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ポリッシャー!  作者: 昼熊
3章

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18/30

4話

 あの後、駆けつけてきた数名の清掃員が、倒れているゼフルーを素早く拘束し連行した。室内から追い出された俺はメイラと三人組に訊きたいことがあったのだが、見知らぬ清掃員に捕まり学園長室に連れて行かれた。


「で、あれは何だ」


 挨拶もなしに、単刀直入に訊く。


「あれとは?」


 この状況でとぼける気か。


「何で、ここの清掃員はあれ程までに戦うことができる? それにポリッシャーを武器として使っていたよな」


 ぽんっと手を合わせる。

 だから、わざとらしいって。


「そのことでしたか。それは、とりわけ不思議な事ではありませんよ。うちの清掃員は精鋭揃いですから」


 説明になってないだろ。清掃の技術だけではなく、何故、戦闘技術も磨いているのかと質問している。


「ちょっぴり真面目に話しますと、魔法学園の清掃員は戦闘訓練もしているからですよ。日頃はただの清掃員、果たしてその実態は、町の平和を守る謎の清掃集団!」


「それも、洗浄勇者を真似てのことか?」


「もちのろんです。勇者殿の力を底上げするためにも、清掃員のイメージを上げておくのは、とても大切なことですから。それに、勇者殿のおかげで清掃員に対する憧れと期待が付加されているので、清掃員であることが戦闘力上昇にも繋がるわけです」


 無意味なことに見えていたが、清掃員が戦うことに意味があったわけか。学園長はどこまで考えて、この学園を造ったのだろう。魔力を失った直後から、学園の建設を始めたと言っていた。全てが計算づくだとしたら相当な曲者だな。


「しかし、勇者殿は、よくここに来ますね……はっ、まさか! そっちの趣味が」


「ねえよ。お前が、全てを話さないからだろう。何が悲しくて、こんなむさ苦しい所に何度も来なければならないんだ」


「もう、照れ屋さんですねー」


「照れるか!」


 これ以上話すことは無いと判断し、部屋を出ようと背を向けた俺に学園長が大声を浴びせる。


「勇者殿が勇者だということは、他の清掃員にも秘密にしてくださいねー。ソウ殿は戦闘訓練も受けている、ちょっと強い清掃員って設定でお願いしますよ」


 返事変わりに、軽く右手を挙げた。



 あんなことがあった翌日だというのに、昨日やれなかった北側校舎の教室内清掃をしている。掃除に手を抜いているわけでは無いのだが、ポリッシャーで床を洗う時は頭で考えるのではなく体が覚えているので、全く別の事を考えていることが多々ある。

 今もその状態なので、昨日のことを思い返してしまう。


 あれから、ゼフルーはどうなったのか。学園長は「秘密の場所に閉じ込めてますよー」と暢気に言っていたが、魔族を無力化する魔法でもあるのだろうか。

 現場にいた四名以外の清掃員も同じぐらいの実力の持ち主なのか。そうだとしたら、魔族との戦いに光明が見いだせるかもしれない。


「ソウ! ぼーっとしてないで、掃除に集中しろよな! 掃除は愛情だぞ」


 料理みたいだな。清掃員としては素晴らしい言葉だが。

 あれから、大きく変わったことが一つある。


「この部屋ポリッシャー終わったら、次の部屋は俺がポリッシャー担当だからな」


 何かと絡んできていた緑頭――ルイスが、あの日以来、やたらと懐いてくるようになった。






 ゼフルーとの戦闘後、学園長室に拉致され、解放された俺を当事者の四名が待ち構えていた。仲良くお茶でも飲みながら、お話しましょう――といった雰囲気ではなさそうだ。特に彼が何か言いたそうにしている。


