表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポリッシャー!  作者: 昼熊
1章
6/30

5話

 もう十年ぐらい前になるのか。


 当時の俺は読書と妄想が大好きな少年だった。小学生の面影は薄れ、かといって、まだまだ大人には程遠いそんな年頃。理想はあるが自分にはそれを叶える実力がない事を理解出来るぐらいには成熟していた。


 だからこそ、心に想い描く理想に似た主人公が活躍する物語が好きだった。当時ハマっていたライトノベルの主人公は完全無欠ではなく、日頃は目立たないがいざという場面で颯爽と現れ、弱きものを助ける。そんな彼に憧れていた。


 いつか自分もそうなりたい。


 だが、自分がそういう存在とはかけ離れていることは嫌という程、自覚はしていた。


 でも、認めたくなかった。悪あがきだとは分かっていても、子供じみた夢は捨てられなかった。あり得ないことだと分かっていても妄想は膨らむ一方だった。


 男性は誰もが一度はあるのではないだろうか。学校にテロリストがやってきて、好きな子をかばいながらテロリストを撃退する。なんて妄想。


 もしくは、学校の不良グループが弱い者いじめをしているのを見るに見かねて助けに入り、全員を叩きのめす。そんな自分を想像し自己満足するだけの日々。テロリストはともかく、不良関係の妄想は実際にやろうと思えばやれる局面はあったはずなのだが、現実の自分は勇気も実力も持ち合わせていなかった。


 そんな自分が取った手段は、自分を主役に見立てて妄想の世界で活躍させること。

 毎日暇さえあれば妄想し、それを書き留めていった。日に日に妄想を書き連ねたページは増え、気が付くと結構な枚数に達していた。何度も読み返し、気に入らない部分は訂正し書き換える。


 そんなことを毎日やっていると、ふと余計な事を考えるようになった。

 もし、当時に戻れるなら全力で止めていたと断言できる。が、あの頃の自分はその想いを止められなかった。


 無謀にも、この自分か書いている作品(妄想日記)を誰かに読んでもらいたい! と思ってしまったのだ。


 そしてある日、それを周りの友達に見せてしまった。

 最高傑作と信じていた自分は友達が絶賛してくれるだろうと思い込んでいたのだが、結果は……散々だった。


「面白くない」「お前がこんなにカッコいいわけないだろ」「何か気持ち悪い」「マンガの方がよっぽどいい」


 今にして思えば当たり前だ。何処かで見たことある、似たような設定を自分に置き換えて、僕格好いいだろ! 強いだろ! モテモテだぞ! なんて主張している妄想作品なんて誰が面白いと思うだろうか。


 だが、ある友人だけは違った。当時から一番仲が良く、何でも気さくに話すことができた友人の反応だけは別だった。


「私はこれ嫌いじゃないわよ。でも、まだまだ設定が甘い! ここはもうちょっとこうしたら面白くなるんじゃない?」


 お世辞や慰めるわけではなく、目を輝かせ微笑んだアイツの顔を正面から見返すことができなかった。この状況でそう言ってくれた友人が本当に嬉しかった。でも、俺はまだ子供だった。素直に気持ちを伝えるのが照れ臭かったのだろう。


「ま、まあ、本気出したらもっと良いもの書けるけどな!」


「おー言うわね。よっし、じゃあ私も混ぜてよ。将来漫画家目指すものとしては、物語作りの練習になるし」


 その日から、妄想を共有する仲間ができた。一人では考えもつかない発想や新しい設定も生まれた。既存の作品とは違ったオリジナリティーのある物語にしようと様々なアイデアが湧き出てきた。


「主人公の武器はどうしようか。ありきたりな剣や銃っていうのもなー」


「今までに誰も考え付かないような武器がいいわ」


「あと服装もそうだよな。普通に学生服でもいいのだけど何か違う……」


「変じゃなくて、見慣れていて、動きやすそうで格好いいのか。あ、あれどう! 前に家の仕事手伝っているときに見せてもらったときに着ていたやつ!」


「ん? もしかして作業着?」


「そうそう、それ! 黒の上下でダークヒーローっぽいし、動きやすいんでしょあれ」


「確かに! ポケットもいっぱいあるから、そこに秘密の道具が入っているとかいいかもしれない」


「うんうん、あ、ついでに武器も何かいいのない? 掃除道具とかそれっぽい感じで武器っぽいのとか」


「じゃあ、ポリッシャーとかいいかも。床洗う清掃機器なのだけど、メイスとかの巨大な鈍器っぽく見えなくもないし、先端のパッドを取り付ける部分の角度を調節できるから、水平方向の角度で先端を回転させて丸鋸が先端についたような状態のモードとか、先端についている取っ手を握って角度を直角に傾けると、ガトリングガンっぽいかんじになるモードとかどうだ!」


「いいね! いいね! 形態の変更もできる万能武器! 今までにないオリジナリティーもあるわ。清掃道具をモチーフにした道具や武器かー……ありね!」


「武器の名前はポリッシャーのままで十分いい感じだし! あ、そうだ。掃除をメインとするわけだから、作業着やポリッシャーをまとめて【聖装具】って呼ぶのはどう? 清掃の道具を略して、漢字をカッコよくしようよ」


「おおおっ、やるわね。じゃあ、勇者の呼び名も清掃をもじって、世界を綺麗にするという事で洗浄勇者って良くない? 戦場もかかっていて戦う感じでるし」





 あー色々と思い出したくない過去が、心の奥の方から自己主張し始めているよ。

 だけど、当時は本当に楽しかった。自分の妄想を理解してくれて、一緒にその馬鹿話に付き合ってくれたアイツには今も感謝している。

 

 だが、まさかアレが、こうなるなんて予想もつかなかった。若気の過ちがこんな事態を引き起こすなんて誰が想像できただろうか。

 

 もし、こんな未来が待っていると分かっていたなら、もうちょっと普通な設定にしていたのにっ!


 だいたい武器は剣でいいだろ! 銃とかならもっと便利だよ!

 作業着なんかじゃなくて鎧着た方が防御力あるぞ!

 確か技名とかも清掃に関係したネーミングにした気がする……。誰だよ、こんな馬鹿げた設定にしたヤツは。個性を出せばいいってもんじゃないだろうに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