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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第二章
9/43

9

 ダイロンの北、広大な土地を持つフロジア帝国の北東部に連なるタンザルク山脈で遺跡が発見された。

 依頼は発見した冒険者ギルドから遺跡内部の協同調査。遺跡内部には魔石の仕掛けがあるようで、魔石に詳しい魔石商ギルドに依頼がきた。



「なんだって僕まで……」

「解除が得意でしょ」

「相談もなく仕事を受けないで下さい。おかげで収支の方が手を付けられない」

「戻ったら手伝うわ」

「それは結構です」


 ブツブツと文句を言うソルを連れてやって来たのはフロジア帝国のオーヴェリ冒険者ギルド支部。タンザルク山脈方面を中心に開拓する冒険者が利用する山脈の麓の町にある支部だ。オーヴェリは木造の尖った屋根が並ぶ小さい町だが支部があるおかげで様々な施設が揃っている。

 少し肌寒いその町の小さな肉屋の前でいつも通り薄着で露出の多いルルエと魔石ギルドから支給される紺色の外套を着たソルは今回同行する冒険者達を待っている。


「あーあ。いい匂いがする」

「肉なんて買いませんからね。というか、その格好をやめてください」

「え?何?」


 待ちくたびれたルルエは店先の地べたにあぐらをかいている。商売の邪魔だし一応女性なのだから慎みを持って欲しいが、ソルのそんな思いは彼女には全く届いていない。肉屋の店主も最初はチラチラ見るだけだったものが、数分前からは睨み付けるようになった。

 冒険者達は何故肉屋の前を指定したのか、項垂れるソルと暢気にあぐらをかくルルエの前をひとつの影が走って行くと、そのまま肉屋の店先に入った。


「ちはーっす!いつものある?」


 店先に着いたのは張りのある大きな声で話す濃い茶髪の若い男。それに呼応するように声を張る店主は串刺しにしてあるフランクフルト三本をケースから取り出すと奥にある火で炙りだした。

 ほどよく焼けたところで茶髪の若い男に料金と交換で手渡す。にこにこと片手に三本のフランクフルトを持って反転した茶髪の若い男は、下からの熱い視線に気付いてあぐらをかくルルエを見た。


「あ、魔石ギルドの人達?もう約束の時間だっけ……」


 どうやら彼は同行する冒険者のようだ。シャツにズボン、膝下までのブーツ、腰には短剣を挿しただけの軽装。話では三人いると聞いていて、残りの二名は別行動をしているのだろうか。

 ルルエの視線なんて気にしていない様子で大口で三本を口に入れる。焼いた肉の匂いと噛み切ったところからこぼれた肉汁がルルエを動かした。


「ちょっと、それ寄越しなさいよ」

「食べ掛けだけど……」

「みっともないからやめてください」


 食欲に負けたルルエと食べ掛けを躊躇せず渡そうとする冒険者の男と止めるソルが肉屋の店先で騒いでいるとメンバーの冒険者である残り二人がやって来た。


「おい、何しているんだ」

「リオットにジャン、遅かったね。混んでた?」


 ルルエに食べ掛けのフランクフルトを一本渡すと声をかけてきた二人の男に駆け寄った。

 声を掛けた男は少し長いくすんだ金の髪に青いバンダナを額に巻いていて、もう一人はツーブロックの黒髪だ。


「混んでいたと言うよりリオットがうるさかった」

「あの店員が悪いっ」

「リオット偉そうに話すから怒らせたんじゃないの?」

「うるさい!!」

「あ、俺のフランクフルト」


 フランクフルトを奪い取って茶髪の男が落ち込む姿を見て気がすんだのか、扱いの難しそうな金髪の男は満足気に口角を上げている。


「あの、今回協同で遺跡調査をする冒険者ギルドの方々ですよね。僕達、魔石商ギルドから派遣されたソルと隣の彼女はルルエです」

「やっぱりそうなんだ!でもルルエさんの格好寒くない?山登りするんだよ?」


 フランクフルトをくわえたルルエに注目が集まると金髪の男が紙袋を差し出してきた。受け取った紙袋の中は女性物のシャツとズボンが入っている。


「お前みたいなヤツが来ると思って準備してやった。文句は言うな」

「この偉そうなのがリオットね。で黒髪がジャン、俺はアルド」

「リオットはこの為にわざわざ店を回って服を準備したいい奴だ」


 道中は中々騒がしい旅になりそうだと食べ終えたフランクフルトの串をくわえたままルルエは三人を確認しながらじゃれあいを眺めた。

 口が悪く根が優しい金髪がリオット、あまり表情の変わらない一言多い黒髪がジャン、お人好しのアルド。これがルルエの最初の印象だ。資料では彼らが遺跡を発見した事となっているが、体格を見る限り冒険者になってからそれほど時間が経っていなさそうで現場ではあまり頼りにならないかもしれない。


「じゃあそこらの陰で着替えてくるわ」

「ルルエさんは宿で着替えてください。そこにあるでしょう」


 お小言の多いソルに睨めつけられて彼女は仕方なく斜め向かいの宿屋に着替えに向かった。


「そういえば、どうして肉屋の前で集合にしたんですか?」

「ここの肉美味しいんっすよ!食べます?」


 ソルに差し出されたのは残り一口のフランクフルト。

 それに彼は笑顔で答えた。


「いえ、お気持ちだけ頂戴します」

ご覧頂きありがとうございます。

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