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 シンジのリクエストでセーラは、昼夜の食事を一緒にとることになった。

 長いテーブルの端に座ろうとすると、

「も~そんなこんなとこに座ったら顔が見えないでしょ。オチャメさん!」

 シンジに引っ張られて、隣に座らされる。

 

 セーラはテーブルに並ぶご馳走の数々に、躊躇していた。

 子爵家と言え、日常は質素なものだ。

 とりあえず、運ばれてきたスープを口にする。


「ナニ?セーラちゃんってダイエット中?」


 骨付き鳥を頬張るシンジが、不思議そうに聞いてくる。


「いいえ」


「だよねー。そんなことしたら、巨乳が萎んじゃうもんねー。そんなバカなことしないよねー」


「……勇者様。私では役不足だとわかってるんですが、何かお手伝いしたいんです。勇者様に何かしたいと言うのは、食事の相手とかではなくて……」

 

 セーラの真剣な言葉をシンジが遮る。

 俯いて、少し寂しそうに肩を竦める。


「オレは異世界から来たの。知り合いも親も友達もいない世界に。勝手に召喚されてね。勇者って言われて、スゲーキツイ訓練受けてるの。身も心もクタクタなの。癒しが欲しいの。セーラちゃんと食事したり昼寝したりデートしたいの?そーいうのはダメなの?」


 それはシンジの心からの叫びに聞こえた。

 セーラは頭を殴られた気持ちだった。

 チャラついている勇者様の本音と弱さを、はじめて知った気がした。


「ダメじゃないです!食事もデートもバンバンしましょう。何でも言って下さい!」

 

 テンションのあがったセーラに、シンジはちょっと引き気味になる。


「ありがとね~。でもオレ心配だよ。セーラちゃん悪いヤツに騙されそうだよ……あ。イヤイヤこっちの話よ」

 

 それからシンジとセーラは、訓練の合間を見つけて、近くの植物園に出掛けたり、街で買い物をしたり、足でボールを操るゲームを教わったり、ホホロ宮殿でもそれ以外でも日常を楽しんだ。

 セーラとの時間は、シンジがストレスや異国の寂しさを紛らわせられる様に、心を配る。

 そんな姿に、批判する者や陰口を叩く者もいたが、セーラはもう気にならない。

 ニヘラと笑う軽薄な笑顔を見る為に、セーラは日々を過ごしていた。



 勇者様付きになって二度めの秋のある日だった。

 お兄様が率いる第一隊と第二第三第六、第八隊が、兵士を連れて出立した。

 練られていたであろう作戦は、セーラの耳には入ってこなかった。

 

 慌ただしい展開に呆然としているセーラに、シンジが言った。


「そろそろオレも、出番かな~」

 

 この戦は対ホホロ国だ。


「魔王が関係ないなら、勇者様も行かなくていいはずです」


 戦に備えての訓練をしていた筈なのに、セーラの心が騒ぐ。


「甘いよ~セーラちゃん。あの髭のおっさんの野心は相当なもんよ。この大陸の国すべて手中に入れたいんじゃないの?引きこもってる魔王の事なんかほっといてさ」

 

 ハッとセーラが息をのむ。


「他の国も勇者召喚したって聞いてるし、出来ればその勇者さんたちとお話ししたいんだけどね~戦場で初顔合わせじゃあムリだろうなぁ」


「勇者様出立の際は、私もついて行きますから!」


「え~。セーラちゃんついてくるの~」

 シンジがおどけた顔をつくる。


「当たり前です!私は勇者様付きの騎士ですから」

 

 セーラがベストがはち切れそうな胸をはる。


「まぁ、じゃあお呼びが掛かるまでノンビリしよ~?ヒザマクラ!ヒザマクラ!」

 

 シンジが巨大なベットにダイブして、ごろんと寝転ぶ。

 リクエストに答えて、セーラに膝枕をしてもらったシンジはご満悦だ。


「あ~ゴクラク、ゴクラク」

 

