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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第二章
16/43

16

 翌日、ソルの案内でスコットはギルドマスターに会える事になった。

 その情報はスコットが朝、何者かに叩き起こされ、部屋にいたソルによって知らされる事になった。と言うのも、早朝に帰還したギルドマスターに錯綜する情報から徹夜で待ち伏せしたソルがスコットの話をしたいと言ったところ、朝食の席でしようじゃないかとすぐに決まった為だ。

 スコットの部屋は研究所の奥まったところにある寄宿棟の一部屋だ。大抵の研究員は移動の時間を惜しんで寄宿棟に住んでいる。昼夜問わず研究に没頭できる環境だからか、朝に部屋に寝に行く研究員もいるが、騒がしいスコットの部屋を気にすることもなかった。


 眠気眼に着替えを急かされ、引き摺られるようにして研究所からギルド本部の二階にある食堂にスコットは連れてこられた。

 食堂の奥には敷居を設けた個室が三部屋あり、引き戸を閉めることでメンバー間での情報交換や一人飯に使われている。


 朝から個室を使っているのは一部屋しかなく、しかも戸は開けっ放し。

 一言断って中に入ると、沢山の肉料理が乗った丸い机に四脚の椅子、一番奥の席にパサついた焦げ茶色の短髪で体格の良い色黒の男がチキンレッグを丸かじりして座っている。


「お久しぶりです、マスター」

「おー、ソル!こっち座れ!で、スコッチ?はここな」

「……スコット、です」

「すまん、すまん。オレはダイロンだ」


 ダイロンの勧め通り、二人はダイロンを挟んで両脇に座る事になった。

 煮豚を口に運ぶダイロンはソルとスコットにも小皿に分けて食べるように促す。ギルドマスターと数々の料理を前に断る事も空腹に耐える事もできなかった二人は、ある程度腹を満たした後に話を切り出した。


「戻ってきたばかりで申し訳ありませんが、魔石研究所の預かりになっているスコットをギルド本部に引き取ってもらえないかと思いまして」

「おう、構わんが一人は無理だろ。ソルと相部屋にするか、決まりな」

「え」

「ありがとう、ダイロン!」

「スコッチは懐っこいなぁ」


 スコットとダイロンがにこにこと笑い合っていると、突如、個室内に何かが壁にぶつかる轟音が響いた。

 ソルとスコットが驚いて戸口を見ると艶の無い、暖簾のような長い黒髪を垂らした汚れた白衣の痩せた男が頭を垂れて立っている。

 おぞましい雰囲気を背負いながら立ち止まっていた彼がゆらりと動いたかと思うと、ズカズカと音を立ててテーブルに近づいて肉団子の乗った皿を手で弾いた。

 無惨に転がる肉団子達をよそに、男はダイロンに食って掛かる。


「ダイロン、こっちは徹夜明けなんだ。肉なんぞ見たくもない」

「奇遇だな、オレも徹夜で帰ってきたばっかりだぜ、レオニス」

「チッ」


 食堂の個室に現れたのは魔石研究所所長のレオニスだ。

 猫のようなつり目の下には大きな隈ができており、常備しているマスクを取付け、食事の臭いを嗅がないようにしている。

 一通りの話をしたところ、鼻息荒くその眼光は鋭くなった。


「はぁ?!こっちは何の情報も手に入れてねぇのに持っていかれても困る!!」

「スコッチが可哀想だろ」

「やっと大昔の事が解明される時が来たのに宝の持ち腐れじゃねぇか。他所の研究所だってこいつ狙ってんし、二週間近くも成果が出せてねぇからバカにされてっし……兎に角、ダメだ!」

「スコッチの精神を安定させてやるのも大事だろ」

「…………そんだけ言うならこっちの要望も聞いてもらわなきゃなぁ?」


 そう言うと、どこにしまっていたのか白紙の束を取り出しペンを持つ。


「おし、今からする質問に答えたら部屋は好きにしろ。ただし、その後も定期的に検査と調査に協力する事。ほら、まずはこれに署名しろ」


 サラサラと綺麗な字で書かれた紙には覚書と題され、話した内容とレオニスの名前が既に署名されている。それが二枚。

 まずはダイロンとソルが内容を確認してスコットに名前を書かせた。


「手際が良いですね……」

「後で駄々こねられても困るからな」

「書いたよ」


 スコットの署名した欄を確認し、一枚をダイロンに預けた。スコットはこれからギルドに身を置く事になるのだから責任者であるダイロンに預けたようだ。


「さぁて、話をしようじゃないか」


 にやにやしながら新たな紙を広げたレオニスに焦ってワタワタするスコットは最終的にダイロンの広い背中に隠れた。


「おい、隠れるな」

「…………白衣は、嫌い」

「これならどうだ?」


 上着の白衣を脱いだレオニスはどうだと言わんばかりにくたくたの青いストライプのワイシャツになった。


「そういう問題では無い気が――」

「我慢する……」


 のろのろとダイロンの背後から出てきたスコットは下を向いたまま椅子に座った。

 レオニスはスラスラと古代の文字を書くとスコットに見せた。


「この文字は読めるか?」

「あいつらの言葉は、知らない」

「へぇ。あいつらって?」

「……色白で、白衣着て、ずっと、しゃべってる」

「いつからあの施設にいた?」

「…………十歳くらい、の時に川で、捕まった」

「ふぅん。お前の他に捕まったやつはいんのか?」

「………………最初の、とこにはいっぱい、いた。牢屋に、みんなぎゅうぎゅう詰めで、どこか、連れていかれても帰ってきてたけど、だんだん人数、減って、僕も、あそこに連れてかれた」

「ほほーぅ。なるほどなぁ」


 止まることの無い質問にたどたどしく答えるスコットの言葉をメモしていくレオニスは嬉々として筆が進むが、対照的に顔色が悪くなっていくスコットに気付いていないようだ。


「もういいな、契約履行だ」


「――あー…………わりぃな」

「次の機会はこっちから連絡するからな。先走るなよ」

「はいはい。まあ、収穫はあった。ありがとな」


 悪びれる様子もなく謝ると、そそくさとよく分からない鼻唄を歌いながら研究所に帰っていく。


「研究者ってどうしてああなんでしょう」

「だからこそだろ。んじゃ、後はソルに任せるな」

「待ってください、相部屋の件が!」


 いつの間にか皿は全て綺麗さっぱりと食べきってあり、満足そうに腹をさすりながら覚書を片手にダイロンは食堂を去ろうとしている。

 追い縋るソルに見向きもせず去っていくダイロンの背中を眺め、傍らに立つスコットを横目にため息をつくしかなかった。


「………………はぁ」


 こうして、ソルとスコットの共同生活がスタートした。

ご覧頂きありがとうございます。

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