第7話.One-way ticket
連日投稿継続中です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ボチボチ、別作品のプロットも書いていかないと・・・(;^ω^)
指の指し示すモンスター──空飛ぶ竜アークドラゴン目がけて、炎が飛ぶ。
業火陣で阻み、多いときは範囲系魔法で殲滅する。
『古城』へ向かう途中であった。
「はぁはぁはぁ・・・」
さすがに無傷とはいかず、あちこちから血が流れている。
いま、ユミルもシオンも居なかった。
今頃は<評議会>から<漆黒>の烙印が押されているだろう。
(・・・もう会えないかもしれないね・・・)
一抹の寂しさはあったが、彼女を巻き込むわけにはいかなかった。
キュオォ~ン
モンスターの声が近づいてくる・・・後少し・・・後少しで『古城』だ。
問題は魔力が続くか。その一点にかかっていた。
キュオォォ~ン
目の前に現れたのは3匹のアークドラゴン。竜族と言うだけあって、その頑丈な肉体が厄介である。
(やばいね・・・これは)
業火陣を展開し、幻縛沼を張る。
しかし思ったほどに、効果が上がってはいない。重力の束縛も、火炎の壁も通常の半分程度の威力だった。
「くそっ」
明らかに魔力が足りなくなっていた。
指先から迸る光にも力が無く、もはや魔力だけではなく命運が尽きようとしていた。
「・・・ここまでか」
後悔はユミルに会えないこと、師の行方を確かめられないこと・・・沢山あった。
杖を握りしめ、身構える。最後まで諦めずにいたかった。
力の限り・・・息を整える。血は流れ、満足に戦えそうにはない。だがみっともない死に様は晒したくもなかった。
業火陣が消えた。アークドラゴンが迫ってくる。
くちばしを杖で受け流す。
「くっ・・・!」
3体ともが、カインの周囲を取り囲んだ。
突如沸き起こったの光。地面から伸び上がったそれは、アークドラゴンを打ちのめす。
キュィィ~
眼前には重厚な鎧を着込んだ人影。赤い髪が揺れている。
「あいにくと、こいつをお前らにくれてやるわけにはいかないんでな!」
(・・・ランドルフ?!)
「聖光!!」
女性の声がそう叫んだ途端、神聖な光の一撃が1体を沈黙させた。
沈んで行く意識の中で、カインは誰かの泣く声を聞いた気がした・・・・。
*
鼻歌と美味しそうなシチューの香りが台所から漂ってくる。
楽しそうに料理を作る彼女の笑顔は、いつ見ても癒される。
料理は彼女に任せ、僕は食器を並べていく。
左腕だけで出来る家事は限られている。
その大部分を彼女に負担を掛けている負い目も無論あるが、何より少しでも手伝えることが嬉しい。
「カインさん」
「こっちの準備は良いよ、ユミルさん」
耳朶を打つ暖かい声に振り返る。
手元では丁度テーブルに食器を並べ終わったところである。
視線の先に、にこやかに微笑むユミルが湯気を立てている鍋を抱えていた。
「今日は、二人でとってきたキノコをたっぷり使ったシチューですよ」
「おおぉ、美味しそうだね。肉は何を入れたの?」
「この間、カインさんが狩ってきた野兎のモモ肉を入れましたから、沢山食べてくださいね」
彼女の得意料理のひとつ、シチュー。これがまた絶品なのだ。
ゴロっとした野菜と柔らかく煮込まれた肉が旨い。
今日も食べ過ぎてしまう予感に笑みがこぼれる。
「では暖かいうちに、いたただきますっ!」
*
シュバルツの露店通り。
中央広場のこの辺りは、人も店も所狭しという感じだ。
あちこちから飛び交う客寄せの声と白熱する値切りの声が溶け合い、辺りをより活気づけている。
そんな中、ユミルが一軒の店の前で立ち止まってしまっていた。
ネックレスや指輪などを取り扱うアクセサリーの店だ。
淡い緑の輝きのペリドットがあしらわれたペンダントに魅入ってしまっていた。
これまでアクセサリーなど興味はなかったが、何故かその楕円形のペリドットを螺旋状に包むデザインに惹かれてしまった。
「何かいいもの見つけた?」
そうカインさんに声を掛けられ、我に返る。
「い・・・いえ、その・・・」
咄嗟になんとも言えず、しどろもどろになってしまう。
同時に恥ずかしくなり、顔が熱くなってくる。
そんな私を他所にカインさんは、私が見ていたペンダントを手に取った。
「おっ、彼氏さん彼女にプレゼントかい?うちのは全部手作りの一点ものだよ」
「へぇ、そうなんですか。ちなみにこの地金は??」
店員の女性が話し掛けてきたので、誤魔化せたと思う。
「じゃぁ、これください」
デザインは首都プロキウスの若手が手掛けたとか、地金はすべて銀だとかを一頻り聞いた後にカインさんは私が見ていたペンダントを購入した。
誰に上げるんだろうか。そう考えると何だか胸が苦しい。
だって、ペリドットの石言葉は「運命の絆」。カインさんは知っているのだろうか?
