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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第一章
5/43

5

 王都の正門を潜り抜け、ルルエは宮殿へ続く大通りでウォッドの馬車から降りた。その時も注目の的だった訳で、彼女は二人への挨拶もそこそこに宮殿の門へと向かった。


 坂と階段続きの大通りの先には大きく荘厳な格子状の門。その前には兵士が二人直立している。


「アドリヤのゼウロ代表からのご依頼です」

「検めよう」


 紹介状を受け取った兵士は使用人用の通用口から中に入っていった。ルルエが小箱を渡す前に行ってしまった。これで20分程は待たされるだろう。

 兵士が検閲官に手紙を渡し、検閲官は先触れとの内容確認と筆跡、封蝋を調べる。その間は門の内側に入ることも出来ない為、目の前の無言な兵士に睨まれながらひたすら時間が過ぎるのを待つしかない。


 初めて宮殿に来たルルエはその大きさに内心驚いている。王都には何度か来ているが殆どが下町、良くて貴族街だ。

 王都の中は階級毎に塀で区切られている。敵の襲撃を想定しての事らしいが、それは逆に選民意識を表しているようだ。

 それは大通りで市街まで続いているにも関わらず、一般人は宮殿や城の回りにひとりとしていない事にも如実だろう。


「お待たせ致しました、ルルエ様」


 たいして待っていないルルエの前に足早に訪れたのは先程手紙を託した兵士ではなく、身形の良い男性と何故か兵士が三人。その内のひとりの兵士の服はしっかりとした軍服で胸に勲章がいくつか煌めいている。

 これを見たルルエはすごく嫌な予感がした。


「お迎えの準備が整っておらず申し訳ございません。すぐに宮殿内へご案内致します」


 ――まずい!


 ルルエのコートの下は普段着だ。宮殿内に入ると言う事はコートを脱がなくてはならない。なんとか小箱を渡して帰るしかない。


「宮殿には結構です。こちらを渡していただければ」

「いえ、殿下から申しつかっておりますので。ニコリ様もお会いできる事を待っておいでです。さあ、どうぞ」


 殿下まで引き合いに出され、やんわりと断られてしまった。しかも門が開くと兵士に囲まれて逃げられなくなった。

 ニコリとはたぶんゼウロの妹の名前だろう。

 腹をくくったルルエはひとつ深呼吸すると気持ちを切り替えて宮殿へと向かった。




 前庭には中央に大きな噴水があり、それを中心に左右対称に庭が作られている。山岳地帯からか高地植物が多いが、色鮮やかに植栽されてとても綺麗にまとまっている。今も庭師が幾人か働いているのが見える。


「こちらでお待ちください」


 案内されたのは庭先にあるテラスだった。

 室内を通らずに直接テラスに来た為、誰にも会うことはなかったのは不幸中の幸いだろうか。

 コートは仕方ないので案内をした使用人に預けた。ルルエの服装には特に反応はない。兵士達は扉の前、庭に面した柱の陰にそれぞれ直立している。

 使用人の男と入れ替わりにメイドが二人入ってくると、ひとりはテキパキとお茶の準備にもうひとりはルルエを席に案内する。

 庭がよく見える席に座るとすかさずティーセットが置かれた。


「本日はニコリ様が選ばれたサンドイッチ2種類、スコーン2種類、ケーキ3種類とミックスハーブティーでございます」


 目の前のケーキスタンドにはそれぞれの段に美味しそうな食べ物が綺麗に並べられている。山道を歩いてきた彼女のお腹は早く満たしたいと催促して、淹れたてのミックスハーブティーは更にそれを刺激する。

 ニコリはまだ来ないようだし、とほかほかの出来立てスコーンに手を伸ばした。プレーンとナッツの二種類のようだ。まずはプレーンを選ぶ。ジャムとクリームが手元に出されてたっぷりと盛る。口に入れるとさくさくした食感とクリームとジャムが混ざりあってとても美味しい。

 間を置かずにスコーンを食べきって、もう一種類のスコーンに手を伸ばす。

 その時、宮殿に続く扉から控え目なノックの音が聞こえた。


「ニコリ様がお越しになりました」


 扉が開かれると、ゼウロと同じ黒髪のさらさらしたストレートヘアの女の子が入ってきた。


「ニコリと申します。お姉様にお会いできて嬉しいです」


 藍色のドレスの裾を上げてルルエに駆け寄ってきたニコリは喜色満面の笑顔で挨拶をした。お姉様と呼ばれた方は席から立ち上がる事も忘れて彼女を見上げるしかない。


「お姉様?ルルエお姉様?」


 どうやら自分が呼ばれているのに間違いないと気付いたルルエは席を立って挨拶した。


「魔石商のルルエです。本日はゼウロ代表よりニコリ様に贈り物を届けに参りました。しがない庶民なのでルルエとお呼びください」

「だってお兄様と婚約なさってるでしょ。私、お姉様が来てくれてとても嬉しいわ。だからもっと気軽にお話ししたいし、ニコリって呼んでください」


 兄と同じで思い込みが激しく、人の話を聞かないようだ。愛らしい容姿なのに残念だ。いつの間にかゼウロの婚約者にまでなっている。それでこの対応なのだろうと納得がいった。


「その話、誰から聞きました?」

「一ヶ月程前にお兄様から手紙がきました」


 ゼウロはルルエに会う予定を立てた時点で色々と話を進めていたらしい。大事にならない内に話をつけておかねばならない。


「殿下とお話しして合同結婚式も考えてるんです」




 手遅れだった…………。

ご覧いただきありがとうございます。

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