4回表 ヒットエンドラン成功 ノーアウト1、3塁
「部室に行こうぜ」
俺はホームルームが終わった直後、阿坂茜の目の前まで瞬時に移動して発言した。
「驚きましたクンカクンカ君。まさかあなたから部活の誘いを受けるなんて思いもしてませんでしたからね。どういう風の吹き回しですか?」
本当に驚いているのかよ、と疑いたくなるほど阿坂茜は冷静な顔をしたままつぶやいた。部室に行こうと言い出したのは別に野球がものすごくしたくなったわけでも、スポ根漫画さながらに甲子園を目指したくなったわけでもない。昨日の喫茶カントリーの一件で清水原真子率いる虎高とツバメの不良同士の抗争から始まって、その抗争の原因である傷害事件の黒幕が高松美夏であることを本人から聞いたりと……いろんなことが一気に起こりすぎて俺自身もパニックになりそうだ。だからいち早くこの事態を野球部の他のメンバーに話して楽になりたいと思っていた。そして気になるのが桃の状態と部活に来ているのかということだ。高松美夏が去った後で残った俺と桃と清水原真子はとくに会話もなくそれぞれ帰路に就いた。それでもやはり大きなショックを受けていた桃が気になった俺は振り返って歩いた道を逆走して桃を追いかけたが、もうどこに行ったかわからなくなっていた。幽霊だから壁とかをすり抜けてショートカットで帰ったのかもしれない……と、無理矢理に気楽な考えをしていた。それとは別件でもうひとつ部室に早く行きたい理由があるがそれは後回しだ。
「まあ、その……一生涯を幸福に暮らしていきたいからな。不幸の連続が待ってる人生なんておまえも送りたくないだろ?」
「それはそうですが。部室に行きたいのは桃が昨日の夜から堕落しきっていることと関係がありますか」
「やっぱり桃の様子が変だったか」
「はい。たぶんここ最近会ったばかりのクンカクンカ君でもその変貌ぶりは秒の速さでわかるほどに。耐え切れずに何かあったのかと聞くと作り笑いを浮かべるだけで……。昨日、学校内の適当な男子生徒を脅し……勧誘していた時に急に桃はいなくなりました。クンカクンカ君たちと合流していたんでしょう」
「確かに桃は俺のいる喫茶店にひょいっと顔を出した。言葉通り本棚からな。……何があったかは部室で話したい。昨日いなかったやつ全員に言っておきたいんだ」
「わかりました、じゃあ、さっさと移動しましょう」
いつになくマジメに話す俺に阿坂茜は沈着な判断で席を立つと俺よりも先に教室を出て行った。俺の目には桃の様子が心配で早く昨日何があったのか知りたい、そんな風に見えた。
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「「こんちわ!!!!!!!!」」
「おわっ!?」
部室のドアを開けるといきなり大声の挨拶を何者かにされ一驚する。見ると入口のドアを開けたすぐ横に見知らぬ男子生徒が二人直立不動で林立していた。いや、よく見ると二人とも見覚えがあるぞ……名前は知らないが隣のクラスのやつらだ。
「声が小さいわ貴様らぁ! さっき教えただろうがぁ! 挨拶は小さい『ぁ』が語尾につくぐらい腹の底から……こんちわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ……はぁ……はぁ……だ、ろうがぁ!」
「「は、はいっ! さっせんでしたぁぁぁぁぁ!」」
「そうだぁぁぁ!」
なんだよ小さい『ぁ』って……文章にしないとわからんだろ。メガホンを片手に奥で鬼先輩をやっているのは亀力男だ。いやいや、言ってる自分が酸欠になってるじゃねーか。いるよな~こういう後輩に厳しい先輩。こういうのに限ってたいしたやつじゃないんだよな。
「亀さん。せっかく勧誘した新入部員に変なこと教えないでください。ヤバい部活だと思われたくないので」
「じゅう……ぶん! ヤバい部活だろ、ってかもうすでにこんなあいさつの仕方を教えてる時点でどこかの山奥の宗教集団みたいになってるだろ。それで、こいつらが昨日おまえと桃で強大な代償で威圧して勧誘してきた残りのメンバーってわけか」
