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茜色の夕立  作者: 火炒燐
本編
4/6

深く青い空

つい先日の話なんだけどね、あたし、驚いちゃった。だって友達がまるでこう、ヤバい人に絡まれちゃったのって感じにボロボロなんだもの。服とか擦り切れちゃって、綺麗な黒い髪が今日はボサボサ。頭の跳ね具合が独特なリズム刻んじゃってる。ボサノヴァだよ。

なーんでこんななっちゃったんだろって、あたしなりにね考えてみたんだけど、飛んでてうっかり墜落しちゃったとかかなぁ? でもよく見るとなんかヘン。滑空中に前を擦ったにしては傷が多すぎる気がするの。

よく見ると羽根も幾つか抜けてるし、なんかストレス感じてるのかも ……

そう言えばなんか最近様子がヘンだなあ。なんかこう……いつもはなんか冗談とか言ってくれるのに、気が滅入っているのかなぁ……

余りにもボロボロな格好なので、昨日何があったか訊いてみようか……いや、ヘンなトラウマを掘り返しそうだからな……


もう授業なんて頭に入らなかった。前まで綺麗だったのに、なんで最近ボロボロなんだろう、怪しい、怪しすぎる。よし、今日はちょっとつけてみようか。


サークルの仲間に今日休むと連絡を入れ、じゃあねと言って一旦別れた後にコッソリついていく。そう言えばあの子、飛んで帰るのを見たことがない。一体どこに住んでいるんだろう……

しばらく歩くと駅に着いた。駅なんて来るのは久し振り。一人で行動する様になってから電車など乗る機会なんて県外へ行くとかそういう遠くに行くときぐらいしかないし。確かきっぷを買うんだっけ? 迷っている間にあの子は行ってしまう! ええい、てきとうに買ってしまえッ!


ホームには鳥人はあたしと彼女の二人だけ。みんな飛んで行くから、よほど遠くに行かない限り誰も使わない。しばらくして銀色に鈍く輝く電車がやってきた。ちょっとこのギラギラは苦手。なんかダメなの。


窓から中を見るとすごい人だかりだけど、ドアが開いても降りる人か全然いない! あの子はこれに毎日乗っているの? ぎゅうぎゅうの車内に無理やり体を押し込んでくる人のせいで、畳んだ羽根が隣の人にぶつかってる。隣のおじさんなんかすごくやな顔してるけど、誰も声に出さない。沈黙の車内には響くのは車輪の音ぐらいで、そこそこスピードがあってかなり揺れるけど、腕を伸ばすと翼が開いちゃうから手すりに掴まることも出来ないの。

30分ほど経ったかな……車内は人だかりでとても暑くて、羽根の下は汗で蒸れ蒸れ。こんな状態なのに涼しい顔をしているあの子はなかなかすごいわ。

それからしばらく歩くみたい。坂を上り、狭い路地を通り、大通りを渡ってやっと着いた。平屋の一戸建てで、ややこじんまりした古い家は、しんと静まりかえって……

って、あれ? まっすっぐ家に来ちゃったよ……どうしよう、なんかヤバいところに行くのかと思ってた。


「あれ、島江さん?なんでここに?」

うげっ……バレたし……

「いや〜なんかちょっと、たまたま〜こっちのほうに来ちゃったんだー。

へぇー住んでるとここ、ここう……、ここだったんだネー……」


なんかちょっと噛んだ、苦しい言い訳だ……

「なんか……すごく汗かいてるね……大丈夫? シャワーでも浴びてく?」

よく見たら、服が透けるほど汗かいてる。これはご厚意に甘えることとしよっかな。


お風呂が意外と広いので二人で入ることにした。まだ暑い日が続くし、羽根が汗ばむと気持ちが悪いからありがたい。

いつ見ても彼女の漆黒の翼は綺麗で、水に濡れると艶が輝くのがすごい。

あと……なんというか、でかい。着痩せするタイプなのかなぁ。

自分のぺったんこだし、鳥人ってこんなもんだと思ってたけど大きい人もいるんだね……

やっぱり擦り傷だらけ。……そういえば、あたしが小さかった頃、お父さんに連れられて傷だらけになるまで飛ぶ練習をさせられたときの自分の傷と似ている……もう傷跡なんてすっかり治って、大怪我したときの跡しか無いけど。


あれ、もしかして……いや、それはない。だって彼女はツバメだもの

でも、もしかしたら……彼女、飛べないのかな!? もしそうなら、全部ナットク!!

電車に乗るのも飛んでいるのを見たことが無いのも!!

でも、聞いてもいいのかなぁ……ツバメってプライド高いし、お高くとまってるって言われるてるのよく見たもん。

「ねぇ……その、体の傷なんだけど、もしかして、落っこちちゃった?」

「え?」

なんか分かんない感じだ。やっぱツバメだよねー落ちるなんてあり得ないよってカンジかな? でも本当にわかってない様な感じにも取れるなぁ。うーん。

「たまにフラフラ飛んじゃって頭ぶつけたり、滑って体で着陸しちゃったり。最近ないけど、昔はしょっちゅうだったよ」

ちょっと補足してみる。

「え、みんな飛べなかったときがあるの?」

あれ?

「そりゃあるよーー、最初から飛べるひとなんていないよお。ホラ見て、ここの痣なんだけど、これ、高く飛んだときにうっかり落ちちゃった時についた傷なんだ。免許とって調子に乗ってたから完全んか自業自得だけど」

と言って肋骨の下あたりにある痣を見せる。

「でも、わたしの弟や妹はすぐ飛べたよ……」

あーなんだなんだ、そういう事か!

家族が出来る人ばっかだから、それが当たり前だって思っちゃったんだ。

「ふつう最初から飛べないってばーっ!

友達だってお父さんに情けない奴だとかあーだこうだ言われたって言ってたもん。」

心配することないんだけどなー、なんか思い詰めるタイプなのかも……

練習はしてるみたいだけど飛べないっていうのは、コツがつかめてないんだろうなぁ。

よし、このあたしが伝授してやろうではないか〜!

「実はあたしもさ、最近あまり飛んでなかったから体がなまっちゃっているかも。

ねえ、一緒に練習しない?」

「え、いいの?」

「いいよ、学校終わってから時間あるなら、その時やろう、はい決定!」

こうして、あたしたちは一緒に練習する事になった。綺麗な彼女が優雅に飛ぶとこを見るのが楽しみだなーー……なんてね。


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