その後も色々な店を見て回ったが、頭の中が言い知れぬ感情がグルグルと巡ってほとんど覚えていない。
やがて、シュバルツの町の外、西のはずれにある丘に辿り着いた。
「ユミルさん・・・ユミルさん?」
「・・・はっ、はい?」
「これ受け取って貰えるかな?」
一瞬、涼やかな風が吹き抜ける。
カインさんの言葉を聞いて、思わず彼の顔を見つめる。
「感謝の気持ちと僕の気持ちを込めて。」
その時初めて、辺りが夕焼けに包まれていることに気付いた。
「気持ち・・・ですか?」
「うん。ユミルさん、いやユミル・・・僕と付き合ってもらえませんか?」
「えっ・・・?!」
言葉とともに差し出されたのは、先ほどのペンダント。
「出会って長い時間ではないけど、ユミルの優しさも強さも弱さも可愛らしさも好きだよ。
勝手かもしれないけど、僕はユミルと出会いたことは運命だと思ってる。
君と一緒に生きていきたい。ダメかな・・・?」
嬉しくて嬉しくて、涙が溢れてきてしまう。
私も彼の優しさ強さや弱さを見てきて惹かれていた。その柔らかな眼差しを愛おしく思っている。
「もちろん、OKに決まってます。こんな時まで自信無さそうに言うなんて
・・・えっと、そんなカインの弱気なところも大好きです。」
ああ、夕陽がこんなにも美しい日は一生忘れないだろう。
*
「うっ・・・いたたたた・・・・」
すぐ横で、木がはぜる音がした。
あたりは既に暗くなっている。
丁寧な手当が施されていた。大きな傷は回復魔法で塞いだようであった。
「おきたか」
焚き火に枯れ枝を足しながらランドルフが言った。
「なんで・・・」
「なんでもなにもないだろう?」
苦笑しながら、ランドルフが言った。その横でシオンがスヤスヤと眠っている。
「まぁお前がこういう行動に出るのは分かり切っていたんだが・・・予想より早いもんで、間に合わないかと思ったぞ」
「よく、追いついたね・・・あっ、助けてくれてありがとう・・・」
「うむ。ユミルさんが聖教会で丁度聖霊門の使用許可を取っていたからな。それでさ。」
聖霊門とは神官に許される空間を転移する魔法である。
使用時には空間への干渉が行われるために、非常時以外における使用は原則認められてはいない。
「ユミル・・・来ちゃったんだね・・・」
背後で草を踏む音がした。振り返った途端、
ばちんっ!
小気味良い音が、カインの頬から上がった。
「なんでですかっ!」
叩かれた方よりも、叩いたユミルの方が辛そうだ。瞳に涙をためている。
「なんで、わたしとシオンちゃんを置いていっちゃったんです!」
「・・・君を巻き込む訳にはいかないんだよ・・・」
力無くカインは呟く。出会いはユミルが、傷ついた自分を介抱してくれたことだった。シオンを連れ、共にリーズまで行った。だから・・・
「無関係の君をこれ以上巻き込むことは・・・」
「わたしはカインさんにとって、その程度の関わりしか持てないんですか?わたしは・・・わたしには、カインさんが」
「ごめん・・・ユミル・・・」
痛む身体を無理矢理、立ち上がらせた。泣きじゃくるユミルに手を伸ばし、そっと抱き寄せる。
「ユミル・・・君を愛してる。これからの旅は厳しいけど、それでもボクについてきてくれるかい?」
泣いて赤くなった眼を、大きく見開いたユミル。
「嫌だって言っても離れませんから」
月が二人を祝福していた。
時は来た!
魔の気配と滅びのが木霊する
世界は蝕まれ
静かに冥府への扉の前に立ち尽くす
『愚者の烙印』
第八話【戦火の足音】
貴方の手は何を守れますか?