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プロローグ2



 23:10


 そびえたつ建物の屋上に無数の人影。

 その先頭には年端もいかない少女がゴーグルを片手に行進する群集を目視する。

 冬にも関わらず短いスカート、上は半そでのシャツだ。

 吹き荒れる強風に後ろで縛ったポニーテールがなびく。

 真冬とは正反対の格好だがその少女からは一向に機にする気配が感じられない。

 ふと、少女のポケットからバイブ音が聞こえる。ようやく来たかと言った表情でそれを耳に当てて通話ボタンを押す。


 「こちらリキュール。目視した」

 『敵はどうだ』

 「5光聖徒が一人、ナバールが先頭にいる」


 少女の回答に電話ごしでざわめく声が聞こえる。会話をしている主を無視して、会議でも開いているのか応答が全くない。舌打ちをして貧乏ゆすりをして応答を待つ。


 「もしもーし」

 「風見、しばらく放っておけ」


 待ちきれずに再度電話越しで大きな声を上げた少女に一人の男が声をかける。身長は190はあるだろうか、細見だが鍛えられた体。金髪オールバックにグラサンをかけている。


 「ジン、私はリキュールよ」

 「ああ、悪かったよ。リキュール」

 「で、どうする」

 「よりにもよって奴が出てくるとはね」

 「バチカンも本気という事か」


 ジンと称される男は悔し気な表情を顔に表す。


 「この日英合同作戦でも厳しそうね」

 「俺はこちらが全滅するに100ポンドかける」

 「なら逃げようかしら」

 「はあ、どうしよう」

 「向こうもそれなりの措置をしてくれるでしょう」

 「まあ、あの少女の奪還はこれからの動きに大きく左右するからな」


 クスッとこわばっていた少女の顔から緊張が解ける。上からの連絡がなくては迂闊には動いてはこちらの陣が損をするのは分っているなかでどうしようとも思わないし思えない。緊張して待つよりは、リラックスをしながらその時まで待機する方が、自身にとっても正しい行動である。


 一分後、

 再び少女のスマホから音声が流れる。

 ようやくかと、呆れた表情で耳に当てる。


 「おそい!待たせるな!」

 『ひなた』


 先ほどとは違う野太く低い声が少女の耳に響き渡る。さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、体を強張れせて強制的に直立する。


 「は、はひ。申し訳ありません。恵比寿様」

 『私がそちらへ向かう。10分時間を稼げ』

 「わ、分かりました」

 

 それだけ伝えると、電話は切れる。


 「なにがあった?」

 「恵比寿様が来るわ」

 「おお、あの人か。なら百人力だな」

 「それと10分稼げとも言っていたわ」

 「マジで?」

 「大マジよ」


喜ばしい知らせだが、出された要件は黒髪ポーニーテルの少女、日向たちには荷が重いことは言わずとも分かる。

そもそも、五光聖徒とは一騎で10万の軍勢と渡り合える化け物。バチカン諸国が有する最強の切り札の1つである。

それに対抗するには聖人もしくは、それに順ずる強さを持つ人物でも無い限りは渡り合えるなど不可能。それをたった20人の雑兵程度で止められるなどという傲慢さなど、日向たちには持ち合わせていない。


 あと1分もしないうちに、バチカンの集団は日向たちがいるビルの目の前を通過する。その時が交戦の合図だ。


 「10分ね」

 「死ぬ気でやらないとな」

 「ジン、狙撃はお願い。私は特攻するわ」

 「分かった、サポートは任せろ」

 

 ジンは側に置いてあるゴルフバックからスナイパーライフルを取り出す。既に組み立てられたそれは黒塗りの悪魔、PGRへカート2。

 超長距離の戦車だろうと穴を開ける最強に名高い対物ライフルである。

 敵との距離は100メートルもない。明らかにオーバーキルだ。ジンは銃口を地上に向ける。

ゆっくりとした足踏みで前方へ進んでいるであろう集団。そして間も無く開戦の合図がなるであろう距離に到達。スコープから標的を見据える。


しかし、そこでなぜか違和感にとらわれる。目の前にいた集団の進行が止まっていた。背中から嫌な汗が流れ出ている事に気付かずにジンは戦闘の男の方へ照準を向ける。

そこには体勢を90度反転させてこちらを向き、剣を右手に携えている姿。ゆっくりと上段に剣を構える。

ジンの頭の中ではあり得ないと呼びかけているが、今まで培った戦闘経験と本能が告げている。



攻撃が来るぞ・・・・・・、と。



ジンは大声で周りにいた戦闘員に声をかけた。


 「総員! 退避しろぉぉぉぉぉッ! 」


 次の瞬間、何かが日向たちを襲いかかった。

 数々の戦いを掻い潜ってきた者たちは反射的に左右へ退避する。爆裂にも等しい衝撃が起こり、コンクリートがひび割れ、砕け散ったコンクリートと砂埃が舞い上がり、その場にいた者たちを飲み込む。