「威圧とは人聞きが悪いですよ。ただ私は一緒に野球をしましょうと言っただけです。その後で桃が何を二人に告げ口して何を見せたのか知りませんが」
「その後からが威圧なんだよ! 残りの人生を左右させるとかで恐喝したんだろうが!」
「それは桃に聞いてください。この二人は三組の東原君と切手君です」
紹介された二人は沈痛な面持ちでうつむいた。ああ、悲しいかな……東原はメガネをかけていて、切手は特徴のない顔をしていて、野球とは全くの無縁そうな顔だ。二人とも見た目はひ弱で、おそらく帰宅部か何かだったのだろう。昨日阿坂茜と木村桃の死神コンビ(一人はリアルに死んでいる)に放課後の校舎で出会わなければこんな部活に入部することはなかっただろうに……ほんとご愁傷さまです。
「クンカクンカぁ! 貴様俺に挨拶はしたのかぁ!」
「黙れ亀。先輩ずらしてんじゃねーよ」
「先輩なのだから当然だろうがぁ!」
「そんなことより山海は来てないのか」
「まだだぁ!」
どうでもいいが亀はいちいち声がでかい。そうか、まだ山海は来ていないのか。
と、俺が思ったと同時に山海クソキャプテンが部室に入ってきた。
「おいーす」
「「こんち……」」
「こんのぉ!!!!!!!!!!!! くそやろうがぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁっぁ!」
俺はこの時を待っていたように山海めがけて憤怒の形相で迫るていった。昨日俺をおいて逃げ出したことに対して我を忘れた俺は怒りに身を任して逆上していた。
「ちょ! やっべ!」
バタン! すぐにドアを閉めて俺の突進をなんとか免れた山海はドア一枚隔てて俺と顔を合わせた。
「おまえ今『やっべ』って言ったな! 確信犯じゃねーかよ!」
「待て! 落ち着け! 誤解だ!」
「洋画とかでもそういうセリフを吐くやつは次の瞬間に殺されるんだよ! さっさとここを開けやがれ! 俺が昨日どんな気持ちであの喫茶店の戦場を生き抜いたか……ぶっ殺してやる!」
「ほんとにやばいと思ったからすぐに桃ちゃんを喫茶店に召喚したんだよ! 不良に対抗するには幽霊の力でも借りないと対抗できないと思ったから! あの一瞬の絶望の中でわずかな希望に懸けたんだよ!」
山海の言葉に俺は我に返る。こいつがあの場に桃を呼んだのか、逃げ出したのは否めないけど……まあ悪い判断じゃないな。
「はは。今日も部室はにぎやかだね」
私憤から正気に戻りつつあった俺はホワイトボードからした声にドアノブを握っていた手をゆっくり放した。桃が昨日と同じようにホワイトボードから顔だけをすり抜けさせていた。いや、昨日とは表情が全然違って、表情からは哀愁が漂っている。
「桃、来ていたんですね」
「うん。部活の時間だからね。いや~昨日喫茶店で衝撃の事実が発覚しちゃってさ~、よいしょっとっ!」
わざと明るく振舞いながら桃は全身をすり抜けて部室にヒョイっと姿を現した。
「今日はね、モモからみんなに話しておかなくちゃいけないことがあるんだ……」
「いい、俺から話す。昨日……」
重く喋りだした桃を差しおえて俺は昨日の喫茶店でおこったすべてを包み隠さずに全員に話した。明らかにショックを受けている桃には荷が重すぎる、そう判断したからだ。
話している最中はずっと桃の表情をうかがっていた。自分が話す内容が正しいか不安ということで見ていたところもあったが、涙ぐんだり、泣き出したら即座に中断しようと思っていたからで。
「そう……ですか。今聞いただけではどんな反応をすればいいか正直困っています。いえ、この反応が正直な気持ちなのかもしれません。真子だけではなく美夏にも会っていたなんて思いもしませんでしたよ」
幼馴染だった阿坂茜が話を聞き終えた後で最初に口を開いた。美夏の傷害事件を引き起こしていた事実に悲しむ様子は無くてその驚愕ぶりに顔色を変えていた。
