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 セーラは追いつめられていた。

 魔術師イグノミアラス様からは、教育係としての教えをこんこんと説かれ、お父様からは期待と不安に満ちたお言葉を頂き、お兄様からは任務を辞退するようにと、冷たく言い渡される。

 セーラ自身も辞めてしまいたい。

 全くの自信がなかった。


 セーラは子爵の家に生まれ、武道に長けたお兄様を見習い、剣術を学んだ。

 ほんの少し魔力があったおかげか、幼少の頃は、武術大会で入賞したこともある。

 流されるまま騎士学校を卒業し、晴れて騎士団に入隊することは出来た。

 

 成長するにつれ本来の力の差が出てくる。

 剣術の才が無いことには、学校で訓練を受ける頃から気づいていた。

 そしてセーラには、努力する才も欠けていた。

 血豆をつくり鍛える根性もないセーラの、僅かな魔力で補える程、騎士の世界は甘くない。

 どんどんと実力を発揮していく同期を尻目に、セーラは燻り続る。

 

 騎士団での配属が決まった時、セーラに与えられたのは、第七騎士団のナンバー18。

 騎士団は全八部隊あり、各々24名が所属する。

 第八騎士団は、看護班と魔力者が所属する部隊なので、実質は七部隊168名中の162番目。

 それがセーラの騎士としての地位だ。


 魔王討伐に備えて、騎士団ではより厳しい訓練が行われていく。

 そしてアリステル王様が、どこの国よりも早く、勇者様を召喚された。

 大陸の平和は私たちと勇者様が守るのだと、騎士団の士気もあがっていた。

 

 そんな時だった。

 イグノミアラス様の従者が騎士団の訓練場に現れて、セーラを呼び出したのは……。


「イグノミアラス様がお待ちです。総裁室までお越し下さい」

 

 白い衣を纏った美しい人に頭を下げられて、セーラは慌てた。

 何の用だろうと、訓練場は好奇の渦に包まれる。


「セーラ殿、イグノミアラス様のお呼び出しだ。急いで行ってきたまえ」

 

 伯爵家の息子でソバカス顔の、ウエラ隊長から許可が出る。


「第七隊所属18番セーラ、行って参ります」

 

 敬礼をして、白い衣の人の後に続いた。



 魔術師総裁室にはイグノミアラス様と数人の魔術師と、見知らぬ男がダルそうに立っていた。

 茶色い長めの髪に、だらしなく下げられた紺のゴワついたズボンと、えらく胸元の開いた白いシャツ姿の男にイグノミアラス様が尋ねる。


「シンジ殿。この者でどうだろうか?第七隊所属ではあるが、アステリア国の騎士だ。もう他には希望にそえる者はおるまい」

 

 イグノミアラス様はお疲れのようだ。

 シンジと呼ばれた男が、軽薄そうな顔でセーラに近づいてくる。

 セーラは身構えた。


「ふ~ん。マトモな女子もいるじゃん。女騎士ちゃんをリクエストしても、ごっついのばっかで、ゲンナリしてだんだ~。いいねーセーラちゃん。巨乳ってトコが、バツグンだねぇ~」

 

 息がかかりそうな距離まで近づかれ、ニヤニヤと舐め回すように見られて、セーラは剣に手をかけた。


「やめたまえセーラ殿。この方は、我が国の勇者様だ」


 ゆ、勇者様?


「そう、オレ勇者なの。セーラちゃんヨロチクビ~」


 目眩を感じて倒れかけるセーラに、追い討ちをかける。


「セーラ殿。第七隊所属を解除し、本日付で勇者様付き騎士に任命する!」

 

 イグノミアラス様の低い声が総裁室に響き渡った。

 





 

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