001
注意:この作品は不定期投稿かつ作者は今のところは投稿休止しています。
数話ですが評価をして頂けると時と場合により投稿を開始するかもしれません。
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朝の冷気が布団の中に居ようともお構いなしに襲い掛かってくる。
時刻はすでに午前11時を過ぎ、昼に差し掛かったであろう時間帯になっている。学生ならば通学、社会人であれば通勤も真っ最中だろう。
「ん?」
アヤトは何やら違和感を感じた。いつも通りの布団だが、今日は異様に暑い。それに寝返りを打つことがままならない。その違和感の正体を突き止めるために重く閉じた瞼を開くとそこには驚くべき光景が露わになっていた。
吐息がかかる距離、
目の前に女、正確に言及するのであれば、少女の姿がそこにはあった。白髪と言うよりは、銀髪と白髪が半々に染められたと表現するべきだ。シミ一つない白い肌は、宝石のごとき価値を表している。唯一残念なのは、成長が見受けられない胸。
至って冷静なアヤト。溜息をつきながらその場を退避しようと鑑みる。しかし体がいう事を聞かない。よくよく見るとアヤトの腕が少女のわきの下に綺麗に収まっている。
「ふんっ!」
気にするそぶりもなく、その腕を引っこ抜く。
「いだっ!」
その衝撃で少女はベッドから転倒し、顔面から綺麗に地べたへ転倒する。
お尻を突き出す形になった少女の白い太ももがアヤトの網膜へ焼き付けやろうと言わんばかりに主張し、アヤトは思わずほほを赤らめ、そっぽを向く。
反対に被害者(?)の少女は揺らめきながら立ち上がり、アヤトの正面に立ち大きな音を立てて足を床につく。
その大きな音だけでも少女の機嫌が損なわれたのが見て取れる。
「トウヤ!何するのさ!」
「知るか、このアホ!人様のベットに潜り込みやがって」
「だって……だって!下は寒いんだよ!一緒に寝た方があったかいじゃん」
少女は自分の真下を指差す。そこには綺麗とは、かけ離れ乱れたシーツのの敷布団と厚手の毛布と枕が置かれている。昨晩というよりは今朝に、トウヤがフロントにお願いした即席の寝床である。
あの現実とはかけ離れた出来事の後、ポニーテルの少女を含めた物騒な集団はすぐさま姿を消した。袴姿の恵比寿はなぜか少女をアヤトに預けて明日に再び来ると言い同じく姿を消した。
なぜか懐かれたアヤトは、その疲れに逆らうことが出来ず、渋々その少女を保護という形で自分の部屋に留まらせたわけだが。
「だいたいお前は何だよ」
「お前じゃなくてクオレ(・・・)!」
「わかったわかった。で、何でクオレはここにいるんだよ」
「わかんない」
ベットに腰掛け座ったアヤトを見上げるように、地べたに女の子座りをしクオレはキョトンとした表情で首を傾げた。数秒の沈黙がこの場を包み込み、部屋に掛けらた時計と暖房を焚く空調音のみがかすかに聞こえる。
ぐぅーー
どこからか長いお腹の音が聞こえる。
こ こにいる人物は2人、ならば自ずと誰から発せられた音かは言い訳のしようがない。ふと目の前の少女に顔を追いやると、下を向き頬を朱色に染め羞恥に戸惑っている。口を開こうにも上手い言い訳が見当たらず、たじろぐ姿はアヤトの心に少しの微笑ましさをもたらす。
「はら……減ったのか?」
少女は答えない。
その代わりにその小さな首を一度縦に動かす。それだけで十分に伝わった心境を察しアヤトはその場を立ち上がる。
「とりあえず、メシを食いに行くぞ」
「ごはん?」
「そう、ごはん」
そう告げるとクオレの顔は見る見るうちに高揚しかたのように明るくなる。
「ごはん!ごはんっ!たっべたいなー!」
「ちょい待ち、まさかその格好で行こうと思ってんじゃないだろうな」
「ほへ?」
目の前の少女の格好、外に出るには些か問題がある。明らかにサイズの合っていない長袖のシャツを一枚だけ上から着ているのだ。太ももから視線を下げると、そのシミひとつない肢体は思わず男の心を揺れ動かす。そんな少女が一切の危機感も覚えずに隣に、はたまた一緒に寝ていた事にアヤトは疑問を得ずにはいられなかった。
「だから!そんな格好で出たら変な目で見られるだろう!昨日のポニーテルが渡してきた服を着ろ!」