 遅れた者はその何かに巻き込まれ、その場に倒れこむ。日向は体を起き上がらせて自分たちに怒った現状を見つめる。


「うそ……でしょ?」


それだけで日向陣の3割が行動不能になった。


 「くそっ! 」

 「何でこっちに気づけるのよ! 作戦失敗、私が出来るだけ時間を稼ぐわ! 」


 日向の体から静電気らしきものが大気中に発せられる。その姿はまるで電気使いエレクトロマスターだ。上手く体を使いながら壁を伝って降りて行く。ストンッと綺麗な着地が決まり、目の前の


 「お初にお目にかります。五光聖徒様」

 「敵に様付けとはプライドはないのか? 」

 「御身ほどの方に合間見てたのです。礼儀は当然でしょう」

 「よく開く口だ。あれほど殺気を放ち気づかぬと思ったか」


 思わずゴクリと喉を鳴らす。

 日向たちからすると、殺気と言えるほどの殺気は出していない。付け加えるのであれば、様子見として放った敵意程度だ。それすら敏感に感じ取り、日向たちの場所を割り出す力量は凄まじにの一言だ。

 だが、それと同時に最悪とも言える現実が襲いかかる。


 「ちっ」

 「貴様は知っておるぞ。日本の電気使い」

 「まさか、五光聖徒様に存じ上げられているとは光栄ですね」

 「まあ、どうでもいい。貴様は私の行く手を遮った。死ぬ理由はそれで良かろう」


 今ので1分。

 襲いかかる殺気が日向の体を貫く。

 その死の宣告にも等しい声音が戦意を削ぐ。


 「ハハッ」


 笑うしか出来ない。実際に対面した事はこれが初めてだ。噂では目に見えない斬撃を繰り出すと聞かされたが、そんなレベルの高い技など使うまでもなく倒されると本能が察知している。

 身動き1つ取れない自分を切り捨てる。

 それだけである。

 障害物を壊して前に進む。それだけの事だ。


 ガタッ!


 何やら知らない物音が聞こえる。

 縛られていた少女だ。

 他の聖職者が2人の戦いに呆気を取られている間に芋虫が這いずるようにタンカから身を投げ出した。

 すぐさま、近くにいた聖職者が取り押さえるが、ナバールと日向は何やら違和感を覚える。


 ここに存在する人物は2陣のみ。

 しかし、縛られた少女は必死に訴えるかの様に別方向を見る。

 それにつられてその場にいた全員が少女の視線の先を見る。


 「えっ……」


 見るからに一般人の姿がそこには存在している。しかも、間違いなく自分たちの存在が目に見えて理解している。

 一般人には干渉できないこの空間でだ。


 「黒髪、貴様の仲間か」

 「いやいや、知りませんよ」


 毒気が抜けたのか、先ほど発していた殺気は収まっている。


 ナバールは少年、地べたに座り込んだアヤトの前へ立ち見下ろす。剣のつかを握り、いつでも抜刀出来る準備をする。謎の存在。未知の存在ほど警戒するべきである。


 「貴様、何者だ」

 「ひゃ、ひゃい! 田舎もんです。ご、ご飯を買いにきまちッ! きました! 」


 静けさが辺り一帯に漂う。

 明らかに場違い過ぎる人物。


 「もう一度問おう。貴様、何者だ」

 「お、お金ですか! 今、二千円と十五円しかないです。はい! 」


 アヤトは懐から財布を取り出し、献上するかの様にナバールの前に置く。極め付けは見惚れるほどの美しい土下座を込みでだ。

 その姿は、まるでしめられるのが分かっている食用の兎が必死に愛想を振る舞いて、物乞いをするかの様に。


 「………」


 全く話が通じない相手に呆気にとられる。自身よりも弱い弱者は何度も見た事がある。今、目の前にいる少女もそうだ。しかし誰もここまで酷い懇願の仕方をナバールは経験した事がなかった。

 敵対心から哀れみの感情が湧き上がってくる。


 「まあ、いい。貴様の身柄は私が預ろう。後日ゆっくりと聞く」

 「た、助けてくれるんでしゅか!?」

 「ちょっと、あんた日本人でしょ! 何敵側に行こうとしてるのよ」

 「えっ、何が? 」


 この状況で少女の言葉に耳を傾ける道理がないとアヤトは素早く判断する。どちらが強者かなど、一目瞭然だ。

弱者はより強い強者にすがる。理性ではなく本能で判断したアヤトになんの弊害があるだろうか。

 しかしそれに担って、ひとつの疑問がアヤトの脳内で渦巻いている。


 「あの、あの女の子は何で縛られているんですか? 」

 「殺すからだ」

 「へっ?」

 