「おいおいマジかよ。あの不良さんたちが清水原真子だったなんてよ。しかももう一人の桃ちゃんが探してた人物が不良同士の抗争の発端だと? いくらなんでも展開がイレギュラーすぎるだろ、誰が仕組んだシナリオだよこれ」
「そして部員を見捨てて逃げ出す野球部主将か。傑作だな」
「オイオイオイオイオ~イ? まだ怒ってんのかクンカクンカよ~? 今は仲間割れしてる場合じゃねーだろう~? 桃ちゃんの勧誘したいやつらがピンチって時によ~?」
俺を警戒していまだに部室の外にいる山海には殺意しかわかない。無視しよう、無視。
「アカネはどう思うかな……ミカのこと」
俺が話している最中で桃は部室に置いてある古びたボロボロのソファーにちょこんと体操座りしていた。顔をうずめるようにして微細な声を出した。
「どうと言われましても、桃はこの現状をどうしたいんですか?」
「モモは……野球がしたいよ。自分勝手なことはわかってる、けど……このままじゃ胸の奥がつっかえて魚の骨じゃないんだけどさ。気持ち悪くなるかな」
「わかりました。真子を救いましょう」
重大な決心をしたはずの場面にもかかわらず全然しまらない。それはこの部室にいる誰もが「はっ?」っというような顔と頭の上に漫画特有のクエスチョンマークを描いていたからだ。
「何言ってんだ?」
「そのままですよ。明日の朝に真子が率いている虎高の不良たちが街中のいたるところで標的にされ、狩られていくんですよね。だったら私たちがツバメに先回りしてその狩人たちを一人残らず殲滅してしまえば戦争はおこらずに済みます」
「俺たちと戦争になるだろうが!」
「黙りなさいクンカクンカ君。大丈夫ですこっちには核弾頭の亀さんがいますし、それに最前線に山海さんを突撃させましょう。戦力としては十分です」
「なるほど」
「核弾頭ってなんだあぁぁぁっぁぁぁぁ?」
「おまえら……俺と亀は一応先輩だぞ……。よし! 小読野球部の初陣はツバメ戦だな」
「いや、試合じゃねーし……むしろ乱闘だろ」
「異種格闘技戦です。やりましょう」
「バット使ってもいいんだよなぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁ!」
冗談まじりな阿坂茜の発言を聞いていた俺はそれが桃を元気づけるためだということを知っていた。わかっていたから俺はそのノリに快く応じて会話を続けた。
「でも、みんないいの? ケガするかもしれないよ? まさか私を怖がって言ってるのかな? 真子を救うことに賛同しなかったらこの後の人生をどうとかはしないから無理しなくていいんだよ?」
「違いますよ桃。みんな今の桃の姿を見て自分たちから真子を救いたいと思っているんです」
わかるはずがない。命をおとして、それでもこの世に還ってきた死人の考えていることなんて。でもこれだけは言える。木村桃は優しくて、自分のことなんかそっちのけで友達を助ける。そんな正義の味方みたいな彼女を助けなかったら、罰はあたらなくても心地よい人生は二度とやってこないだろう。
「ありがとう……」
両目から大量の滴を放出させて桃は豪快に泣いた。
「そうと決まればまずは戦闘準備ですね。クンカクンカ君、職員室に行って野球部の部費をもらってきてください」
「戦闘準備?」
「戦争にはいろいろ道具がいるでしょう」
「……ひっぐ! それならモモが金庫に手をつっこんで札束持ってくるかな……」
「世界初の幽霊の犯罪者をつくりたくないから俺が行ってくる」
「頼みましたよ。私は校門の外で待ってますから」
こんな廃部寸前の野球部に部費なんてあるのかよ……。疑問を抱きつつも「じゃあ行ってくる」と任務を任された俺は部室を後にした。
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「いやはや……まさかあんなに部費があるとはね」
職員室で渡された封筒をポケットの中で再度握りしめて確認しながらボソッとつぶやいた。職員室でその全額を聞いたときは本当に驚いた。やはり特別強化クラブというのが要因なのだろうか。
