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ポリッシャー!  作者: 昼熊
3章

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3話

「あの、貴方は新人さんですか? あまり、お見かけしたことがないような」


「ええ、最近ここで働かせてもらっている者です。キミは下級生?」


「はい。あっ、私も学園では新人になりますね」


 頬が少し赤みを帯び、照れたように小首をかしげる仕草が――胡散臭い。何も知らなければ、こちらの頬が緩みそうになるほどの可愛らしさなのだが。疑って見ると、全てが演技にしか見えない。


 勿体ぶる必要もないな。どう考えても、こいつゼフルーだろ。

 召喚された直後に戦った、あの魔族で間違いないはずだ。名前もフルーゼって、入れ替えただけだ。変装はしているが、髪色も身長も一緒じゃないか。それに魔を見抜く目を持つという設定が含まれている俺には、隠していたとしても邪悪な力を見抜けるらしく、黒い霧のような物も、その能力で見えているようだ。


 我ながら何でもありだな、勇者設定。


 ここで問い詰めて正体を暴いてもいいのだが、顔半分を覆うマスクのおかげで相手はこちらの正体には気づいてないようだ。どうするか……戦いになれば、勇者であることは直ぐに分かってしまう。ゼフルーにバレてしまうのは問題ないのだが、こんな場所で戦えば、清掃員も駆けつけることになる。それが困るのだが。


「どうしました?」


 急に黙り込んだから、怪しまれたか。ここは一旦見逃して、後でケリをつけた方がいいだろう。周りを危険に巻き込まないようにしないと。


「いえ、大丈夫です。ここは汚れていて、空気も良くないから出た方がいいですよ」


「それもそうですね。そうします」


 見事なまでに別人に成りすましている。あの、情緒不安定な性格は完全に鳴りを潜めている。あれ程、激しい気性の持ち主だと、ちょっとしたきっかけで直ぐに見破られそうなものだが。そこはさすがに自重しているのだろう。

 フルーゼが頭を下げ立ち去ろうと扉の外に出ようとした、その時、彼女の体が傾き室内へ押し戻され尻餅をついた。


「おい! 清掃員がちりとりを忘れるとはどういうことだ! 基本中の基本――あ、悪い大丈夫か?」


 運悪く、駆け込んできた男とぶつかってしまったようだ。こいつは清掃控室にいた三人組の絡んできたやつか。タイミングが悪すぎる。


「小さすぎて、見えなかったぜ。あははは、大丈夫でちゅかー。なんてな!」


 謝る気ないだろ、その言い方。それじゃ相手の神経逆なで……あ。フルーゼが震えている。これ、やばくないか。


「どした? 震えてるけど……まさか、おしっこ我慢しているのか! おいおい、漏らすなよ。トイレまで連れて行ってやるから!」


 最悪の状況で最低なこと言いやがった。


「てめえ! 人間ごときが、このゼフルー様をなめてんのかっ!」


 少女の体から闇が一斉に噴き出す。頭に載っていたリボンも眼鏡も吹き飛んだ。これは、勇者だから見えたわけではなく、この場にいる全員が目視できているようだ。

 最悪なキレかたしたぞ。沸点低すぎるだろ!


「なに、このお子ちゃま魔族だったのか! ただのガキにしかみえないぞ!」


 お前は口を開くな。

 正体を隠す気もないのか。現在、ここには――バカ一人と遅れてきたメイラ、騒ぎを聞いて駆けつけてきた三人組の残り二人がいる。どうにか全員を逃がさなければ。


「おまえら、全員ぶっ殺す。ったく、我慢して芝居していたのが台無しだ。お前ら全員消し去れば、問題ないよな」


 問題あるだろ。こんな場所で暴れたら、さすがに周りに直ぐバレて隠しきれないに決まっている。俺も正体を現して本気でいくしかないか。

 右肩のポケットに手を当て、ポリッシャーを解放しようとした――直後、三人組の一人である小柄な青年が、懐から取り出した青い球のようなものを地面に押し付けた。


「青の牢獄」


 球が地面に吸い込まれ、教室の壁や床に青い線が格子のように張り巡らされた。


「てめえ、何しやがった!」


「この結界内で何があったとしても、外に漏れることは一切ないから」


 柔和な笑みを絶やさず、青年は言い切った。


「良くやったぞ、メッツ。あとは俺とキーガに任せろ」


 モップの先端を外した柄を槍のように構え、問題児が突っ込む。

 早い! 一気に間合いを詰め、柄を突き刺すと見せかけて、相手のつま先にギリギリ当たらない位置に先端をぶつけた。そのまま、柄を棒高跳びのポールに見立て、ゼフルーの頭上を飛び越える。

 これには意表を突かれたらしく、ゼフルーが慌てて振り返る。


「があああああっ!」


 その背に大きな円盤が突き刺さった。その円盤は中心に穴が開いてあり、大きさはポリッシャーのパッドぐらいだろう。

 三人組残りの一人が円盤の穴に手を通し、いつでも投射できるよう構えている。

 筋骨隆々の体をしていたので、てっきり前衛で戦うパワーキャラだと思っていたのだが、後方支援型なのか。名前はさっき言ってたな、確かキーガだったはず。

 今の一連の動きは、敵へ向かって行き直前で飛び越え裏に回ったのは、相手の意表を突くのが本来の目的ではなかった。振り返らせ無防備な背中に仲間が攻撃を加える手はずだったのか。

 戦闘慣れした見事な連携。この三人がただの清掃員じゃないのは明らかだ。


「貴様ら、許さんぞ!」


 ゼフルーの背中に突き刺さっていたはずの円盤が地面に落ちる。背中には傷一つない。あの攻撃をもろに受けて無傷とは、魔族という存在には驚かされる。

 背後に回っていたはずのバカは既に敵から離れ、こちら側へ戻ってきていた。それでも、仲間に近づきすぎず、遠すぎない位置で相手を挑発するかのように軽くステップを踏んでいる。


