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翌朝、日の昇る頃に起床し素早く身支度を整えるとアルド達の付けた目印を頼りに遺跡へと向かう。
途中から山道を逸れ獣道を進み整備されていない道は草木が無造作に生え険しい道のりになる。踏み倒す草から噎せかえるような青臭さが漂う。
「ここっすよ」
先頭を歩いていたアルドが岩壁にぽっかりと現れた洞窟の前で止まった。洞窟の入口の周辺は背の高い草と上から垂れている蔦で分かりにくく、足元は苔むしていて滑りやすい。
「洞窟……ですね」
「そう思っていたが奥に行くと魔石の仕掛けがあった」
ひんやりとした洞窟内部に入っていき、入口が小さく見えた頃に突如辺りが明るくなった。壁には光を発する魔石が嵌め込まれ、それが光の届かない暗闇を照らしている。
ルルエが試しにひとつ手に取るがよく手に入る直径五センチ程の小粒の魔石だ。これはギルドでも多用、保管しているのですぐに持ち帰るようなものでもない。
「仕掛けねぇ……大した等級の魔石は使ってなさそうだけど、誰にも見つかっていなかったから数は多そうね」
「この扉が開かないんだ。そこから先はどうなっているか分からない」
立ち止まった先には金属のような物で出来た扉があった。洞窟とは異質の存在がその先に重要なものがあると言っているようだ。
ソルは鞄から小さな手帳を取り出すと壁にある窪みに洞窟の光源に使っていた光の魔石を嵌め込む。
すると扉が一瞬強い光を放ち淡い青で光る。
「暗号になっているようですね、少し待っていてください」
光る扉の中央には文字列が並び、ソルは手帳を開いて文字を見比べながら何やら操作をしている。
アルドは手元を覗いてみたがボタンを押すように光る文字を叩いているのが見えるだけだ。
「何やってるんすか?」
「んー扉の解錠かな。私得意じゃないからよく分からないわ」
「じゃあソルさんがいない時は諦めるんすか?」
「ぶっ壊すのよ」
ルルエは勇ましく握りこぶしを上げた。言っている事は大したことはないのだが、どうしてそう自信があるのか。
「大雑把な女らしいな」
「いいじゃない。中の魔石が必要なんだから」
「良くないです。重要な歴史資料なんですから壊さないでください。帰ったらどこで何を壊したのか報告してもらいますからね」
いつから聞いていたのか、扉から少し離れた場所で話していたはずがソルは腕組みをしてルルエ達の後ろに立っていた。
「開いたの?」
「ええ、よくあるパターンでしたからすぐに開きましたよ」
振り返った先の扉は半開きになり、奥の景色が少しだけ見えている。先は通路のようでまだ調査は続きそうだ。そう思うとルルエの心は踊るが、隣のソルが冷静に怒っているようで素直に喜べない。
「終わったら詳しく聞きますから、さっさと入りましょうか」
「……はーい」
ソルから気圧され、関係のないアルド達も小さく返事をし、扉の先へと入っていった。
奥は長い通路にいくつもの小部屋が付いており、突き当たりには階段が下がっている。
小部屋は荒らされた様子もなく、簡素な家具と思われる物が置いてあるだけだ。
この遺跡だけでなく、どこの遺跡も壁や家具などあらゆる物が同じ金属の材質で作られていると言うだけで金属の特定が出来ていない。様々な研究者がこぞって調べているが、当時の資料もほとんど見つからず八方塞がりな状態だ。
手分けをしてすべての部屋を見回ったが冷えた空気と空っぽの空間だけで何も見付からなかった。
肩を落としたルルエ達は階段近くの廊下に集まった。
「何もないっすね」
「やっぱめぼしい物は地下かしら」
意気消沈したアルド達とは違いルルエの視線は階下へと向かっている。
「この構造、少し前に聞いたものと似ている気がします。このまま行くのは危険だと思いますけど」
ソルは眉を潜めてちらりと見たが、冒険者達は怯えるどころか僅かに喜びが口元に表れている。
代表するようにリオットが声を上げた。
「俺達は冒険者だ、危険ならば遺跡の調査など行かないぞ」
「その通りよ!さあ行きましょう」
ルルエとリオットが先頭を切って意気揚々と階段を降りていくとアルドとジャンも嬉々として後をついていく。
残されたソルはウェストポーチを取り出し中身を確認すると腰に巻き、ひとつ嘆息してルルエ達の後を追った。
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