第1話.The Rain without noise
色々ありまして、日付変わりましたが、よろしくお願いします。
ルーンヴァイス王国はミルドガ大陸の中央に位置する王国である。
北にエレクシア共和国を望み、共に繁栄を遂げた人間の国である。
首都はプロキウス。その近郊に衛星都市イエル、南東にキレンとリーズを、南西にオアシナなどの都市を擁する。
そして西には魔法を志す者は必ず足を踏み入れる、魔法都市シュバルツがある。
ここの地域に魔法都市が建造されたのにはいくつかの理由がある。
一つはその西側に存在する通称「古城」──ゲヘナ・ホーンの魔法遺産の研究である。
もう一つは、魔法の行使に必要となる藍輝晶を産する鉱山が近いことである。
だが、都市以外の鉱山の近辺などに都市以外に人が居住することはまず、ない。
というのも、モンスターの脅威がルーンヴァイス王国においても特に厳しいからだ。
しかし、そのシュバルツ北東部にシリウス島と呼称される小島にコミューンができていることは余り知られていない。
清涼な水と、極めて穏やかな性質のモンスター。そして豊かな森林。それらがコミューンを支えているのである。
*
「し・・・しっしょうっ!!」
跳ね起きた。全身が汗に滲んでいる。
黒い長髪を後ろで束ね、裸の上半身を右肩から包帯が幾重にも巻かれている。
頭が痛い・・・。
額に掌を当てようとして、違和感に気付いた。あがらないのである。
意識的に右手を挙げようとする・・・だめだ・・・。
「だめですよ」
女性の声がした。辺りを見回すとそこは見慣れない部屋だった。
質素な作りの木造の家。いや小屋というほうが近いだろうか。
窓から優しい光が室内を照らしている。
声の主を求め、焦点の定まらぬ目を彷徨わせる。
ぼぅっと見えてくる人影・・・それは蒼い髪の美しい女性であった。
「だめですよっ」
囀るような声が心地よい。
「まだ腕の傷は塞がりきっていません。無理をなさっては」
(腕の傷・・・?)
意味するところが分からず、右の腕を見た。いや、元はあったところを見た、というのが正しいだろう。
そこに己が腕は無く、堅く巻かれた包帯が二の腕で赤く染まっている。
「!!うわぁぁぁっっっっっっー!!」
シリウス島に絶叫が轟いた。
「いたたた・・・・」
今度は左手で頭を抑えながら男は目を覚ました。
「もう大丈夫ですよ。治癒しておきましたから♪」
男は絶叫した直後、一見すると白魚のような拳に沈黙させられたのである。しかも一撃で。
犯人は・・・治療した本人である。
「でも、腕は治せませんでした・・・やっぱり。蘇生はまだ覚えていないんです、ごめんなさぃ」
「いっ、いえ・・・そんな・・・助けていただいてありがとうございます」
非常に申し訳なさそうに謝る彼女へ、慌てて感謝の気持ちを伝える。
ちなみに同じ回復系と思われている治癒と蘇生だが、厳密には異なると言うことを知る人はあまりいない。
治癒は生体の回復力を補い、回復速度を著しく向上させる。しかしながら、個体の生命力を越えることはできない。つまりは個体の回復能力の越える回復効果は得られないと言うことである。
簡単に言えば、個体の生命力を越える治癒をかけても、その分頑丈になるわけでも、怪我が治りやすいわけでもない。当然、喪失した四肢は個体がカニやトカゲでも無い限り生えてくることはないのである。
一方で蘇生は、死者蘇生を主たる効果とするが、生物にかけた場合は欠損した四肢を補うという効果が報告されている。しかしながら、である。考えてみれば死んだ人間が簡単に生き返ってきては、王権の相続問題や犯罪者の蘇生による治安悪化などが起こりうる。そこで聖教会と王家はある律を定めた。
すなわち、『王の要請と、その要請に対する神の許諾が無い限り、蘇生を用いることあたわず。』
よって、蘇生を修得した司祭でも、使用することは滅多に許されないのである。
「そこの川辺に倒れていたんですよ。身につけていた物は、そこに置いておきましたから。」
薬湯を煎じながら、彼女は言った。彼女の名はユミル。プロキウスの聖教会所属の司祭である。
原則、聖教会に所属する神官、司祭は国内数カ所にある教会にて修行を行っている。
とはいっても、何割かは修行の一貫で各地を回っており、彼女も丁度生まれ育ったこのコミューンに戻って来たところだという。
シリウス・コミューンはアンデッドの出る藍輝晶の鉱山が近いため、浄化の修行と鉱夫の護衛を兼ねて滞在する者も多いという。
「ところで、あなたお名前は?」
薬湯を差し出しながら、ユミルは聞いた。
横のテーブルには、魔導師の証たる契約の指輪、巻物・・・縁が赤く輝く葉っぱ・・・葉っぱ?そんな物を持ち歩いていた記憶はないが・・・
「あっ、俺の名前は・・・カイン。カイン・クローディアスです。」
親は居ない。孤児だった。幸いにそれで苦労する事はなかった。施設に恵まれたのだ。
物心着いてから、魔法の才を見出されて、若手最強と言われる魔導師てつぅに学んだ。
それから今まで、師とともに旅をして研鑽を重ねてきた・・・あの日まで・・・
師てつぅは<<星焔>>という二つ名を持つ、目標であり憧れの魔導師であった。
あの時の事を詳しく思い出そうとすればするほど靄がかかり、無くした腕が痛む気がした。
「焦ってはいけません・・・しばらく療養すれば、気分も傷もよくなりますよ」
優しいはずのユミルの声がどこか遠くの世界から聞こえる気がした。
ただ背に当てられた掌の温もりだけは確かに感じていた。
それから穏やかな日々が過ぎていった。
コミューンの環境や近所の人々が穏やかな事もあるが、なによりかいがいしく世話を焼いてくれるユミルの存在がなによりも大きかった。
あの時の事を思い出せないという焦りはあったものの、満ち足りた時間を生まれて初めて味わっていた。
しかし、その日も突然終わりを告げる。
魔法都市シュバルツにその所在を置く、「導士評議会」の召喚状が届いたのだ。
ただ一通の召喚状が、ユミルとの穏やかな日々に終わりを告げた。
旅立つ日、ユミルもシュバルツに行くという。修行の旅の再開だと。
カインは、彼女を連れシュバルツへと向かった。コミューンの近くには白水仙が咲き始めていた・・・
暴かれるのは過去?
晒されるのは過ち?
絡み合った宿命と云う名の鎖を解きほぐす時
貴方が眼にする光は 希望か絶望か
『愚者の烙印』
第二話【ROOTS】
自身の起源を知る時 可能性の欠片を貴方は掴む