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愚者の烙印  作者: 久我四門
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第4話.The echo from the past

夜にupするのが良いのか、朝にupするのが良いのか思案中です

 森である。首都南の砂漠を抜けると、南東部はそれまでの暑さとは打って変わり、涼しい地域に入る。

旅人が森の街キレンと、最南端の街リーズに向かうために利用する道である。

ここ数年は、モンスターの凶暴化が進み、このルートも安全とは言い切れないが、幽霊船騒ぎで船の出ないイエルを使わずにリーズに行くには仕方がない。

いずれにせよ、ユミルの神聖魔法とカインの元素魔法により、無事に森を抜けようとしていた。

が、

ガルルルゥ~

茂みから聞こえる複数の唸り声。

身構えた瞬間に、無数の影が3人に襲いかかる!

カインの閃く左腕と共に生じた火焔の壁が、突進してきた影を消し炭に変える!

「えぃっ!」

ユミルの振り回すメイスが唸りを上げる。

「はっ!」

振り上げたカインの腕が地面を叩いた瞬間、

ズバァッッ!!

地中から生えるように、岩の槍が火焔の壁を抜けた影を貫いた。

「シオンちゃんっ!」

叫んだユミルの視線の先には、背後から襲いかかる影が二つ。

「ぶれいくぅぅそぅーーーーうるっ!」

突きだした右手から、純白の光が飛び出す。迫り来る影の一つに突き刺さり、

ドンッ

弾けた瞬間、もう一つの影も吹き飛ばされる。

無属系の基本魔法であるブレイクソウル。シオンが好んで使っているソウルナックルは、その上位魔法である。

ソウルナックルとブレイクソウルの違いは、いくつかあるが、基本は詠唱後のディレイと呼ばれる詠唱直後の硬直時間の有無と、拡散するかしないか、という点だろう。

ブレイクソウルには硬直時間がない。ソウルナックルに比べ、一点集中の攻撃ではないため突破力に欠ける。しかし、拡散性を利用し一定範囲の敵を同時にダメージを与えることができる。

速射性という点ではブレイクソウルに軍配が上がる。

一方、ソウルナックルは攻撃力を集中させるため、破壊力という点では他の元素魔法にも引けを取らない。速射でブレイクソウルには劣るものの、他の元素魔法と比べると格段に早い。

ただし、無属系の弱点はその魔力消費量の高さだ。元素魔法といった、周囲の精霊に力を借りる物とは違い、霊の力を用いるために魔力変換の効率が悪いのである。

とにもかくにも。シオンの危機は去ったものの、周囲を物の見事に狼の群で囲まれていた。

次々と迫り来る狼を払いのけるが、一向に減る様子はない。

「まずいねぇ、実にまずい」

背中合わせになったユミルに、肩で息をしながらカインは言った。

範囲系であればまとめて倒すことも可能だが、撃ち漏らした狼が二人を襲う。

しかし単体攻撃ではなおさらキリがない。

シオンの範囲系はブレイクソウルのみである。このままいけば、ずるずると消耗戦であった。

「ふろぉ~ずんこふぃぃぃ~~ん!」

一方シオンは1体ずつ倒すことよりも、凍結魔法のフローズンコフィンで動きを止める作戦に出ていた。

「はぁはぁ・・・あの魔力は・・・はぁはぁ・・・どっから来るんでしょうねぇ・・・」

ユミルも疲労を隠せないが、それ以上にシオンの魔力量の多さに舌を巻いた。

一歩も動かず、魔力の消費量を抑えているとはいえ、明らかに半端でない魔法を行使しているが、いっかな打ち止めの様子がないのである。

「!」

カインは振り向いた、一回り大きな狼がいた。

片目を縦に走る傷、獰猛な牙、そして・・・知性を宿した眼を持っている。

(あれがボスだな)

直感的にそうカインは悟った。

大抵の肉食獣の群というものは、ボスをどうにかしなければ始末に負えない。

だが、多すぎる狼を無視して、ボス狼に手を出せる状況でも無かった。

光り輝く無数の眼が次から次へと、3人に迫ってくるのだ。手を休めれば、その時点で終わりである。

呪文の詠唱が終わるまでの時間を稼ぎうる一瞬を、ひたすら待つしかない。

しかし、先にボス狼が動いた!

アオォォーン

一声吼えると、狼たちは3人の周囲を回りだした。

そしてこれまで以上に不規則に襲いかかってきた!その奥から一歩一歩とボス狼が近づいてくる。

アオォォーン!

再び声を上げると、周囲を回っていた狼が一斉にさながら黒い波のように飛びかかる!

目覚めよ地の精 汝らの領域を侵す者を 指し示せ

大地が牙状に盛り上がり、下から狼たちを打ちのめした。

地爆吼アース・ファングである。一定範囲を同時に攻撃する地属性の元素魔法で、破壊力よりも気絶スタンをさせる目的が強い。

一斉に崩れ落ちる狼の向こう側から、ボス狼が姿を現した。その牙の先にはシオン。

(しまった!)

自分の迂闊さに臍をかんだものの、魔法使用後の硬直が動きを一瞬阻んだ。

すべてを覚悟し、目を閉じた。

「ブランディッシュ・スピアッ!」

風を切り裂きく音。そして肉を貫く音が聞こえた。

「指弾<流星雨>!」

目を開けた3人は、狼の群に無数に降りかかる流星を見た。

『指弾』という技がある。神官アコライトが、荒行を求め、その道を現実的な肉体修練の果てに行き着いたという求道僧モンクの使う技だ。

自身の体内の気を練り、小石や硬貨などに乗せて指で打ち出す。気を帯びた物体でかつ、鍛え上げられた筋力で放たれた指弾は、厚い装甲も貫く威力を秘める。無数の指弾が、次々へと狼をうち倒していく。

そして、地面に槍で縫い止められたボス狼の姿と地面に累々と横たわる死体。

「よぉーあぶないところだったねぇ」

銀髪の騎士が、姿を現した。大型の騎乗用の鳥──ペリオムにのっている。

「・・・って、シオンじゃん。なーにやってんだか」

「おっ?シオンさん?・・・おぉ、おひさしー」

その蔭から、笠を被った求道僧(モンク)が姿を見せる。

「あっ、あなた方・・・シオンちゃんの事を知っているんですか?」

ユミルの驚きの声があたりにこだました。


                *


 潮の香りがする。そこはルーンヴァイス王国南東部の港町リーズの宿屋である。

正面にはさっきの騎士とモンクが座っている。

「で、シオンは記憶無しってわけですか」先刻、ローガ・ルミエリアと名乗った銀髪の騎士が聞いてきた。

「ほっほー、シオンさんも珍妙な人生歩んでるねぇ」

笠を店内でもかぶり続ける珍妙なモンクが言った。名前はシゲンという。

カインの横で、シオンは不思議そうに二人を見つめている。

「シュバルツで知り合った狩人のアレックスさんの話から、シオンがリーズにも滞在していたと聞きまして。」

「なるほど。まぁ私がわかることなら、いくらでもお教えしますよ。なぁ、シゲン?」

「そだねぇ。」

ローガの台詞に、シゲンが頷く。

「んじゃ、まずはシオンがリーズに来たときからかねぇ」

そういうと、コーヒーを一口飲んでローガは語り始めた。


出会いはいつも嵐

人々の心に渦巻くもの

ほんの一瞬の出来事が

彼らを深く深く繋いでいく


『愚者の烙印』

第五話【meets many disgusting swords ,a storm】

無意味なものなど何もありはしないよ?

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