「何か御用ですか?」


 こういう相手に駆け引きなど時間の無駄だろう。素直に訊いた方が早い。


「お前、俺たちの戦いに何も手出ししなかったな。やれないわけじゃ、ないんだろ? 何故、手伝おうとしなかった」


「それは、僕もルイスと同意見かな」


 キーガは何も言わずに頷いている。


「そうよ、ギリギリで勝てたから良かったけど、ほんと危なかったんだから」


 メイラが腕を組み、軽く睨み付けてくる。

 正体がばれたら困るから! なんて素直に言えるわけもなく、どうしたものか。事を荒立てずにこの場を立ち去りたいのだが、かなり苦戦しそうだな。


「連携が見事だったので、手を出したら逆に迷惑かなと。それに実践にはまだ不慣れでして、どうしていいやら戸惑っていました」


 嘘ではない。


「どうだかな。その割には余裕があったように見えたんだけどな」


 名前はルイスだったか。そいつが馬鹿にしたように鼻を鳴らす。あの激しい戦闘の最中、良く見ていたな。態度も性格も悪いようだが、目は悪くないようだ。


「僕もソウさんは強いと思うなー」


「俺もそう思う」


 残り二人もルイスと同意見か。どうにか誤魔化したいのだが……メイラはどう思っているのだろうか。まだ膨れっ面のメイラに視線を向ける。


「じゃあ、私も強いと思う方でー」


 じゃあってなんだ……この場のノリだけで面白そうだから、そっちについただろ。


「買いかぶり過ぎですって。俺はしがない、一清掃員ですよ」


 こうなったら、とことんしらを切るか。証拠もないわけだし。無理に証明しろ! なんて馬鹿なことも言い出すまい。


「あーもう、ぐだぐだ言わずに、俺と戦え! 俺と戦えばはっきりするだろ!」


 馬鹿がいた。猪突猛進タイプなのかこいつ。戦ってわかりあうって、何処の少年漫画だ。


「たったかえ! ほら、たったかえ!」


 メッツとメイラも楽しそうに煽らない! キーガも手拍子いらないから!


「洗浄勇者の冒険にもあっただろ。戦えば全てがわかる、戦わなければ何もわからない。ってな!」


 こいつも、洗浄勇者のファンなのか。何故だろう、自分で小説の言葉を口にするのも恥ずかしいが、他人が口にするともっと恥ずかしい――羞恥で身悶えしそうになる。


「大体、選ばれた者しか使えないポリッシャーの床清掃担当なのが羨ましい! ……じゃない、むかつくんだよ」


 素直で嘘がつけないタイプか。根っこは悪いヤツでは無いのだろう。


「さあ、勝負だ! 問答無用だ! いざ尋常にだ!」


 言動がバカっぽい。実際そうなのだろうが。こっちは一生懸命、頭をひねり打開策を考えているというのに、あれこれ考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 もういい、叩きのめすか。適度に手を抜けば問題ないだろう。相手が実力者とはいえ、この馬鹿げた運動能力を手に入れた今、負ける要素はないはず。

 人目に付かない場所に移動して、いい勝負だった。と思わせる戦い方すればヤツも納得してくれるだろう。じゃあ、場所を移す提案をするか。


「わかったよ。ここで戦うのは問だ」


「先手必勝!」


 うおっ、話の途中で突っ込んできやがった。武器は見たところ何も持っていない。素手の戦闘も出来るのか?

 前屈みの体制で飛び込んできた――足元狙いか。もう一歩踏み出せば、お互いの攻撃が当たる距離で姿が消える。ゼフルーとの戦いでも見せたフェイントだろう。

 一瞬だが、何かが視界の隅から消えるのを見た。

 右か! 目で追うと同時に後方へ飛ぶ。さっきまで頭があった場所を、風切音と共に黒く重たそうな靴の踵が通り過ぎる。

 頭が地面に着きそうな状態から顔めがけての蹴り技。右足を軸として後ろ回し蹴りを放ったのか。普通の人なら今の一撃で終わっていた。正直、あの戦いを見ていなかったら今のは、やばかった。倒されはしなくても当たっていた可能性が高い。


 大振りの蹴りの後は隙だらけなはず。背中を向け体制が崩れたルイスに、容赦なく前蹴りを叩き込もうと前に出た。ルイスは振り返りもせずに、その場にしゃがみ込む。

 何かする気か?――迷いは隙を生み出すだけだ。このまま、行くっ!