 シンジはセーラの腹部に顔をくっつけ、幸せそうに目を閉じた。




 誰かに髪を優しく撫でられ、額に口づけをされる。

 そんな夢を見ていた。

 目が覚めると、シンジは居なかった。

 セーラは巨大なベットに寝かされ、布団が掛けられていた。

 膝枕して、シンジが起きた後喉が渇いたと言って、オレンジジュースを飲んで……それから。

 窓から見える空は暗く、時間は夜だと告げている。


 慌てて室内を探す。

 備え付けのバスルームとトイレを見る。

 何故だか嫌な予感がしてたまらなかった。


「勇者様ー!勇者様ー!」

 

 部屋を出て、係りのメイドたちに尋ねる。

 誰も居場所を知らない。

 バタバタと宮殿内を走る。

 お上品な女官たちが眉をひそめて避ける。

 セーラは構わず走りながら叫んだ。


「勇者様ー!勇者様ー!」


 総裁室にノックもしないで駆け込んだ。


「なんの騒ぎだ!」

「なに用じゃ、騒がしい!」

 

 魔術師の方々に非難されるが、もう知ったことではない。

 セーラは荒い息で、イグノミアラス様に尋ねる。


「勇者様がおりません!」


 そんなの何時もの事であろうと、イグノミアラス様に叱って欲しかった。

 イグノミアラス様は怒りも笑いもしなかった。

 事実だけを告げる。


「勇者様はホホロ国に行かれた。使命を果たしに行かれた」


 セーラの目の前が真っ暗になった。


「し、使命は魔王討伐のはずで……ホホロ国とは……」

 

 イグノミアラス様が舌打ちをされる。


「そなた、アステリア国の騎士ではないのか?国と国民の利益を守る為に日夜励まれているのではないのか?勇者様とて同じ事、我が国に召喚された勇者様の使命を考えろ!」


「ならば私も、私も戦場に向かいます。私も騎士です!」

 

 セーラには、もうその道しかなかった。

 イグノミアラス様は静かに首を振って話された。


「勇者シンジ様は、魔力は素晴らしいが、甘いところがある。戦をする必要が無いと言われておった。戦法が決まっていただけに困っておったが、セーラ殿を参戦させない事を条件にのんでもらえた。そなたに知られたら反対するだろうから、秘密裏に事をすすめ、そなたを眠らせている内に出立されたのだ。勇者シンジ様の魔力があればホホロ国など容易いものであろう」

 

 イグノミアラス様の言葉が、ガンガンと頭に響く。


「私は……眠らされていたんですか?」


「勇者様が持っていた白い薬をジュースに入れると、そなたは眠ってしまわれた。不思議な薬よ。ヨウコちゃんに貰ったイブだかギブだか、そのような名前の薬だったかの」


 追いかけよう!

 追いついてみせる!

 踵を返そうとしたセーラの腕をイグノミアラス様が掴む。


「我が国の為ではない、そなたの為に戦うと言っておったぞ。惚れた女を戦場に行かせるのは、チャラ男の風上にも置けぬと、申しておったぞ。故にセーラ殿、そなたはここで勇者様を待つしかない。彼はそなたの為に戦うのだから……」

 

 セーラは総裁室を後にして、シンジの部屋へと戻った。

 何時も着ていた紺色のズボンと、白いシャツがタンスに掛けられていた。

 

 お気に入りを残したんだから、帰ってくるよね。

 私もお気に入りなら、帰ってきてくれるよね。


 白いシャツをそっと手に取る。

 シンジさんって、カッコつけだね。

 イグノミアラス様が伝えてくれた言葉の数々を思い出しながら、シャツを抱き締める。

 フフ……笑いながらセーラは白いシャツに涙をこぼした。

 

 私は騎士、剣術を磨こう。

 血豆が出来て腕があがらなくなるまで。

 勇者様を守ってあげられるように。


 ホホロ国は敗れ、それから三国による大戦が始まった。

 

 


 





 

 



最後まで読んで頂いてありがとうございます。短編小説『魔王が保父』連載小説『ウエスリア大陸へようこそ』『GOGO!ファイブスター』と話は繋がっています。一読頂けると嬉しいです。

勇者シンジは昔気質のイイ男ですよね?

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