第二話 夫ができました、オタ女子です
大暴走な独り言、ほとんど全部、聞かれてた。
一瞬冷静になって考え直してみる。夫って言いましたよね。夫って。
「あの、今、夫って言いました!?」
唐突だが、私は彼氏いない歴=年齢。彼氏ができる前に、彼氏を飛び越えて夫ができてしまったのです。これはアリエナイヨ。彼氏の扱いなんてゲームの中でしか知らない。そう、二次元大好き、イケメン大好き、イケボ大好き女子ホイホイの乙女ゲームの中でしか私は恋愛をしたことがないのである。やめてくれ、こんなにもリアル感満載の夢は。私を幸せいっぱいで殺すつもりですか、おやめくださいお客様。
ふと痛い視線に気が付く。あ、またやってしまったと気づくのには遅かったようだ。目が、合ってしまった。
「ふふっ、君は本当に面白いね」
「あ、いえ……これは、その、癖で……」
「うんうん。でもね、僕は君の夫なのに変わりはないんだ。それに、見てみなよ、どこをって、手の指だよ。これでわかった?」
ぱっと言われた通り手を見る。銀色で装飾がなされた指輪がキラキラと光っている。これはこれで綺麗。オタク活動に費やしてきたせいで、自分を飾るものがあまりなかった私には、とてもうれしいものです。しかし、なんということでしょう。プロポーズ、されませんでした。少しだけ将来に期待していたのに、ね。私の理想のプロポーズは、海とか、おしゃれなところで何も飾りのない彼だけの言葉で「結婚してください」と言われること。すごく一般的かもしれないが、シンプルなのが一番だと思う。シンプルは最高です。
「あの、こんな高価そうなもの私なんかがいただいてよろしいのでしょうか……」
「いいんだよ。君は僕の妻なんだから」
「あの、妻と言っても具体的に何をしたらよろしいのですか?」
今になって、やっと冷静さを取り戻した。とりあえず、私はこの人の妻で、この人は夫。要するに夫婦ってこと。驚きだけど、これは認めるしかできない。私は現状がよく理解できていないが、いつかは元の場所に戻れるだろう。戻らせておくれよ、神様。いや、神は死んだ。何度も神様にお願いしたけど、助けてくれなかった。よってこの世界の神は私に味方をしてくれない。よって神は死んだ。死にました。大変ありがとうございました。私はここでも立派に生きていきます。しばらく脳内モノローグを続けるけれども、この人の結論はすぐに出ていたようだ。
「君のすることはね、朝は僕のモーニングコールで目が覚めて、おはようって言いあってその後お着替え。着替えが終わった後は僕と一緒に朝食。
ここからは君がちょっと頑張らなきゃいけないし、本当はこんなことさせたくはないのだけれども……。ちょっとだけ長いお手紙を僕の代わりに書いてほしいんだ。僕は忙しいし、手紙を読んでいる暇もあまりないから。君がやってくれると助かる。執事を同伴させてアドバイスもつけることにするから、少しだけ頼ってね。本当に少しだけだよ。君が僕以外を見ているだけで吐き気がするから。
それで、そのお仕事が終わったらお昼。僕は忙しくて一緒に食べられない場合もあるけれど、極力君のそばにいることにするよ。心配だからね。
午後は君の自由な時間にしてあげたいのだけれども、君は僕の仕事の補佐についてもらえるかな? やっぱり心配なんだ。君がそばにいないのは。だから僕から離れないでね。
夕方くらいになったら、一緒に晩御飯を食べて……その前に、午後の仕事が半分くらいになったらお茶にしよう。おいしいお菓子と紅茶で残りの仕事の為の元気を出そうね。
晩御飯のあとはしばらく自由にして、一緒に寝ること。
君のすることはたったこれだけ。簡単だよね?」
なんということでしょう。私の夫は、束縛系でした。
束縛系だと知った主人公ちゃんはこの後、どう思うのでしょうか。