アヤトは部屋の隅に置いてある1つの紙袋を指差す。昨日の騒動で止まるに当たって、クオレの所持品は自身が着ていた薄汚い魔法使いのような服装。それでは格好がつかないと渡された。
「しかたないなー」
「ちょっ、おまっ……!」
突然シャツを脱ぎ出したクオレ。見てはいけないと反射的にアヤトは後ろを振り向き煩悩を捨てるかのように壁際まで近づき自分の頭を前方に叩きつける。
「ちょっ、どうしたの?」
「気にするな」
「え、でも……」
「頼むから服を着てください!そうすれば全ての問題は解決するんです!」
「う、うん。分かった」
肌と布が擦れる音が耳に入ってき、アヤトは自身の鼓動が先よりも早くなっている事に気付く。久しぶりに出会った妹以外の女の子と言うだけでも、本来であれば狼狽えていたはずだ。それが薄れていたのは、クオレが自身の妹よりも小さかったために子供として見ることが出来たからである。
しかし、それにも限度がある。
「よし、出来た!」
「ようやくか」
「むぅ、急いだんだよ?」
「あー、悪かったよ」
改めて目の前のクレアを見る。
身長は150センチにも満たないだろう。やはり、女性というよりは少女と表現するべきだ正しいだろう。胸は残念ながら、男を誘惑するには全くといっていいほど足りない。そして何よりの特徴は日本では、まずお目にかかれない銀髪にサファイアの様に輝く両の目を持っていることだ。
服装に目を向けると太ももの3/4は露わになっているであろう短パンに英語の文字がプリントされている半袖のシャツに薄いカーディガン。今は身につけてはいないが、帽子も袋の中にある。いわゆるカジュアル系ファッションというやつだろう。
「どう、似合う?」
「あぁ、おかしいな」
確かに似合っている。服は目の前の少女の活発さをより生かしている。この服を選んだ人は間違いなくセンスがいいと断言できる。
ただし問題点は1つ、今が冬だと言うことだ。間違いなく外に出れば凍え死ぬであろう格好を褒めるほどアヤトの器量は大きくはない。喜んで外に出てみろ。明日には風邪をひいてアヤト自身が看病をする事になるのは目に見えている。
「アヤトのバカ!」
「似合ってる!似合ってるが、風邪を引くから新しい服を買いに行くぞ!」
「む、むぅ。それなら仕方ない。それよりも、ご飯はまだ?」
「あー、はいはい」
靴を履きカードをポケットに入れてエレベーターに乗る。クオレは親鳥にでもついて行くようにアヤトの後を追う。
只今の時刻は昼前、ロビーの係員の話では10時30分から昼食が可能だという話だ。朝食は取れなかったが、昼食ならば間違いなく準備されているはずだと推測する。
「ご飯何かなー?」
「さぁ、俺も知らない」
「私ねー、アーティチョークが食べたい!」
「なにそれ」
「えー、美味しいんだよ」
聞いたことのない名前の料理、いや……食材なのだろうか。アヤトは手元のスマートフォンで検索をかける。その結果、どうやらアーティチョークとは野菜のようだ。中世のヨーロッパでは貴族が先を争い寄せたとも言われる高級食材。
(またマニアックなものを……)
調べた内容ではアーティチョークは日本にはほぼ流通していない。イタリアなどでは比較的に前菜などでも出されることはあるらしいが、ここは日本。そんなものがある確率など無に等しいだろう。
そんな無駄話をしている間にエレベーターは急降下していき、フロントのある一階まで降りる。声優の声とともに開かれた扉。顔を横にやっていたアヤトは前方に姿勢を直す。
「あひっッ!」
情けない声とともに、アヤトは思わず尻餅をついてしまう。
「ったく、何してんのよ」
「はははっ、風間、お前に怖がっているんだろうよー。だからいつも、目つき悪いっていつも言っているだろ」
「はぁ!?あんたのデカイ体に驚いただけでしょ」
扉が開いたと同時に出てきたのは、昨日の悪夢といってもいい出来事の支柱にいた2人。
1人は黒髪ポニーテールの少女、身長は160センチはあるか無いか、引き締まった肉体は洗練された健康体だと判断できる。しかし、あいも変わらずその服装は冬に着る服装とはかけ離れた格好。短パンにシャツ一枚にスニーカーを履いている。異常だ。
もう1人の地にうずくまっている巨漢の外国人は、筋骨隆々、こちらも鍛え上げられていることは見て取れる。しかし、少女とは対照にこちらの服装は至って普通。黒が統一されたスーツと靴、片目の側にある古傷に覆いかぶさるようにグラサンをかけている。
