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魔石商のルルエ  作者: 朝霞
第二章
10/43

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※少しだけ獲物を解体するシーンがあります。

 タンザルク山脈を登り始めて四時間。昼を過ぎた頃にオーヴェリを出立し、まだ麓の森林に入ったばかりだが夕暮れが近付いてきたので程好い木々の間にタープを張り、即席の寝床を作る。少し離れた開けた場所では焚き火を始めて湯を沸かす。パチパチと木々が燃えて弾ける音を聞きながら一行は一段落して焚き火の回りに座る。


「遺跡までは後どれ程でしょうか?」

「えーっと、明日朝早く起きて昼前には着くと思うよ。確かこの前はそうだった」

「木の幹に目印を付けてあるから迷うことはない。見失わなければな」

「不安ですが仕方ないですね」


 ジャンが指した先には木の幹にナイフで傷を付け、色が染み込ませてある。

 ソルは手元の地図を確認した。

 麓はほぼ森林でその先にはまっさらな山の表記しかない。昼前に着くのであれば麓の森林の近くと言うことになる。

 考えているソルに辺りを見回すリオットが声を掛けた。


「あの女はどこに行った?勝手に行動されると迷惑だ」

「干し肉と乾物をかじるのは嫌だと言って狩りに出掛けていきましたよ。よくあることなので放っておけばそろそろ帰ってきます」





「今日はご馳走よ!」

「うわー!すごいっすね!!」


 二十分程時間が経った後、ガサガサと木々を掻き分けて現れたルルエの持つ枝には若い鹿が括られ、頭の方は引き摺られている。

 新鮮な鹿を見て冒険者達は群がった。二、三日はまともな食事にありつけないと思っていたのに目の前には美味しそうな肉。彼女の言う通りご馳走だ、集まらないわけがない。


「貴女は何故食べきる分を獲ってこないんですか」

「だって男四人でしょ、食べるでしょ」


 若いと言ってもそれなりに重みがある音を立てて下ろされた鹿はルルエが持つ魔石で痺れているのかたまにピクピクと動いている。


「食べ過ぎて翌日の行動に問題が起きても困ります」

「ルルエさん、どう食べます?丸焼き?」

「丸焼きは時間がかかるし、中が生焼けになる。捌いて串焼きに決まっているだろ!」

「煮込みもうまいだろうな」


 抗議するソルを無視して四人は少し離れた木に獲物を吊るすと血抜きと皮を剥ぎ始めた。大体終わると一人は肉を洗う為に離れた場所にある川と往復して水を汲んで、一人は串になりそうな枝を探し始める。

 肉も血抜きが終わり、解体をして水洗い、食べやすい大きさに切り分け終わると串に刺し焚き火を囲むように並べていく。焚き火の上には鍋が吊るされ沸かした湯に捌いた肉と塩、香辛料を放り込んで出来上がりを待つ。


「やっぱり多いですよ」


 眼前に広がる焚き火を囲む肉の壁、煙と共に上がる肉の焼ける臭いにソルは眉をしかめる。


「あ、これだいぶ焼けてきましたね、ソルさんどうぞ」


 両面しっかりと焼けた串焼きを渡されたソルは仕方なく受け取って口に入れた。


「どう?おいしいでしょ」

「それは認めます」


 その後は騒ぎながら鹿肉パーティが始まり、一時間で半分の鹿肉が消費されたが、残りはやはり食べ切る事ができずに残ってしまった。


「ちょっと離れたところに置いてくるわね。野犬とか臭いを嗅ぎ付けて来てるだろうし、内臓とか骨も処理してくれるわよ」

「俺も手伝います!」


 手袋をはめたルルエとアルドは数回往復して暗い森の中に肉や骨等を置いた。そして解体をした場所には上から土を被せ血の臭いをなるべく隠す。使った手袋は焚き火にくべて燃やした。


「血生臭い……」

「風呂がないものね、仕方ないわ」


 さすがに自分達に付いた臭いを消すのは難しい。全員同じ臭いがついているのだからあまり気にならないが、普段は事務仕事をしているソルは気になるのだろう。服の袖で鼻を押さえている。

 鞄を漁っていたリオットが数枚のタオルを取り出すと自慢気に立ち上り説明を始めた。


「見ろ!このタオルには香草を使っている。これで身体を拭けば血生臭さも少しはましになる」

「妙に女子力があるわね」

「集まる前に店で買っていたぞ」


 良い気分だったリオットはジャンの一言にきつく睨み付ける。


「そういうことは言うなと何回注意すれば治るんだ?」

「別に悪い事を言っているわけではないだろう」

「影の努力を言い触らすなということだっ」


 このやり取りももう馴染んだもので、三人はタオルを手にするとリオットとジャンを放置して話を進めた。付き合っているといつ寝られるかわからない。


「とりあえず身体洗おうよ。ルルエさんどうぞ。お湯はこれと場所はタープの裏でいいっすか?」

「全裸になる訳じゃないんだから此処でい――」

「駄目です、早く向こうでやって来なさい」


 ソルに押しやられてルルエはタープの裏に行った。

 戻った彼はため息をつき、敷物にしているローブの上にどっかりと座る。


「全く……女性なんですからこちらに気を使わせないで下さい」

「お母さんみたいっすね」

「…………あの人が無神経ですから」

「あー……男っぽいって言うかサバサバしてるって言うか、肉屋の前であぐらをかいてたっすね。お二人って付き合い長いんですか?」


 シャツを脱いで上半身を晒しソルとアルドは湯に浸したタオルで身体を拭き始めた。山歩きで汗ばみ臭くなっていた身体がすっきりとするのを感じた。やはり職業柄かアルドは筋肉質で厚みのある身体でソルは鍛えてはいるものの、事務仕事が多く比べると貧相だ。

 二人で話しているといつの間にやら言い合いも終わったのかリオットとジャンも身体を拭き始める。


「十年近いわね」

「はやっ」


 爽やかな香草の香りをまとってルルエはソルの隣にあぐらをかいて座った。周りの男達を意に介さず焚き火に枝をくべて話続ける。


「私がギルドに入った時からパートナーよ」

「その話をすると貴女の捏造で誤解されるから話さないでください」

「捏造じゃないわよ、全部本当のことじゃない!」


静かな森にルルエ達の騒ぐ声が響き渡り、夜は更けていった。


ご覧頂きありがとうございます。

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