でも、肝心の君が忘れているなら、少しでもかわいい名前にしてあげたくて。何度も言うけれど、君は本当にかわいいから」
かわいい、かわいい。を連呼されて私の心が崩壊寸前です。あぁ、生きていてよかった。
ハッ! いけない。女になっていた。
「かわいく、ないですからっ……」
ここがお布団でよかった。布団を勢いよくかぶることができる。
この私がかわいいだと。信じられない。信じられない。異世界ってなんでもありなの? 嘘。ありえない。やめてよ。もう、こんな世界。私、すごいところに来ちゃったの? 嘘、嘘。そんなことありえない。なんで私なの。ほかにもいるでしょう。もっとかわいい人。もっと美人な人。
「あぁ……ごめん、ごめん。大丈夫、もう言わないから」
「……」
「絶対言わない」
「本当ですか?」
「うん。言わないよ。だから出てきて」
「本当の本当に?」
「うんうん。言わない、言わないよ。だから出てきて?」
「むぅ……」
「……かわいいなぁ」
「!」
「あぁっ! すまない!」
「もう信じません……信じられません……」
「ごめん……」
信じられないよ! 言わないって言ったのに。うぅっ……。
「……そんな態度してると、襲うよ? いいの?」
とっても低い声で脅されました。ありがとうございます。最高です。もっと、その声出してもいいのよ。むしろ、出してくださいお願いします。
「ありがとうございますっ!」
「うわっ、びっくりした……」
「あっ、ごめんなさい……」
「へぇ、君そういうの好きなんだ」
「べ、別に、好きじゃ、ありませんよ?」
「じゃあ、どうして顔が真っ赤になっているのかな? 教えて?」
「そ、それは……」
「それは、何?」
「言えませんっ!」
イケメンに、いろいろゲームでしかされなかったことをされている。ここはゲームの中ですか? ここはもしかしたら、天国なのかもしれない。いやー、私はもう死んじゃったのか。死因、なんだろうな。呼吸困難? 好きなキャラが可愛すぎてとか? 失神? 好きなキャラが自分のドストライクな表情とか、仕草とかしちゃったから? 死因はわからないが、これだけは言える。
ここ、まじ、天国。
と、思っていたら。
キィィと、扉の開く音が……。
「あら、アーロン。ここにいたのね」
「あぁ、母様」
か、母様!? なんだって。あわわ、あわわ。
「あら、その子があなたの選んだ子なの?」
「ええ、まだまだ未熟なところが可愛いでしょう?」
「そうね……」
そ、そうねって。その後の言葉が怖いです。義母さん……。
どうなる、主人公。