「なめるなよ! 一瞬で消し飛べ!」


 あの構えは俺との戦いで見せた巨大な闇の塊か! 彼らがいくら強くてもあれを防ぐ手立てはないだろう。やはり、ここは俺が……。


「やらせるわけが、ないでしょ!」


 メイラが腰を落とし何かを構えている。その武器は……日頃から、見慣れ過ぎているアレだった。


「相手に撃たせたら、駄目だよ!」


 結界を張った青年が両手を地面につけると、部屋中に張られた青い線が何本か弾け、ゼフルーの体に巻きついた。


「何だこれは! こんなもので私をどうにかできると思っているのかっ!」


 いとも簡単に青い線を引き千切る。ゼフルーがニヤリと邪悪な笑みを浮かべるが、その笑みも直ぐに消えた。

 今度は円盤が次々と襲いかかっている。直線的な軌道だけではなく、左右から弧を描くように迫り、高さも顔から足元まで全てが異なる位置を狙っていた。


「いいぞ、キーガ!」


「鬱陶しい! そんなものが二度と通じるかっ!」


 腕と足に纏った黒い霧で全ての円盤を弾き落とす。

 やはり、あの霧のような闇が厄介だな。

 確かあの闇は――学園長の説明によると、魔族は体に闇を覆うことができる。闇は物理攻撃や魔法の攻撃を遮断する力があるのだ。本体にダメージを与えるには、まず闇をどうにかしなければならない。闇の強度は魔族の魔力に比例するらしく、最上位にいる魔族の闇は、この国最高レベルの魔法ですら防ぎきることができるそうだ。


「効かないのは、百も承知だよ」


 またも背後に回り込んでいたヤツが無数の突きを繰り出す。

 その攻撃は威力を求めず、ただ速さだけを追求した突きに見えた。おそらく、食らったところで魔族の体には、円盤と同様にダメージはいかないだろう。だが、魔族としてのプライドがあるようで、人間に攻撃を当てられるなど許せないことのようだ。既に一撃を受けて頭に血が上っているのも要因の一つか。無視して攻撃を叩き込めば、それで終わるというのに律儀に全ての攻撃をかわしている。


 ――思う壺だな。単純な力でいうなら、この三人が力を合わしたところでゼフルーにはかなわない。だが、実際の戦いはそうではない。ゼフルーは確かに強い力を持っている。

 しかし、精神が幼い。魔族の年齢が外見通りで間違いないのかは分からないが、戦闘中の駆け引きが弱い。そこを見事についた作戦――なのだが、それでもまだ足りない。あの体に纏わりついている闇を貫く強烈な一撃が必要だ。

 注意は完全にモップ使いに向いている。頭に血が上っているが、背中への一撃を忘れてはいないらしく、闇が全身を覆っている。


 このままでは分が悪い。

 息をつかせぬ突きの連続。フェイントや挑発も織り交ぜ、相手の怒りを持続させている。

 キーガと呼ばれた男の円盤投擲も続いてはいるが、闇が濃い手や足で全て弾かれている。

 メッツは結界を持続するのが精一杯のようで、額に脂汗を浮かべ敵を睨み付けているだけだ。


「ふはははははは、てめえらは良くやったよ! だが、もう終わりだ。まず、目の前で飛び続ける鬱陶しい蠅から叩き落としてやるよ!」


 ゼフルーが右手を大きく振りかざす。闇が右腕に集まり、体を覆っていた闇が少し薄くなったように見えた。


「ちっ、あれはやばい!」


 焦りを隠そうともせず、後方に飛びずさり相手の右側面に逃げるかのように走り込んだ。


「バカめ! 無駄だっ」


 確かに、この距離で本気の一撃が来たら直撃を避けたところで、魔力の余波だけでも、ただでは済まないだろう。回り込んだ場所が、ある人と直線に繋がっている位置でなければ、彼の命は風前の灯だった。ゼフルーの意識が完全にそちらを向いた今、彼女の存在は頭から消え失せていたに違いない。


「喰らえっ、洗浄激!(ウォッシャー)


 その声に慌てて振り返ったゼフルーの直ぐそばに、ポリッシャーを抱えたメイラがいた。

 お見事。アイツが敵の注意を引きつけ背後からの挟撃。単純だからこそ、もっとも効果的な一撃だろう。

 右わき腹寄りの背中に、メイラが突き出したポリッシャーが叩き込まれる。

 闇との接合部が激しい火花を散らし、パッドが回転を続けている。そのポリッシャーは俺の物とは異なる、メイラが日頃から愛用していたポリッシャーだ。パッドの部分には無数のとげが生えた凶悪なブラシのような物がついている。生け花で使う剣山を巨大化させたといったところか。


「なんだと! 何故、勇者の武器をおまえが使える!」


「あいにく、これは模造品でね。それでも、威力はなかなかのもんよ!」


 メイラが右レバーを握り込んだ。凶悪なブラシが白く輝き、闇が削られていく。


「バカな! バカな! 人間ごときに私が、私が!」


「終わりよ。最大出力!」


 光が増し、回転音が室内に充満する。ガラスを目の前で削っているような不快音、ゼフルーらしき叫び声、鼓膜を激しく揺らす爆発音、全てが入り混じり、音と闇と光が混ざり合い室内を埋め尽くす。

 全てが治まり、沈黙が支配する空間には、疲れ果てたように倒れ込む三人組と、肩で息をしたままポリッシャーの構えを解こうともしないメイラ。そして足元でピクリとも動かなくなったゼフルーがいた。


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