 躊躇わずに足を伸ばす! が、足裏に伝わってくるはずの感触がない。驚くことに、しゃがんだ体制から後方宙返りをやってみせた。

 お前はサーカスの軽業師か!


「あめえよっ!」


 完全な死角から何かが降ってくるのを感じた。避けたいが、蹴りを放ち片足が浮いている状態では素早く動くなど不可能。防ぐしかない。

 考えるより先に腕が動いた。頭上で腕を交差し、何とかそれを受け止めた。

 今の攻撃は何と言えばいいのだろうか。後方宙返りからの遠心力を利用した蹴り……だと思う。頭が完全に下を向いている空中で足を振り下ろしたのだ。人間業とは思えないな。


「うおー、凄いなあんた。まさか初見で、これも防がれるとは」


 今までの見下した顔は消えさり、目を輝かせ心底楽しんでいる。

 驚いたのはこっちの方なのだが。大したものだ。心からそう思う。魔法で苦労もせずに勇者の力を手に入れた俺とは違い、自分の実力でここまで戦えるのは尊敬に値する。コイツに対する認識を変えないといけないようだ。


「あれだ、年の功ってやつか。そろそろ、目と腰が疲れてきたんじゃないか? オッサンには激しい運動は毒だぞー、あはははははは」


 ……前言撤回。こいつ本当に口が悪いな。ちょっと本気出して、ぶっ飛ばす。


「キミたち、部屋の前で何をしているのかね」


 扉から学園長が顔を出す。そういや、ここは学園長室前の廊下だった。


「あ、いや、ええとですね。ルイスが躍っているだけです!」


 無理ないかい、メッツ。


「そうそう、宴会の隠し芸でやるダンスの練習中ですよ」


 メイラも頑張るなー。


「年末をお楽しみに」


 キーガの性格が未だに掴めない。


「何言ってんだ、これは俺とソウとの戦いだろう!」


 空気を一切読まないヤツだな。ここまでくると、いっそ清々しい。


「バカ! せっかくフォローして上げているのに」


「ルイス君……頭が残念過ぎるよ」


「猿の方がまし」


「て、てめえら、バカにしてんのかっ!」


 そうだろうな。

 ルイスが怒鳴り散らして、言い争いが始まる。学園長は呆気にとられて対応に困っているようだ。

――俺の存在、忘れ去られているよな。自分から突っ掛かってきて無視ですか。へえーそうですか。そっと右肩に触れる。


「解放」


 静かにポリッシャーを呼び出したが、案の定、誰も気づいていない。

 ガトリングモードで構え、そっとルイスの背後に回った。無防備な背中にパッドを押し付ける。


「あ、なんだ? 今、忙しいんだよ。後にしてくれ」


 こちらに向こうともせず、邪魔とばかりにしっしっと手を振る。言い合いをしていた他の三名は、こちらに気が付き引きつった笑みを浮かべ、そっとルイスの前から離れ道を開けた。真っ直ぐ延びる廊下には、遮蔽物が無くなった。

 俺は黙ってレバーを握りしめる。


「うごおおおおおおっ……」


 意味不明な叫び声をあげ、きりもみ回転でルイスが吹き飛び遠ざかっていく。

 結構な距離を回転しながら飛び続けていたが、途中で失速して床に体を打ち付け、そのまま壁に跳ね跳び、再び跳ね返り、今度は天井に突っ込んだ。

 天井から床に、ゆっくりと落ちていく。小刻みに痙攣しているので、きっと大丈夫だろう――手加減はしたから!

 何か言いたそうにしている四人とは一切目を合わさなかった。


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