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ルルエは女性魔石商だ。
いにしえの時代に造られた魔法の石、魔石を専門に取り扱う商売をしている。
現代では製造不可能とされた魔石は発掘から取引までを一通りの仕事としているが、数が少なく高価な為、盗賊などに狙われる可能性も高く、危険な職業のひとつとされている。
商人はほとんど男性ばかりで、女性も男勝りばかり。彼女も例外ではなくおしとやかな性格ではない。
そんな魔石商のルルエは今日も長身にスリムな体型、露出度高めな軽装に赤毛の髪をたなびかせ、あと少しで交易都市アドリヤに着く手前の街道端で盗賊たちを締め上げていた。
「そんなんじゃ私から魔石は盗れないわよ。リーダーの名前なんて言うの?」
「チッ女のクセにでかい顔しやがって」
「誰の顔がでかいって?」
ルルエは盗賊の一人が小声で言った言葉も部分的に聞き逃さない。長身でも顔は大きくない。視線を鋭く光らせ、ヒールのある靴に体重をかけて盗賊の顔を踏み潰した。容赦のない圧力でギシギシという音と「ぐぇぇあ」というような、か細い悲鳴が聞こえる。
「ラス、ラスだ!も、もういいだろ?あんたは襲わないから逃がして……」
「そうね。ちょうどここに賞金首リストがあって、下から数えた方が早いけどあんたの名前もあるし、このまま自警団に預けに行くわ」
「はぁ?!」
「四の五の言わずに、ほら、歩けっ」
盗賊のリーダーの名前と自警団から配られているリストを確認して一つ頷くと、ルルエは腰に提げている短剣を抜いてリーダーの背中に軽く当てた。時々刺さっている気がするが、ルルエは気にせずチクチクしていた。
踏み潰された一人はヒールの跡と僅かにだが顔が歪んでいる。噛み合わせがうまく行かないようで口は半開き、仲間は憐れみの視線をやるしかない。
「叩きのめされて終わりだなんて甘いわよ」
強気のルルエとビクつくリーダーに触発されて他の盗賊も怯えながらついてくる。リーダーを含めて盗賊は四人、その気になれば逃げられそうだが、ルルエの腕には魔石をあしらったブレスレットが光っている。
ブレスレットの魔石は電流を発するもので、盗賊達は先程から何回もビリビリと電流を流されている。
今だって繋がれた縄から少しずつビリっと脅してくる。もう、目の前の門にある自警団詰め所まで行くしかないのだ。
程無くして盗賊達は自警団に引き渡された。ビリビリの恐怖から解かれてホッとした表情もうかがえる。
ルルエは輝かしい笑顔で賞金を受け取ると、急いで街の中に進む。
今日は大口の注文で来ているのだ、遅刻は許されない。この交易都市アドリヤの重鎮とも言われる男ゼウロとの商談だ。
もし遅刻で商談失敗となれば、たちまち噂が広まって商売ができなくなる。それだけは避けたかった。
「えーっと今が2時過ぎで、約束は……2時、半っ」
大きいリュックを背負ったルルエはガシャガシャと音を立てながら街の大通りを走り、中心部にある貴族街へと向かう。そこにある他よりも大きい屋敷と広い庭が彼女の目指す場所だ。
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