 全く意図が理解できずに、アヤトは数秒間惚ける。


 「なんで、ですか? 」

 「知りすぎたからだ」

 「それだけで殺すの……ですか」

 「そういえば、貴様に何やら奴が反応していたな。魔神との関係…ならば危険分子になるか。興味はあるが、消しておこう」


 ナバールの鞘から思い重圧に似た感覚を発する剣が抜かれようとする。

 その瞬間にアヤトは視た。2秒後に自身の体が真っ二つに斬られる未来を。予備動作は一切ない。アヤトの感覚で2秒後に剣が降りかざされる距離ではないと頭では理解する。

 しかし、アヤトの視る未来は絶対。かわさなければ死ぬ運命に至ると経験から察する。


 「むっ」


 一筋の線が刻まれ、ずり落ちる音が聞こえる。ゆっくりと動き、それは大きな音を立てて地に落ちる。


 (あ、あっぶねー! )


 蕾が春の襲来を感じさせる木が胴ごとその場に倒れこんだのだ。未来視がなくては間違いなく斬られていたであろう軌道。

 それは続いて起こる。真上からの突き、更に横薙ぎの剣が自身に振り下ろされると。 アヤトは紙一重でそれを次々に躱していく。地べたを這いずる様に。土埃で体を汚さながら。


 ナバールの心情は驚愕に満ち溢れていた。動きは素人同然。雑兵を切り捨てるよりも容易に始末できる小物。しかし、アヤトはまるで次に来る攻撃が分かっているかの様に神速の剣を躱すのだ。


 (なんだ…こいつは。私の剣が見えている? いや、あり得ない)


 ナバールはアヤトの体を足で押さえつけ、身動きが取れない様にする。そして最後の一突きが心臓にめがけて襲いかかる。

 自身の死を未来で察したアヤトは目を瞑る。


 「なに?」


 ほんの数センチ。

 その間にナバールの剣が停滞していた。見ると薄く張られた障壁らしき膜がアヤトを包み込む様にして守護している。

 気がつけば、アヤトは縛られた少女の目の前にいた。


 「貴様、まだ力を!」


 狂気にも等しい感情を放ち、ナバールは縛られた少女に怒号を浴びせる。


 「もういい、私の権限で殺す」

 「ナバール様、しかし! 」

 「黙れ、可能性は芽生える前に詰む」


 逃げれば少女が殺される。逃げても捕まり殺される。アヤトは弱々しい少女に覆い被さる形で護ろうとする。

 無駄、だけどこんな形で終わるのも悪くない。そう自分に言い聞かせる。


 最後に視たのは少女とともに首を飛ばされる光景。

 只ならぬオーラを纏いながら剣が振り下ろされる。




 「誰だか知らんが、よく耐えたな」


 突如としてこの場の誰とでもない声が響き渡る。荒れ狂う暴風と高々な金属どうしがぶつかる音と共にアヤトの目の前に現れた。


 白髪に大きな十字傷が頬に刻まれている。歳は中年を越したほど。身長は180。何より印象的なのは武士の様な服装をしたその姿。時代錯誤にもほどがあると申し出たい。


 「恵比寿、よもや貴様が出て来るか」

 「久しぶりだな、小僧。相変わらず短期だ」

 「なぜ邪魔をする」

 「もともと、彼女はこちらの者だ。消されては困るのでな。さて、どうする? 私は戦闘になっても一向に構わんが」

 「ちっ、戦争でも始めるつもりか」

 「来るなら相手になろう」


 恵比寿は顎を少し上げ威圧するかの如く、ナバールに言い聞かせる。


 「ふう、やめだ。貴様とは分が悪過ぎる。撤収だ」


 吐息を吐き、ナバールは剣を鞘に収める。

 恵比寿という人物の登場と、ナバールの戦線離脱にこの場にいた人物は安堵する。


 が、再びアヤトの前にナバールが直立する。再び、先ほどの悪夢にも等しい出来事が起こるのかと手汗を握りながらアヤトは目を見る。

 しかし、その目にはすでに戦意はなく、興味という感情が現れているのが受け取れる。


 「少年、名は何という」

 「さ、才波アヤトです」

 「覚えておこう」


 魔法陣らしきものが現れ、聖職者たちはその中へ消えていった。


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