彼女ならなにか知っているのかもしれないと思ってわざとらしくつぶやいたが阿坂茜は何も応えてくれなかった。
校門から出て日が傾きかかっている道なりを阿坂茜と並んで歩いていた。
こうして歩いているとまるで恋人同士のようだ。
なんて全然思えないのが現実で、すこしぐらい顔を赤らめたりオドオドしたりしてもいいんですよ阿坂茜さん? これでは本当にただの知り合い同士でそれもいやいや買い物に行くみたいですよ。
そう思いながら歩いていると電柱に激突した。
「なにやってるんですか……もしかして私に見とれてましたか?」
「ご、ご名答……なんでわかったんだよ」
「へ、へんなこと言わないでください! 行きますよ」
驚くことに阿坂茜は顔を赤らめて早歩きになる。もしかしてツンデレなのか? だとしたら非常に燃えて萌えるんだが……かわいいとこあるじゃないか。
「あの……すいません」
足を止めたのは女子高生。どこかで見覚えが……うおぁ! この子はあの喫茶店にいたミステリアス女子高生ではないか! まさかついに写メとか撮られて友達に一斉送信で街も出歩けなくさせられるんじゃないだろうな? 勘弁してくれ!
「なんですか? まさかクンカクンカ君の痴漢被害者さんですか? わかりましたすぐに警察に行きましょう」
「まだ何もしゃべってねーだろうが! しかも人を勝手に性犯罪者にしやがって!」
「いえ、私は燕高校の者なんですが。お話ししたいことがあって……」
「深刻そうですね。ったくここは気を利かせてくださいクンカクンカ君。ふつう男なら『ここじゃなんですからすぐそこのファーストフード店に入りませんか?』でしょう。まったく日ごろから自慰行為しかしないから頭の回転がクソ悪いですね」
「おまえこの子が現れてから俺のことボロクソに言うのな。さっきまで二人の時は顔を赤く……」
――シュンっ! ――
阿坂茜に髪留めで鼻の先をわずかにかすめられる。閃光のように一線が脳裏にやきついた。
「続けてくださいクンカクンカ君」
「何もありません。本当にすいませんでした。それと燕高校の……えっと名前」
「西岡三波です」
「西岡さん。そこのファーストフード店に入って話しましょう」
決められたセリフを読む下手くそなエキストラのように言った俺はファーストフード店を指さして西岡さんを誘導した。
学校終わりの若者たちが目立つ店内はにぎやかな話声であふれていた。レジへと一直線に歩いていき営業スマイル全開のバイト店員にドリンクと小腹がすいていたのでポテトを注文する。「お二人さんは?」と後ろを振り返ったが後方には別の客が「は?」とした顔で突っ立っていた。赤面する俺を他所に奥のほうの席で仲良さそうに喋る西岡さんと阿坂茜の姿が目に飛び込んできた。
「あのやろう……」
俺と目が合った阿坂茜は嫌な虫を追い払うような手つきと「早く注文してください」と言わんばかりの顔で合図をおくってきた。注文するにも何飲むんだよ? ま、なんでもいいか。
適当に注文をすませ出来上がった商品をトレーで席まで運んだ。
「遅いですよ。西岡さんと私は喉がカラカラなんですから」
「そんな、大丈夫ですク……」
「ためらわなくてもいいんですよ西岡さん。この方の名前は本当にクンカクンカ君なんですから」
西岡さんは真っ赤になりながら「ク……クンカさん」と少し省略しながらも俺の悪意に満ち溢れたニックネームをボソッとつぶやいた。まるで羞恥ジャンルのアダルトビデオに出演させられている人みたいだ。
「またへんなこと教えやがって……西岡さんコーラでよかった?」
「はい。すいません買ってきてもらって」
「さすがにナンパをしただけあって優しいですねクンカクンカ君」
俺が買ってきてやった飲み物をストローで音を立てて啜る阿坂茜はいつも以上のジトっとした目つきで睨んでいた。
「してない。真子捜索の際に間違って声をかけただけだ。だいたいおまえが渡した写真が小学生の時のだったから間違ったんだろうが」
