第13話.刻雷の果てに
本日は時間ずらしで投稿します。
ご注意を。
<世界呪!>
光が狭まり、<彼>を締め付けた。
グォォォォッッッッ!?
「・・・兄さん・・・今で・・・す・・・右腕を・・・呼びなさい・・・兄さ・・んの・・・右・・・腕を・・・」
シオンが声を絞り出す。
(腕を呼ぶ?!)
激しく身じろぎする<彼>。それに合わせるかのように苦痛の声を漏らすシオン。
「・・・い・・・ま、奴の・・・クリスタルへの干渉が・・・弱まってい・・・ます・・・」
血が、頭からゆっくりとシオンの顔を流れ落ちる。
「・・・兄さ・・・んの、腕・・・は・・・あの中・・・強い意志で・・・呼びよ・・・せるんです・・・」
「シオンちゃん!」
「回復はランドルフさんに・・・はやく・・・」
耳から、眼から、鼻から血が流れ出した。
(強く願う?)
訳が分からない。だが、シオンは確実にダメージを受けている。
(腕よ・・・来い!)
<彼>の額にあるクリスタルから、黒い魔力がカインの右腕に収束し、形をなした。
漆黒の腕であった。魔力文字が踊り、腕の形を形成しているのである。
同時にカインの脳裏に、知り得ぬ古代の魔法が浮かんでくる。
師の記憶か、古代の記憶か。定かでは無かったが、唯一つ分かったこと・・・それは<彼>を滅ぼしうる魔法の存在だった。
シュバルツは崩壊し、シュバルツの防衛軍は首都へと後退していた。
イエルはなんとか持ちこたえていたものの、オアシナは放棄された。
リーズとキレンは海上に撤退をし、イエルの防衛に加わろうとしていた。
「閣下!このままでは!!」
首都上空に飛来するモンスターを迎撃するも、キリがなかった。
(ランドルフよ・・・お前がいないこの都を、俺は守りきれないのか?)
レオンは心の中の、もう一人の双璧たる男に問うた。
全身を紅く染めた男が立っている。
名はシオン。カインの義理の弟にして、師テシウスの盟友。
世界呪は、その存在をもって呪縛する魔法──いや、魔法ですらないかもしれない。
現存する青、赤、黄色の輝晶石では、反動の代用は効かず、またいかなる魔法体系にも組み込まれない。
強大な相手すらもその束縛の下に置くが、逃れようとする反動はすべて使用者に返ってくるのであった。
そして意志が途切れれば、たちまち束縛は解かれてしまう。
(・・・兄さん・・・あの魔法に気付いて・・・)
全身を襲う激痛に必死で耐えながら、シオンは祈った。
ユミルは泣いていた。
血だらけのシオン。最後の力を振り絞って時間を稼ぐランドルフ。
そして、強大な魔力の奔流を腕に宿したカイン。
自分の非力さを詫びた。自分の未熟さを恨んだ。
神聖魔法を可能な限り唱え、祈り、加護を下ろした。
そろそろ限界であった。
いくら動きを封じたとはいえ、破壊の塊みたいな<彼>を接近戦で仕留めるのは難題であった。
せめてシオンへの反動を防ぐ為に、傷を負わせ、消耗させるばかりであった。
最大の魔力をカインは練り上げる。
時はない。最大の一撃。師すら越える一撃がいる。
愛するユミルを守るため。友のランドルフを守るため。弟のシオンを守るため。
そしてみんなのいる世界を守りたいから。
最強の戦人 汝の怒りを我に与え給え
苦痛に顔が歪む。
魔法の反動である。いかなる元素魔法にも属さない強大な力。
ユミルがカインを優しく、だがしっかりと支えた。温かい。
万物を抱くその力!
精緻かつ強大な魔法陣がカインの腰を中心に光り輝く。
神罰を示す黒き腕!
右腕が激しく輝く。
神罰を示す黒き腕!
空が割れ、光が暗雲を切り裂く。
魔法陣と腕の魔力文字が連動するように明滅をする。
シオンの腕は血管が破れ、足もずたずたになっていた。
ランドルフ・ウィンザーは何かを察知して、大きく距離をとった。
<雷神槌!!>
あらゆる物を貫いた光がやってくる。
「オノレェェ、貴様ラァァァ!!我ガ肉体サエアレヴァァァッッッッ!!」
神話にトールという名を持つ雷神がいる。
その腰には力帯を絞め、腕には籠手、そして何者をも打ち砕く鉄槌を持っていたという。
目映い光が、視界を染め上げ、<彼>──『魔王の王』は無となった・・・。
「終わった・・・か?」
ランドルフが誰ともなしに聞いた。
「えぇ、終わりましたよ。」
シオンが静かに佇んでいる。
ゆらりと、前方へ歩き出す。
「シオンちゃんっ?」
ユミルの声に答えず、シオンは屈む。
「兄さん・・・テシウスですよ」
「!!」
慌てて駆け寄る3人。そしてシオンの腕の中で静かに横たわるテシウスの姿。
「師匠・・・?」
揺するが反応はなく、冷たくなっていた。
「ユミル・・・リザレクションを!」
しかしユミルは首を横に振った。
「まだなんです。仮に使えたとしても、戦争中の落命と見なされるかどうか・・・」
「師匠・・・冗談は止めて下さいよ・・・師匠・・・」
「ランドルフさん」
「あぁ、わかってる」
シオンの呼びかけに、ランドルフが頷く。
「カイン、悪いがな・・・ここはそろそろヤバイらしい・・・」
カラン・・・
天井付近からがれきが落ちる音がした。
「姉さん、急いで聖霊門を。」
「わかったわ」
<門>が開き、ランドルフが飲み込まれた。
「シオンちゃんも」
だがその声に、首を振る。
「僕はもうだめです。」
「なっ!なにを言うんだ、シオン」
「兄さん、ありがとう。でも、聖霊門は、瀕死の者が使用した場合、死ぬおそれがある。それを知らないわけじゃないよね?そして、転移に失敗したとき、<門>は閉じる。」
近くで大規模な崩壊音がした。
「時間もない。姉さんの魔力ももう限界だよね・・・歩いて帰ることも、できはしない・・・」
「シオンっ!」
「もう行って・・・姉さんを大事にね。あとテシウスも頼んだよ」
「いやだ・・・いやだよ・・・」
背後に巨大な瓦礫が落ちた。
涙ながらに引きずるユミルとともにカインは<門>へと飲み込まれ、<門>は光を失った。
後に『大崩落』と呼ばれた、この崩壊によって、『古城』は二度と足を踏み入れる事は出来なくなったという。
そして、同じ頃、ルーンヴァイス王国はモンスターの進軍を阻止した。
人の声 生活の香り
守られた日常に
明日の予感に
僕らはそっと安堵する
『愚者の烙印』エピローグ
ハッピーエンドじゃなきゃ終われない




