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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第二章
15/43

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 魔石商ギルド本部最上階の五階には主要メンバーの部屋が並んでいる。華美た装飾は無く、廊下は他の階と同じ様相だ。

 違うのは部屋数が八部屋だけしかないというところだろう。ギルドマスターの部屋や大会議室等、その中の一室が幹部のパーニャの部屋だ。

 整然と並んだ本棚は種類別に並べられ、書類も提出順に印をつけて机の隅に積まれている。室内は塵一つ無い、窓際も家具回りも綺麗に掃除してある。

 この部屋の主であるパーニャは金の絹糸の様な髪を肩口で切り揃え、無表情でいつも伏し目がちの人形の様な女性。身長も低く、年齢も低く見られがちだがれっきとした成人だ。

 今日は菫色のリボンスカートとストライプのシフォンシャツを着たパーニャは長い前髪をピンで留め、約二週間前にフロジア帝国のタンザルク山脈で起きた案件のとりあえずの報告書が丁度まとめ終わり、淹れた紅茶で一息ついている。



 あの日は一日の業務が終わり、人々も寝静まった深い夜、突然緊急通信が繋がったと連絡が来て驚いたものだ。転送の魔石も使うという緊急事態は滅多に無い。と言うか、パーニャがギルドに在籍して一回しか経験してない。それもギルドマスターのとんでもない理由で使ったどうしようもない話だ。そんなギルドマスターは仕事に出て不在である。


 転送室で医療スタッフと待っていれば、ほぼ死にかけのルルエを抱えたソルと正体不明の青年を背負った冒険者達に見た事もない壊れた魔石の台座。

 病院に運び込まれるルルエ達を見送り、残った冒険者達から話を聞いたが、魔石に関する知識が無い彼らの説明は良くわからなかった。とりあえず、正体不明の青年が彼らが遭遇した遺跡の魔物で間違いないだろう。


 後日、青年が目を覚ました後に話を聞けば肯定してきた。唸り声を上げていたという古代人と会話がスムーズにできるとは思っていなかったパーニャはそれから更に驚きの話をいくつも聞かされた。お陰で報告書もかなりの分厚さだ。

 そんな青年は今日はソルと共にルルエの見舞いに行っているらしい。話している時から妙にルルエとソルに執着しているのは少し気になるところだ。


「研究所の様子でも見てくる」


 空のカップを片付けたパーニャはパートナーにひと言告げて、壊れた魔石の台座を調べている研究所に経過を見に行った。







 ルルエの病室ではまだ起き上がれずベッドに寝そべるルルエとその横に椅子に座るソルとサングラスを掛けたままの青年が経緯を粗方話し終わったところだ。地下生活が長かった青年は目が光りに弱くなっていて室内でもサングラスは外せない。


「古代人とまともに話せると思わなかったわ」

「それ、皆言う。良くわからないけど、あいつらは、違うから」


 スコットは嫌悪感を滲ませながら首を横に振った。


「オレを捕まえたやつら、聞いたこと無い言葉だった。でも、ルルエとソルの話しはわかった。だから、痛かったけど嬉しかった」

「そう。生きて出られて良かったわね」


 体をうまく動かせないルルエは、ゆっくりと微笑んだ。


「叩いてごめんなさい」


 叩いたと言うのは遺跡でルルエが一度電撃を失敗した時に腕を振り回したことだろう。ずっと気にしていたのか両手を握りしめ、ズボンにはシワがよっている。


「いいの、いいの。そう言えば名前聞いてないわね」

「No.00305って呼ばれてた」

「施設での個体番号ではなくて、本当の名前ですよ」

「ああ、スコット、だよ」


 遺跡の施設にいた時はずっと番号で呼ばれていたのだろう、すんなりと自分の名前になってしまっていたようだ。ソルに正されて気付いた青年は、久し振り過ぎる程の自分の名前を嬉しそうに笑顔で言った。


 治癒の魔石で無理に回復したからか、全身がうまく動かないことも多く、体力も無くなってルルエは眠たさに欠伸をした。


「ルルエ、眠い?」

「そろそろ限界のようですね。また明日様子を見に来ます」

「あー……うん。明日、ね」


 そのまま眠りに付いたルルエを確認したソル達は静かに病室から出ると、日が暮れ始めた大通をスコットを部屋に送る為に研究所に向かう。

 ダイロンにある研究所はもちろん魔石の研究をする施設で、魔石に関連する様々な専門部署が存在する。

 ダイロンに到着してから古代人のスコットは古代の生き証人としてどこの部署からも引っ張りだこだ。

 ギルドマスターが不在中にギルドメンバーでない人間にギルド本部に部屋を用意するわけにも、古代人一人を監視も無しに外に部屋を用意するわけにもいかないと扱いに困っているところに研究所から、古代の話を聞く代わりに部屋を準備すると手を挙げた。

 しかし、スコットは古代の施設で研究者から受けた扱いからあまり研究者に良い印象を持っていないらしく、口をつぐんで全く話さないと研究者がソルに愚痴をこぼしている。

 今も研究所に戻りたくないのかスコットの口はへの字に歩幅が小さい。


「…………」

「ギルドマスターが明日には帰って来るみたいです」


 良い助言をしたとソルは思ったが、スコットには伝わらなかった様でなんとも難しい顔をしている。


「この自治区を牛耳っている人に直談判すれば状況は変わるかもしれませんね」

「ほんと?ね、ギルドマスターってどんな人?」

「直情的で手より先に体当たりする人です」


 これも分からなかったようで、嬉々としていた顔が怖がっている。他に表現があっただろうかと頭を悩ませている内に夕日を反射して輝く水色の外壁を持った魔石研究所の前に着いていた。

 先程より足取りが軽くなったスコットを部屋まで見送ったソルは研究員に捕まって辟易とするパーニャを横目にギルドマスターと交渉する為にギルド本部で情報収集に向かった。

ご覧頂きありがとうございます。

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