「声をあらげない、人のせいにしない。西岡さんが困ってしまっているじゃないですか。まったくこれだから性犯罪者予備軍は扱いに困ります。それよりも私たちに話したいことがあったんですよね西岡さん」
話をふられた西岡さんは一瞬目線を下に向け、俺たちを交互に見た後で話し始めた。
「あの日、喫茶店を出た後も外で中の様子をうかがっていたのです。川端麻美を刺した疑いで虎高の方々が襲われていたことやその後で美夏、高松美夏が私をかばって嘘をついてくれたことも」
「かばう……それって」
「……ゲームセンターで川端麻美を刺したのは高松美夏さんではありません……私です」
目視で確認できるほど西岡さんは全身を震えさせていた。同時に俺もどういう顔をしていいのかわからずにいた。わからなかったから咄嗟に横の阿坂茜を正視した。唖然とした表情でいると思っていたが彼女はなぜか少しうれしそうな、うまく言えないが静かに高揚していたように思える。
「西岡さん。詳しく話していただけますか」
「私……私は高松美夏さんに救われていました。放課後は美術部で絵を描くことだけ……口下手で友達なんて一人もいませんでした。でも、偶然たか……美夏さんが部室に来たとき気さくに私に話しかけてくれたんです。そのときに私が描いていた絵に興味をもったみたいで。その日から放課後は毎日美夏さんと話すのが日課となっていきました」
口下手なのはその話し方で充分に伝わっていると思うが。緊張した面持ちで話す西岡さんの口からは高松美夏という人物像がついさっきまで想像していたものと変わってきているふうに思えた。
「でも……川端麻美が部室にひょっこり顔を出して……引き出しに忘れたスマホを取りに来てその時に私の絵を……真ん中の部分を破いたんです」
「お、落ち着けって! 泣かないで西岡さん!」
「すいません……それで私は後をつけてゲームセンターで……気が付いたらプリクラ機の中で倒れている川端麻美がいてそこに美夏さんが駆けつけてくれて……」
ファーストフード店のどこにでもある席が警視庁の取り調べ室の空気になってしまっていた。
ついに泣き出してしまった西岡さん。その彼女にスっとエメラルドグリーンのハンカチを渡す阿坂茜。
「本当にクンカクンカ君は気が利きませんね。目の前で泣いている女性がいたら黙って涙をぬぐうものを渡すのが男ってものです」
「うるさいよ」
「西岡さん、よく勇気を出して話してくれました。これを聞いたからといってあなたを虎高の連中に引き渡したりしませんから安心してください。だから泣かないでください」
「で、でも……あの日も喫茶店で虎高の人たちに本当のことを言おうとして……でもその場から逃げた私なんですよ……実際に人も刺してますし……なにか罰を受けるべきなんです」
「あ、大丈夫。俺もっとひどいゲスみたいな野球部の主将を知ってるから」
「あれと比較しては西岡さんがかわいそうですよ。まれにみるクソですから。……西岡さん後は私たちに任せてください」
「任せる? どうするおつもりですか?」
どうするんだよ……っと俺も気になって阿坂茜をチラリ見ると。
「喧嘩両成敗です。それと最後に聞きたいんですが高松さんが興味をもった絵はどんな絵ですか?」
「公園で遊ぶ子供の絵です。キャッチボールとかしてる絵で、そこを美夏さんは特に気にいっていました」
「ふふ、美夏は悪魔になんてなっていません。このことを早く桃に伝えなくてはいけませんね。さあ! 早くこのふにゃふにゃになったポテトをすべて食べてくださいねクンカクンカ君。それこそ残飯処理をするようにいじきたなく」
ドSか、それとも女王様か。阿坂茜は俺の口に塩気のなくなったポテトを五、六本まとめてぶちこんできた。もがが! ……女子からの初めてのあーんがこんなことになろうとは……。
涙目になりながら見た阿坂茜の表情は一点の曇りもない笑みをしていた。
読んでいただきありがとうございます。
RYOです。
迷走中です(笑)