5話
そんなことがあって、恨まれるなら理解もできる。だが、ルイスは俺の実力を認めてくれたらしく、あれから一目置いてくれている。
「今日からは俺たちは友だ! だから、今までの事は気にすんなよ!」
と悪びれもせず言い切った性格が、ほんの少しだけ羨ましい。
「負けは負けだ! 隙を見せた俺が、そもそも悪いからな」
こういう男らしさは尊敬に値するのだが。
「不意を突いたとはいえ、あれは凄かったねー。メイラのポリッシャーより、凄いんじゃないの?」
メッツがモップを動かす手を休めずに、メイラへ笑顔を向ける。
「別にー。私のポリッシャーなら、今頃ルイスの背中に大きな風穴空いているわ!」
あの棘だらけのパッドなら、あり得るな。風穴どころか、ひき肉になっていそうだが。
「捕まえた魔族、どうなる」
話の流れとは関係ないキーガの呟きに、全員の動きが止まった。
「ゼフルーか。幼い外見からは信じられないほどの力で、さすが魔族といった実力だった。戦闘に参加しなかったからこそ、客観的に見て相手の実力が良く分かったよ」
「だねー。ポリッシャーも正面からぶつかっていたら、相手の防御を打ち砕けなかったと思う」
メイラが軽く肩をすくめた。
「魔族は美形が多いって聞くけど、実際あの子も可愛かったよね。人間に化けていた時なんて、僕好みだったなー。フルーゼだっけ」
「うええええええ!? あの魔族ってフルーゼだったの!」
知らなかったのかメイラ。心底驚いたようで、絶叫を上げ大きな目を更に大きく見開いている。
「そういや、正体を現した時にメイラいなかったよな。結局アイツは偵察活動でもしていたのか? 生徒に化けて学園に潜り込んでいたのかね」
ルイス、それは半分だけ当たりではないだろうか。あの戦いの後、かなりの傷を負っていたはずだ。逃げる力もなく学校に潜み傷を癒していたというのが、もう半分だろう。
「あいつ、俺たちと戦う前に誰かと戦っていたらしいぞ。包帯巻いていたのも、その時の傷が治ってなかったらしい。あれで完全じゃなかったって、どんだけだよ」
「魔族初めて見た。強すぎ」
「次やったら勝てないだろうなー。僕、次に魔族と会ったら逃げていい?」
三者三様、言葉は違うが魔族の強さと恐ろしさが骨身に沁みたようだ。
「フルーゼが魔族……フルーゼが魔族……」
メイラがバグの見つかったゲームのように、同じことを呟き続けている。敵が強いどころの騒ぎではないようだ。仲の良かった女子が実は敵で、知らずに倒したらさすがにショックだよな。
「話し戻すけど、魔族を捕らえておいてどうする気なのか。情報を聞き出したいのだろうけど、そう簡単に口を割ってくれるかどうか」
年齢が若い相手なので方法はありそうだが……厳しい尋問や拷問はしてほしくない。甘い考えなのは重々承知だが、見た目が子供だけに想像もしたくない。
「酷い事は、やめてほしいかな。あのゼフルーって、今のところ人を殺したりしてないらしいよ。分かっている範囲内だけでの話だけど」
メッツがポケットから出したメモ帳のページを捲っている。あれに情報でも書いてあるのか。イメージ的に諜報活動とかもやってそうだ。
「この一年、学園内で行方不明者も死者もでていない。ゼフルーが、フルーゼと名乗って学園内に入り込んでからは」
キーガも意外と情報通だ。勤務姿を見て気が付いたのだが、大きな体に似合わない繊細さと手先の器用さもある。細かい汚れにも気が付くし、相手の動きに合わせて先回りをする要領の良さもある。三人組チームワークの要は実はキーガなのではないだろうか。
「じゃあ、逆に懐柔する方向でいけばいいんじゃない。学園前の有名店からお菓子大量に取り寄せて、毎日食べさせるとか!」
復活したメイラが話に割り込んできた。仲が良かった相手だけに、厳しい意見は言えないか。
「それで、大量の虫歯作らせて、その虫歯を針でほじくる! なんなら、そこにレモン汁も注ぎ込む!」
……ずっと騙されていたことが、かなり頭にきているようだ。歯の神経に直接攻撃とは普通に拷問だろ、それ。
「じょ、冗談はさておき」
メイラの目が怖い。口元は笑っているが、あの目つき。冗談には見えない。これ以上そこには触れないで話を進めよう。
「魔族を捕まえたとなると、敵が助けに来る可能性が……」
「それは、無いと思うわ」
心配事は、あっさりと否定された。
「話によると、魔族って自分大好きで同族であろうと情けはかけないそうよ。実力主義だから成功者には富や地位を、失敗した者は切り捨てる方針なんだって」
メイラの話が真実だとすると別の心配が出てくる。そうなると、敵に捕まるという大失態を犯したゼフルーは処分されるのではないか? 彼女が魔族側のどれぐらいの地位にいるのか、それによって話は変わってきそうだが。
一度、ゼフルーと話をさせてもらうか。学園長にも魔族について詳しく訊いておこう。
敵を知ることが勝利への近道――妄想日記に書いた名言の一つだ。何かの歴史書で書いてあったのを、そのまま引用させてもらっただけだが。
何はともあれ、考えるのはここまでにして先に仕事を終わらせるか。ただでさえ、昨日一日潰れてしまい、作業時間が足りない現状なのだから手を休めている場合じゃない。
「話は、ここまでにして、一気にやろうか!」
「おーーっ!」
全員が拳を振り上げ、気合を入れ直し清掃へ戻った。
3章もこれで終わり、あとは最終章となります。
思ったより終わりが早かったです。一話あたりの掲載文字数を増やしたら2章より1話減りました。
もう少し文字数を増やして、毎日一話ずつ掲載の方が良かったのかもしれません。
最後までお付き合いのほどよろしくお願いします。
追記
すみません、最終章かと思ったら5章までありました。
あと、ちょっとだけつづくのじゃよ……