脳裏に焼き付けて甦らしたくないと思っていたが、それはアヤトの記憶から鮮明に引き出された。
目を上下左右まばらにチラつかせて動揺を隠せない。
隣の少女はそれが気に食わなかったのか頬を膨らませ、討論とは程遠い言い合いをしいる2人の前に立つ。
「むー、トウヤをイジメに来たの?」
「は、はぁ!?何でそーなんのよ!」
「アヒャヒャヒャッ!」
「あんたは黙ってなさい」
「おふっ……」
眉間あたりに稲妻のような形の血管が浮き出した黒髪ポニーテールの少女が放った掌底は、金髪巨漢外国人のみぞおちに決まる。普通のパンチからは発せられないであろう破裂音とともに倒れこむ。
アヤトは普通ではあり得ない現状に、やはりこの少女は危険だと再確認する。
「はぁー、取り合えず、今日の18時にあなたのところへ向かう。昨日の事態の結果報告会議及び事情聴取をするわ」
ビシッと一直線に人差し指をアヤトの目の前に突きつけられる。
「あ、あの。俺なんか悪いことしましたか?」
「悪いことじゃなくて面倒なことよ。あなたが何者なのか、なぜあの場所にいられたのか。そこの少女とどういう関係なのか……くらいかしら。取り敢えず、危害は加えないから安心しなさい」
「か、風間さんよー。それって悪役のセリフ……いや、何でもない。まぁ、あれだ。適当に祝盃でもやる程度だろうから気軽に待てや。ハハハッ」
少女の言葉をフォローするように、気楽なセリフが大男から発せられる。少女の鋭い目つきに萎縮していたアヤトだが、その言葉に少し心に余裕ができた。
「そういう事だから」
「じゃーな、にいちゃん。また後で」
2人はゆっくりとした歩幅で出口へ消えて行った。
「アヤト、大丈夫?」
「ああ……ご飯食べに行こうか」
「うん!」
エレベーターに設置されている手すりに力を入れて起き上がる。
すでにクオレは扉の外に出ており、エサを待ちきれない雛鳥の如くアヤトに早く来いと手招きをする。今のことは決して空想事ではなく現実、ならばくよくよしてしても仕方がないと割り切り、食事に関して何が食べられるのだろうかと模索する。
「昼食を食べたいんですが」
「ご予約はお済でしょうか」
え、なにそれ聞いてない。という言葉がアヤトが最初に脳内に浮かんだ。よくよく見れば、ロビー近くのレストランの前には長蛇の列が作られており、中にも人が密集しているのが分かる。確かに高そうなホテルだとは思っていたが、飯が食えないほどに人気だとは予想もしていなかったと思う。
隣の期待と空腹に満ちた少女の目を直視できないアヤトは目を数秒つむり、この事態の収拾方法を模索する。
「あのー、ここらへんで空いてそうなレストランとかありますか」
「失礼ながらお客様は当ホテルに宿泊されておられますか?」
「あ、はい。一応は……」
懐から泊まっている部屋のカードキーを渡す。
「これは大変申し訳ありません。ただ今のお時間、席が込み合っております。よろしければルームサービスをご利用することが出来ます。また、当ホテルがバトラーを派遣いたします。街中でのお食事も可能ですがいかがいたしましょう」
「え、ホテルってそんなことが出来るんですか?」
「いえ、このサービスをご利用出来るのはVIPルームをご利用頂いたお客様のみにございます」
思わず頭がクラクラと揺れる。
適当に取ったとはいえ、こういった経験のないアヤトからしてみても、これは一般人が手にできる権利ではないと理解する。しかし、これを利用することは大いに役に立つ。クオレの服を買いに行くにしても手荷物を預ける相手がいるのはとてもありがたい。
「ご飯は?」
クオレは中々俺たちが決められないことに不安を感じ、食事をできないことを察したのか不安を露わに目を潤ませる。
「少し待てるか?」
「やっ!」
子供か!と思わずツッコミを入れそうになった。お腹が空いているのは分かる。アヤト自身も昨晩から何も食べていないために空腹なのは確かだ。
「よろしければ軽食をご用意致しましょうか?」
「うん!お願いするねー」
「承知しました。すぐにご用意致しますのでホテル前でお待ちください」
アヤトの回答を待たずに隣からの遠慮のない発言。それを聞いたスタッフは一礼してどこかへ行った。