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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第一章
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2

 颯爽とゼウロ邸に到着したルルエは完全に遅刻していた。颯爽とと言ったが、鼻息は荒いのを隠そうとして逆に変になり、目も泳いでいる。髪も乱れてグシャグシャだ。

 それでも出迎えた執事は慣れた様子で応接室にルルエを通した。ゼウロに会う前に全てを整えるしかない。

 しかし、ゼウロは既に応接室にいた。今日は忙しくないようだ。


「話は自警団から聞いている、君も災難だな」


 ルルエは二つ疑問に思った。なぜ自分より早く自警団から連絡が入っているのか、ゼウロは重鎮と聞いていたが若そうだということ。

 前者はゼウロの耳についているピアス型の魔石だろう。通信機があると言う話をどこかで聞いた。どこだったかは思い出せなかった。

 次にゼウロについてだ。知り合いの話だとどっしり構えていて話の切り込みも鋭いらしい。歳は聞いていないが、確か二十年以上はアドリヤの中枢で実権を握っているということらしいが、目の前の男はどう見ても三十半ばだ。黒髪をオールバックに、服装も流行りのものだ。果たして本人なのだろうか。


 動かないルルエを促すようにゼウロは座っていたソファから立ちあがり、挨拶をした。


「アドリヤの代表委員のゼウロだ。知り合いから君はとても優秀だと聞いたので今回呼んだんだ」

「魔石商のルルエです。今回はお呼びいただきありがとうございます」

「堅苦しい話し方は終わりにしよう。商人の君もそれの方がいいだろう」

「ええ、まあ。」


 ルルエの返事を聞くと執事に合図を送り、彼女に席に座るよう示した。しかし、ルルエに示された席はゼウロの斜め前だ。初対面で商談をするのにこの距離はおかしい。警戒すべきか悩んで男の様子を伺うも、断られることが無いといった笑みを浮かべている。

 相手は貴族で街の実権者。ここで躓いても仕方ないと示された席に座った。

 同時に良い香りの紅茶が目の前に出された。


「実はこれを王都まで届けてほしい」

「届け物?」


 訝しむルルエの前に執事が差し出した四角い小箱には小さい魔石をあしらった花のブローチが入っていた。

 魔石は魔除けとして使われる比較的多く広まっている守護の力が込められている。


「女性にしか頼めなくて困っていたんだ、受けてくれると助かる」

「女性だけ?面倒事は嫌なんだけど」

「問題はないさ。場所は宮殿で相手は私の妹だ。君の格好は問題かもしれないが……」


 ルルエの姿を頭から爪先まで確認したゼウロは苦笑いした。宮殿は今、王太子の婚約者として貴族の娘が一人入っているが、それが彼の妹らしい。


「動きやすくて気に入ってるんだけど、別に王様に会うわけでもないし、これで平気じゃないかしら」

「いや、宮殿に行くのだからまともな服を着てくれないか。こちらで準備するから」

「ここから王都まで距離があるのに……面倒だわ」

「我が家も今は君にしか頼めない状況だ」


 本当に聞いていた話と違うとルルエは思った。表情豊かで押しに弱い。しかも、問題を抱えていることを自らバラした。ただの配達の話が変わっている気がする。もしかしたら巻き込む事を前提に意図的に言ったのかもしれない。


 ――仕組まれた!

 ルルエがそれに思い至った時には遅かった。


「そう、君、だけだ」


 掴まれた右腕には電流の出るブレスレットがはまっている。電流を流そうとしたが、何も起きない。

 ブレスレットごと掴んだ手には魔封じの魔石が握られ、ブレスレットの力の発動を妨げていた。


「妹さんへの届け物はするわ。それ以外は受け付けられない」

「面倒事は好きじゃない、私もね」

「何を言いたいのかしら。それからこの手をどけてくれない?」


 睨み付ける女と違って、男の頬は赤らんでいる。

 覆い被さるようにゆっくりとその顔が近づいてくる。


「商人以外の仕事も君には似合うと思うけどね」

「それは私が決めること。で、近いから離れてくれない?」


 愛しげに見つめる男のもう一方の手が頬を撫でる。

 それが彼女の限界だった。


「――――いい加減に、しっろっ!!」


 ルルエの膝はゼウロのみぞおちに入り、そのまま持ち上げて壁に蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた男は壁際で少しの間気を失っていたのか静かになった後、苦しそうに咳き込んだ。しまいには笑い始めた。主人が怪我をしているかもしれないのに全く動じない執事。


「っはぁ。やはり君が気に入ったよ、ルルエ」

「私は最悪」


 鳥肌が立った腕を擦りながらルルエは対角線上に距離をとる。この男はマゾヒストだったのか、未だに恍惚とした表情だ。痛みで腹を抱え、内股になりながらも徐々にだが近づいてきている。


「今度は電撃で気絶がいいかしら」

「その前に話をしよう。その後で頼む」


 少し嬉しそうに言うので、やっぱり電撃はやめようとルルエは決心した。

ご覧いただきありがとうございます。

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